きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2005.8.3 | ||||
馬籠「藤村記念館」にて | ||||
2005.8.3(水)
私の夏休み、初日。休みは10日までで、そのうちの3日間という短い期間で長野を回ります。今日は馬籠の「藤村記念館」を主にしました。日本ペンクラブの会員としては、初代会長に敬意を表して、という意味合いですかね(^^;
左の写真は藤村の生家として復元された「藤村記念館」です。ここにはほとんど資料がなく、この左手をちょっと行ったところに第一文庫、第二文庫があり、そこそこの資料がありました。 今月の写真として使っている上の写真は「藤村記念館」の前に植えられていた、小さな林檎を撮ったものです。もう赤くなっていました。何かいわくのある木らしいのですが、忘れました(^^; 第一文庫では藤村ゆかりの歌曲が流れていて、その中に「惜別」があって驚きました。〜とほきわられに たへかねて このたかどのに のぼるかな〜という詩なのですが、これは高校のバンカラ仲間とよく唄った歌です。藤村の詩だということは知っていたはずなのですが、もう40年も前のことですからすっかり忘れていましたね。 |
高校生の頃は「惜別の歌」と呼んでいたのですが、タイトルは「惜別」。自分たちで勝手につけたのか、思い違いか…。BGMはCDの宣伝でした。しっかり買ってきましたよ。帰って、40年ぶりの歌声に触れるのが楽しみです。
○左子真由美氏詩集『愛の手帖』 | ||||
2005.7.14 | ||||
大阪市北区 | ||||
竹林館刊 | ||||
1500円+税 | ||||
<目次>
孤独 * solitude 8
波紋 * influence 10
秘密文書 * dossier secret 12
事件 * histoire 14
枝 * branche 16
国境 * frontiere 18
関係 * relation 20
履歴書 * curriculum vitae 22
食欲 * appetit 24
鴎 * mouette 26
街頭 * dans la rue 28
存在 * existence 30
旅 * voyage 32
契約 * contrat 34
影 * ombre 36
午後 * apres-midi 38
出発 * depart 40
縄物 * tissu 42
傷 * blessure 44
夢 * reve 46
恋 * amour 50
悲哀 * tristesse 52
復習 * revision 54
言葉 * Parole 58
伝言 * message 60
椅子 * chaise 62
宣言 * declaration 64
あとがき 64
履歴書 *
カリキュラム・ヴィタエ
これがわたしです
まっさらなしろいかみではない
あなたにさしあげるには
ためらってしまいます
でももし
あなたがそれでいいのなら
ふかいあいいろのインクのような
ひとしずくをおとしてください
――――わらいながら、がいいわ
まちがったらなんどでも
やりなおすことができると
つみぶかいわたしのひたいに
かみのてをおいてください
わたしのなかに
あなたがいきたことのしるしを
かぎざきのような
あらあらしいつめあとを
わたしの りれきしょに
うつくしいよごれをのこしてください
一見、少女向けの「愛の手帖」のようで、そういう書き方をしているものも多いのですが、実は大人の女が読むべき詩集だと思います。その最たるものがこの作品でしょう。当然、少女には少女の夢があって良いのですけど、やはり「まっさらなしろいかみではない」女性の方が、私は魅力を感じます。精神的にそれだけ幅が広がっているわけで、女性の魅力以上に人間としての魅力が増すからでしょうか。「まちがったらなんどでも/やりなおすことができる」のは、人間としての特権だとも思うのです。
最終連はニクイですね。「うつくしいよごれをのこ」せるかどうか、男として挑戦されているわけです。もちろん逆もあるのだと言いたいのですが、女性はいつも「うつくしいよごれ」でしかありません。別に男だ女だと張り合う必要はないけど、結局、いつも負けるのは男か、とヘンに納得した作品です。
○詩誌『1999』創刊号 | ||||
2005.7.31 | ||||
沖縄県沖縄市 | ||||
宮城隆尋氏方・1999同人 発行 | ||||
非売品 | ||||
<目次>
巻頭言 宮城隆尋 3
詩 サヴアイブ 伊波泰志 6
リザード 伊波泰志 9
メロン殺人事件 松永朋哉 12
ウンケー 松永朋哉 14
サイレントヴオイス 内間武 16
引きこもり 内間武 18
釣り人 内間武 20
不感症 内間武 22
夢想の海 内間武 25
詩篇 FAMILY TREE 宮城信太朗 27
同人特集 トーマ・ヒロコ 33
詩 一号線 トーマ・ヒロコ 34
メールインタビュー(聞き手・内間武) 36
評 トーマ・ヒロコの秘密(エッセイ集『裏通りを闊歩』)内間武 38
評 身辺を客観的に見つめる視線(詩集『ラジオをつけない日』) 宮城隆尋 39
詩 使者 キュウリユキオ 43
かさぶた 宮城隆尋 45
掌編小説 I WANT FOR HIM AT
TOILET 宮城信太朗 48
詩時評 1981の所感 第1回 伊波泰志 50
現役の小部屋
詩 ルノワールの御空 燎本龍夜 54
部近況 さいきんのぶんげいぶ 燎本龍夜 56
表紙 トーマ・ヒロコ
ラジオをつけない日 トーマ・ヒロコ
蝉の声で目を覚ます
蛇口をひねって洗顔
トイレの扉を閉める
近所の子どもが泣きわめく
麦茶が喉を潤す
新聞をめくる
野菜を刻む
うなる換気扇
肉を炒める
皿がぶつかり合う
壊れかけの魔法瓶
バイクで来る郵便配達
空の郵便受けに舌打ち
離れた友へ言葉を刻む
つっかけを履いて表に出る
ポストの口は「毎度あり」
近所の子どもがはしゃいで遊ぶ
風に押され舞うカーテン
架空の恋愛をなぞってはため息
雪崩を起こした本の塔
裸足で床を歩く歩く
バイクで来る新聞配達
氷は麦茶へダイビング
せんべいを頬張る
子どもの帰宅を促す台詞と七つの子
シャワーの水は排水溝へ
こぼれ出る鼻唄
気が付きゃ大熱唱
日記帳を走る鉛筆
風にそよぐ草たち
暴走族
時間の進む音。
静かなようで
静かじゃない
ラジオをつけなかった一日
沖縄国際大学卒業生で、日本詩人クラブ会員でもある宮城隆尋氏を中心とする詩誌の創刊号です。沖国大卒業生がほとんどのメンバーのようです。紹介した詩は「同人特集 トーマ・ヒロコ」の中の作品で、第一詩集『ラジオをつけない日』を評した宮城隆尋氏の文の中にありました。この作品についての宮城評も紹介してみましょう。
余分な言葉はなく描写に徹している点でも良いのだが、それ以上に無音のにぎやかさとい
う発見がある。最後の三行以外は、感傷を完全に排した全くの写実。ラジオや音楽など、
特別に鳴らすような音が止まっている状態では、普通無音であると認識しがちなところを、
作為的でない様々な音を受動態に徹して受け入れることでありのままに認識できている。
そのことによってより作者の身の周りの情景をリアルに描き出せており、通常の視覚によ
る描写とは違って、音によって描写の可能性を引き出している。このように明確に割り切
れるのは自分の選んだ表現手法に自覚的だからだろう。明確な方法意識のもと実験的な作
品を作るというのは意欲的なことで、詩の書き手としての意識を示すことになる。感傷を
排する客観性は稀有なものだし、何よりその意識が大切だと思う。
この作品の本質を捉えている評で、これ以上つけ加えることはありませんが、ひとつだけ。「こぼれ出る鼻唄/気が付きゃ大熱唱」というフレーズは、作者の天真爛漫さを現しているように思います。詩心と即物的な実生活という二つをバランスよくこなしていると見ました。トーマ・ヒロコという詩人の活躍と詩誌の発展を祈念します。
○隔月刊詩誌『叢生』139号 | ||||
2005.8.1 | ||||
大阪府豊中市 | ||||
島田陽子氏方・叢生詩社 発行 | ||||
400円 | ||||
<目次>
詩
これだけあんじょうしてるのに 麦 朝夫 1
ゆらいでいる心 八ッ口生子 2
買い物 山本 衞 3
前夜 由良 恵介 4
予察の灯 吉川 朔子 5
ライム 秋野 光子 6
勾配 江口 節 7
飛行機雲 姨嶋とし子 8
ズボンを下げると 佐山 啓 9
プロローグ 島田 陽子 10
道 下村 和子 11
垢 曽我部昭美 12
店じまいのスナック 原 和子 13
誇り 他 藤谷恵一郎 14
本の時間 15
小 径 16
編集後記 17
同人住所録・例会案内 18
表紙・題字 前原孝治
絵 広瀬兼二
買い物 山本 衞
スーパーサニーマート一階食料品売り場
籠を乗せたカートを押す老女のあとを
なんとも所在なげに浮かぬ顔の男が従いて行く
品物を選ぶでもなく眺めるでもなく
下膨れした胴回りには
やや派手なウエストポーチを巻き付けている
時にはカートを押してみたり
時には離れて数歩先行するとふたたび戻る
老女は知り合いにぶつかって大声で笑いあう
−置いといてもるすばんもできんもんで……
食べたいものある?
欲しいものない?
したいことは?
訊きたいことはあるのだけれど
黙っている方が礼儀かも知れない
ぐるっと一回りしてきても
相棒のカートはまた同じ場所を逆戻り
ひとりレジ横に配置されたベンチに腰を下ろし
ポーチのファスナーの中から取り出した緑のライター
カチカチ鳴らす
火がつく 消す また 点ける
タバコも定年だったんだ
ようやく連れ合いのカートがレジに来る
立ち上がり山のような買い物を一瞥
(数量の多寡は問わないほうがよい)
詰め込んだレジ袋両手にずっしりと持ち
手ぶらで先行する老女の後を
懸命に出口ヘと急ぐ
「老女」と「男」を見る眼が確かな作品だと思います。特に最終連は「手ぶらで先行する老女」と「懸命に出口ヘと急ぐ」男の描写が優れていると云えるでしょう。まるで数年後の自分を見ているようです。あと4年弱で「定年」を迎えますが「−置いといてもるすばんもできん」男になっているかもしれませんね。「タバコも定年だったんだ」というフレーズも光りました。
○歴史文芸誌『語り部』12号 | ||||
2005 春 | ||||
三重県伊勢市 | ||||
喜多さかえ氏方・語り部の会 発行 | ||||
非売品 | ||||
<目次>
詩 セピアの記憶 落合 花子
特集・小津安二郎の世界
船江の三角地帯 ……………………… 喜多さかえ 1
小津安二郎と北園克衛 ……………… 渡辺 正也 2
そして宇治山田中学校のことなど
小津安二郎・断章 …………………… 藤田 明 8
T 小津映画と私 ………………………………… 8
U 小津作品評価史 ……………………………… 15
V 生誕百年をこえて …………………………… 60
編集後記 …………………………………… さかえ 63
小津安二郎監督略年譜
セピアの記憶 落合花子
囁くように
歌うように
曲線を描く
静かな丘がある
微かな残照に
太古を夢みて
絵の具を溶いたような丘の
起伏が暮れる
花の香り漂う
風と風の谷間
セピアに染まった
空が低くなる
初めていただいた本ですが、歴史に関するエッセイなどで構成された個人文芸誌のようです。詩は表紙に1編しかなく、ここではその作品を紹介してみました。最終連の「空が低くなる」というフレーズが効いている作品だと思います。
今号は映画監督・小津安二郎の特集になっていました。一昨年が小津安二郎の生誕100年だったんですね。さらにその前年が北園克衛の生誕100年。その二人について書いた渡辺正也氏の文が出色でした。二人とも現在の宇治山田高校に通っていた時期があり、しかも2年間ダブっているので、どこかですれ違っていた可能性があるのではないかという考察です。きちんと調べたわけではありませんが、そういう観点の考察は初めてではないでしょうか。また、宇治山田高校門標のいわれの紹介もあり、楽しめる文でした。
○総合文藝同人誌『金澤文學』21号 | ||||
2005.8.20 | ||||
石川県金沢市 | ||||
金沢文学会・千葉 龍氏 発行 | ||||
1600円+税 | ||||
<目次>
扉の詩 とつぜん、に落花七句 千葉 龍 ……………………………………………………………………………… 1
連続特集
川口久雄 その人と文学の故郷 柴田みひろ …… 8
□川口敦煌学の価値/石破 洋□川口博士の「かげろふ日記」/伊牟田經久口王朝漢詩文に現代語のひかりを−
川口博士の日本漢文学研究−/高島 要口和魂漢才と和魂洋才/平川祐弘□川口久雄氏における「古典と近代
文学」関係著述一覧/三谷 憲正□川口久雄先生と能楽研究/西村 聡□石川県立図書館川口文庫−公開展示と
目録−/柳澤 良□川口久雄博士の芸術的資質について/宮下 孝晴□若い頃の久雄叔父/川口 順啓 …… 17
□『草枕絵巻』流離譚/畠田 昌彦 …………………………………………………………………………………… 24
小詩集 外村文象
父と娘/早春の兼六公園にて/北の詩人/道祖神の里/古稀
金沢の秋/ゆのくにの女/あれから10年
神戸の街は…28
鎮魂の詩 …………………………………………………………………………………………………………………… 33
小説
三面川小景 杉本 利男 …… 34 独身でした(あるエスキース) 稲垣 眞美 …… 44
死んだ翳 尾木沢響子 …… 59 せせらぎ荘 木下 径子 …… 63
いちじくの葉 新田 博史 …… 66 お洒落こうべ始末記 北村ともひで … 68
俳句
海がらす 中山 純子 …… 78
初漁船 千田 一路 …… 79
糸長く 新田 博史 …… 80 淑気満つ 中村芳雲女 …… 81
短歌 独吟 北村眞砂美 …… 82
川柳 友の死 上田 政代 …… 84
詩
夕鶴幻影(ときの化身よ)ある女性編集長への追悼/マナティー氏の優雅な生活 池田 星爾 …… 86
美老女 柳沢むつ子 …… 87 アカツメグサ 上田 政代 …… 88
評論
心的表象の謎――「心」という生きものをめぐって 谷 かずえ …… 90
レーガン氏の遺産 池田 星爾 …… 99
エッセイ
しやわせのしれえ鳥 畔地 里美 …… 108
コクトオと女神(ミューズ)たち 三木 英治 …… 117
北京・西安急ぎ旅 吉岡 昌昭 …… 124
婦長さんの青春 池端 一江 …… 130
がっぱ石 高橋 協子 …… 131
飛んでストラスブール 向井 成子 …… 112
杉並だより/不思議な果実店 中条 佑弥 …… 134
東北コンプレックス 佐々木欽三 …… 136
歴史ドキュメント
消えた古九谷 池瑞 大二 …… 139
童話 歌の電車 西村彼呂子 …… 146
詩
眠れない時代/猫が見ていた 清崎 進一 …… 150
はじめての絵本 池端 一江 …… 152
牡丹 高橋 協子 …… 153
闇夜のドレス 田村 史織 …… 153
まだ なのか もう なのか 千葉 龍 …… 154
立ち上がってくる海−海底の割れ目から−下林 昭司 …… 155
飼い描に 大湊 一郎 …… 156
あいさつ 越田 茂 …… 157
小説
送別会 吉本加代子 …… 158
初心者 研 まち子 …… 166
真夜中のダンス 吉村 まど …… 169
眉間に刻まれた深い縦雛−一在所の農道橋と区長−
追い求めた自由 渡 紫緒 …… 183
下柿 昭司 …… 175
詩
樹を思うとき 名古きよえ …… 190
瀬戸内海に響くスペインからのマリアの讃歌 古川悠子 …… 191
後始末 おしだとしこ … 192
退職教師のうた 野村 道子 …… 193
一月の道(フォト・ポエム) 半田 信和 …… 194
こぼれ種/海際の段々佃 長居まみり …… 195
光の花伝説光の花伝子 光の花天長水光の花 天長節光の花天国体 繹 恵治 …… 197
愚か者の独り言 山形紗和代 …… 198
赤い実 東 淳子 …… 199
夜空の月に 川野謙一郎 …… 199
暗い涙 後藤 順 …… 201
エッセイ
ある俳人の一生――父・草雨の句作帖から―― 玉川 久栄 …… 202
兵庫詩壇絵図 外村 文象 …… 204
黄昏どき 名古きよえ …… 205
寒行托鉢随行記 池田 正典 …… 206
寺山修司を歩く−三沢淋代海岸にて 松井郁子 …… 208
中国留学生との交流 中田 邦雄 …… 210
森松さん一家の思い出 折口ふたり …… 212
鉄塔の見える風景 高橋はる美 …… 213
ダイヤモンドカットのような皺模様 西村 薫 …… 215
批評(小説と詩)
詩誌東西南北 一冊は一個の宇宙 谷かずえ … 217
詩界・読点(同人雑誌・小説評) 吉岡 昌昭 …… 222
三木英治著『コクトオの旅日記』佐々木国広 … 226
木下径子著『緩やかな挽歌』 皆川 燈 …… 227
渡野玖美追樟
春を呼ぶ――れい子に――(未発表遺稿) 渡野 玖美 …… 228
最後の <きょうだい会>
渡野玖美追想 南 邦和 …… 229
渡野さんと関東例会 杉本 利男 …… 230
「金澤文學」を抱きしめた玖美さん 三木 英治 …… 231
駅にて待つ 畔地 里美 …… 232
母がくれた十日間 枷場喜久恵 …… 232
母からの手紙 安田 友紀 …… 233
母の帰る家〜思い出と共に怠れない〜 石倉いづみ …… 235
◇報告「金澤文學」創刊20周年記念の集い 尾木沢響子 …… 236
◇前編集長渡野玖美を偲ぶ会 畔地 里美 …… 239
◇ニューススクラップ …………………………… 241
◇レクイエム 千葉 籠 …… 250
◇受贈書誌 ………………………………………… 252
●グラビア……2 ●原稿募集……149 ●広告索引……149 ●編集室から……254
●第17回日本海文学大賞公募のご案内……257
●金沢文学会きまり <会員募集のしおり>
……260 ●入会申込書……261
【題 字】竹中晴子(同人。書家=石川県かほく市)
【表紙の絵】福田陽子(同人。洋画家=東京・世田谷)
眠れない時代 清ア進一
ここ数日 わけもなく
眠れない日が
つづいていて
心療内科を訪ねたが
からだには
別段 異状はないという
まるい眼鏡をかけた
ボサボサ頭の医師は
「こんな荒廃した社会で
枕を高くして眠れる人の方が
余程 どうかしているのですよ」と
小さく笑ったが ぼくには
何の慰めにもなりはしない
最後に医師は
「眠れない時代なんです」と
ぽつりといった
そして 夜がきた
「一度 試してください」といって
処方してもらった薬の効果も
あくびを一度しただけで
絶望的な深い深い闇の森の中で
ぼくは ぶざまにも
何度も 寝返りを打って
もがき苦しんだ
ひつじの数も
一七五八匹から先が
わからなくなってしまった
気分を変えて読みはじめた
難しい小説も ぼくを眠りの世界へと
誘ってはくれなかった
午前二時を過ぎたころ
眠ることをあきらめて
この世に たった
ひとりきりで生かされているような
心細さで 息をひそめて
ベッドのシーツに
ぴったり耳をくっつけると
今夜も また
地球の裏側で
だれかが 泣いている
「今夜も また/地球の裏側で/だれかが 泣いている」時代は、心ある人には「眠れない時代」なのかもしれません。「ボサボサ頭の医師」が言ったという「こんな荒廃した社会で/枕を高くして眠れる人の方が/余程 どうかしているのですよ」という言葉に象徴されるように「絶望的な深い深い闇の森」の時代なのかもしれませんね。そこを感じ取る作者の感性が光る作品だと思いました。
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