きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.10.9 栃木県
道の駅「もてぎ」にて
 

2005.10.1(土)

 日本詩人クラブのオンライン作品研究を午前10時〜午後6時で行いました。今回も20名ほどの指定者のみのクローズドにしました。前回7月はEメールによる交信でしたが、今回からメーリングリスト(以下ML)を整備しての交信となりました。寄せられた研究作品は5編、感想は15件でした。初めてMLで試行してみましたが、特に大きな問題もなく終了しました。当り前ですけど、Eメールでの相互交信よりは格段と楽になりましたね。
 前回と今回の成果を踏まえ、次回か次々回にはEメール所有の会員・会友(一部会員外含む)にご案内を差し上げる予定です。その節はぜひご参加ください。




たかとう匡子氏詩集『学校』
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2005.9.26
東京都新宿区
思潮社刊
2400円+税
 

  <目次>
   T
   惨劇        10   事件       14
   朝礼        18   前ぶれ      22
   教室        25   遠い日      28

   U
   風が吹いてないのに 34   椅子になるまえ  40
   呪縛        43   幻態       46
   迷路        49   かすかなひびきが 52
   宿命        55

   V
   予兆        60   窓        63
   汽笛        65   何処へ      67
   中庭の風      70   聞こえる     72
   幼な児は詩人    75

   W
   八月の妹      80   めくるめく    83
   坂道にて      86   地底に誘われ   90
   傷の思い出     92   赤い実      95

   あとがき      98      装画=浅川 洋



    前ぶれ

   登校する生徒の列が
   プロムナードから加速度をつけ
   足早に校舎のなかに消える
   繰り返し
   反復されて
   学校の朝がはじまる
   今日
   校門脇の花梨が淡紅色の花をことごとくひらいた
   マヒルは
   教室から教室へとふれあるく
   花はやがて大きな実をむすぶ前ぶれの印
   わたしは夢を見ているのですか
   自問しながら
   中空を横切って
   門扉を開ける
   遅刻はいけないよと閉じた門扉に激しく頭をはさまれて
   ひとりの女子高校生が死んだ
   学校は
   外側へ外側へとなだれ
   交差点を渡って
   国道二号線へ
   始業のベルが鳴って一目散に駆け込んだ命は
   もう帰ってこない
   帰ってこない
   そう
   けっして帰ってこないのだ
   かすかな内面の音
   ふるわせて
   校門脇の花梨が思い思いに花を落とし始めた
   おびただしい落下音
   マヒルの耳に
   まっすぐとどいたその音をなぞりながら読む
   みずからの所在
   を咽喉もと深く
   受け止めなさい

 高校教諭を退職した著者が「幼な児が運動場でつぎつぎと殺されたり、教師が刺し殺されたりする、なんともやりきれない世相をそっくり背負っている学校(あとがきより)」をテーマに編んだ詩集です。紹介した作品では記憶に新しい「閉じた門扉に激しく頭をはさまれ」た「ひとりの女子高校生」を描いています。「校門脇の花梨が思い思いに花を落とし始めた/おびただしい落下音」が「なんともやりきれない世相をそっくり背負っている学校」を象徴しているように思います。考えさせられる詩集です。




在間洋子氏詩集『船着場』
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2005.10.20
京都市中京区
湯川書房刊
2000円
 

  <目次>
   T
   机の上 10      休日 12
   石と植物 16     <た> 18
   明日は木曜日 20   観音堂の社 22
   合体木 24      ひょうたん島のある風景 26
   挨拶 28       <妙見さん> 30

   U
   よそゆき 34     丘の畑 36
   新しい靴 38     芋畑 40
   家路 42       座敷 44
   夢 46        放課後 50
   わたしの通学路 52  海の橋 54
   あとがき 56



    机の上

   ――あんたって奴は
   鉛筆は怒鳴った
   ――ぼくを否定してばかりいるが
     そもそも君の存在は
     ぼくあってのものじゃないのかね
   ――あたしだって
   消しゴムは応じた
   ――身を削り
     あなたには命がけ

   鉛筆はどんどん短くなり
   消しゴムはどんどん小さくなり

   うーんと伸びをして
   紙は眠りから覚めた
   (白いおなかを撫でて呟く)
   ――夢をみていたんだな

 詩集の巻頭作品です。「鉛筆」と「消しゴム」の掛け合いが面白いし、本質を突いていますね。最終連では結局「白いおなか」になって、「鉛筆はどんどん短くなり/消しゴムはどんどん小さくな」った結末が描かれています。一見すると悲痛な意味にも採れますが、おおらかな作風から考えるとそれは無いでしょう。着想の面白さが光る詩集でした。




田上悦子氏詩集『はなれ里の四季』
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2005.9.18
東京都豊島区
詩人会議出版刊
2000円
 

  <目次>
     *
   かみさまのお通り 6  部屋の中の雲と森 8
   帽子と私 10      真昼の穴 13
   蒼い矢 16       家のぬし 18
   掘る 20        もう一つのことば 22
   すがらない目 25    おしゃべりボンベイ 28
   穴の中ヘ 33      拝観料 37
   五月の氾濫 41
     *
   留守中の客たち 46   坂の上の静かな午後 49
   カニ山で1 52     カニ山で2 54
   ある食欲 56      ザ・リンゴ 58
   並ぶ 64        梅雨の空き家 67
   相似 70        月見おはぎ屋開店事情 72
   蔓 79         風月超高層ビル群 86
   月暦と電話 89
     *
   幽霊さんもごいっしょに 92

   あとがき 98  初出一覧 100  装画/カット 古川ひろし



    かみさまのお通り

   初秋の雨に濡れながら
   人気のない路を歩いていると
   向こうから いきなり
   どおおおおんと音がした
   音は肚に沁みわたり
   心の底の方から涙が湧き上がり
   頬を流れた

   冷たい雨に濡れた頬に
   熱い涙は心地よかった

   やがて 急カーブの路の向こうから
   大太鼓を乗せた山車が
   ゆっくり ゆっくり現われた
   見送るわたしの前を 遠く過ぎてから
   また どおおおおんと鳴ったが
   もう涙はあふれなかった

   かみさまは たった一度だけ
   前ぶれもなく わたしの中を
   お通りになった

 調布市深大寺の著者がお住まいになっている付近を「はなれ里」と称して、其処の「四季」を情感豊かに表出させた詩集です。ここでは巻頭作品の「かみさまのお通り」を紹介してみました。「肚に沁みわた」る大きな「音」は「大太鼓」の音だったのですね。それを「前ぶれもなく わたしの中を/お通りになった」「かみさま」とした著者の感性は見事だと思います。「初秋の雨」という背景も読者を納得させるのに奏功していると云えるでしょう。田上詩の骨格を成す作品であると思います。
 「月見おはぎ屋開店事情」は、自宅を月見の時だけおはぎ屋にして「はなれ里」と名付けた、この詩集タイトルの謂れが判る作品。「幽霊さんもごいっしょに」はエッセイですが、墓場の幽霊までも自宅に招いてしまおうという著者のお人柄がよく判る作品です。田上悦子詩の世界を堪能させてもらいました。




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