きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.6.5
「宇都宮美術館」にて
 

2005.6.6(月)

 午後から3時間も掛けて会議をしました。環境対策に取り組む内容で、各職場から20名ほどが集まりました。従来は私たち専門委員が集まるだけだったのですが、現場で実際に環境対策に取り組んでいる人たちにも加わってもらおうということになって、拡大環境委員会と称しています。

 従来のメンバーは謂わば実務担当者でありながら指揮官。現場に出向いて問題点を見つけ出すという実務をやりながら改善の指導もするという立場でしたが、これは弱い。その作業を日々やっているわけではありません。ここはやはり、日々それぞれの作業に従事している人が加わらないと本当の環境対策は出来ない、と気付いたわけです。遅まきかもしれませんけど、これは良いことだなと自賛しています。何でもそうですが、現場で働いている人が加わらない組織はいずれ綻びが出ると思いますね。

 ま、そんな風にして弊社は環境問題に取り組んでいます、というPRかな、これは(^^;




季刊文芸同人誌『青娥』115号
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2005.5.25
大分県大分市
河野俊一氏 発行
500円
 

  <目次>
   詩 空              河野 俊一 2
     麦畑――父と母に――     多田 祐子 6
     墓地             笹原 邦明 8
     一冊             田口よう子 11
     8D(窓側)にて       河野 俊一 16
     あいか            多田 祐子 18

  連載 ことばはごちそう・第十三回
       書きつづける       河野 俊一 21
  青蛾のうごき                  24
  編集後記                    24



    8D(窓側)にて    河野俊一

   6Aの胸が震える
   12Cが音楽に包まれて立ち上がる
   やがてトンネルに入り
   12Cは途方に暮れる
   しばらくすると
   7Bが低くうめきだすのだ
   背を丸め
   右手で口許を隠して
   で
   そこにやってくるのは
   若いアイスクリーム売り
   高原牛乳を使ったアイスクリームのほか
   ジュースやコーヒーもあると言う
   コーヒーは
   苦味が増幅されていないか
   ほどなく
   12Cがアイスクリームをすり抜けてデッキへ行き
   ひとりで首を振ったり
   おじぎをしたりしはじめる
   列車の中には
   こんなにも沢山の人がいるのに
   人は
   さらに別の人と話そうとするのだ
   外のやまなみはあざとく
   夕日をからめながら聞き耳を立てている

 「列車」の座席番号がこんな詩になるとは思いもよりませんでした。私も出張や詩人たちに逢いに出かけるのに座席指定はよく利用していますけど、こんな作品を見せられて愕然としています。今まで書こうともしなかった!
 それにしても人物を良く見ていると思います。「6A」「12C」「7B」の性格がよく伝わってきます。本物の詩人の眼というのは怖いですね。それに「列車の中には/こんなにも沢山の人がいるのに/人は/さらに別の人と話そうとするのだ」というフレーズは、現代文明への批評とも採れます。
 ヤラレタ!という思いが正直なところですが、読後感は爽快です。




月刊詩誌『現代詩図鑑』第3巻6号
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2005.6.1
東京都大田区
ダニエル社 発行
300円
 

  <目次>
   きょうき            山之内まつ子 … 3
   キャラバン           橋場仁奈 ……… 7
   神話              倉田良成 ……… 12
   入り江             枝川里恵 ……… 16
   ひとつの事件          小野耕一郎 …… 20
   青年              坂多瑩子 ……… 24
   算盤              高木 護 ……… 27
   花あかり            佐藤真里子 …… 30
   しゃぼん玉           岡島弘子 ……… 34
   一羽の鳥は一人の人を助けている 真神 博 ……… 37



    ひとつの事件    小野耕一郎(おの こういちろう)

   強盗がはいったわけでもない
   火事がおきたわけでもない
   殺人がおきたわけでもない
   なにひとつおこらず
   平穏にすぎていく我が家に
   ポトリと水滴が落下したのである

   ポトリポトリと
   会話もなくなった
   無表情な家に
   蛇口から洗面器にむかい
   ひとつの刺激として
   ジャズの響きのように
   間断なく落ちるのである

   このポトリの音をきいていると
   世界でおきている戦争・津波・拉致が
   ひとごとのようにおもえて
   わたしとどう関係するのだろうか問うと
   いきている証しが霧散してしまう

   なにかのはじまりかもしれないと思い
   新聞に目をとうすが
   いっこうに
   その気配がない
   ポトリが
   なんの変哲もなく
   今日もつづくのかと思うと
   わびしくなる
   しかし
   ひょっとしたら
   汚染されてしまった地球をのみこんでしまう
   大洪水の前触れかもしれない

 「ポトリと」「落下した」「水滴」が、最終的には「大洪水の前触れかもしれない」というところまで行ってしまう、その落差がおもしろい作品です。その間に「無表情な家」が出てきて「世界でおきている戦争・津波・拉致が/ひとごとのようにおもえて」「ポトリが/なんの変哲もなく/今日もつづく」。ここだけでもひとつ、ふたつの詩が出来てしまいそうなテーマを孕んでいます。
 作者は「世界」との関係を問い続け、「いきている証し」を探し続けている作品だとも読み取れます。「水滴」が「地球」まで、作者の思想の範囲を見せている作品と云っても過言ではないでしょう。小野耕一郎詩の典型が表出されたと思いました。




隔月刊詩誌『叢生』138号
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2005.6.1
大阪府豊中市
島田陽子氏方・叢生詩社 発行
400円
 

  <目次>
   詩
   白木蓮         藤谷恵一郎 1
   恩があるんや      麦  朝夫 2
   辞令          八ッロ生子 3
   タヌキ         山本  衛 4
   ことば         由良 恵介 5
   見えない家       吉川 朔子 6
   花吹雪く        秋野 光子 7
   窓           江口  節 8
   指輪 他        姨嶋とし子 9
   「クレイマークレイマー」
     を見ていなかったら 佐山  啓 10
   顔           島田 陽子 11
   ゲーム         下村 和子 12
   川原の授業       曽我部昭美 13
   夕暮れの国       原  和子 14

   本の時間              15
   小  径              16
   編集後記              17
   同人住所録・例会案内        18



    顔    島田陽子

   ひとはあるとき
   瞬時に面をつけかえる
   たとえば
   どこにしまってあったのか
   見事に感情を隠し
   なにひとつ読みとられまいと
   無表情に凍りついた不気味な面
   だが ひとがそれを見ることはない
   見るのは他者だけだ

   ひそかな喜びをかみしめるとき
   煮えたぎる怒りにことばを失うとき
   痛むとき 涙をこぼすとき
   ひとは自分がどんな面をつけているか知らない

   自分のものでありながら
   他者のためにあるとしか思えない
   治外法権のような場所
   そんなものをからだの中で最も目立つところに置いて
   ひとは 健気に生きている

 最終連が見事な作品だと思います。「他者のためにあるとしか思えない/治外法権のような場所」とは佳く謂ったものです。確かに顔は「他者のためにあ」って、自分の身体の中では「治外法権」を持っているのかもしれませんね。しかも「そんなものをからだの中で最も目立つところに置いて」いる。
 しかし、作者はそんな「ひと」を「健気に生きている」と表現しています。ここが島田陽子詩らしいところだなと思います。人間の愚なり醜なりは描く、しかし見捨てない。そこにいつも魅力を感じています。




季刊詩誌GAIA12号
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2005.6.1
大阪府豊中市
上杉輝子氏方・ガイア発行所 発行
500円
 

  <目次>
   詩 リズミカル             立川喜美子 4
     いさかい              竹添 敦子 6
     帰国 クリオネと綿毛 傷跡 引揚者 園上 裕子 8
   エッセイ 想像力って?         寺沢 京子 10
   詩 山男 うつ             中西  衛 12
     窓の向こう             春名 純子 14
     季節の鍵              平野 裕子 16
     消えた家              水谷なりこ 18
     燈火                海野清司郎 20
     乱反射して             横田 英子 22
     藍草子               小沼さよ子 24
     あかり               国広 博子 26
     カンナ咲く道            熊畑  学 28
   エッセイ 東京の人           熊畑  学 29
   詩 天上からの愛            猫西 一也 30
     ふと                坂梨  開 32
     少年のゆくえ 湯あがりのとき    佐藤 アツ 34
     異変                上杉 輝子 36
   エッセイ「喜志邦三回顧展」によせて   水谷なりこ 38

   同人住所録                     40
   後記                  上杉 輝子 



    異変    上杉輝子

   琥珀の中のアリ

   それは何の兆か
   それともノアの大洪水のあとの惑星の姿形を
    見ようとして
   とじこめられた地層からその形を表したので
    あろうか
   足が動く
   樹脂がからむべとついた足で化石博物館の重
    い扉をあけることができるだろうか
    くびれた胴に附著するコハクの色のあざや
   かさ
    婚姻旅行に出かけようとしたのか、うすい
   羽はそのままだ
    光と闇の中をさまよったのか
    音もなく夜の底をすべり落ちてゆく星のか
   けらに目を射られたか
    お前の帰る太陽の位置はコンパスで測りき
   れない程遠い軌道を通ったせいであろうか
   砂と泥を押しのけて、遠い記憶の底から今時
    間がよみがえる
    恐龍もいたであろう
    地を這う生き物の叫び
    重くるしい空気をさいて飛び交う昆虫の群
   れ、洞窟の中で魚の卵は膨張し、巨大なシダ
   は沼地をおおう
    混沌とした生物のすべてが亀裂の中におち
    こむ時、昔がたりはすべて今、炭素と珪素に
   おきかえられる

    私ははげしい眩暈を感じた
    白い建物の中で一人とり残されたような孤
   独がひしと迫る
    大きな地割れだ
    地のふるえは建物のてっペんから下までの
   窓硝子を道路におとした

 「樹脂がから」んで「琥珀」化した中に閉じ込められた「アリ」というのは、どこかの「化石博物館」で見たことがありますね。おもしろい素材を見つけたものだと思います。
 圧巻は最終連でしょう。いつの間にか「私」が琥珀の中に閉じ込められていくような錯覚に陥ります。その「異変」が「アリ」にもあったのだろうかと想像してしまいます。樹脂が琥珀化するまでの過去の時間と、現在とを「大きな地割れ」で結びつけていると思います。この時間の処理は見事だと思った作品です。




横尾湖衣氏詩集ヒートアイランド現象
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2005.6.8
愛知県知多郡東浦町
草珠庵刊
非売品
 

  <目次>
   蔓珠沙華・・・・・・・・・・・・・1
   雪山の凍死者・・・・・・・・・・・3
   ヒートアイランド現象・・・・・・・5
   おおいぬのふぐりという名前・・・・7
   田園風景・・・・・・・・・・・・・9
   池の水と蓮の花・・・・・・・・・・11
   ポーリュシカ・ポーレ・・・・・・・14
   河口・・・・・・・・・・・・・・・17
   公孫樹・・・・・・・・・・・・・・19
   はないちもんめ・・・・・・・・・・21
   ロマーナの空・・・・・・・・・・・24
   廃工場・・・・・・・・・・・・・・26
   ひまわり畑で・・・・・・・・・・・28
   花の秘密・・・・・・・・・・・・・30
   蝶の埋葬・・・・・・・・・・・・・32
   かごめ かごめ・・・・・・・・・・34
   葬列・・・・・・・・・・・・・・・37
   移ろい・・・・・・・・・・・・・・40
   舗装道路・・・・・・・・・・・・・42
   入道泡・・・・・・・・・・・・・・44
   あとがき・・・・・・・・・・・・・46



    河口

   たくさんの水が
   海に流れ込んでいる
   たくさんの河の水が
   海の水と混じりあっている
   こうして河の水は
   海の水へと変わっていくのだ

   何て簡単なことなのだろうか
   人間はそんな単純には変われないのに
   目の前の河の水は
   いとも簡単に海の水へと変わっている

   夕べ街に降った雨水は
   河の水となった
   そして海の水となり
   河の世界から海の世界へと旅立った
   いつの日か空へと昇っていき
   また再びどこかに降りてくるのだろう

   河の水は海の水と
   結ばれて一つになっていく
   頬杖をつきながらぼんやりと見ていた
   水が塩水に変わっていく瞬間を

 2連目の「人間はそんな単純には変われないのに/目の前の河の水は/いとも簡単に海の水へと変わっている」という対比が良いと思います。人間の固さに対して水の柔軟さを改めて感じさせるフレーズと云えましょう。最終連の「水が塩水に変わっていく瞬間」は同じことを謂っているのですが、「塩水」という言葉が効いていると思いました。ここで「頬杖をつきながらぼんやりと見ていた」と作者が登場するわけですけど、これも奏功していると云えるでしょうね。




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