きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.6.12
宮崎「西都原古墳群」にて
 

2005.7.25(月)

 日本ペンクラブの電子文藝館委員会が開かれました。今回のトピックスは「読者の庭」を開設することになったことです。電子文藝館はある意味では一方向の情報伝達です。読者もお読みになって感想があるかと思いますが、それを採り上げる場所がありませんでした。最近、詩のコーナーを丁寧に読んで感想を送ってくれた方がいらっしゃって、これがとても佳い。そのまま埋もれさせるのはもったいないので、新しく「読者の庭」というコーナーを設けて、そこに載せさせていただくことになりました。

 5人の詩人の作品集について、相当深い読み方をなさっています。そのうちの4人までが何らかの形で私が関わった詩人ですので、個人的にも嬉しいです。批評された詩人たちにも良い刺激になると思います。ぜひお読みください。そして是非ご感想などありましたらペンクラブのEメールアドレスにご送信ください。掲載可否は委員会で検討の上になりますので、そこはご容赦いただきたいのですが、あなたも日本ペンクラブのHPに登場する機会があります。その機会をご活用ください。




詩誌『潮流詩派』202号
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2005.7.1
東京都中野区
潮流詩派の会・村田正夫氏 発行
500円+税
 

  <目次> 表紙写真→田島美加
   特集 戦後60年/潮流詩派50年(状況詩篇)
   藤江 正人 戦後 いけないこと 7           鈴木 茂夫 準備中 25
   村田 正夫 すいません スマトラ沖地震津波・他 8   中田 紀子 焦げた黒豆 26
   熊谷 直樹 一般教書演説 背信行為・他 10       勝嶋 啓太 箱 27
   戸台 耕二 誰が彼を殺したか 12            丸山由美子 冬の本棚 28
   皆川 秀紀 Works05 12              津森美代子 和歌山にて 28
   加賀谷春雄 安全 13                  高橋 和彦 還暦なんだが 30
   山本 聖子 自然数 14                 堀川 豊平 悲願・戦後六十年 30
   荻野 久子 きこえますか 15              井口 道生 献血 31
   山崎 夏代 2005年1月 16               神谷  毅 石の上の旅人 32
   福島 純子 はんぶん 空 17              島田万里子 二〇〇五年の寓話 32
   夏目 ゆき 切り取られた詩集 泣きはらした瞼に生肉 18 新井 豊吉 残されたもの 34
   山下 佳恵 ねずみとねこ 19              原ア 惠三 危険な花一匁 34
   山入端利子 夫役(ブウ) 20              竹野 京子 通せん坊の記憶 35
   宮城 松隆 道六十余年 21               平野 利雄 コラージユ05 36
   大島ミトリ 嫁して五十年 22              タマキケンジ 無言館の絵画展 37
   山岸 哲夫 『墨東奇譚』の台詞 23           比暮  寥 生きている骨 38
   土屋  衛 豚の世界 24                千葉みつ子 冥土インジャパン 39

   詩篇
   桐野かおる トランジット 40              時本 和夫 お若様・情炎由来記 49
   藁谷 久三 詩に寄せる 41               飯田 偉介 転落(二) 49
   清水 洋一 蝿 41                   麻生 直子 遠い海鳴り 50
   中村 恵子 きんいろの妖精 42             田島 美加 螺旋階段 50
   林  洋子 雪椿 43                  若杉 真木 新しい朝 51
   まちえひらお 在所を追われて 44            鶴岡美直子 閃光 51
   中森 隆子 声 44                   尾崎 義久 生殺し 52
   清水 博司 風が 45                  土井 正義 トンボ 52
   市川 勇人 森の景色 45
   藍川外内美 晩秋の川 46                ●世界の待人たち(8) 水崎野里子
   水崎野里子 光る水 46                 カンボジアの詩 7 54
   鈴木 倫子 夢のかけら 47
   伊藤 美佳 何もなかった日 47
   椎名  出 消防士 48
   永澤 護 生を抽象化する「詩」という出来事のために 48

   人間縦断の詩群 
潮流特派からの報告(19) 村田正夫 56
   その戦争と平和 
上田幸法論(6) 丸山由美子 62
   シルヴィア・プラス 
海外詩随想(8) 中田紀子 64
   イーヴァン・ボーランド 
英米詩の紹介(12) 水崎野里子 66
   アメリカ史の授業 
ロサンゼルス通信(8) 福島純子 68
   小さな執念 
戦後60年/潮流詩派50年 村田正夫 70
   六十年、六十歳 
戦後60年/潮流詩派50年 戸台耕二 72
   新宿に屯す 
戦後60年/潮流詩派50年 加賀谷春雄 73
   潮流詩派五十年と私 
戦後60年/潮流詩派50年 鈴木茂夫 74
   現実を見据える眼 
戦後60年/潮流詩派50年 山崎夏代 76
   潮流詩派の詩人たち 
戦後60年/潮流詩派50年 山本聖子 78

   潮流詩派年表 一九九五〜二〇〇五 80
   会員からの手紙 82 メモランダム 83 ベスト5 83
   出版リスト 84 ガイド(入会案内)86 編集後記 87



    焦げた黒豆    中田紀子

   きなくさい臭いで目が覚めた
   キッチンのレンジの上では
   黒豆の煮汁がブクブク池になって泡だち
   ひとすじの黒い滝が
   床に向かって垂直に落ちて
   床ではあらたな黒い池が
   ねっとりと体積を増やしていた

   クリスマスの日に
   丹波の黒豆を買いにゆき
   しかも新豆にこだわって
   その日の深夜
   ひとさじの重曹と三カップの砂糖と醤油少々
    水十カップを加えて寝かせ
   二十六日に朝から煮込んだものだった

   何度も何度も灰汁を掬った
   津波の死者六千六百人というニュースを聞きながら
   インド洋沿岸八カ国へ及ぶ被害
   阪神のときより大きそうだ
   翌日砂糖とびっくり水を加えていると
   死者の数は一万人以上と膨れあがった
   黒豆もふっくらと三倍に膨れて
   いつもの色艶がでてきたころ
   死者の数はさらに増えて二万人以上と
   そしてもう把握しきれないというアナウンサーの興奮した声
   避暑地として生計をたてていた島を突然襲った
   青い海から変貌した泥水の海に息をのんだが
   灰汁掬いも火加減もわたしは手をやすめなかった

   お正月にいちにちだけ食卓に登場して
   家族の笑顔を誘った黒豆が
   いまは鍋の底でみわけがつかない焦げた残骸に
   黒い煮汁が鍋のまわりを一周して
   キッチンをなめつくしている朝
   家族の写真と歯型を胸に
   異臭の放つ遺体を訪ね歩く家族たち
   薙ぎ倒された家 そのなかで ついさっきまで
   娘の手料理を食べていた家族
   波が娘をさらっていった 娘の料理はもう食べられない
   泣き崩れている父の姿
   その顔に深く黒く刻まれた 悲しみの溝を
   南国の風がいつもと変わらず通りぬけていった

 「黒豆」と「津波」の組み合わせですが「死者の数は一万人以上と膨れあがった/黒豆もふっくらと三倍に膨れて」というフレーズに悲惨と平和の対比があると思います。時事を生活の場に転換するという手法はおもしろいかもしれません。それも単なる「黒豆」ではなく「いまは鍋の底でみわけがつかない焦げた残骸」になり「黒い煮汁が鍋のまわりを一周して」いる黒豆だというところに、この作品の味があると思います。こういう書き方もあるのかと感心した作品です。




詩誌『潮流詩派』203号
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2005.10.1
東京都中野区
潮流詩派の会・村田正夫氏 発行
500円+税
 

  <目次> 表紙写真→田島美加(協力=都立第五福龍丸平和協会)
   特集 船
   神谷  毅 泥船の決意 7          新井 豊吉 報告 17
   原ア 恵三 船はどこへ向うのだ 7      山岸 哲夫 マゼランと″反日デモ″ 18
   山本 聖子 不沈戦艦 8           高橋 和彦 かつての船上の人となりし 19
   山崎 夏代 船の旅 9            鈴木 茂夫 乗り合い船 20
   村田 正夫 乗った船/沈んだ船/時代の船 10 鈴木 倫子 手向け舟 21
   大島ミトリ 船酔い 12            竹野 京子 ポンポン船 22
   荻野 久子 心は飛んで 13          千葉みつ子 高速艇 22
   丸山由美子 予定変更ナシ 14         土屋  衛 船 23
   鶴岡美直子 二隻 15             藤江 正人 白河夜船・他二篇 24
   平野 利雄 コラージュ(時の船) 16

   状況詩篇
   堀川 豊平 切り絵の記号にするな 25     熊谷 直樹 民主主義 30
   加賀谷春雄 六十年前の手帖 26        若杉 真木 国旗はためく下に 30
   鈴木 茂夫 赤いおまわりさん 26       勝嶋 啓太 不愉快 31
   津森美代子 JR西脱線事故 28        清水 博司 村のために(派兵) 32
   まちえひらお 昭和の日 28

   詩篇
   麻生 直子 飛魚のように 33         皆川 秀紀 膿 44
   島田万里子 蔓茶羅 34            市川 勇人 琥珀 45
   藁谷 久三 ことばのプレゼント 34      山下 佳恵 今年の春 45
   鈴木 倫子 週末という名の閏日に 35     田島 美加 飛翔/燕たち/一回休み 46
   清水 洋一 夢遊 36             夏目 ゆき ボーロ(シナモン風味) 47
   山入端利子 春キャベツ 36          尾崎 義久 心の汗は涙色 47
   原ア 恵三 ツバメは聖だ 37         林  洋子 沈む木 48
   桐野かおる 最後の匂い 38          藍川  薊 老いていくこと 49
   中森 隆子 必須アイテム 38         皆川 秀紀 朱色の髪 49
   永澤  護 「無実者」の告白 39       宮城 松隆 デポポリアース 50
   戸台 耕二 酢豆腐 40            タマキケンジ 「チエホフ」を読む 50
   時本 和夫 山蔭の道 41           土井 正義 ダンケシェーン マルガレータ 51
   井口 道生 誤解 41             比暮  寥 たったひとり−死者たちの棲む風景(2) 52
   高橋 和彦 あなたには痛みを 42       中田 紀子 未来の箱舟 53
   水崎野里子 奈良にて 42           神谷めぐみ 頂端分裂組織〔投稿作品〕 53
   飯田 信介 転落(三) 43          
   伊藤 美住 まだ見ぬ夏 43          ●世界の詩人たち(9) 水鴫野里子
   中村 惠子 ある真実 44            オーストラリアの詩1 56

   世紀末から新世紀へ 
潮流特派からの報告(20) 村田正夫 58
   その戦争と平和 
上田幸法論(7) 丸山由美子 60
   シルヴィア・プラス 
海外詩随想(9) 中田紀子 66
   ジョン・モンタギュー 
英米詩の紹介(13) 水崎野里子 68
   犯罪と高校生 
ロサンゼルス通信(9) 福島純子 70
   約束を果たす 
大島ミトリ詩集『大好きな道』評 夏目ゆき 72

   時  評 村田正夫 
船と社会との関連? 74
   ブックス 鈴木茂夫 
堀川喜八郎『三人の印度兵』猪野睦『文学運動の風雪』他 76
   マガジン 山崎夏代 
『二人』『想像』『騒』『流』他 78
   前号展望 山本聖子 
前号展望 80

   旧刊案内 山本聖子→鈴木茂夫『星を撃つ』82 竹野京子→村田正夫届『鳩のシャワー』82
        鈴木倫子→村田正夫『風刺/詩/批評』82
   メモランダム 83
   詩集・詩論集・アンソロジー(リスト)/入会ガイド/編集後記 84→87



    赤いおまわりさん    鈴木茂夫

   こどものころ
   こわい職業の人がいた
   警察官と赤いおまわりさんである
   ともに似たような制服制帽で
   一方は白黒の
   もう一方は真赤な自転車に乗ってやってきた
   なんだか変だなと思ったけれど
   はっきりとした違いが分からずに
   年少の私たちはびくびくした
   「赤いおまわりさんがくるぞ」
   と年上の子たちに脅されて

   ニュース映像の中の
   凶暴犯に追われて逃げる警察官
   を見た総理が怒った
   「逃げるとは何ごとか」

   戦後六〇年にして
   警察官も格闘好きばかりではなくなった
   ということだろう
   カメラマンよりも早く逃げたとはいえ
   警棒も持たない二人であった

   おとなになった今
   日の丸・君が代を強制し
   憲法を無視する総理
   の方が私はこわい

   赤いおまわりさんたちも
   郵政改革とやらで
   大変なことだろう
   腹をすかせた痩せたライオンが
   吠えていて

 「真赤な自転車に乗ってやってきた」郵便配達を「赤いおまわりさん」と云うとは知りませんでした。地域によって違うのかもしれません。それより確かに「日の丸・君が代を強制し/憲法を無視する総理/の方が私はこわい」ですね。「腹をすかせた痩せたライオン」をいつまでのさばらせておくのか、という不安はありますが、誰が選んだのでもない、日本国民が選んだのですから甘んじて受けるしかないのかもしれません。そんなことまで考えさせられた作品です。




アンソロジーetude6号
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2005.6.10
東京都新宿区
NHK学園 発行
非売品
 

  <目次>
   林  洋子 枝垂れる  2
   中田 紀子 一日だけのマーガレット  4
   工藤富貴子 自然治癒派だったのに  6
   杉谷 晴彦 悪賢い正義はだれよりも権力を愛す/
         介護七千三百日もいまだ終らず  8
   浦山 武彦 母のふるさと/サーフィンの海  12
   田中 万代 ビーズ飾り/風の知らせ  20
   後藤 暉子 曙夜  26
   とうちじゅんいち 僕は白髪/落し物  28
   新妻 良江 鍵  32
   前川 整洋 山頂のケルン/夜のカフェテリア  34
   椎橋 光子 私の憂鬱  38
   若林 晶子 SNOW FLAKE/残雪のBEACH  40
   夏目 ゆき チェンジって言われ続けてた 去年の今頃 その話を少し/
         どうか どうか  44
   西村 啓子 真赤な絵本 48
     エッセイ
   工藤富貴子 西脇順三郎についてのメモ  52
    編集後記 麻生 直子



    一日だけのマーガレット    中田紀子

   毎晩 決まったじかんに現れるから
   とうとう トムっていう名前にしたの
   そうしたら急にいとおしくなって
   彼が来ない夜は落ち着かなくて
   暗くなると 待っているって感じかな
   アパートでひとり暮らしの友人が
   得意そうに言った

   おはようと明るくは言えない
   どんよりぐっちゃり夕方のような寒い朝
   キッチンのテーブルに置いてあったパンの様子が
   なんだかおかしい
   まるみはあったがほぼ四角いパンのはじが
   奇妙にも消えてしまっているのだ
   一緒に暮らしている人はそんな食べ方は決してしない

   突然トムのことを思い出した
   そうだ わたしも名前をつけよう
   マーガレットかナターシャかキャサリンか
   奇妙なかたちのパンをかじりながら
   もやのかかった低い空にきこえるように
   クスクス笑って
   いちばん平凡なマーガレットに決めた

   それから三日三晩 キッチンにおでましになるのを待ったが
   とうとう彼女には会えなかった
   大家さんに消えたパンのはじの話をしてしまったから
   マーガレットはきっと ごちそうだ おいしそうと
   毒入りポテトをたいらげてしまったのだろう
   裏庭のロードデンドゥロンの根元で
   かなり可愛いい目を開いたまま 硬くなっているに違いない

   それとも 電車に飛び乗って
   ドーバー駅でこっそり降りて
   遥かカレーをめざして
   ひたすら泳いでいるのだろうか
   あれからついパンを出したまま寝てしまう
   どんよりぐっちゃり夕方のような寒い朝
   どうしても想いだす

   マーガレット マーガレット

 「マーガレット」は鼠なんでしょうね。設定場所は「電車に飛び乗って/ドーバー駅でこっそり降りて/遥かカレーをめざして」とありますから、おそらくイギリスはロンドン。肩の凝らない大人の童話として読みました。詩句としては二度出てくる「どんよりぐっちゃり夕方のような寒い朝」がおもしろいと思いました。




詩と批評POETICA44号
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2005.6.30
東京都豊島区
中島 登氏 発行
500円
 

  <目次>
   含羞草 山中真知子 490
   わたしは髑髏
(どくろ)に恋をした よしかわつねこ 492
   柿の実 植木信子 494
   過去の風鈴 梨薇 496
   四重奏 中島 登
    (一) 春 499
    (二) 夏 500
    (三) 秋 501
    (四) 冬 502
   恵贈御礼 あとがき



    四重奏    中島 登

    (一) 春

   きみは
   バイクにのってやってくる

   ヘルメットがキーンとひかる
   かぜになびくスカーフに
   あこがれはからみつく

   みじかい
   はなのいのち
   あいしあいされるひとたちのひとみ
   あふれるひのひかり

   バイクがはしりさっていったあとの
   むぎのほのあおさ

 「四重奏」の最初の作品「(一) 春」を紹介してみました。青春という「みじかい/はなのいのち」を巧みに謳いあげていると思います。「ヘルメットがキーンとひかる」というフレーズには青春の尖った部分があります。最終連の「むぎのほのあおさ」も佳いですね。「バイク」という金属質と「むぎのほ」という有機物が上手く「重奏」していると思いました。




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