きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.8.5 長野
戦没画学生慰霊美術館「無言館」
 

2005.9.18(日)

 四谷コタンで奥野祐子さんのワンマンライヴが開催されました。会社のオバサマ方を連れて応援団のつもりで行ったみたら、よく入っていましたね。30人近かったろうと思います。盛況でした。山本十四尾さん、岡山晴彦さんも見えていました。

      2部構成でした。備忘録でリーフレットのメニューを記載しておきます。
  050918.JPG   第1部
1.ひとり
2.ピアノ ウーマン
3.コミュニケーションボール
4.
la mer(海へ)
5.
Underground
6.雨のブルース
7.スナップショット
8.
freeze
9.
face
10.やわらかな光
11.ふるさと
第2部
1.バラ色の人生
2.神さまのいない夜
3.ポテトチップス
4.夜のテレフォン
5.ひとこいしくて
6.新宿うらどおり
7.
Alcohoric Woman
8.樹
9.
I’m fool to want you
10.
red shoes
11.
smile

 今回連れて行ったオバサマ方は、シャンソンや新SKDにも一緒に行っているのですが、奥野さんのライヴの方が良いと言っていました。身近な歌が多いのでそう思うのでしょうね。奥野さんの詩集やCDを買っていましたので、よほど気に入ったのだろうと思います。また機会があればお連れしましょう。




個人詩誌Quake15号
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2005.9.25
川崎市麻生区
奥野祐子氏 発行
非売品
 

  <目次>
   草刈り 一
   真夜中の教会 四
   ウマよ 七
   だれも しらない 十
   地震(earth quake) 十一



    草刈り

   草をちぎる
   ちぎる
   ちぎりとる
   握りしめた茎の束を引き抜く瞬間
   地面にしがみつく草の根の
   ささやかだけど りんとした抵抗
   大地から はがされることへの
   すがすがしい怒り
   ああ
   草がかおる 土が息づく
   引き抜いて かきわける 草の束の根元に
   たくさんの虫たちが 息づいている
   その うごめき はいずる いのち
   たんたんと まっすぐに あざやかに
   呼吸するものたち
   おまえたちに 触れている それだけで
   今
   なんだか 自分のいのちを取り戻したような
   眠っていた何かが
   静かに 目覚めはじめたような気がするよ
   わたしの中にもある
   思い切り手足を空にのばして
   高く高く 光に向かってのびようとする力
   土の上を大声でわめきながら
   這いずり回って 暴れたい衝動
   草や虫にも負けないほどの
   獰猛な暴力にも似た 愛
   この世界をまるごと飲み干してしまうような
   激しい無差別の愛
   生きることへの
   ここにいることへの 激しい愛
   ああ いまなら
   倫理も道徳も不安も我欲も
   すべてをつきぬけて ただ
   まっすぐに あなたを愛せそうな気がするよ
   この草たちのように
   小さいけれど 青く 強く 確かなこの両腕で
   あなたを思い切り
   抱きしめてあげられるような気がするよ
   あらゆる世界の悪意から
   あなたを守ってあげられるような気がするよ

 「大地から はがされることへの/すがすがしい怒り」、「獰猛な暴力にも似た 愛」、「激しい無差別の愛」などのフレーズにこの詩人の特色を見る思いがします。それは現代の「怒り」や「愛」の形なのかもしれません。どこか滅びの美学≠孕んでいると言ったら云い過ぎかもしれませんけど、現代とはそういう時代と規定することも出来ると思います。そんな時代の申し子としての作品、と言えるでしょう。そして現代とは、「あらゆる世界の悪意から/あなたを守ってあげられるような気がするよ」という救いを求めているのかもしれません。




作田教子氏詩集『耳の語法』
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2005.2.20
東京都新宿区
思潮社刊
2200円+税
 

  <目次>
   T 耳の語法
    扉のむこう 8       鏡のひかり 11
    鏡のおと 14        暮れ色の空 17
    浮かんでいる空 20     耳の語法 24
    春のふたり 30       安息日 33
    火事監視人 37       眠る猫 40
    ノイズ 43         泳ぐひと 47
    渇望のかたち・線から 50  渇望のかたち・点へ 54
    濃い雨 58         未完 62

   U 白い海図
    川風 68          白い海図 73
    陰暦 78          変容 81
    砂の人 85         彼女はいつも 88
    靴を磨く男 91       月 94
    冬の音楽 97        悪意という名の記憶 100
    明度 104

   栞 心理詩のひとつとして――『耳の語法』の魅力 倉橋健一



    鏡のおと

   あなたに
   さらけだし
   開いてみせたものは
   肉ではない
   それは 骨だ
   切り取って小さな箱にぴったりと収まるほどのわたし
   乾いて
   風線のようなおとをだす
   骨笛
   身体のどこもがおとになるように
   わたしは
   指に沿う小さな穴を
   身体中にあけた

   息が吹き込まれる
   おとになる
   あなたの息は映しだされ
   あなたの内側を透かすための
   骨は鏡になる
   腐乱していく肉の底で
   刃にもなれる
   切り立った骨を
   あなたに開示する

   わたしのただひとつの武器
   わたしのただひとつの火
   骨
   の鏡に
   映しだされる
   刻まれた音符

     とおいさい果ての地へ
     河のように
     火のように
     骨笛のおとが
     ひらかれてゆく

 非常に感覚的な詩集で、正直なところ追いつくのが大変でしたが、また魅力ある詩集であったことも確かです。その感覚的な作品の代表として「鏡のおと」を紹介してみました。「鏡のおと」とは「鏡に/映しだされる」「骨の」「刻まれた音符」と解釈して良いと思います。見方によってはエロチックな作品ですが、そんな表面的なものより内奥にあるものを感じさせます。
 「風線」は造語でしょう。電線に衝たる風の音を想像しました。この造語も違和感なく作品に溶け込んでいて、作田教子という詩人の力を示す格好の例と云えましょう。おもしろい詩集でした。




坂東里美氏詩集『タイフーン』
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2005.9.10
東京都目黒区
あざみ書房刊
1714円+税
 

  <目次>
   T 卒業式 ▼10
     カーテン ▼11
     ひまわり ひまわし ▼12
     墓を磨く ▼14
     ハナ ▼16

   U しっぽ ▼22
     黒い友だち ▼25
     海溝 ▼28
     美術館の午後 ▼31
     ファリネッリ・ブッフォ・ブッフォ氏の春の歌 ▼34
     水無月の大祓の日に ▼37
     鳴神 ▼40
     ウミホタル採集 ▼45

   V 鳥食う虫 人食う鳥 ▼48
      点氏  
angel ▼48
      航海  
regret ▼49
      復習  
revenge ▼50
      懐旧  
caste ▼51
      蛆子  
son of god ▼52
      昇点  
ascension ▼53
     フレンチ・フライ フリーダム・フライ ▼54
      フレンチ・フライ ▼54
      さばへなす ▼55
      虫は ▼56
      ザ・フライ ▼57
      王 ▼58
      自由 ▼59
     トラゴーディア・コモーディア ▼60
      ひ☆劇 ▼60
      道行 ▼61
      文字だけで ▼62
      千夜一夜 ▼63
      一夜千夜 ▼64
      第一幕 ▼65
     空引機  
sorahik−hata ▼66
      空ひき ▼66
      光引 ▼67
      空引機 ▼68
      コガネグモ ▼69
      軌跡 ▼70
     冬至 ▼71
     プリコラージュ ▼72
       *五片
     夏の樹についての錯誤 ▼77
       *六片
     湖水ドライブ ▼80
       *五片
     金環蝕 ▼83
       *四片
       あとがき ▼86
       ジャケット絵・藤富保男
           装飾図案・著者



    卒業式

   雨上がりの朝だ 湿った土から けたたましいサイレンが鳴った後
   の漠とした耳鳴り ひな人形の台座の畳表の匂い 桜の木の灰色の
   幹の虫こぶの濡れた表皮のむず痒い舌 信号は黄色 横断歩道の白
   線が歪む クリック音 立ち上がる老人のズボンのたるみが流れて
   側溝の水草に絡まる泡 「さもなければ」と口の中の粘るビター・
   チョコレートの包み紙の不条理な裂け目 ゴミ箱は投てきを避け
   柱時計の振り子が文字盤に円を描く秒針に嫉妬するとき アマリリ
   スの水彩画の虫食いの額縁が帰化しようとする 3年5組 起立。

 詩集の巻頭作品ですが、これは佳い! 「卒業式」当日の出勤風景から「3年5組 起立」までを描いて、それも淡々と風景だけを描いています。著者はおそらく中学校か高校の先生でしょう。「3年5組」は問題があったクラスなのか、それとも非常にデキが良かったか普通だったか判りませんが、作品のトーンからは問題児の多いクラスだったと想像しています。しかし冒頭に置かれた「雨上がりの朝だ」という詩句には、卒業生の将来を祝う気持が含まれているように感じます。卒業記念の写真集にでも載せたい作品ですね。




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