きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2005.5.7 | ||||
「榛名まほろば」にて | ||||
2005.5.24(火)
16時頃でしたかね、東京本社の営業課長とその部下がフラリと現れて、「仕事が終ったら懇親会をやりましょう」。えっ、聞いてないよ! 「いいえ、ちゃんと伝えてあるはずです」。結局、拉致されてしまいました(^^;
聞いてないのか私が忘れたのか、それは不明なんですけど、お酒呑むんだったらクルマは置いてくるはずだし……。ま、いいかぁ。というわけで行き着けの呑み屋さんへ。今日は気持の余裕がなかったので焼酎だけにしました。それでも17時半から呑み出しましたので、20時にはもうヘベレケでした。意外にも最終のバスに乗れて、21時には鼾をかいて寝ていました。ちょっとした骨休めになったということです。こういう日もありますね。
○森田進氏・佐川亜紀氏編『在日コリアン詩選集』 | ||||
一九一六年〜二〇〇四年 | ||||
2005.5.30 | ||||
東京都新宿区 | ||||
土曜美術社出版販売刊 | ||||
3620円+税 | ||||
<目次>
一、詩篇
解放後(一九四五年〜二〇〇四年)
許南麒
−『許南麒の詩』より
にわとり 20 傷だらけの詩にあたえる歌 20
夜中の歌声 21 鶏林 22
商品論 23 これが おれたちの学校だ 24
傷口 25 遭遇 26
また栄山江 28
香山末子
−『香山末子詩集 エプロンのうた』より
手に太陽 30 地獄谷を降りると 30
唐辛子のある風景 31 青いめがね 31
油のように 32 わたしの指と眼 32
私のテレビ 33 くちづけ 33
蝶々 33
申有人
−『狼林記』より
コトバのツケ 36 狼林記 37
懐郷 38 過客 39
江界2 41 仮面 42
指の短かい母 43
崔華國
−『崔華國詩全集』より
洛東江 46 難民有感 47
驢馬 48 もう一つの故郷 50
相似性 51 好好 52
歳月 52 滅法子紀行 53
姜舜
−『なるなり』より
序詩 56 号笛 56
父よ 57 夢の針 58
喪失 59
−『断章』より
ハングル 59 帰れない道 61
李沂東
−『記憶の空』より
部屋 62 あなた 62
石 63 やさしい雨の唄 64
−『私の聖地』より
斜面にて 65 余草里 66
ポプラ 67
鄭承博
−『ある日の海峡』より
あのときと同じ 70 ある日の海峡 71
鉢の植木 71 ただ泣いた 72
あさり 73 韓国へ帰って 73
詩とはなにか 74
李哲
−「季刊 三千里」より
帰心(十二号) 76 雲(十三号) 77
躑躅(十五号) 79 青磁賦(十七号) 80
待春賦(二十号) 82 航跡(二十二号) 83
不忘(五十号) 85
呉林俊
−『海と顔』より
黒い背広 88 肺魚 88
わがチョソンマルに寄せる歌 89 年表 91
残稿として 93 愛の詩集として(二) 93
愛の詩集として(五) 94
韓億沫
−『恨』より
かささぎ(一) 96 風来坊先生 97
恨 98 亡き母へのバラード 99
いないということ 100 遺書 101
ことば 102
金時鐘
−『地平線』より
自序 104 流民哀歌 104
−『新潟』より
雁木のうた 106
−『猪飼野詩集』より
イルボン サリ 111
−『光州詩篇』より
骨 112
−『拾遺集』より
大阪港 114
−『化石の夏』より
等しければ 114 化石の夏 115
鄭仁
−『感傷周波』より
椅子と投身 118 鳩よ 眠るな 119
感傷周波 120 うまずめ 121
茶臼山 122 夏と少年と 123
鉄 124
李明淑
−『オモニ』より
かあちゃんのパンツ色 126 リヤカア 127
渇いた記憶 1 128 知っていますか 129
帰化(二 決断) 131 帰化(四 尾てい骨) 132
拉致 133
妙達
−『李朝自磁』より
李朝白磁 134 パンソリ 歌劇 135
砧 136 チマ・チョゴリ 138
スッカラ チョッカラ 匙と箸 139
−『季朝秋草』より
李朝秋草 140 百済観音 141
崔賢錫
−『毯果』より
遡る 144 風景 145
カラス 145 多摩川 146
訪れる 146 蛇 147
出入国管理事務所附近にて 147
梁石日
−『夢魔の彼方へ』より
深き渕より 150 夜を賭けて 151
冬の海 153 血は溢れる 154
夢魔の彼方へ 155 無明の時 158
李禹煥
−『立ちどまって』より
彫刻 160 転移 160
銀座 160 両義の眼 161
白磁の壷 161 ニューヨークの地下鉄 162
街で 163
王秀英
孤児 164 富士山 165
無理心中 166 お茶会 166
アラまあ 166 月の出る町 167
竹久昌夫
−『月の足』より
杏 170 染め模様 170
高麗川 171 光る悲しみ 172
婚礼 173 彼 173
鐘 174
金水善
−『済州島の女』より
アリラン峠 176 三十八度線 176
夢 177 こころ 178
選挙権 178 処女狩り 179
済州島の女 179
みくも年子
−『ふるさとふたつ』より
きもの 182 ふるさとふたつ 182
壁 183 日日の流れの中で 183
−『砲きつきスリ』より
モガキ・マグロシ 184 瘡蓋 185
−『実の種の――』より
もどり駅 185 ビワの実 186
崔一恵
−『わたしの名』より
わたしの名 188 言葉をかえして 188
私のみちを開けて 189 彼岸の日に 190
虹の橋を渡っていった友 191 いつも想うのだが 192
灰色の六月 192
李美子
−『遥かな土手』より
荒川 194 三日月 195
路 195 土手下朝鮮 196
しゅうさん 197 夏の花 198
地理の時間 198
安俊暉
−『苧種子野』より
時 200 武蔵野 201
宗秋月
−『猪飼野・女・愛・うた』より
おおぎいちゃあらん 206 夜叉 207
マッコリ・どぶろく・にごり酒 208 キムチ 210
にんご 210 平野運河 211
酒延 212
尹健次
−『旅路』より
詩 214 思い出 214
生きる 215 旅路 215
李芳世
−『こどもになったハンメ』より
ハッハッハックッチャン 216 ぼくしってんねん 216
パンツのゴムあと 217 空気入れ 217
卒業の日 218 かくれんぼ 218
ゆび 219 目薬 219
こどもに なった ハンメ 220 子 220
辛鐘生
−『パンチョッパリのうた』より
パンチョツパリのうた 222 ああ もういやになっちゃう 223
喪失 224
−『棄民』より
クー 225 棄民 225
パゴダヘ向かう 226 ぶらり(詩誌「1/2」) 228
李承淳
−『過ぎた月日を脱ぎ棄て』より
鯛の断想 叩
−『耳をすまして開いてみて』より
謝罪 230 夜道 232
−『風船に閉ざされた肖像画』より
窓を拭く 232 氷に閉ざされた肖像画 234
手相を見るように 235 風船に朗ざされた肖像画 255
萩ルイ子
−『白磁』より
白磁 218 白い人・黄色い人・黒い人 238
混血−口ごもる−2 239
−『わたしの道』より
春を取り戻すために 240 喪失と祈り 241
霧氷が白くきらめいて 242 草笛 243
嶋博美
−『芋焼酎を売る母』より
望郷U 246 ある哀しみ 246
みずまくら 247 母とわたし 248
−『畚担ぎの島』より
畚担ぎの島 249 こいし T 250
−『父の国 母の国』より
声のない会話 250 八六・九・アジア大会 251
南椌椌
青い馬 254 笛の楽園 255
牛は時々泳ぐ 256 土偶の家族 257
家についての甘い考察 258 百済の桃 260
キム・リジャ
−『白いコムシン』より
白いコムシン 262 歳月 262
十六歳の人差し指 263 渦 264
板門店にて 264 本籍地 265
−『火の匂い』より
こどもの喧嘩 266 火の匂い 267
盧進容
−『未明の街』より
赤い月 268 崩れた壁 268
−『コウベ ドリーム』より
コウベ ドリーム 269 オフレコの日本 270
−長編叙事詩『蘇生紀』より
垣根のうた 271 表札のうた 272
−『転生譜』より
国際識字デー 274 転生譜 274
尹敏哲
−『火の命』より
窓 276 追憶(3)川 277
震災(5)霊2 277 漢江 280
−『μの奇蹟』より
廊下 281 剥がれた猫 282
運命 283 ほほえみ 284
崔龍源
−『鳥はうたった』より
鳥はうたった 286 馬の目 287
サラン 287
−『遊行』より
海辺で 288 民衆 290
エレジー 291 在りたい 292
李龍海
−『ソウル』より
私戦 294 ソウル 294
−『赤いハングル講座』より
赤いハングル講座 296 くたばった詩人よ 298
結婚 299 記憶の船 301
趙南哲
−『樹の部落』より
雨 304 広場 304
井戸 305 座布団 306
炭 306 母 307
−『連作詩 風の朝鮮』より
夏 308
−『あたたかい水』より
私を見なさい 309 泣く 310
−『グッバイアメリカ』より
アメリカ16 310
新井豊吉
−『ふゆの少年』より
ゆきの夜 312 追悼 312
−『大邱へ』より
おとうさん 313 母であったあなたへ 314
事件 314 父からの手紙 314
大邱へ 315
全美恵
−『ウリマル』より
ミーティング 318 ウリマル 318
1985・赤坂「MUGEN」にて 320 ビビンバ・パーティー 321
黄土 322 オノマトペ(『21世紀日韓新鋭100人詩選集』)323
私は?って詩を書く時の私(詩誌「さよん」) 324
ぱくきょんみ
−『そのコ』より
そのコ 326 天気模様 327
肉親 329 わたしは、しない 329
チマチョゴリを(社会新報) 330 鶴橋一日(社会新報) 331
中河原(社会新報) 332
夏山直美
−『プレパラートの鼓動』より
名前 334 証明 334
父親から娘への流出 335 とける 336
おにぎりとおむすび 337 まる(詩誌「石の森」) 38
蒼天のまなざし(詩誌「石の森」)339
宋敏鎬
−『ブルックリン』より
ブルックリン 342 処遇 343
滑稽 343
−『ヤコブソンの遺言』より
ヤコブソンの遺言 344
−『パントマイムの虎』より
パントマイムの虎 345 最初の公用語 347
王国 348
丁章
−『民族と 人間と サラム』より
前提 350 子は親もとからあの森へと消えていった 351
祝福されるべき誕生 352
−『マウムソリ』より
偽満州国 354 父権 355
在日第三の道 356
−『闊歩する在日』より
日本人と恋をして 357 コンビニにキムチ 358
在日サラムマル 360
中村純
−『草の家』より
戸籍の空欄 362 食道園 363
海鳴り 364 釜山港 365
二〇〇三年・冬 釜山の光の中を366 一九七五年 草の家 367
パッチム(詩と思想) 369
解放前(一九一六年〜一九四五年)
朱輝翰 五月雨の朝(文芸雑誌一九一六) 370
朱輝翰 葡萄の花(伴奏一九一七) 370
朱耀翰 夜、眠る時(現代詩歌一九一八) 371
朱輝翰 嵐(現代詩歌一九一八) 372
朱耀翰 暗K(現代詩歌一九一八) 372
松村紘一(朱耀翰) 怒りの月日(興亞文化一九四四) 373
呉刀成 希望(日本詩人一九二四) 375
金熙明 幸ひ(文芸戦線一九二五) 376
金熙明 異邦哀愁(文芸戦線一九二七) 376
鄭芝溶 かっふえ・ふらんす(近代風景一九二六) 377
鄭芝溶 海(近代風景一九二七) 377
鄭芝溶 悲しき印像畫(近代風景一九二七) 378
鄭芝溶 金ぼたんの哀唱(近代風景一九二七) 379
李長啓 印度は××と同じですか?(文芸戦線一九二八) 380
金炳昊 今日は朝鮮のお盆です(日本詩人一九二五) 381
金炳昊 色々思ひながら野山を歩く(日本詩人一九二六) 382
金炳昊 おりやあ朝鮮人だ(戦旗一九二九) 382
金鯨波 此の地よ(文芸戦線一九二六) 384
リー・テツ 屍精絲・リズム(野獣群一九二七) 384
成春慶 世さらに(野獣群一九二七) 386
李光天 殺された風景(『朝鮮詩華集』一九二八) 386
李光天 病人の家(『朝鮮詩華集』一九二八) 386
李光夫 無力な高唱(『朝鮮詩華集』一九二八) 387
朴達 暴壓に抗して(戦旗一九二九) 387
姜文錫 われらはピオニール(戦旗一九二九) 388
白鐡 反逆と接吻(農民一九三〇) 389
白鐡 九月一日(前衛詩人一九三〇) 390
白鐡 再び×起へ(プロレタリア一九三〇) 393
金籠済 アカホシ農民夜学を守れ!(プロレタリア詩一九三一) 395
金龍済 玄海灘(プロレタリア詩一九三一) 396
金龍済 愛する大陸よ(ナップ一九三一) 397
金龍済 三月一日(プロレタリア文学一九三二) 398
金村龍済(金龍済)譽れの星々(緑旗一九四二) 399
金村龍済(金龍済)母の草履(国民総力一九四四) 400
崔然『憂鬱の世界』(一九三一)より
つり 401 俺は如何に生きる 401
さまよふ同胞 402 我が魂 402
水を汲んでおいで 403
李箱 異常ナ可逆反応(朝鮮と建築一九三一) 404
李箱 空腹(朝鮮と建築一九三一) 404
李箱 線に関する覚書1(朝鮮と建築一九三一) 405
李箱 線に関する覚書2(朝鮮と建築一九三一) 406
李箱 線に関する覚書3(朝鮮と建築一九三一) 407
柳龍夏 青蛙の歌(詩精神一九三四) 408
巌星波 朝顔の花(詩精神一九三四) 409
朱永渉 Kい河(詩精神一九三四) 410
朱永渉 省線−夜12時(詩精神一九三四) 410
朱永渉 冬の思ひ出(詩精神一九三五) 411
朱永渉 康村の春(詩精神一九三五) 412
松村永渉(朱永渉) 徴兵の詩(緑旗一九四四) 413
朴承杰 故郷に春を感ずる(詩精神一九三五) 415
張寿哲 ポプラの有る風景(詩洋一九三五) 416
朴南秀 女の風俗史(日本詩壇一九三八) 417
朴南秀 自畫像(日本詩壇九三八) 417
朴南秀 異常な存在(日本詩壇一九三八) 418
朴南秀 赤い機關車(日本詩壇一九三八) 418
文哲兒 戦場(日本詩壇一九三八) 419
金二玉 夜曲(日本詩壇一九四〇) 420
金二玉 哀歌(日本詩壇一九四〇) 420
金二玉 悲しき人(日本詩壇一九四〇) 421
李海林 郷愁(日本詩壇一九四〇) 421
「鐘奕 風景畫(藝術科一九四〇) 422
「鐘奕 季節(藝術科一九四〇) 422
金圻沫『童女像』(一九四〇)より
童女像 423 悲愴夜曲 423
夏の誘ひ 424
金山保 みいくさみとせ(日本詩壇一九四〇) 425
金山保 嵐(日本詩壇一九四一) 425
金山保 愚人(日本詩壇一九四一) 426
金山保 哀傷(日本詩壇一九四一) 426
金山保 てがみ(日本詩壇一九四一) 426
金炳燮 淡い夕陽よ(日本詩壇一九四一) 427
金炳燮 君は知るまい(日本詩壇一九四一) 427
韓植「炭よ燃へてくれ」(文芸戦線一九二六) 428
『高麗村』(一九四二)より
多重塔 429 K壇の匣 429
終焉 430 印度の祈祷 431
城山昌樹 白い風景(日本詩壇一九四二) 432
城山昌樹 凍てついた路を(日本詩壇一九四二) 433
城山昌樹 征け(日本詩壇一九四二) 433
朝本文商 校庭に(日本詩壇一九四二) 434
金鐘漢『たらちねのうた』(一九四三)より
待機 435 幼年 435
一枝について 436 合唱について 437
古井戸のある風景 437 風俗 438
空山明月 438 善夫孤獨 439
趙 駱駝(日本詩壇一九四二) 440
趙栫@憧憬(日本詩壇一九四二) 440
趙栫@馬山港 (日本詩壇一九四二) 441
趙栫@翼(日本詩壇一九四二) 441
趙宇植 海に歌ふ(国民文学一九四二) 443
徐廷柱 航空日に(国民文学一九四三) 444
趙靈出 山水の匂ひ(国民文学一九四四) 445
李燦 子等の遊び(国民文学一九四四) 446
大島修 銃に就いて(国民文学一九四四) 447
李家漢稷 ひとつの願(緑旗一九四四) 448
香山光郎(李光沫)わが泉(国民詩歌一九四一) 449
香山光郎(季光沫)シンガポール落つ (新時代一九四二) 450
香山光郎(季光沫)半島青年の決意(「朝日新開」中鮮版一九四五) 450
二、詩論・解説
「もう一つの日本語」と国際性――金時鐘論・雀華国論 森田 進 454
在日の女性詩人たち
李 美子 465
詩史解説
佐川亜紀 470
在日コリアン詩史略年表 佐川亜紀 496
あとがき 504
長い目次になって申し訳ありません。ここまで載せるか迷いに迷ったのですが、結局、載せることにしました。それだけの大冊であるということを知ってもらいたかったし、戦前・前後を通じて現在まで、これだけの在日コリアン詩人がこれだけの仕事をしたということを知ってもらいたかったのです。佐川亜紀さんのあとがきにもありますが、それでも網羅とはほど遠いと私も思います。それだけの量を遺した、そして創り続けていることを、感動を持って目次を載せながら思いました。2日も掛りましたけど(^^;
登場する詩人は全部で86人。そのうち「解放後」の詩人は45人。「解放後」のうち私が直接お会いしたり詩集をいただいた詩人は、たったの8人でした。この世界に身を置いて、そろそろ30年になろうとしていますが、いかに交流が少ないか判ります。でも、なかには私にとって貴重な詩人がいらっしゃるのです。李沂東さんは、実は私の高校時代の後輩のお父上で、高校2年のときに沼津のお宅にお邪魔して、生れて初めて詩集をいただきました。この本にも採り上げられている第一詩集の『記憶の空』です。もちろん今でも持っています。1967年11月8日にいただいたと記録にありますから、38年ほど前になりますね。定価は600円! その記念すべき詩集から作品を紹介します。
石 李沂東
墓地の片すみに
めだたぬ
石ひとつ置かれている
それはかりそめに埋けた
しるしであった
いつのまにか
年輪の苔がふえている
ときどき掃除に来るひとが
唯の石かとかたずける
私は それを探して
盆や 暮れに
また もとの処においた
あなたの記載は
俗名も戒名も
寺の過去帳には ないという
訳は問わなかった
その訳は
いちばん私が理解していたから
私の国のならいが
そうであったから 家にも
位碑のようなものや 仏壇はなかった
私は
石をあなただと思った
あの時はせめて
手に一杯かかえる石をと選んだつもりが
今みると
玉石ほどに小さい
私は名前の書かれた
恰好の墓がほしかった
誰もが尋ねてもいいように
位牌や仏壇がほしかった
盆 暮れに
重箱の中に米一升と
三拾銭の布施袋をもって
私と弟二人だけが
三里の町から寺に来た
いつもひそかな山路を登り
ここに来るのは恐い
しかし来れば
石に
感無量の懐しさがあり
心の中で <母チャン> と
母の名を呼んでみた
盛り土がならされ
今も そのしるしとて
石 ひとつがある
石に雨が降っている日があり
石に蜥蜴が這っている日があり
李沂東氏の頁の冒頭に簡単な略歴が書かれていました。1925年、4歳のときに母上と二人で渡日した、とあります。詩作品ですから、現実とは切り離して鑑賞すべきですが、「あの時はせめて/手に一杯かかえる石をと選んだつもりが/今みると/玉石ほどに小さい」というフレーズは幼少時に母上を亡くされたと読んでよいでしょう。「その訳は/いちばん私が理解していたから」というフレーズは、日本人の一人として辛いですね。私たちの両親、祖父母の時代に何があったのか、作品で声高に抗議しているわけではありませんが、底に潜む「恨」を感じます。
この作品が発表されて少なくとも40年は経っているでしょう。この40年で日本人は根底のところで変わったのか、靖国・教科書問題を考えると肯定できないと言わざるを得ないでしょう。考えさせられます。
○川端律子氏詩集『赤い川』 | ||||
2005.6.10 | ||||
東京都新宿区 | ||||
土曜美術社出版販売刊 | ||||
2000円+税 | ||||
<目次>
T
赤い川 8
インスリン 10
からだの声を聴きながら 12
血管が切れた 14
爪 17
ひとりごと 20
輝き 22
きゅうす 24
二銭の郵便はがき 26
亡母を 憶う 28
グロッソプテリスの化石 30
深海流 33
彼の手紙 36
U
輪ゴム三本 40
盲点 42
盲点U 44
プロの教師なら 47
盲目の踊り子 50
柿落ち葉 53
イラク戦争に思う 56
世界平和を 祈る 59
V
ふじあざみ 66
ミモザ 68
対面 71
万年青 73
花の笑顔 75
いなだ 77
私の水平線 79
からつき落花生 82
W
わたしの友だち 86
エーゲ海で 89
ウェールズの丘 92
ピラトス山頂にて 94
故郷仙台 97
トウグリギン・シレー 99
奇跡の旅 102
喜望峰 104
あとがき 108
赤い川
地球の大地を流れる
数え切れない 川
私のなかにも流れる川がある
無数に枝分かれして
くまなく私のなかを巡っている
私の命の細胞を養い 心を育ててくれる 赤い川
無意識のうちに流れている
私は意図して
からだを支配する脳細胞に
赤い川が流れるように刺激する
定冠詞の使い方確かめようと
英作文 つぎに暗誦
大脳の運動野に赤い川が流れるようにと
手足の指一本ずつ やさしくさする
流れよ 流れよ 手の指先から足の先まで
ことばを紡ぎ作品を織り上げる
大脳の前頭連合野に赤い川が流れるようにと
たゆまず続けていると 機能の動きも 見えてくる
からだには不思議がいっぱい
人間は小さな惑星だ
詩集のタイトルポエムで、かつ巻頭作品です。著者の思い入れが判るような作品ですね。「からだを支配する脳細胞に/赤い川が流れるように刺激する」するとは良いことだと思います。私も意識して脳細胞で風邪ぐらいは治すようにしています。それが意外と治ります。やはり「からだには不思議がいっぱい」だなと思います。それは「人間は小さな惑星」だからなんでしょう。これからも「大脳の前頭連合野に赤い川が流れるように」していきたいものです。
○詩とエッセイ『千年樹』22号 | ||||
2005.5.22 | ||||
長崎県諌早市 | ||||
岡 耕秋氏 発行 | ||||
500円 | ||||
<目次>
詩
サッカー・夜道で 早藤 猛 2
歴史・機織り 植村勝明 4
うそっこ 和田文雄 8
夜のなかに・ひとつの朝 鶴若寿夫 10
心を抱く・本当の心、雨 大石聡美 16
春の習作から四篇 岡 耕秋 20
エッセイほか
ウエストミンスターの鐘(五) 日高誠一 30
古き佳き日々(一九) 三谷晋一 36
よみがえれ「宝の海」有明海 鮫島千秋 43
読者からの手紙 中田慶子 46
鶴若寿夫詩集『回帰』評
この溢れる叙情−鶴若寿夫『回帰』について
大石聡美 48
『回帰』まで
鶴若寿夫 51
菊池川流域の民話(一六) 下田良吉 54
樹蔭雑考 岡 耕秋 63
編集後記ほか 岡 耕秋 64
カラタネオガタマ 岡 耕秋
昨秋 鉢から庭におろした
七〇センチの若い木が
四月の末 多くの花をつけ
中庭いっぱいに香気を放った
四センチほどのこぶりな花
黄を帯びた六枚のうす紫のはなびらは
薄緑の雄しべに数十の雌しべを
抱いている
「くだものの芳香ね。バナナかな」
帰省した娘が庭に入った途端にそういった
「バナナの木」ともいうんだよ
「とてもいい匂い」
この一本の匂いのよい木があること
「とてもしあわせ」
とそのひとは言った
むかし
国民学校のクラスの子が
この枝を学級にもってきた
どの子もその花を分けてもらい
大切に家にもちかえったのだと
六十年も前のことを
私たちは不意に思い出す
期せずして声をあわせ
「風防(フウボウ)ガラスの匂いだ」
といった
風防ガラスのひとかけらを
子どもたちは大切に筆箱のなかに入れ
こすってはその甘い匂いを楽しんでいた
風防ガラスは
遠い悲しいくやしい
日々も思い出させる
青い空が広がっていて
日の丸をつけた練習機が飛んでいた
突然あらわれたグラマン機二機が
機銃掃射をする
装備の無い練習機は玩具のように
もてあそばれて
きりもみになって撃墜された
若い航空兵が殺されていた
風防ガラスは焦げて燃えていた
あの練習機にも
零戦や日本の軍用機のほとんどに
風防ガラスは装備されていたのだろう
私たちは辛い思い出を追わねばならない
理不尽な戦争のなかで
殺し殺されていった
一族の秀れた若者たちのこと
いまは身寄りすら思い起こさなくなった
多くの死者たちのことを
そして
三月九日、八月六日、九日も そのほかの日々も
毎日が世界中の命日であった
狂気の吹き荒れた
六十年も前の愚かしい日々を
カラタネオガタマは
なんのたくらみもなく高く匂うだけなのに
「大切に筆箱のなかに入れ/こすってはその甘い匂いを楽しんでいた/風防ガラス」を、実は私も記憶しています。おそらく1960年頃だったろうと思います。小学生で体験していますから、飛行機の風防だということは認識していましたが、「遠い悲しいくやしい/日々」までは判りませんでした。この作品を通じて、それが戦中からあったものだと知りました。おそらく私が持っていた物も撃墜された「日本の軍用機」の物だったのかもしれませんね。
そういう思い出もありますが、この作品で見なければいけないところは「いまは身寄りすら思い起こさなくなった」「一族の秀れた若者たちのこと」だろうと思います。「身寄りすら思い起こさなくなった」というフレーズに少なからぬ衝撃を覚えました。それが風化なですね。風化を止めるのは文学だと感じた作品です。
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