きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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桜(春めき)
2005.3.25
神奈川県南足柄市・春木径にて
 

2005.3.30(水)

 8ヵ月ぶりに東京医科歯科大学に出張してきました。私の担当する製品に不具合があったと客先から連絡があったので、調査したところ、どうもお客様の使い方に問題があるようです。現象面では自信を持ったのですが、理論的な背景がイマイチ説明できません。客先も医療専門機関ですからいい加減な回答をするわけにはいきません。そこで、該当製品の導入でご指導いただいた医科歯科の博士に相談に乗ってもらった、というわけです。

 私の思いは見事に的中して、やはりお客様の使い方の問題でした。それを理論立てて説明してくれて、納得しました。自信を持った報告書が書けそうです。たった50分の面談に往復4時間を掛けましたけど、それ以上の収穫だったと思います。すべての仕事がこんな風に進んでくれるといいんだがなぁ(^^;




個人詩誌『一軒家』創刊号
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2003.12.1
香川県木田郡三木町
丸山全友氏 発行
非売品
 

    風呂木    丸山全友

   早春の日曜日 家族で風呂木を作る
   一定の長さにひいたのを父が割り
   妻と娘が軒下に積み上げて行く
   芯に黒くて大きな
   穴があいたのがときどきある
   割ると茶褐色の
   鎧を来たような虫が出てくる
   「これで当分風呂に入れるな」
   積み上げた割り木を見上げると
   妻も父もうなづくが
   「この虫はどうするん」
   娘は虫を寄せ集めるとおがくずをかけている
   家族よりもはるかに多くの虫がいる

 香川県の丸山さんより創刊号から7号までの、今まで発行された個人詩誌の全てを送っていただきました。順番に紹介していきましょう。丸山さんは下肢の障害を抱えながら、先祖伝来の田を守る農業詩人です。
 紹介した作品は記念すべき創刊号の巻頭に載せられていました。今でも薪で焚くお風呂をお使いのようですね。ご家族は3人で、「家族よりもはるかに多くの虫がいる」という最終行に込められた思いが伝わってきます。娘さんのやさしい気持も判る佳品と云えましょう。



詩誌『一軒家』2号
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2004.2.1
香川県木田郡三木町
丸山全友氏 発行
非売品
 

    小言    丸山全友

   犬の泣き声で目がさめる
   「靴はくわえるし、洗濯物は引っ張るし悪いたっら
   ありゃしない」
   妻に生まれて初めて鎖につながれている
   「タロウ、うるさい」
   娘が起きてくる
   「まだ小さいじゃないか」
   犬をなだめに出ると
   「まったく小さいことにうるさいんだから」
   「父ちゃんもつないだら」
   「よけい、うるさいわよ」
   娘と妻の話し声が聞こえてくる

 この号からお客様の作品を載せています。私には個人詩誌を発行するという経験は無いんですが、個人詩誌でも外部の書き手を迎えるという姿勢は大事だろうと思います。誌面もにぎやかになりますし、何より詩誌の開放感が伝わってきますからね。
 紹介した作品は家族の様子が生き生きと描かれていて、ほほえましくなります。良い家族関係が判って、山村の「一軒家」に住む、桃源郷の住人のような家族だなと思いました。



詩誌『一軒家』3号
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2004.5.1
香川県木田郡三木町
丸山全友氏 発行
非売品
 

    晴耕雨読    丸山全友

   「父ちゃん、ご飯だよ.あれっ、もう昼な
   のに起きないの」
   布団の中で本を読んでいると娘が知らせに
   くる
   「百姓は、雨の日は休みや」
   「じゃ、曇りの日は…」
   「仕事するがな」
   「曇り時々雨の日は…」
   「起きたり寝たりしとくわ」
   「でも、台風の日は走り回っていたよ」

 こちらも家族を描いた作品です。会話の妙もおもしろいのですが、その奥にある家族愛を感じますね。「晴耕雨読」という理想的な生活とあたたかい家族、その中で育まれる詩人の感性をも感じさせる作品です。



詩誌『一軒家』4号
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2004.7
香川県木田郡三木町
丸山全友氏 発行
非売品
 

    おさななじみ    丸山全友

   いまきたばかりのゆうびんやさんはおさななじみのつ
   とむちゃんだ。さくやじいちゃんのめいにちにきたお
   てらさんはやはりおさなじみのしんどうちゃんだ。ふ
   たりともおとうさんとおなじしごとについてよめさん
   もこどももあるせいかつをしている。だがぼくはまい
   にちねまきすがたでとうちゃんやかあちゃん、ばあち
   ゃんのすることばかりをみてはしばかりをかいている。

   ふたりのこころざしたものにはさいしょからちんぎん
   があったが、ぼくのこころざしたものにはちんぎんが
   なかった。ただそれだけのことなのにせけんのめはほ
   とけとおにをみるほどのさがある。もうすこしぼくを
   しんじてまってくれてもいいじゃないか。ちんぎんを
   えられるものはひとのまねだけをしていてもにんげん
   としていきていることのかちをみとめられ、ちんぎん
   のえられないことをしているものはいくらしんねんを
   つらぬいてもにんげんとしてせいぞんしていることす
   らもみとめてはくれない。

   またあくるひもつとむちゃんがゆうびんはいたつにき
   た。こどものころはいちまいのせんべいをわけあって
   たべた。つりにいって、ぼくがいっぴきもつれなくて
   もさんにんでびょうどうにわけてかえった。それなの
   にいまはかおをあわせてもあいさつすらしようとはし
   ない。
   つとむちゃんはあんていしたせいかつを、しんどうちゃ
   んはせけんのしんようをほこりとしている。ぼくには
   ほこれるほどのものはないがじかんやきそくにしばら
   れないじゆうはある。さんにんがいっしょにあるいて
   いたころのみちのぶんきてんにたてふだがあったわけ
   でもなかったのに、いつしかさんにんともべつのみち
   をえらんであるいている。

 この作品は現在のことではなく過去のことを書いています。先祖伝来の田を耕せるようになる前、長い闘病生活があったようです。「ぼくはまいにちねまきすがたでとうちゃんやかあちゃん、ばあちゃんのすることばかりをみてはしばかりをかいている」時代の回想です。
 それにしても「ちんぎんをえられるものはひとのまねだけをしていてもにんげんとしていきていることのかちをみとめられ、ちんぎんのえられないことをしているものはいくらしんねんをつらぬいてもにんげんとしてせいぞんしていることすらもみとめてはくれない。」という詩句にはドキッとしました。私たちは知らないうちにそういう意識を持ってきたのかもしれません。鋭い批評詩で、平仮名も奏功している作品だと思いました。



詩誌『一軒家』5号
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2004.10
香川県木田郡三木町
丸山全友氏 発行
非売品
 

    手話    佐藤暁美

   ひとむれの浮き雲は
   いつのまにか
   とおい山の彼方へ流れてゆき
   折からの風に吹かれて
   さくらの花びらが
   ひらひら ひらひら
   舞っている

   さくらの木の下―――
   腕に買い物かこを通した
   奥さんと
   新聞を小脇に挟んだ
   ご主人さんが
   並んで見上げている

   潤沢な花のにおいに
   色彩られた青空を
   しずかに見つめながら
   ふたりは
   どんなにうつくしい話を
   しているのだろう

   骨っぽい指が
   それぞれの胸元で
   ふいにやさしく
   同じように折れるとき

 今号ではお客様の作品を紹介してみました。美しい詩です。「うつくしい話を/している」「ふたり」を見ている作者の眼こそ美しいと云いたいですね。タイトルと最終連が見事です。主が心やさしい『一軒家』だから美しい人が集まるのだと思います。
 原本では第3連と最終連がつながっているように見えましたが、ここは連を変えるべきだと思って離しました。作者の意図と違っていたら訂正します。起承転結の見本のような詩に仕上がっていますので、間違いないと思いますが…。
 また、原本には作者の住所も載っていますがここでは割愛します。以前からインターネットでは個人の住所を載せないことを鉄則にしてきましたけど、最近は特に注意が必要だと感じています。インターネットも当初は牧歌的な部分があったんですけどね。



詩誌『一軒家』6号
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2005.1.1
香川県木田郡三木町
丸山全友氏 発行
非売品
 

    秋の空    丸山全友

   妻と稲刈りをしていると
   急に降りだした雨に
   コンバインにシートをかぶせ
   脱穀した籾を運び終えて
   軒下から空を見上げて
   「邪魔な雨や」「邪魔な雨や」と
   妻と言い合っていると
   「邪魔な声やな。もう、やんどるわ」
   勉強している娘が
   部屋の窓から顔を出す

 4号からは散文も載せるようになって充実して来ていますが、中でも連載の「一軒家に伝わる昔話」は秀逸です。いずれ説話集のような形でまとまると良いですね。今号の「無縁さん物語」も佳い話でした。
 前文とは関係ない話で申し訳ない、紹介した作品はエッセイ「餅」の後に小さく載せられていました。扱いは可哀想なくらい小さいのですが、内容は家族愛を感じた佳品です。丸山全友という詩人は、家族を描かせたら一流のものを持っていると感じました。



個人文芸誌『一軒家』7号
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2005.4.1
香川県木田郡三木町
丸山全友氏 発行
非売品
 

     冬の夜    丸山全友

    幹道から分かれて棚田の上を
    わが家にひかれている電線が
    風に発っする音で
    夜中に目をさます
    電灯を点ける
    「やっと、暖かいところにこられたな」
    と言っている

 今号は「文芸誌」と銘打っていることからも判るように、詩作品のみならず散文・川柳・短歌にも力を入れており、ますます充実した誌面になっています。回文も載っていてユニークな個人誌となりました。
 紹介した作品は、丸山全友という詩人の本質を端的に物語っているように思います。電気に対してさえ親しみを持つ詩人を初めて知りました。たぶん毎号読ませていただけると思うのですが、これからも楽しみな1冊です。




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