きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
  tentoumushi.JPG    
 
 
 
2005.6.5
「宇都宮美術館」にて
 

2005.6.15(水)

 月に一度の月報会も無事に終って一安心しています。早めに帰宅して、いただいた本を読んでいました。




『千葉県詩人クラブ会報』190号
    chibaken shijin club kaihou 190.JPG    
 
 
 
 
2005.6.15
千葉市花見川区
中谷順子氏 発行
非売品
 

  <目次>
   平成17年度総会開催 1
   詩 笙子 北原政吉 1
   平成17年度総会報告 2
   ミニ講演 詩人 武 力也を語る 遠山信男 2
        詩人黄瀛の道 西川敏之 3
   詩 春の仏 諌川正臣 4
   会員の近刊詩集から 35 飯嶋武太郎訳『きのう おととい 遠い日に』 4
             36 山佐木進詩集『風土記』 5
   追悼 北原政吉氏
    感性の世界に遊ぶ 前田孝一 6
    北原政吉氏を悼む 高安義郎 6
    おもかげを偲んで 杉浦将江 6
    故・北原政吉氏の思い出 中谷順子 6
   詩 海の炎 北原政吉 7
   東西南北 4 7
   新入会員紹介 8
   会員活動 8
   受贈御礼 8
   編集後記 8



    笙子    北原政吉

    さつま手 思えば忽ち悔の秋

   笙子はひもじかったので
   お芋
   といって手を差し出した
   わたしはただ祈るだけしか虫泉なかった
   敗戦生れの にわか百姓

   神さまは
   紅い秋の夕陽をくださいましたが
   笙子は小さな手を震わせただけで
   みまかった
   あれから幾年 過ぎたことだろう
   万花台開拓地 秋の夕陽よ
   見れば 今日も 笙子は
   お芋
   といって小さな手を差し出している

    小さき手はなお震えおり秋陽落ち

     昭和六十三年十月九日 詩人世界社刊
     北原政吉詩集『笙子』より

 後続の「追悼 北原政吉氏」により、作者が本年4月に96歳11ヵ月で亡くなったことを知りました。90歳近くまで市民マラソンに出場するほどの人だったようです。紹介した作品は、そんな氏の娘さんが亡くなったときを表現していますが、抑制した中に父親の底知れない哀しみが表出していると思います。詩の前後に置かれた句が非常に効果的です。ご冥福をお祈りいたします。




詩の雑誌『鮫』102号
    same 102.JPG    
 
 
 
 
2005.6.10
東京都千代田区
鮫の会 発行
500円
 

  <目次>
   鮫の座  水野富士夫――――――表紙裏
  [作品
   「いのちの籠」かえし歌  大河原巌――――――2
   空白  松浦成友――――――4
   てのひらに  高橋次夫――――――6
   イモウト  井崎外枝子――――――8
   コーヒーを淹れる  今駒泰成――――――12
   桜が咲いて――――――13
   レバノン杉  水野富士夫――――――15
   幻の轍  いわたにあきら――――――18
  [詩誌探訪]原田道子――――――22
  [謝肉祭
   土産話(五) 芳賀稔幸――――――24
  [作品
   狂気の時代  瓜生幸三郎――――――26
   山雀  芳賀稔幸――――――28
   夏を哭く  飯島研一――――――30
   無言「自画像」は語る  前田美智子―――――― 32
   あかい立ち氷  原田道子――――――34
   沈黙  岸本マチ子――――――36
   抒情の日々  芳賀章内――――――38
   生けるミイラの夢想断片  仁科龍――――――40
   編集後記   表紙・馬面俊之



    空白    松浦成友

   ある人の日記帳は突然途切れていた
   細かく記された文字の数々 そして
   亡くなった日から真白なページが続いていく……

   未来とは空白に過ぎないのか

   透き通った水の 青い海原 柔らかな日射
   赤錆びた戦車 高射砲 横たわる魚雷……
   この平和な島にそれらは奇妙なオブジェとして存在していた
   悲しい観光資源として

   彩帆島に置き去られた残骸
        人が人の命を食った跡    

   そして我等もまたこの地で六十年の空白を食んでいる
   ただ この地に生きた人々の記憶に刻まれた過去を盗むことはでき
   ないのだ
       
いくさ 
   今もなお戦を愛でる国々で豊かな日々に身を任せる怯儒な心よ

   椰子の並木を抜け
   珊瑚が溢れるベージュ色の美しい砂浜と
   さざめく透明な波打ち際へ
   幼い子等が走ってゆく

 「未来とは空白に過ぎないのか」と、たった1行で置かれた第2連が印象深い作品ですね。「突然途切れていた」「日記帳」を持っていた「ある人」とは軍人だったのかもしれません。その人が「今もなお戦を愛でる国々で豊かな日々に身を任せる怯儒な心」の我々に、どんな思いを描くのかを考えさせられた作品です。




   back(6月の部屋へ戻る)

   
home