きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.5.7
「榛名まほろば」にて
 

2005.5.20(金)

 18時に仕事が終って、、、違うなぁ、終らせて(^^; さあ、今夜は呑むゾと、いつものお店に電話をしました。一番呑みたい「獺祭」があるか確認したのです。残念ながら無いという答え。しょうがないから他の店に行くか、と思ったらすかさず「眞澄のあらばしりを開けるよ!」。さすがは商売人ですね、釣られてしまいました。「眞澄」はそれほど好きではないんですが「あらばしり」という言葉に魅かれてたのです。あとで辞書で調べたところでは「新走」
と書いて、その年の新米で最も早く醸造した酒のこと、出始めの新酒、季語は秋、とありました。おいおい、秋かよ、と後の祭りで思いましたけど、実際のところ旨かったです。日本酒は造りたてが一番旨いと思っていますが、期待を裏切りませんでしたね。ま、新しモノ好きなだけかもしれませんけど(^^;;




鈴木八重子氏詩集種子がまだ埋もれているような
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2005.5.23
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
2000円+税
 

  <目次>
    T
   路線バス 8
   種子がまだ埋もれているような 12
   どどーん 16
   かまどでごはんを炊く 20
   霜夜 24
   月夜 28
   草はら 32
   生きる楽しみ 36
   今年の春 40
   散歩 44
   左の耳 46
   呼ばれている 50

    U
   夜の線路 54
   弟の草 60
   行儀 64
   姉のラジオ 68
   台所のラジオ 72
   ふるさと散歩 76
   箱庭 80
   結べない 84



    呼ばれている

    忘れてしまった駅の名がなつかしくなった。
   むしょうに。名まえは忘れたのにあの駅に呼
   ばれている気がする。わたしはあの駅でだれ
   かと待ちあわせの約束をしているのではない
   だろうか。生まれる前にか。あるいは死後に
   か。

    思い出せそうで思い出せない。が、もしか
   したらむかし夜汽車で一時停車したことのあ
   る駅だろうか。駅舎に人の影はなく灯りも暗
   かったが、わたしの失くしたものがあるよう
   な駅。あやとりでつくった星、しろつめくさ
   で編んだ花かんむり、石けりのときにけった
   石、においガラスのかけら、なかなか暮れな
   い夕ぐれ。それらが失くしたときのままで。

    それともいつか、夢の中で降りたった駅だ
   ろうか。屋根のないプラットホームのはずれ
   に野の花が咲いていた駅。木の柵には丈の高
   い草がもたれるように生えていた。古びた改
   札口のわきには亡くなったひとと行きあえる
   通路があった。ほんのみじかいあいだだった
   がいつも充血している目はいやされ、水のた
   まったこころは軽くなった。粘性の血の流れ
   もよくなっていくように思われた。

    呼ばれている。呼ばれている気がする。わ
   たしは旅に出たくなった。汽車に揺られたく
   なった。車窓を流れていく風景が見たくなっ
   た。汽車が鉄橋をわたる音を聞きたくなった。
   わたしもじぶんをわたっていきたくなった。
   なにかわたれそうな気がする。それからはっ
   きりと感じた。わたしは今夜あの駅を訪ねる
   だろうと。

 一読して、佳い詩集だなと思いました。瞠目する言葉が次々と現れてきました。「いつのまにか波からうまれた手がまじっていて」「<海にはふたがないんだよ>」(どどーん)、「ときおり庭にしつらえたかまどでごはんを炊く。ほんとうの火を忘れないために」「耳たぶの火の耳かざりが熱い」(かまどでごはんを炊く)、「月のひかりが草はらに捨てられている」(月夜)、「桜のなかには女がひとりいるが」(今年の春)、「ぶつぶつつぶやきながら/おじいさんはもう半分くらい木になりかけている」(散歩)。
「電話が鳴っているような気がする/方向音痴だった姉が/むこうへ行く道がわからなくなって/途中からかけてきているのではないか」、これは亡くなった姉上を描いた「行儀」という作品から。「わたしはいま母の知らない年齢を生きていて」「 そのうちわたしは/あれから年をとらない母にとって/親のような年齢になるのだろう」(ふるさと散歩)。目次でも判りますように、たった20編の中にこれだけの感性豊かな詩語が含まれている、恐るべき詩集と云えましょう。

 紹介した詩も見事な作品です。「わたしはあの駅でだれかと待ちあわせの約束をしているのではないだろうか。」というフレーズは、人間の根源的な不安を表現しているように思います。幼いころの「においガラスのかけら」の記憶とともに、ずーっと約束を果たしてこなかったような不安、焦燥感が感じられます。それも、ポジティブではないが決してネガティブでもない、不思議な感覚に捕われますね。今年の収穫として1、2を争う詩集になるでしょう。




詩とエッセイ誌『海嶺』24号
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2005.5.10
さいたま市南区
海嶺の会・杜みち子氏 発行
非売品
 

  <目次>

   扉 詩   桜井さざえ 黄水仙          1
   詩     植村 秋江 苺・春の雪        4
         杜 みち子 町角・大寒        8
         河村 靖子 化粧・再開        12
         桜井さざえ 猪・旧家         16
   同人の詩集 植村 秋江 杜みち子詩集『象の時間』 22

   散歩道 <夢>
         杜 みち子 夢            24
         河村 靖子 このまま         24
         桜井さざえ 倉橋島沈没        26
         植村 秋江 一冊の本から       27

   雑記帳                      29
   編集後記                     30



    苺    植村秋江

   ビニールハウスの中は
   狂っている
   石油ファンヒーターで温められ
   煌々と明かりがともされて

   整然と並んだ畝
   緑の葉陰で 花托がふくらむ
   つややかに 赤く熟して
   ミネラルも
   ビタミンも
   ぬかりなく組み込まれています
   摘みたてです
   さあ どうぞ

   いのちいのちした大粒を口に含めば
   甘酸っぱいしずくと まぎれもない種
(しゅ)の香り
   その名も あまおう とちおとめ とよのか

   先取りした季節をあじわう至福の時
   わたしの残り時間も
   うっとりと
   早送りされて

 最終連が佳いですね。「ビニールハウス」で促成栽培された苺と「わたしの残り時間」を上手く重ねています。それも促成ではなく「早送り」という言葉を選んだところが素晴らしい。最近は少なくなりましたが、以前は促成栽培の野菜や果物への批判を込めた作品が多くあったと記憶しています。でも、それを人間の「残り時間」にダブらせた作品は皆無だったろうと思います。着眼点と思考の柔軟さが際立った作品と云えましょう。




詩と散文誌『多島海』7号
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2005.5.20
神戸市北区
江口 節氏 発行
非売品
 

                目 次

               Poem
      千年を生きるがごとく * 松本 衆司…2
               椿 * 森原 直子…6
              青空 * 江口  節…10
   ことばによるきのこの図鑑(2)* 彼末れい子…12

              Prose
           激震の春は * 森原 直子…16
         綺麗ということ * 松本 衆司…21
   ワーキングメモリーとことば * 彼末れい子…27
         内面の手記(抄)* M・ノエル…32
                   訳 江口 節

              同人名簿…35
              入り江で…36



    青空    江口 節

   晴れた空に子どもの泣き声が響く
   しゃくりあげては
   たしなめる親に いっそう昂ぶって
   かんだかく せつなく
   はてしなく

   あんな風に
   わたしも泣きたい、よ
   大通りで 空を向いて
   あふれる涙に
   よぎる人も見えないほど

   子どもの涙になりたい、よ
   ひとりのトランクに
   ぶかぶかの靴 すこっぷ
   流れ星 茶碗のかけら
   毛布 自転車 水平線 鍋に薬缶に
   ぎっしり詰めたのは、誰?
   今日もよろけてしまった

   青い底から見つめるひとへ
   ぶるぶる
   振り飛ばしたい、よ

 大人になるということは「ひとりのトランクに」様々なものを「ぎっしり詰め」こまれた状態なんだなと思います。お陰で「今日もよろけてしまった」、そんな生活が毎日続いている…。たまには「子どもの涙になりたい」ですね。そして「青い底から見つめるひとへ」「ぎっしり詰め」られた「トランク」を「振り飛ばしたい」ものです。
 タイトルの「青空」が成功していると思います。ヘンに暗くならなくて良い。「、よ」という使い方も奏功していると云えるでしょう。「ひとりのトランク」の中身もおもしろいですね。




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