きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2005.8.5 長野 | ||||
戦没画学生慰霊美術館「無言館」 | ||||
2005.9.14(水)
茨城県に出張してきました。関連会社に不始末があって、その対策が実施されたというので、現地視察を行いました。相手の会社はエライ人たちがズラリと顔を並べて、おお、これはやる気になっているなと思いましたけど、もう一歩でしたね。対策の内容は良く考えられていて、ずいぶんと進化したな思います。しかし、肝心のこころ≠ェ伝わってこない。それは率直に述べました。
席上、私が主張したことのひとつに、相手の会社に負荷をかけるのが目的ではない、ということがあります。ミスはミスとしてしょうがない。でも、なぜミスが起きたか、起こしたかを個人の責任にするのではなく、会社の管理システムとしても問題がなかったか、ミスをきちんと報告できるような社風になっているか、そこをずーっと糺していました。そこを押えれば良くて、それは会社としての負担にはならないはずだ、と主張してきたのですけどね…。
ま、管理システムを見直して、新たな品質保証体制を提案してきましたから、要望の半分は受け入れられたかなと思って、これを是としました。あとの半分は、難しいでしょうね。でも、社風を変えていかないと生き残れませんよ。ミスが仮に隠蔽される体質だとしたら、今の世の中では受け入れてもらえないのは多くの事例が語っています。雪印にしろ三菱にしろ、私はその二の舞を相手の会社にやってもらいたくありませんし、その会社を担当する私に責任が及ぶのは困ります。別会社にことですから、それ以上突っ込むのは法的にも問題があるので止めましたけど、経営者のやることとはそういうことだと思うのですがね…。
○詩誌『谷蟆』11号 | ||||
2005.8.27 | ||||
埼玉県熊谷市 | ||||
谷蟆の会・小野恵美子氏 発行 | ||||
非売品 | ||||
<目次>
☆詩 ヒヤシンスハウス・葵生川玲・2
烏蛇・葵生川玲・3
三冊の詩集・本田和也・4
竹の秋・佐野千穂子・6
桜の墓の風景・石村柳三・7
いない・嶋野可矢子・9
最初の記憶・嶋野可矢子・10
もぬけの殻・小野恵美子・11
夢or現・小野恵美子・12
☆師について・石村柳三・13
☆ジョイスの『若き日の歌』・本田和也訳・19
★平和アーカィブズ視聴者出演・35
★誌名「谷蟆」について・36
烏蛇 葵生川 玲
漆黒の糸が
飛ぶように流れていくのを
見たと、
私はいつか誰かに語ったことがあった。
カラス蛇
いや 毒蛇の姿をして襲ってくる恐怖伝説のように
隠された心の窓を飛翔するものだと
沈黙の底に私が畳み込んでしまっていたもの。
森のなかのケモノ道を歩き 陽のわずかに溜まった柔らかな場所で
出会ったそれは 不気味な恐怖そのものだった 遠い伝承から伝わ
る記憶と日々を生を結ぶ畏れる心の象徴として 北の深い森が生み
出してきたそれは 果たして恐怖だけを生むものだっただろうか。
一枚一枚の葉が艶のある表と暗い葉の裏を揺すぶっている 北の午
後の森のなかには いつもには 小さな気配が満(みち)々ている
果てしもなく繰り返し語られ続けたのは夢のなかで蘇る恐怖だけだ
っただろうか 連想ゲームのように伝えられる断片のように浮かび
上がってくるイメージが 「回転する棒のようになって追いかけて
くるカラス蛇」に姿を変え 救いのように加えられた言い伝えの防
御策を思い返す夢のなかで空足を踏み続け、息を呑みながら試すの
は 心の窓に映る北の思想なのだろう。
落葉樹の森では木の成長が 色彩りだけでは区分けの出来ないさま
ざまな時と生き物たちの豊かな営みを 複雑に重ね畏れながら進ん
でいることがわかるのだ。
切れ切れの歴史と
思いの時を繋いで、
漆黒の糸のような
カラス蛇が
今日も
誰かの心の窓を飛翔しているのだろう。
「カラス蛇」とは懐かしい。私が北海道で過したのは、小学校3年から4年のたった1年だけでしたが、「カラス蛇」のことは聞いています。「飛ぶように流れて」来る真っ黒な「毒蛇」というのが植え付けられた記憶です。「回転する棒のようになって追いかけてくるカラス蛇」というのは、私の住んでいた芦別には無かったようです。
その「カラス蛇」を「心の窓に映る北の思想なのだろう」とする処は見事ですね。先人たちも私たちも森を「畏れながら進んでい」たのだと思います。この作品に刺激されて、久しぶりに「カラス蛇」が私の「心の窓を飛翔して」しまいました。
○詩・評論『大滝清雄遺作集』 | ||||
2005.9.16 | ||||
栃木県足利市 | ||||
篠崎氏方・龍詩社 発行 | ||||
4500円 | ||||
<目次>
草津日記
夕暮れ 16 遊園地 16 薫り 17 声 17 花 18 若草 18
調 19 老婆 19 歌 20 郭公 20 独居 20 槌音 21
歌くらべ 21 飛ぶ 22 松林 22 黒いベンチ 23 夕照 24
雲 24 西之河原 25 天狗山の天狗 26 雪どけのころ 26 溜息 27
残雪の道 28 衣がえ 28 渇 29
ラインの神話
日々の旅 34 行く方 35 山道 36 切り通し 37 屋根づたい 39
眠い旅 40 瘴気 41 見えない森 42 光る飢渇 43 吊橋 44
稲妻 45 闇の手脚 46 風景 47 天山文庫 48 宗谷の岬 49
詩神 50 事件 51 ナポリの顔 52 旅人の目玉 54 カタコンベ 56
トレビの泉 58 モンマルトル界隈 60 ロンドン塔の鴉 61 冬の橋 63
ラインの神話 64 物語 66 山頂 67 北海のほとり 68
春の位置など
春の位置など 74 駅の界隈 76 秋 78 花やかな太陽 78 冬の橋 80
田舎の空地 81 草原のほとり 84 真昼の公園墓地 85 位置 87
霧の中の階段 88 影の反乱 90 罠 92 そやつ 93
拾遺詩篇 その一(初期)1932〜1944
火喰鳥 98 繁みの中 99 讃美 99 幻想
100 明鏡 101 新潟抄 102
凶作地帯 102 氷地 103 水面 105 老樹
106 文學 106 瞬間 107
憧憬 107 田園の午後 107 認識 108 朔風近し
108 河のほとり 110
碑 111 血の燈火 113 戦ひの雨の中 114 田舎の時計
116
拾遺詩篇 その二 1946〜1986
平安 120 訣別 121 黎明 122 秋日心象
123 流離抄 125 墜落 126
冬に 127 乾燥平原1 128 乾燥平原4
131 乾燥平原6 132
乾燥平原7 134 雪の下の時間から 136 哀悼詩
138 ニヒルの花 139
朝の思想 142 アラヤの園 143 歌の裂けめの歌
145 真冬の祈祷 147
荒野の思想 150 偏光の倫理 152 阿修羅の祈り
154 闇と帽子 155
冬の陽 157 ミューズ 157 これで終わりです
158 姿 159
西脇先生逝く 160 雲の花 162 幼年 164 小綬鶏が鳴いている
165
陸橋 166 変な詩の話 167 関東平野に雪が降る
170 幻夢 171
小町温泉 172 明暗(1) 174 明暗(2) 175 時の間も
176 空にない月 177
未刊詩集 1987〜1998
雪解けのころ 182 扉 183 無名 184 朝の消息
184 春の消息 186
放下著 186 風のなか 188 小鳥 189 意識の谷間
191 待つ間 192
書けない時にも 194 くろい虹 195 憂鬱な朝
195 曇り日の海 196
うつろな部屋 198 崖上の道 199 朝の時間
200 家 202 立冬記 203
道2 205 かたつむり 206 はりつけられた時間
206 乗客たち 207
森のなか 208 夕河辺 209 抒情 211 森のなか
212 火宅 213
ずんずんずんずん 215 往ったり来たり
217 渚にて 218 実知らず 219
陰影の領域 221 ひとりの昼餉に 222 遠い時間
224 急所 225
落葉のころ 227 銀河のように 228 笛の音
229 鄭漠模はもういない 231
足の位置 232 緑の瀑布 234 雨 降る
235 波音 237
忘れられた時間 238 彼岸のころ 239 盲目の海
240 大法螺吹き譚 241
終りがない 243 くらい宇宙の中で 244 森の影
245 眼を洗う 246 春 248
何げなく 249 海へのオード 250 海のねがい
252 樹木と森と 253
森の炎 255 森が歩く 257 傷痕 258 鳶が舞っている
259 風の道 260
何げなく2 261 清一郎の階段 263 ことばが生きて
264 鴉が啼く 265
水底の歌 266 夏を叩く 268 の ことば
270 大欠伸 271 時のWeight 272
「人」の死 273 烈風圏綺譚 274 たましい
275 冬の虹 277 逃れる 278
風の眼鏡 279 迎夏 281 水辺 282 道のデッサン
284 街 285
渓谷綺譚 286 花の屋根 287 明け方の空高く鳶が舞っている
289
風の笑い 290 冬のこだま 291 物たちの世界
292 薄い存在 294
詩論と詩人論
第一部 評論の視角 298
伝統の問題 298
第三の視角 300
抒情詩の諸問題 302
新抒情派の方法をもとめて 306
新抒情派の世界観を求めて 311
アジアの神話の探求について 317
詩の座標 320
第二部 詩人論と思い出 323
大江満雄ノート 323
草野心平論T 332
草野心平論U 340
土橋治重論 347
高橋玄一郎さんの死を悼むの記 352
田中冬二さんを思う 355
土方定一さんのこと 357
薄い存在 一九九八年作品・一九九九「龍」107追悼号に絶筆を掲載
エレベーターの上昇する唸り。中には、羽を畳んだ鳥たちのような乗客たち。息をひそ
めて目ざすフロアを待ちつづける。(あたかも幸や不幸を待ちつづけるように。)到着する
と、次々に売り場に向かって流れだす。
(一瞬ほんのり希望の色で頬を染めたりして。)
男は衣料売り場に勤める少女のひとりを、訪ねて行く。けれど、広いフロアいっぱいに
連らなり、重なる華やかな衣装の間にはさまれて、容易にその姿は見当らない。
やがて、衣装のために体温を奪われ、うすい一枚の布地のように痩せた少女が絵柄のよ
うな微笑を浮かべながら現われる。
(いったい、いつから、ひとはまわりのものと見分けがつかないように痩せてしまったの
か)
おぼろげな少女の影に向かっていると、男の影も次第にあたりの衣料の中に消え入りそ
うになり、息苦しさに「おおっ」と声をあげた。
*
闇夜に荒地の間の道を行くと、足音が大きく叫び出す。人影もない闇の中に来ると、足
音が存在を誇張する。草生の中では夏虫が鳴いている。夜鴉が頭上を啼いて過ぎる。荒地
の果ての団地の窓々は方舟のように燈火をともす。男は深く呼吸する。男は闇の中にやっ
て来てかろうじて、いのちの重さをとり戻す。
そんな軽くなったいのちを背負い、自分の足音を頼って運んでいく。
1998年9月に84歳で亡くなった大滝清雄さんの遺作集です。拾遺、未刊詩集の位置付けが高く、大滝清雄研究には欠かせない1冊となるでしょう。ここでは絶筆となった「薄い存在」を紹介してみました。最期まで人間を見る眼の暖かさが伝わってきて、感動的な作品です。私などが大滝さんと直接お話しすることなど思いもよらず、いつも遠くからお姿を拝見していただけですが、周囲の人に対する心配りは遠くからでも感じていました。それがそのまま表出した作品ではないかと思います。改めてご冥福をお祈りいたします。
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