きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.5.7
「榛名まほろば」にて
 

2005.5.5(木)

 この3連休は家にいて、いただいた本の礼状を書いていました。それでも4月にいただいた分がまだ終らず、申し訳ない気持でいっぱいです。2週間遅れになっていますが、ご了承ください。
 今日はそんな合間を縫って『詩と思想』6月号・詩集評の原稿を仕上げました。明日が締切なんで、本当はもう少し早く出稿したかったのですけどね。Eメールで送って、原稿用紙の方は郵送しましたけど、明日到着は無理だな。土曜美術社出版販売さん、ごめんない!
 そんなわけで『詩と思想』にも勝手なことを書いています。ご覧になってご教示ありましたらお教えください。




四季の会アンソロジー『四重奏』
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2004.12.1
茨城県水戸市
茨城文芸協会 発行
2415円
 

   序文          茨城文芸協会会長 後藤 卓三

   春の章……詩集 この時までは       内藤紀久枝
     石名坂                   10
     アリス                   14
     
foster child(里子)            18
     
close your eyes              22
     微笑                    26
     吊橋                    28
     掌に                    32
     車内                    36
     砂の村                   40
     百年たてば                 44
     帰還                    46
     この時までは                50
     あとがき                  52

   夏の章……句集 父祖の地         中山 秀子
       ――人と自然の恩寵のなかに――
     山鳩                    58
     机辺                    67
     虚子の地                  75
     日蝕                    84
     あとがき                  93

   秋の章……詩集 暮色へ          野上 光子
     暮色へ                   98
     朴の森                   102
     池                     106
     夢路                    108
     夢道                    110
     稲                     112
     原種集                   114
     鏡                     118
     光                     120
     満月                    122
     あとがき                  125

   冬の章……詩集 雪 ひとひら       宮岡 亜紀
     「売ります」                130
     宴                     134
     懸崖の桜                  136
     月                     138
     砂塵                    142
     梅雨ごもり                 146
     あんたの骨                 148
     そこはかとなく               152
     敗戦 灼熱                 154
     散り果てて                 162
     雪 ひとひら                166
     雷鳴とともに                170
     あとがき                  176


    砂の村    内藤紀久枝

   人が砂のうえを歩いている
   くずれていく砂の性を知りながら
   太古のむかし地球は氷河で固められていたが
   人が砂のうえを歩きだしたのは
   いつからなのだろう

   一九五七年八月 砂丘のつづく村で
   原子炉が臨界に達した
   男たちの熱い拍手 歓声のなかで
   日本初の原子炉に火がともった
   そのころ ハーバード大学帰りの新聞記者がいた
   取材に立ち寄った
   イバラキ・プリファクチャー・ガバメントオフィスでは
   ガスはなく まだ七輪で炭火を熾していた
   「遅れていますねえ!」

   それから半世紀も経ないで
   事故として起きた臨界
   事業所ではバケツでウラン溶液を運んでいた
   「遅れていますねえ!」
   あの記者はまたも呟くのだろうか

   いま砂丘の影に思惟を集めて
   低い半月が村を照らしている
   光と闇を潮目に分けて
   太平洋の波が打ち寄せる
   砂の村のはてしなく遠い夜明け
   二十世紀末 人はまだ
   火を使いこなすことが出来ないでいる

 東海村の臨界事故を題材にした作品ですが、「二十世紀末 人はまだ/火を使いこなすことが出来ないでいる」という最終行の指摘は重いと言わざるを得ません。山火事の制御はなかなか巧くいきませんし、火事の原因の一位が放火というのですから、人類は精神的にもまだ未熟なのかもしれませんね。
 最終連は詩語としても熟していると思います。特に「光と闇を潮目に分けて」というフレーズは、山育ちの私などには思いもつかない言葉です。「潮目」という言葉が私の語彙にありませんから…。そういう点でも瞠目した作品です。



月刊詩誌『柵』221号
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2005.4.20
大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏 発行
600円
 

   現代詩展望詩的感動と詩の評価                  …中村不二夫 82
      李明淑詩集『望郷』から
   <自伝的戦後詩観 (5)> 詩集『追う』発刊            …津坂 治男 86
   吉本隆明論(3) 光と翳                      …森  徳治 90
   流動する世界の中の日本の詩とは(7) マイノリティの詩観と「女の国家」…水崎野里子 94
   「戦後詩誌の系譜」 20 昭和40年35誌追補20誌      …中村不二夫 志賀英夫 110
   風見鶏・金子光男 友枝 力 仁科源一 永谷悠紀子 島田陽子          120

   詩作品
    山崎  森  白い風船 4
    宗   昇  晩 年  6
    肌勢とみ子  田 螺  8
    小島 禄填  丸干し 10
    中原 道夫  牛 12
    松田 悦子  宅地販売業者 14
    大貫 裕司  誘われたが 16
    佐藤 勝太  仏の微笑 18
    伍東 ちか  ちいさなレクイエム 20
    進  一男  山 路 22
    小野  肇  「空」の時間 24
    中井ひさ子  外 す 26
    鈴木 一成  我流いろはかえ歌 28
    川端 律子  武 器 30
    安森ソノ子  十年ぶりのカタコンブ 33
    上野  潤  和蘭物語 15 36
    水崎野里子  ペガサス 39
    徐 柄 鎮  落花巌 42
    平野 秀哉  経過報告 U 44
    川内 久栄  うら枯れてゆく村 たぬきと老婆 46
    小城江壮智  独活の大木 48
    今泉 協子  パンの袋 50
    岩本  健  老 謡 2 52
    山尾 管恵  二作目の作品 54
    門林 岩雄  冬 他 56
    高橋サブロー ピエタとゴンドラの歌 58
    小沢 千恵  光の中で 60
    立原 昌保  プラットホームは夜っぴてひとが群れ 62
    野老比左子  とける空 64
    西川 敏之  春のソネット 66
    名古きよえ  雪と桜草 68
    山口 格郎  神宿る山山 70
    北村 愛子  助けを呼ぶ声 介護施設にて 72
    若狭 雅裕  五月の花 74
    織田美沙子  掛 軸 76
    前田 孝一  春を吸う 78
    南  邦和  クレムリンの鳩 80

   続・遠いうた 48 マイノリティの詩学
    戦いつかれたアフリカでは少女たちがとても老いている      …石原 武 98
   「青い空の下で」14 チベットの詩人の自伝        ホートサング・ジグメ
         チベット脱出の冒険               水崎野里子・訳 102
   コクトオ覚書 196 コクトオ自画像[知られざる男]16      …三木 英治 106
   東日本・三冊の詩集 葵生川玲『草の研究』           …中原 道夫 122
     田中順三『土匂う』  曽根ヨシ『伐られる樹』
   西日本・三冊の詩集 高橋冨美子『塔のゆくえ』         …佐藤 勝太 126
     中島瑞穂『明け方の空』 村井一郎『少 年』
       受贈図書 129   受贈詩誌 131   柵通信 130   身辺雑記 132


    晩年    宗 昇

   太宰治は二十八歳で『晩年』を出した
   わたしは二十五歳のときに読んで
   三十歳すぎてからようやくそこを卒えたと思った

   四十代になって
   自分のものが書けるようになったと己惚れたころから
   『晩年』も太宰もずっと忘れていた
   全集はいつのまにか書棚の奥に押しやられていた

   七十歳をすぎて何も書きたくなくなってから
   『晩年』をまた読んでみたいとしきりに思いはじめた
   卒業していたのではないことに気づかされた
   わたしの「晩年」は二十五のときに始まっていたが
   四十代以来
   三十年間も潜伏していたのだ

   水痘のビールスは
   全快したはずではあっても その何パーセントかが
   体内のどこかに何十年もひそんでいて
   体力の衰えを見計らって
   いよいよ晩年の老体を苦しめることがあるという

   若いころのいわゆる「太宰病」も
   同種のビールスだったのかも知しれない

 起承転結の構成が見事に決まった作品だと思います。転にあたる第4連と結の部分の最終連が佳いですね。「水痘のビールス」と「太宰病」がこんなに対応するとは思いもしませんでした。「七十歳をすぎて」という長い年月の賜物かもしれませんが、やはり詩人としての素質に恵まれた作者ならではのことと思います。勉強させていただきました。



詩誌『帆翔』35号
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2005.4.30
東京都小平市
<<帆翔の会>> 岩井昭児氏 発行
非売品
 

   詩作品
    ランナー        茂里 美絵 l
    セキレイ        坂本 絢世 2
    面接の仕事       小田垣晶子 4
    はる うらら      三橋 美江 6
    編み物         大岳 美帆 8
    風穴の時        長谷川吉雄 10
    ぼんぼり幻想      渡邊 静夫 12
    雪国          吉木 幸子 14
    初雪          長島 三芳 24
    夕日          荒木 忠男 32

   創作
    明日は地獄       岩井 昭児 30

   随筆
    小鳥たちと見た冬景色  坂本 絢世 16
    ポラリス        小田垣晶子 17
    春萌え         渡邊 静夫 18
    物質のこころ      茂里 美絵 20
    禅寺の庭        大岳 美帆 21
    手向草(六)      三橋 美江 22
    帰化植物        荒木 忠男 26
    勉強歌の話(W)    岩井 昭児 27
   続・わたしの時代小説   赤木 駿介 35
        *   *   *
   ※受贈詩誌・詩集等紹介        2〜
   ※あとがき/同人連絡先     表紙の三


    セキレイ    坂本絢世

   冬の秩序の庭に
   二羽のセキレイ
   烈しいもの捨てて
   木もれ日の底に
   寄り添う
   細い足に支えられて
   さやかに引いた尾羽が
   ふるえる
   羽と羽がふれあう
   約束とか
   間違いとか
   そのような言葉
   セキレイは知らないだろう
   いっときの後
   薄い陽炎のような光の中を
   つ つ と
   哀しみにたち向かうかのように
   直進するセキレイ
   それは
   近ずくことのないやさしさだった と
   灰色の空に向かって細く鳴咽した私と
   対極の位置にある
   清廉な翼持つセキレイ
   高く飛翔することを拒むように
   冬の乾いた土の上を
   ただ
   ひたすら走る
   二羽のセキレイ。

 「冬の秩序の庭に」という第1行から魅了されました。「冬」と「秩序」は見事に合いますね。「約束とか/間違いとか/そのような言葉/セキレイは知らないだろう」というフレーズは作者の置かれている立場を示していて、作品に緊張感を与えていると思います。「それは/近ずくことのないやさしさだった」「高く飛翔することを拒むように」も同じように受け止められます。「二羽のセキレイ」に託した作者の思いが伝わってきた作品です。




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