きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.6.5
「宇都宮美術館」にて
 

2005.6.27(月)

 午後から日本ペンクラブの電子文藝館委員会に出席してきました。本年度の初顔合わせということで、23名の委員のうち15名が出席しました。委員には大阪や京都在住の人もいますから、ま、全員揃うのは難しいでしょうね。
 体制としては秦恒平電子文藝館館長、城塚朋和電子文藝館委員会委員長のもと、私を含めた副委員長が4名、委員17名という陣容です。本年度の基本方針を話し合いましたが、これはいずれ広報誌に載りますので、詳細はそちらを参照してください。

 話し合いの中で多くの時間を費やしたのは、文学における差別の問題です。人種差別や被差別部落問題は文学上のテーマとなり、作家によってまったく視点が異なるのは当然です。それを個人として、あるいは出版社の責任で発表するのは自由で、そこに異論はありません。しかし電子文藝館として載せるか載せないかは多くの問題を孕みます。載せることによって電子文藝館としての、あるいは日本ペンクラブとしての資質が問われます。日本ペンクラブは一つの思想に寄る組織ではないので、政治的には左右両極の作家たちが同席します。議論はペンの席上で、あるいは文学としてやれば良いわけですが、それを電子文藝館の中でやるのか……。
 まだ方針が決まったわけではないので具体的には書けませんが、ま、そんな議論をしました。出品作品も1000に近づこうとしている現在、まだまだ様々な、解決困難な問題が出てくるでしょうね。それら全部をひっくるめて、人間の世を見ていきたいと思っています。




アンソロジー『四土詩集』2集
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2005.6.1
岡山県倉敷市
藤田氏方 現代詩研究会・四土の会 発行
2000円+税
 

  <目次>
   牛窓風雅……………………………………………………………………………三 沢 浩 二 1
     ツアイスの洞  同行二人  人形論
     Uボートあるいは茄子  餌 その1  餌 その2  鮎の夢
     流れる  鯨  夏島のユンタ  東国  築地  九月
     つたえ  袋あそび  牛窓風雅  星と砂
   白へのオード………………………………………………………………………川 井 豊 子 39
     自へのオード  白い傷  白きもの  白へのオードU  蝶
   円 環………………………………………………………………………………山 田 輝久子 55
     円環  密封  虫籠  音道  回帰  閂  蛍
   落 日………………………………………………………………………………松 本   勲 69
     崩壊  砂虫  木工コーナー  止まり木  落日
   桃の湯………………………………………………………………………………河 邉 由紀恵 81
     桃の湯  箱をあけられない  ながあめ
     ホテイアオイのリフレイン
   月 花………………………………………………………………………………古 井 一 実 97
     月花
   風の祭器……………………………………………………………………………瀬 崎   祐 111
     風都市についての断片記述  穹  蜜柑  走る
     実験室  雨降り舞踏団  器
   霊 界………………………………………………………………………………一 瀉 千 里 131
     霊界  壊す  空と道が交差する場所  時代
     ミミズのあなたは  希望の森へ  待つ
   菊慈童………………………………………………………………………………た ま ゆ ら 149
     菊慈童
   西洋皿………………………………………………………………………………秋 山 基 夫 157
      ――辻征夫『俳譜辻詩集』のまねび
     西洋皿  一日  夏の生産力  残暑  犬  駅前  芝居
     醜聞の日  鼓腹撃壌  俳句を作った夜  長岡
   死の書き方…………………………………………………………………………へ た の ゆ う 179
     関西的防死方法  死の書き方  コロッケ  遺影  オ ハコ
   猫の領分……………………………………………………………………………坂 本 法 子 191
     春風が吹く  人生寸評  山登り  継ぐ  猫の領分  記憶
     ある老人の死
   帰 る………………………………………………………………………………田 中 澄 子 209
     夏の恋人  秋の庭  冬の午後  帰る
     ウイスキーボンボンを初めて食べた日  直前の だ。
     壁
   ひっそりかん………………………………………………………………………川 内 久 栄 227
     ひっそりかん  表札だけの家族  塚の中の椅子
     天空(てんくう)の一件

   [書評集]紅梅抄…………………………………………………………………秋 山 基 夫 237
   執筆者紹介…………………………………………………………………………………………… 280
   「現代詩研究会・四土の会」記録………………………………………………………………… 282
   あとがき……………………………………………………………………………………………… 284



    実験室    瀬崎 祐

    もう夕方になるというのに、外来の診療がまだ終わらない。診察
   室の窓の外は、もう暗くなりはじめている。
    机の上を照らす明かりも黄色い色合いを帯びてきて、妙にせき立
   てられるようだ。長椅子に着物姿で並んでいる患者を呼び入れよう
   とするのだが、未亡人になったばかりの若い看護婦が
   「今はとても寒いので、少し待って下さい。」と言う。
    こんなことでは仕方がないので、いつもは技師のTさんに頼んで
   いる精液検査を自分でやってみようと、実験室まで培養液を取りに
   行くことにする。
    渡り廊下を過ぎて、建て替えられたばかりの病棟には人の姿も少
   ない。廊下の両端に設けられた螺旋階段を上っていく。
    内科に勤務替えになった看護婦のOさんがこの病棟にいる筈なん
   だが、と看護詰所を覗いてみるが、見知らぬ医者がいるだけだ。反
   対側の病棟だったのかしらん、と思いながら、壁に挟まれた細い廊
   下を抜けてみるが、そこには踊り場があるだけ。
    連絡通路をわたり、実験室の戸を開けると、中では霧のような白
   い冷気がたちこめていて、大勢の人が実験台に向かってピペット操
   作をしている。医大を卒業したばかりのN医師の姿も見える。いつ
   も早い時間から姿を見ないと思っていたが、こんな所で勉強をして
   いたのか、と感心する。
    冷気の中でたちつくしていると、Tさんがやってきて、
   「捜しているのはこれですね。」と、培養液を手渡してくれる。

 「四土」とは四国土佐のことかと思っていましたら、違いました。第四土曜日に集まるから「四土」と名付けたそうです。よんど≠ニ読むようです。
 紹介した詩の作者は医師です。大きな病院の勤務医としての眼で書かれていますが、「未亡人になったばかりの若い看護婦」「技師のTさん」「看護婦のOさん」「医大を卒業したばかりのN医師」の扱いが、淡々としていながら存在感があるなと思いました。それぞれの人に付けられた簡単な形容詞が想像力を掻き立てるのではないでしょうか。「実験室」という即物的なタイトルも奏功していると思いました。




山下陽一氏詩集『里の神話』
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2005.6.25
佐賀県神埼郡神埼町
アピアランス工房刊
1429円+税
 

  <目次>
   里の神話(1)  6
   里の神話(2)  9
   境界神  12
   天狗の神隠し  15
   ヤボサ神  18
   逃散の譜  21
   風通し  24
   風の唸り  26
   化石となった地名に風は吹く 30
   墓石に刻む輪廻転生  34
   祖先  38
   闇  41
   尻尾の短い猫  44
   薮椿幻想(1)  46
   薮椿幻想(2)  49
   民具(木地師考)  51
   あかねさす  54
   儀式  57
   猿を彫る  60
   当用漢字  64
   天の子守唄  耶
   ポンカンに託して  70
   スカシユリ  73
   紙飛行機  76
   地名の匂い  78
   野性  80
   どっこいおいらは生きている  83
   閻魔の声  86
   芽生え  89
   老いの季節  91
   私の中の難民  96



    天狗の神隠し

   馬草刈りに行った悪戯小僧が天狗の神隠しに
   部落中が大騒ぎじゃ
   七日目の朝ひょっこり家の前に立っていた
   その間のことは何一つ覚えとらんと
   ばってそいから小僧の言葉遣いも
   立振舞も立派になったげな
   親も大事にするごつなった
   お前も親孝行せんば神隠しにあうぞ。

   蒲団に首を竦め婆さまの話を寝物語に聞いた
   失踪の理由は何も問われず
   再び前と同じような生活が出来た
   隠しておいた方が本人も廻りも穏やかに暮す
   このような生活上手が昔の人にはあった
   迷惑したのは濡衣を着せられた天狗。

   こうして聞く昔話には神の命がある
   私の里の河童の詰もそうだ
   神の命を含んで伝わる民話には
   祖先の蓄積された生きる智恵がある
   多発する誘拐や連れ去り未遂事件に
   婆さまの「天狗の神隠し」を懐かしく思う。

   学童たちの「総合学習」で民話を語る
   登校拒否やウツの人たちに
   一時的に社会から隠れる世界が用意され
   再び自然に元の生活に戻れたら
   どんなに幸せかと世の中の余裕
(ゆとり)を思う。

   里に伝わる河童の話を
   唄や踊りにして敬老会で披露する
   多くのお年寄りが唄の文句に領いている
   孫たちに昔話を聞かせることもないいま
   領く心を声にして下の世代に伝えたい。

 第2連の「失踪の理由は何も問われず/再び前と同じような生活が出来た」というフレーズで、ハッとしました。「天狗の神隠し」にはこういう「生活上手」があったのですね。「濡衣を着せられた天狗」にとっては確かに「迷惑した」かもしれませんが「祖先の蓄積された生きる智恵」を改めて思い知らされました。それにしても「一時的に社会から隠れる世界が用意され/再び自然に元の生活に戻れ」る世界があったとは、昔の文化の人間味のあること! 現代を見つめなおすきっかけを与えてくれた作品です。




下村和子氏詩集『風の声』
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2004.11.20
東京都新宿区
思潮社刊
2200円+税
 

  <目次>
   樹の章
   仏も、また… 10
   崩れ 14
   方向 18
   穏やかな哀しみ 20
   樹のかたち 24
   森に陽が射す時 26
   原風景 30
   木の家 34

   風の章
   風の声 38
   蒼い道 40
   風の島――アイルランド 44
   モハー 50
   私のアラン 1 54
   私のアラン 2 58
   私のアラン 3 60
   風の道 62

   水の章
   谿声 66
   青い昔 74
   水の言葉 76
   母の湖 78
   鳥よ 80
   青を探しに 84
   水 満ちる星 86
   孤舟 88

   あとがき 92



    仏も、また…

   仏像を眺めていて気付いた
   像は初めから仏ではなく
   あの静寂の場に立ち続けて
   人たちの苦を聴き
   真直ぐな祈りを浴び
   僧たちの読経を受け
   唱名で包まれ
   自身悩み、苦しみ、祈り、希い
   だんだんと仏になっていかれたのだ、と

   人が生まれたままでは人でないように
   仏像も成長していくのだ

   諏訪大社の大祭・木落し神事のとき
   人たちがうたう歌を開いた
   私も和した

   <奥山の大木、里へ下りて神となる ヨーイサ>

   人が樹を落し
   樹を運び
   樹を建て
   木を人が拝み
   木は神柱となり
   神性を身に付けていく
   人と木が尊敬し合っていた頃から
   始められ受け継がれてきた祭り
   動く地球の一隅で
   陽光をいただいて完成されていく神・仏・人

 宗教関係の人や研究者では当然のことなのかもしれませんが、無信心な私でも「人が生まれたままでは人でないように/仏像も成長していくのだ」というフレーズは納得できます。だから千年も経った仏像は神々しいのだと、この作品から教わりました。偶像崇拝の可否は判りませんけど、このフレーズは説得力がありますね。巻頭作品に魅かれて一気に読んでしまいました。以後の作品も通低する思想はブレていません。年輪を加えた著者の重みのある詩集です。




機関誌「詩人の輪」通信5号
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2005.6.25
東京都豊島区
九条の会・詩人の輪事務局 発行
非売品
 

  <目次>
   悲鳴の聞こえる風景 葵生川 玲 1
   アジアを知ること  佐川 亜紀 2
   「いまなら」寸感  瀬谷 耕作 2
   わたしの知る若い人たちに寄せて 扶川 茂 3
   詩 願い 左子真由美 3
   収入・支出内訳 3
   事務局ニュース 4



    願い    左子真由美

   薔薇が
   薬で枯れることなく
   その形
   その色で
   ずっと大地に
   咲いていられるように

   子供が
   地雷を踏むこともなく
   素足で
   素手で
   ずっと野原を
   駆けていられるように

   空が
   爆弾で焼けることなく
   いつもの
   やさしい
   夕焼けで包まれるように

   願うことは
   それだけなのです
   あなたに

 「詩人の輪」通信も5号を迎えました。6/25現在の賛同者は763名になったそうです。
 紹介した詩は唯一の詩作品ですが、「詩人の輪」ですからね、もう少し詩が載っていても良いかなと思います。この作品は最終連の「あなたに」が良く効いていると云えましょう。戦争をたくらむ「あなたに」、戦争を傍観する「あなたに」、そしてひとりひとりの「あなたに」に向けられた言葉です。もちろん私にも向けられています。心して拝読しました。




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