きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.8.3
馬籠「藤村記念館」にて
 

2005.8.12(金)

 夏連休後の出勤2日目。明日はまた休めるかと思うと嬉しいのですが、それにしても仕事のハカがいきません。ん?ハカ≠チて判りますか? 捗らない≠ゥら来ていると思いますから、漢字で書くと捗いかない≠ゥな。
 で、非効率な一日を過してしまいました。普段の三分の二ぐらいしか力を出していませんね。月曜日からガンバルかぁ、と納得させています。




和田 攻氏詩集『ミニファーマー』
     mini farmer.JPG     
 
 
 
 
2005.7.21
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
2000円+税
 

  <目次>
   ミニファーマー  6
   兵馬俑抗にて  10
   パリシャンソン  13
   学問
(どぶろく)のすゝめ  16
   アンコールワット  20
   クチトンネル  24
   ひた走る流れへ  27
   よねいりから湯
(ゆ)の入(いり)へ  30
   月光のソナタ  33
   喰らう  36
   あちゃまあのおはなし  40
   還暦記念同級会  44
   巴里夢想  48
   ベトナム考  50
   降る里  52
   道  54
   手さばき  56
   春告げ鳥  58
   みず木  60
   紫雲英道
(れんげみち)  62
   功績  64
   笑ららか  66
   喪失  68
   豪・雨  70
   あえて後ろ向き 73
   開拓分村 柵
(しがらみ)  76
   ドキュメント甲子園  79
   日本
(トカゲ)の尻尾  82
   フセインの月  85
   拝啓「日本国憲法」侍史  88
   手塩にかけて 
太田先生と「柵小学校六年東組」特別授業の日に  92
   T坊  95
   風舞う  98
   蓮の葉椅子に腰をおろし賜れ  101
   祭り・炎  104
   鉄槌  106
   グリーン・朱  108
   ファーマー 
ファーマーは今日も武器を  110
   青春時代  112
   鬼唄  114
   清算事業団
(プリズン)の消印にて  117
   横軽誇駆鉄道
(よこかるこくてつどう) 口演絵巻  120
   青ピーマンが君と  125
   あとがき  128



    
どぶろく
    学問のすゝめ

   福沢翁に倣い「どぶろくのすゝめ」を説きたい。なにゆえに日本古
   来の醸造酒 農耕文化の珠玉が日陰者の身に貶められ 不当な地位
   に甘受か篤とお聞きを 今こそ復権を果たさなくては田翁の立つ瀬
   がない。先ずは我が草庵にお越し下さいませ なーに桃太郎旗がズ
   ラリ迷うことはありませぬ。曰く第一三条 自ら造り賜ふ「自由及
   び幸福追求は国民の権利」 曰く第二一条 創作による「一切の表
   現の自由は、これを保障」 「検閲は、これをしてはならない」
   素晴らしい日本国憲法でしょうが。人呼んで【芳醇遵法御殿】 馥
   郁たる香を辿ればお座敷 ど真ん中にでんと据えられし樽 覗いて
   みなされ 沸沸 ふつふつ マグマの発酵は弥生からつづく農耕民
   族の息吹 明鏡止水の柳樽はおもてなし用 粗相なきよう謹んで召
   し上がれ 気高くも麗しい喉越し如何じゃ。

   「これって密造酒でしょう?」 ほらほら反射的に咎め立て しか
   も画一的な反応が日本人の悪い癖 骨の髄まで染み込んでおるお上
   に刃向かうなDNA 仕方ないか。これからが本題心してお聞きな
   され 遡ること日本の夜明け明治 列強の尻馬に跨り日清・日露と
   しかも勝ち戦ときたのが間違い ほんに悲しみの出合いじゃった
   軍資金調達白羽の矢は自家製愛用酒どぶろくの君に税税増税 絞り
   に搾ったり国家予算の三割を庶民から奪いし酒税で賄ったというか
   ら摩詞不思議 陶酔帝国の威光ここにありだ 悲惨陰惨に追い詰め
   られし無実の逃亡者 既得権略奪・罰金・監獄 楯突く輩は反逆の
   非国民と悪の権化に祭られ かくして百姓一揆も止めを刺され 加
   えて闇市で品格を損ない。が驚くことなかれ五穀豊穣総仕上げ丹誠
   無二赤心無比の「御神酒」もご法度と相成り侯は自衛隊創立に先立
   つこと一年 昭和二八年生まれの新参『酒税法』 軍拡の先見は国
   敗れても生き長らえですな。

   瑞穂の国に美田なし 先祖が積み上げし棚田も枯れ薄に埋もれ田毎
   の月さえ御身を恥じらい 恥知らずは一升瓶じっくり観察たもれ
   醸造用アルコールとはトウキビの絞り粕粕 年間四〇万トンの米を
   蔑ろに ごまんと加えた添加剤 ブランド志向の諸君清酒離れは正
   解だ。「おふくろ酒」 世界共通語自家醸造酒 唯一禁じ手の国民
   に極意を伝授しよう 米は固めに蒸かし人肌に冷めたら優しゅう糀
   と合体 井戸水とは言わぬ汲み置きの水をそろりそろり 耳掻き一
   つのイースト菌 懇ろに日一回の掻き混ぜ半月の辛抱じゃ。「サレ
   ド『バクテリヤ』ニ食物ヲ与ヘテ成長繁殖セシメ 其ノ生活活動ノ
   結果ニ成リタル酒ヲ取得スルト少シモ異ル所アルナシ」 賛成票は
   さすが柳田国男氏。わしら百姓も自給自足自立昂揚精神放棄とは堕
   落したもの ノウセイの尻拭い環境破壊景観損傷世界に誇る休耕田
   をトンと忘れ 「我田飲酔」のアイデンティティーさえ ビール屋
   さんお宅の発泡酒もやられましたね 第三のビールも射程距離 こ
   こはひとつ手を組んで 税金ふんだくり国家に活をいれましょう。
                 
参考 前田俊彦編『ドブロクをつくろう』

 JRを定年退職後、農業を始めたという著者の19年ぶりの第3詩集です。農業は「定年帰農ならぬ、定年初農」とあとがきにありますから、まったくの初心者としてスタートしたようです。
 そういう詩集ですから、ここはタイトルポエムの「ミニファーマー」なり「ファーマー」を紹介すべきところですが、グッとこらえて「学問
(どぶろく)のすゝめ」を紹介する次第です。「ミニファーマー」、「ファーマー」に限らず「ベトナム考」「拝啓『日本国憲法』侍史」「横軽誇駆鉄道(よこかるこくてつどう) 口演絵巻」なども面白い作品ですから、ぜひ読んでみてください。

 さて「学問
(どぶろく)のすゝめ」。「学問」を「どぶろく」と読ませるのも初めてなら、そもそも「どぶろく」をこのような作品にしたことは前代未聞なのではないでしょうか。面白くて、実に深いところを突いていると思います。「軍資金調達白羽の矢は自家製愛用酒どぶろくの君に税税増税 絞り/に搾ったり国家予算の三割を庶民から奪いし酒税で賄った」というのは、そう言えばどこかで聞いたことがあります。それが今だに続いているんですね。酒好きの私としても憤慨するところです。
 「曰く第一三条 自ら造り賜ふ『自由及/び幸福追求は国民の権利』 曰く第二一条 創作による『一切の表/現の自由は、これを保障』 『検閲は、これをしてはならない』」という「素晴らしい日本国憲法」の解釈にも喝采を送ります。痛快です。でも、痛快のあとに、オレたちは力が足りないのだなぁ、と考えてしまいました。今月、お薦めの1冊です。




日野 零氏詩集『彩りをとどめて』
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2005.9.1
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
2000円+税
 

  <目次>
   T章 波打ち際から
   遊動円木のある境内では 8
   砂上の影 12
   雨の残照 15
   波動の行方 18
   シロツメ草の頃 21
   夜間航行 25
   七月の午前の翳は 28
   南潮荘・秋 31
   アキアカネのなく日に 35
   風のさきの楓に 39
   午後の鳥影 43
   シャトルコック 46

   U章 窓辺にて
   佇むと風が 52
   潮風と霜のふる朝は 56
   同調の空に 59
   雨の五月を染めて 62
   陽の降る風 66
   ふりそそぐ午前に 70
   夏を着る 74
   六〇〇kmの夏に 77
   九月七日の雨に 80
   十月の煌き 83
   十一月、点灯の手紙に 87
   蒼穹の春 91
    あとがき 94



    アキアカネのなく日に

   ようやく傾きはじめた太陽と
   郵便局までの細い道
   青々とした木の温い影を踏み
   かけぬけてゆく長い髪を見送る
   面影は密かに結晶し
   とがった葉の先で光がはじけ
   さかさにされた時計のように
   鼓動をたかめる
   自らを証すものは四畳半にある
   レコード 聖書 タイプライター
   固くなった絵の具
   紐の解けたバスケットシューズ
   熱い道のうえでさらさらと
   砂のように情念にふかれるから
   走り去った汗の匂いに
   蛍火のゆらめきを見る
   こんもりと茂った植え込みの根元に
   一羽のモザイクバトを埋め
   受話器を耳におしあてた夕暮の
   山の端をきざむ祖母の声
   在ることへの不安より
   喪失へのおそれをふくらませ
   長い手紙を書いた
   レモンティーの香がする唇
   ヴァイオリン・コンチェルトは好きですか
   いくどとなく尋ねた夜
   ことばは遠くへ遠くへとしりぞき
   結ぶことのできぬ自我の道を
   色礎せるまで走りつづけた
   いつかふたたび高く風がわたるときまで
   マテバシイの木陰で翼の音をきく
   さやさやと降る陽が物語を揺らすと
   アキアカネのなく日には愛する人を見失う
   しなやかな身体と
   すきとおった羽をふるわせて
   脳裡をよこぎる刹那に
   伝説の声は胸脛にはじける
   ようやく高くなりはじめた空と
   郵便局までの細い道で
   ゆれる枝の音に
   はっと息をのむ

 なんとも不思議な作品で、意味を捉えようとするとスルリと抜けて行ってしまいます。この作品を含めて意味を捉えようとしてはいけない詩集なのかもしれません。どちらかと云うとイメージで、その繋がりで行を追っていくと良いと思います。例えばタイトルの「アキアカネ」は常識では鳴きません。鳴かないけど、鳴くというイメージで捉えたら、世界は一変しますね。そういう読み方が良いのだろうと思います。
 そうやって読んでくると、ひっかかってくるフレーズがたくさん出てきます。「自らを証すものは四畳半にある」「アキアカネのなく日には愛する人を見失う」などは並の感覚では出てこないかもしれません。鳴くということとの関連では「ゆれる枝の音に/はっと息をのむ」という最終部分はキーワードでしょうか。そこからもう一度「アキアカネのなく日に」に戻ってみました。根底に「かけぬけてゆく長い髪」「愛する人」を置いてみると、重層的な構造が私でも少しは見えてきた気がしています。




谷口 謙氏詩集『切畑から』
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2005.8.20
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
2000円+税
 

  <目次>
   床ずれ 8
   暖冬 雪なし 11
   即時性硬直 14
   一人息子 18
   記事 21
   野菜の水やり 24
   志? 毛深い男 27
   大事件の後で 34
   雪舟 37
   サーフィン 40
   独居老婆 43
   検尿 46
   癌保険 49
   回顧 51
   竹林 54
   雪の間 56
   検死に行って検死をしなかった話 59
   散歩道 62
   老婆と娘 65
   当歳曾孫 68
   午前零時 71
   やはり一人 75
   民宿の老婆 78
   慈姑 81
   隙間の死 84
   胸郭成形手術痕 87
   曾孫への手紙 91
   憲法記念日 94
   豆炭焜炉 97
   中年前 100
   遺書 104
   早朝の死 108
   ある青春 110
   タイム・リミット 113
   貰った薬も飲んで 117
   夏祭の夜 120
   お母さん 123
   共稼ぎ 126
   原因は? 129
   さざえ 132
   死因 135
   二人の男 138
   苦心惨憺 142
   弁当屋 145
   風通し 148
   衝く 151
   了解 153
   訂正 157
   海毛虫 160
   まじめできちんや 164
   管轄 167
   の由 170
   老夫婦と娘 173
   切畑
(きりはた)から 176
    あとがき 181



    
きりはた
    切畑から

   雪のあと
   晴れた十二月二十三日
   こんな日はめったにないだろう
   峰山町から網野町に入る
   街路に積雪なし
   先日辿った切畑への道
   ここは除雪車通過の跡があった
   山村体験交流センター「せせらぎ」
   前はここで引き返した
   更に進む
   右手に集落
   上
(かみ)切畑
   久美浜町への山道がある
   車を廻した
   やはり雪が恐ろしい
   帰路 切畑地域を離れたあたり
   携帯が鳴った
   家妻の声
   検視です 今の場所はどこ?
   M署霊安室で検視
   七十九歳 男 ぼくより七か月年長
   五 六年前P病院で胃ポリープ切除
   以後医者にかかっていない
   医者嫌い 検査嫌い
   仕事は夫婦で百姓
   息子五十二歳大工 但し別棟に住む
   男の日常
   午前六時五十分頃起床
   八時には独りで朝食をすます
   当朝 連れ合いは主人のいないのに気付く
   朝食もとっていない
   寝室に入る 布団のなか
   今日はえらい しばらく休む
   布団を引き被った 八時三十分頃
   九時 気になった婆さんは市内の娘に連絡する
   九時三十分頃 再度寝室を覗く
   両手を爺さんの頬にあてる
   冷たい
   あわてて娘に電話
   娘が一一九番に電話したのが十時〇四分
   P病院搬送 十一時死亡確認
   中肉中背の遺体
   硬直なし
   結膜溢血点 左右上下ともなし
   眼球透徹 瞳孔四×四ミリ
   両側頸動脈怒張
   死斑 背面少々 赤紫色弱圧退色
   室温一一度
   直腸内温度三一度
   心臓血採取
   後頭窩穿刺クラール
   虚血性心不全
   死亡推定時間 二十三日午前九時頃と推定
   雪冬清水の里切畑から検視の場へ
   丹後路には珍しい日和

 著者は医師で、検視医でもあります。検視の詩集はこれで5冊目。目次でも判りますように、厖大な検視を行ってきたようです。詩集を読み終わって、死とはなんと身近にあることなのかと感心しています。個人にとっての死は大変なことなのですが、淡々と語られた作品を読むうちに、たいしたことではないと思い始めている自分に気付きます。
 紹介した作品はタイトルポエムですが、最終部の「雪冬清水の里切畑から検視の場へ/丹後路には珍しい日和」という2行が印象的です。淡々と死を見取り、淡々と生を生きる、私たちにとっての非日常が著者の日常という、象徴的な部分だと思います。



江 素瑛氏詩集『記憶の風』
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2005.6.30
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
2000円+税
 

  <目次>
   詩 6
   文字 9
   皮一枚 12
   してもいいのですか 14
   藍色 16
   あの歌の光景 18
   記憶の風 20
   赤のれん 23
   異郷人 26
   父よ 28
   母 32
   弟よ 35
   桜 38
   眼鏡を外し 41
   悋気
(りんき) 44
   ドライフラワー 48
   外来 50
   らせん残像 52
   赤ん坊の気持 55
   詩
(うた)にならない 58
   猛暑 60
   ジャカルタの縁談話 62
   F# 66
   ユーゴの女(For LILIANA) 68
   モンスター 71
   夢の月夜 74
   冷たい朝 77
   愛しいインコ ブルー 80
   空き巣 83
   隣人 86
   雑音 90
   老舗 92
   二十世紀リサイクル・デパート 96
   平和 100
   出窓 103

    
解説 アジアからの風 井之川 巨 106
    あとがき 108



    記憶の風

   故郷は
   遠のいた一枚の風景です
   扉の隙間に往来する記憶の風
   抜き足差し足忍び足
   そうしてある時
   突風となって胸に迫るのです

   故郷は
   一枚の黄ばんだ写真です
   年を取ると鮮明に戻るひととき
   故郷の記憶が見え隠れ
   つかもうとして
   ただの残像だと気づくのです

   故郷は
   過去の春です
   過去の人は
   異なった風情にある故郷を
   恋すべからずなのです

   故郷は
   誰のものでしょうか
   故郷にいた時間と空間は
   自分のものと思い込む
   ことにさすらう者には
   帰る故郷はないでしょう

 著者は台湾生まれで、夫君とともに品川で開業している女医さんです。3月に亡くなった井之川さんが解説を書いているのは、歩いて2分のご近所だったからのようです。
 紹介した作品はタイトルポエムで、1979年の来日まで居た台湾が「故郷」と採ってよいでしょう。「故郷は/遠のいた一枚の風景」「故郷は/一枚の黄ばんだ写真」「故郷は/過去の春」と繰り返すところに著者の思いが込められていて、同じ日本国内で故郷喪失をした私などとは違った強いものを感じます。日台は国交断絶しているわけではありませんから、いつでも自由に往来できるのでしょうが、精神的な隔たりがあるのかもしれません。小説の著作はあるものの詩集としては初めてで、初々しさが感じられ、好感の持てる詩集です。




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