きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.10.9 栃木県
道の駅「もてぎ」にて
 

2005.10.7(金)

 仕事に追いまくられて、恒例の金曜呑み会は無し。18時から社外の人と打合せをするようではしょうがないですね。金曜は早めに終わって呑みに行く、というのが理想ですが、ここしばらくは無理なようです。体調も優れないし、打合せが終ってすぐに帰宅しました。




月刊詩誌『現代詩図鑑』3巻10号
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2005.10.1
東京都大田区
ダニエル社 発行
300円
 

  <目次>
   Hard Pops 広瀬 大志 …… 3   日々これ好日      高木  護 …… 28
   暗号        布川  鴇 …… 7   ディスパラテスをわたる 高橋 渉二 …… 31
   アルヒ ヨシオカ ミノル テキナ…      梓川          枝川 里恵 …… 35
            山之内まつ子 …… 11   野川の折り方      岡島 弘子 …… 40
   蒼い夜       中井ひさ子 …… 14   戦記          倉田 良成 …… 44
   俗と/聖と     竹内 敏喜 …… 17   
   セミ        坂多 瑩子 …… 20             表紙画 …… 来原 貴美
   八月の絵日記    佐藤真里子 …… 24                     『秋の里』



    暗号    布川 鴇(ぬのかわ とき)

   寝静まった都市の上空を
   眼球を激しく点滅させ
   言葉だけが
   蒼い仮面をつけて浮遊する

   建物はどれも直線的に屹立し
   他を寄せつけない
   それ自身から発する凍るほどの冷気に震えている

   (人々はほんとうに寝静まっているのか)

   かつては眠らない街区といわれ
   若者たちのたむろしていた広場も消え
   浮浪者たちのダンボールも撤去された
   いつのまにか
   午後の早い時刻から薄闇に包まれはじめた

   久しく絶えていた野犬の遠吠えが
   聞こえてくる
   近くなり遠くなり 遠くなり近くなり
   かつての都市の熱さを呼び戻そうとするかの
   悲痛な叫び声

   震える都市はもうどんな声もあげない
   あらゆるネオンを消し沈黙することで
   身の安全を守っている

   (それは直線的に死んだ街)

   上空を
   言葉だけが
   蒼い仮面をつけて浮遊する

   闇に消えないその色の
   どんな時代にも無傷なまま
   怜悧な目を光らせて
   未来の星に救助依頼の暗号を送り続けている

 「建物はどれも直線的に屹立し/他を寄せつけない」というフレーズにハッとしました。ビルには「他を寄せつけない」ものを感じますが、それは「直線的に屹立し」ているからだと改めて納得します。そういう視点を作者は常に持っているのかもしれません。
 その「眼球」があるからこそ「言葉だけが/蒼い仮面をつけて浮遊」しているのを見破っているとも云えるでしょう。あるいは「未来の星に救助依頼の暗号を送り続けている」、この地球上のものではない生物…。そこまで謂うのは失礼になるかもしれませんけど、フッと勝手に納得してしまう作品です。




井田秀樹氏詩集『考古学の時間』
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2005.9.25
東京都板橋区
ミッドナイト・プレス刊
2000円+税
 

  <目次>
   バンコク 6       扉 10
   待つ時間 14       鎌倉 18
   渋谷 22         一九八三年の誘惑 28
   上野 32         スクムビット通りで 38
   楽土 42         耳環論 46
   雨 50          革命の日々 54
   熊野 58         ひとりの午後に 62
   ノスタルジア 66     亡都 72
   ドルメンの上で鳥が 76  考古学の時間 80

   あとがき 86



    バンコク

   濁った水の中から
   子供たちは海洋生物のように首を出す
   差し延べる手に
   乾いたままの花が
   血の色をきらめかせて
   僕らは舟ごと引きずり込まれていく

   そう
   僕だってかつては
   水の中の住人であったのだ
   地につかない鰭のような足は
   くらい水流を揺らいで
   上ることも、下ることもなく
   逢い引きの場に行きつく前に
   ぬめった板きれのまま
   運河の取水口あたりに打ち上げられて
   寒空の下
   ようやくここまでたどり着いたのだ

   きらびやかなものたちは
   夜ともなると
   恋しさを叫びながら のた打ち回る
   そうやって空に突き上げた
   尖塔を三日三晩 叩き壊し
   丁重に焚かれたかがり火の周りで
   脱アジアの旗手たちは今宵も
   濡れた服を乾かしている
   真ん中で僕の生皮がはぜる音

   僕はどこにいても
   生贄のように縮こまって
   そのくせ
   街が自慢のひとつでもあるかのように
   バンコクの夜を歩き続けた

 著者の第一詩集です。ご出版おめでとうございます。ここでは巻頭作品を紹介してみました。タイに旅行した(あるいは住んでいた?)ときの作品は他に「スクムビット通りで」があり、「ドルメンの上で鳥が」「考古学の時間」も関連するかもしれません。
 第1連の「濁った水の中から/子供たちは海洋生物のように首を出す」は見たままでしょうが、第2連の「僕だってかつては/水の中の住人であったのだ」に繋がると考えると、単なる目撃では済まないように思います。世界の子供の、遊びの共通性と「濁った水」の共通性を感じてしまいます。おそらく読み過ぎでしょうが、そこまでをも要求されているような詩篇と思いました。
 今後のご活躍を祈念いたします。




大場孝利氏詩集『心と感性』
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2005.10.1
宮崎県東諸県郡高岡町
本多企画刊
1905円+税
 

  <目次>
   エレベーター 6   オー ノー 10
   カイン 14      シャワー 18
   スケッチ 22     チョコレート 26
   バラ 30       ラッキー 34
   雲 38        覚悟 44
   還る 48       顔 54
   エネルギー 58    靴 62
   五十センチ 66    魂 70
   水 74        赤信号 80
   雪 86        健康気象情報 92
   電話 96       道 100
   彼岸花幻想 104    鼻 108
   幼女 112       気分 116
   魚 122
     

   あとがき 128    表紙デザイン 大場遊亀



    

   「盗まなかった。殺さなかった」

   手を洗った
   すがすがしさの中で
   ばあちゃんが
   世間の人に
   胸を張る
   並だった
   ばあちゃんの人生の
   記録簿の
   どのページにも
   無罪と
   印が
   押してある

   昨夜の深い眠りの中で
   わたしは
   久しぶりに思いのまま
   空を飛んだ

   朝からの季節外れの
   どか雪が
   続いていて
   ばあちゃんの屋根を
   走っていく

   「雪が落ちた」

   樹が
   身震いして
   やっかいな重さから
   放たれていく

   「ほう」

   いっしょに
   ばあちゃんが
   軽みを得る

   「窓を開けて」

   珍しく
   要求する
   無垢の世界に立ちたがる

   「寒いよ」
   「構わない」

   雪明かりで
   ばあちゃんは
   化粧美人になる

 高齢の「ばあちゃん」(母上)を看取っている作品が集められた詩集です。紹介した作品は「どのページにも/無罪と/印が/押してある」というフレーズに惹かれました。これは息子としてきっぱりと断言できる言葉で、その思いが詩集全体に溢れています。私は母を亡くしていますので、このフレーズは納得できますし、よくぞ言ってくれたという思いを強くしています。
 最終連の「雪明かりで/ばあちゃんは/化粧美人になる」というのも佳いですね。母子の愛情が素直に伝わってきた詩集です。




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