きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.8.5 長野
戦没画学生慰霊美術館「無言館」
 

2005.9.7(水)

 今日も一日、会議、会議で明け暮れました。明日から急に山形に出張することになって、会議の合間にその準備をして、バタバタと過してしまいました。ま、いつものことですけどね(^^;




月刊詩誌『現代詩図鑑』第3巻9号
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2005.9.1
東京都大田区
ダニエル社 発行
300円
 

  <目次>
   有働 薫  筆を選ばず ………‥……… 3
   枝川 里恵 萩の夜 ……………………… 8
   高橋 渉二 ディスパラテスをわたる … 14
   結城 富宏 見えない雨 ………………… 18
   中堂けいこ 瓜の日 ……………………… 23
   岡島 弘子 はみだす …………………… 26
   武田 健  けもの道 …………………… 30
   高木 護  蓄える ……………………… 33
   倉田 良成 航海記 ……………………… 36

   表紙画 ……… 来原 貴美『室内』



    筆を選ばず    有働 薫

   「ろうこしいき」を拝観したあと
   おうせいに若葉を盛り上げているユリノキの大樹の下の
   ベンチで風にあたっていると
   タバコを吸ってもいいですか
   男の人が同じベンチの反対側のはしに来てすわった
   シガレットを一本おいしそうに吸い終わると
   ドロップいかがですか
   いえ、けっこうです
   さっきとこやでくれたんです
   どうぞ
   遠慮するつもりだったのに
   新しい缶の封が切られるのをみて
   もらってもいい気がしてきた

   四角い缶を
   てのひらのうえで逆さに振るころは
   もう
   すこししかないと知っている
   白いハッカの粒が出てくればいいな
   と欲を出していた

   薄荷をまぜて三粒
   いちどにほおばった
   くれたひとも
   ドロップをなめた

   弘法も筆の誤り
   わたしがいうと
   弘法は筆を選ばず
   ドロップス氏はいった

   しばらくしてドロップス氏は
   ベンチを立った

   しばらくして
   わたしもベンチを立った

   ドロップス氏は
   足を引きずり杖にすがって
   いたいたしいほどのろのろ
   駅への道を歩いていた
   植え込みの新緑ごしに
   遠目にうしろ姿を追いながら
   追い越さないように
   ふだんの五分の一ほどの歩調で
   わたしも駅へ戻った

   定年退職してから
   すぐに足が悪くなった
   ドロップス氏が
   さっき話していた

   注 「ろうこしいき」 「聾瞽指帰」弘法大師が797年24才の時に撰述した著作で、
     仏の教えに暗く聞く耳を持たない者に教えを指し示すの意。

 「わたし」と「ドロップス氏」の人物像が佳く描けている作品だと思います。特に「わたし」の「白いハッカの粒が出てくればいいな/と欲を出していた」、「薄荷をまぜて三粒/いちどにほおばった」、「追い越さないように/ふだんの五分の一ほどの歩調で/わたしも駅へ戻った」という描写が良いですね。二人の会話の「弘法も筆の誤り/わたしがいうと/弘法は筆を選ばず/ドロップス氏はいった」というフレーズは、この作品の骨格ですが、これも佳い。何気なくすれ違っただけの光景ですが、詩人の眼にはこう映るのかと感心した作品です。




詩誌きょうは詩人2号
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2005.8.29
東京都世田谷区
アトリエ夢人館 発行
700円
 

  <目次>
   ●詩
   奥沢町六番地          小柳 玲子 1
   夏の夜におとうとが       伊藤 啓子 4
   ストッキング          長嶋 南子 6
   醤油差し            長嶋 南子 8
   モリさんの話          森 やすこ 9
   樹               赤地ヒロ子 12
   おばさんのごみ箱        吉井  淑 14
   おばさんの庭          吉井  淑 16
   雨季              鈴木 芳子 18
   誕生日             鈴木 芳子 20

   ●エッセイ
   処女詩集のころ               21
   花は散るモノ人は死ぬモノ 2
    ――女について 滝口雅子   長嶋 南子 26

            表紙デザイン 毛利一枝
           表紙絵 リチャード・ダッド



    醤油差し    長嶋南子

   ついひとこといってしまう
   黙っていれば
   波も風もたたないのに
   また心臓に染みが

   食卓に醤油差し
   必ず最後にひとしずく
   置き場所には染みが

   わたしと醤油差し
   食卓に向かい合っている
   染みが
   ざらざら
   ふいてもふいても

 「醤油差し」の「最後」の「ひとしずく」と、「わたし」の「ついひとこといってしまう」癖が対になった作品ですが、これはよく判りますね。私も「ついひとこといってしまう」方なので、よく注意されます。しかし、それが「置き場所」に「染み」を作ってしまう「ひとしずく」と同じとは! この視線は素晴らしいと思います。さて、「ふいてもふいても」消えない「染み」をどうするか…。おもしろいけど、懲りない我が身を考え込んでしまった作品です。



詩誌『弦』33号
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2005.9.5
札幌市白石区
渡辺宗子氏 発行
非売品
 

  <目次>
   エッセイ 語感と詩の領域(29)    佐藤 孝 1
   詩作品  孤を描く         佐藤道子 2
        劇場夢          渡辺宗子 2
        カナリヤの森       渡辺宗子 3
        星の軌跡         佐藤道子 4
        辺境           佐藤道子 4
        鍵老人のマザーグース(八) 渡辺宗子 5
        蜘蛛と蜻蛉        佐藤道子 6
   後記   断簡           佐藤道子 6



    辺境    佐藤道子

   覆っている闇の畏れは
   内部にある

   城壁に積まれる
   似姿を仰ぐものの
   思念の虚像
   生の豪著が導く
   竪穴式石室

   閉ざされる門扉に
   崩壊は傲りから始まり
   王道に列する
   緋の絨鍛

   谺する谷の 原罪の祈り
   青い花は 手折られ
   日暮れる 裾野

 かなり難しい作品ですが、鍵は第1連にあると思います。内なる「辺境」を見つめた詩、と解釈して読んでみました。「竪穴式石室」という具体が出てきますが、これも己の喩と読むことができるでしょう。表面的には4連から成る「辺境」を見ているわけですが、それを見ている己、という構図が浮び上がってきます。それも「闇の畏れは/内部にある」という発語が作用しているから、と読み取ったわけです。
 もちろん、あまりヘンな解釈≠つけずに、そのまま表面を読み取ることも大事でしょうね。一応、私なりの読み方を披露してみました。間違っていると思いますが(^^;




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