きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2005.8.3 | ||||
馬籠「藤村記念館」にて | ||||
2005.8.24(水)
工場の部課長会主催による講演会がありました。講師は新任の役員で、私が入社当時世話になった元上司です。もともと人気のある人ですから、会場は立ち見が出るほどの盛況振り。30年も前の、私の当時の仲間も大勢集まって、さながら同窓会のようでした。
役員として医療関連の研究所長も兼任ですから、その分野の最新情報も聴けて、私の担当する品種にも言及してもらいました。ま、仕事の話は予想通りでしたけど、合間の話題がおもしろかったですね。そのうちのひとつを披露しましょう。
彼があるとき部下の女性に「これは本当ですか?」と問い詰められて、思わず大ボラを吹いたということです。そして「これはホラだが嘘ではない」と付け加えたようですが、自分でそう言ってホラと嘘の違いについて考えてしまったとのことです。しばらくして考え至ったのが「ホラは明日への夢だが、嘘は昨日の隠蔽」。うーん、詩の一節にでも遣いたくなるような言葉だなと感心してしまいました。キャラクターによってはクサイ話になるのですが、彼の場合は素直に感心してしまいます。そういうば昔、彼の下で、そうやってどんどん仕事が増えていったなぁ(^^;
その他、8勝7敗でいいんだけど100勝99敗でも完敗になる場合があることや、阪神の野村監督と星野監督の違いなどもおもしろかったですね。野村監督は選手補強に金をくれとしか言わなかったそうですが、星野監督は選手補強に誰と誰と誰が欲しいと言って、フロントが具体的に動けた話などは、仕事のやり方を考えさせられました。
ま、そんな具合に旧交を温めながら為になった講演会だったなと思います。弊社も捨てたものではないと改めて思いました。
○個人詩誌『HARUKA 18』6号 | ||||
2005.9.1 | ||||
大阪府交野市 | ||||
金堀則夫氏方・交野が原ポエムKの会 発行 | ||||
非売品 | ||||
<目次>
再起動
塔の文字屋
月との境
Condition=Total
【はるぶみ】
Condition=Total 山田春香
色が見えるのには
ある条件が必要らしい
それは
光港≠ニその色の物体≠ニ
見る人の目≠ニいった三要素
この三つのどれが欠けても
色は見えないらしい
ではきっと日常の生活では
いくつもの条件が
同時に重なって起こるかもの≠ナ
溢れているのだろう
ひとつのもの≠セけでは不可能なことも
分量や性質の異なりで
果たせる物事が拡大する
少ない確率同士が無数に集まるので
変化を常に繰り返せるのだ
この世界にはそうやって
条件が集まってくる
条件を揃え終わったモノだけが
この世に姿を現すことができる
そのモノが あのコトが
ひとつ一つが
なにかの集合体であって
偶然のようで
だけど
その成分以外に当てはまるものはないのだ
できあがったものはきっと
それらの総和なのだ
色の「三要素」から始まって「日常の生活では/いくつもの条件が/同時に重なって起こる」ことに気付き、「少ない確率同士が無数に集まるので/変化を常に繰り返」し、「できあがったものはきっと/それらの総和なのだ」と論理的に結論付けたことは見事です。我々が知っている現象は、言わずもがなですがごく限られた範囲です。その限られた範囲、限られた知識で現象を推論するしかないのが現在の科学だと思っています。そこをキチンと押えたところは素晴らしいですね。これが押えられた人とそうでない人とでは、極端に言えば生き方も変ってくると、私は考えています。「Condition=Total」というタイトルに表出しているように、この若さでひとつの真理を掴んだ作者に敬服しています。
○詩とエッセイ『千年樹』23号 | ||||
2005.8.22 | ||||
長崎県諌早市 | ||||
岡 耕秋氏 発行 | ||||
500円 | ||||
<目次>
詩
被爆のマリアに 早藤 猛 2
墓掘り 永井ますみ 6
半年暦 植村 勝明 8
つゆの晴れ間に 江崎ミツヱ 20
ほんこ 和田 文雄 22
遠い夏の日に ほか二篇 鶴若 寿夫 24
硝子の涙 ほか一篇 大石 聡美 28
金木犀 ほか二篇 松富士将和 32
家族の肖像 コーヒーの木 岡 耕秋 36
エッセイほか
城原(じょうばる)川
佐藤 悦子 40
ウエストミンスターの鐘(六) 日高 誠一 46
古き佳き日々(二〇) 三谷 晋一 52
ロンドンのドラキュラ 小辻 梅子 58
涙もろい夏 中田 慶子 65
老いについて 植村 勝明 68
山登り 早藤 猛 75
『鳥たちの河口』をめぐって 岡 耕秋 79
菊池川流域の民話(一七) 下田 良吉 84
樹蔭雑考 岡 耕秋 92
編集後記ほか 岡 耕秋 96
表紙デザイン 土田 恵子
家族の肖像 コーヒーの木 岡 耕秋
ソファにねころんで
ケトルのたぎる音をきいている
やがて沸騰するだろう
それからプレートの電源をきって
しばらくさまして午後のコーヒーを入れよう
まったく怠惰になったものだ
コーヒーといえばインスタントばかり
暇があればソファの猫科になっている
音楽を聴くでなくテレビを観るでなく
考えることといえば過ぎ去ったことばかり
伯父が教えてくれた
一番おいしいのは
朝起きがけのコーヒーだ
小さなカップに
−伯父はデミタスカップとは言わなかった−
たっぷりと挽いた珈琲の粉と砂糖を思い切り入れる
よく練り合わせて少量の熱湯を注ぐ
それは十分すぎるほど濃く
苦く甘く
たっぷりとブラジルの土着の味がした
明治生まれの官吏の伯父が
単身ブラジルに移民したのは昭和の初めだった
遺した写真から男の苦闘のあとがみえてくる
農園での重労働 異国での辛酸
大戦をはさんで長い年月 音信が途絶えた
平和がもどって数年
伯父から便りがあった
二世の女性と結婚したこと
子供がないこと
マーケットと海水浴場のオーナーになったこと
誰か養子にほしいこと
ブラジルに行くとは誰もいわなかった
それからまた数十年がたった
在留邦人の世話をして叙勲されたと
便りしていた伯父が
帰国したいと便りをしてきた
伯母になる人はすでに故人となり
不動産もとっくに人手にわたっていたようだった
身ひとつで帰ってきた伯父は
記憶もおぼろになっていた
ポルトガル語の便りもやがて途絶えた
それから数年
施設に入った伯父は
もはや誰のことも思い出せなくなった
それでもいつも端然と坐して書を読み
入居者の非礼をとがめて
「あなたはそれでも日本人か」と言っていた
私が種子から育てた
コーヒーの鉢を届けたとき
伯父は私のことは誰だか知らないといい
小さな鉢植えの緑の木には
「コーヒーの木だ」と微笑した
コーヒーの木をみるたびに
伯父の苦闘のアルバムを
明治の日本人の志と壮大な旅を
やがては忘れ去られる一人の男の生涯を
思い出さずにはおられない
「伯父」上の潔さが「あなたはそれでも日本人か」という一言に見える作品です。明治生まれの人はブラジルに渡っても帰国しても、そういう気持を常に持っていたのでしょうね。今の日本では忘れられた言葉と云ってもよいでしょう。
そんな伯父上を見る作者のあたたかさが「『コーヒーの木だ』と微笑した」というフレーズで端的に伝わってきます。「家族」とは結構難しいものですが、伯父上に対する尊敬の念が滲み出ていると作品だと思いました。
○月刊詩誌『柵』225号 | ||||
2005.8.20 | ||||
大阪府箕面市 | ||||
詩画工房・志賀英夫氏 発行 | ||||
572円+税 | ||||
<目次>
現代詩展望 古書の効用性と文学館 … 中村不二夫 88
中村稔「文学館学序文説のエスキスのために」
<自伝的戦後詩観(9)> 世紀末を前に … 津坂 治男 92
吉本隆明論(7) 時の中の死 … 森 徳治 96
流動する世界の中で日本の詩とは(11)「農耕詩の可能性」 … 水崎野里子 100
「戦後詩誌の系譜」23 昭和43年45誌追補5誌 … 中村不二夫 志賀英夫 114
追悼・奥田博之さん 駆け抜けた思索の詩人 … 原 圭治 122
□詩作品□ 肌勢とみ子 ストレス 28
山南 律子 いのちの日日 4 小島 禄琅 守宮に贈ることば 30
前田 孝一 宿 命 6 中井ひさ子 友 達 32
宗 昇 骨を洗う 8 安森ソノ子 狐 へ 詩劇 35
川内 久栄 うら枯れゆく村 今日は明るい10 檜山 三郎 八〇年回顧録 38
南 邦和 校長先生の背広 12 岩本 健 老謡若干 40
立原 昌保 やがて悲しみは 14 松田 悦子 沈黙の背中 42
伍東 ちか 雨の歩道 16 木村 利行 空白の時の流れ 44
山崎 森 秋草と逆髪 18 上野 潤 和蘭物語 19 46
岡 たすく 釣 り 20 水崎野里子 雪明かりの路 48
名古きよえ 花と廃墟 22 野老比左子 あたらしい太陽 50
佐藤 勝太 乾いた景色 24 清水 一郎 伯父はどこへ行く 52
大貫 裕司 気紛れな旅 26 山口 格郎 火に油を注ぐな 54
小沢 千恵 海 56 若狭 雅裕 秋 爽 72
高橋サブロー 日向ボッコ 58 織田美沙子 ハガキを出しに 74
徐 柄 鎮 落ち人 椎葉の里 60 小城江壮智 理想郷 76
山尾 管恵 詩 う 62 進 一男 朝の白い月 78
小野 肇 勤め人の休日 64 今泉 協子 妹の手紙 80
門林 岩雄 かるく 他 66 平野 秀哉 経過報告 82
川端 律子 ばら一輪 68 中原 道夫 曼珠沙華 84
鈴木 一成 寒心閑話 70 北村 愛子 わたしの台所 86
続・遠いうた 52 マイノリティの詩学 … 石原 武 104
アメリカ兵は嘘をついた
インドの詩人 アフターブ・セットの詩 3 … 水崎野里子・訳 108
コクトオ覚書 200 コクトオ自画像[知られざる男]20 … 三木 英治 110
在日コリアン詩選集を読んで … 中原 道夫 124
東日本・三冊の詩集 川端律子『赤い川』 … 中原 道夫 126
宗美津子『草色の轍』 秋山公哉『夜が明けるよ』
西日本・三冊の詩集 豊原清明『時間の草』 … 佐藤 勝太 130
中井多賀宏『繁華街のネズミ』 飽浦 敏『にーぬふぁ星』
受贈図書 135 受贈詩誌 133 柵通信 134 身辺雑記 136
表紙絵 小川新一郎/屏絵 申錫弼/カット 野口普・中島由夫・申錫弼
火に油を注ぐな 山口格郎
またも 悲しい国内ニュース
男子高校生 手製の火炎瓶を
教室に投げ込み 五十数名が負傷
いじめに対する 仕返しだ という
バクダッドからも 悲しいニュース
今日も自爆テロ 数十名が死傷
占領米軍に対する 仕返しだ という
平和とは 憎しみの火に
水を注ぐことだ
油を注いではならぬ
平和大国 という この国は
油を用意してはならぬ
水と油を 取り違えてはならぬ
今 緊急に必要なのは
沢山の水だ
第3連の「平和とは 憎しみの火に/水を注ぐことだ/油を注いではならぬ」というフレーズは重要な言葉だと思います。当り前のことなのですが、それが忘れられている…。翻って「平和大国 という この国は/油を用意して」しまいました。「水と油を 取り違えて」しまったのは一首相の責任でありましょうが、実は当り前のことを忘れてしまった私たちが後押しをしているのかもしれません。「沢山の水」が必要な現代を考えてしまった作品です。
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