きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.10.9 栃木県
道の駅「もてぎ」にて
 

2005.10.15(土)

 今日も一日臥せっていました。相変わらず咳も止まらず痰もひどい…。ふと気付いたのですが、そういえば酒を呑んでいない…。毎晩寝る前に日本酒を2合か、焼酎麦茶割りを3〜4杯ほど呑むのがここ30年ほどの習慣です。呑むのを忘れて寝てしまうなんて我ながら信じられません。よほど体調が悪いのだなと、ヘンところで自覚させられました。




川野圭子氏詩集かいつぶりの家
          
 
 
 
 
 
2005.9.30
東京都新宿区
思潮社刊
2600円+税
 

  <目次>
   重たい布団
   お産 10           花卉草木類 12
   レタス幻想 14        にわとりと 17
   金魚と話す 20        訪ねてきた象 22
   わに 25           キャベツをきざむ 28
   せっかくの料理 30      重たい布団 32
   鳴り止まない音楽 34     呼び声 36
   消える母 38         吸う 40
   木の上の魚 42        オレンジ色のへび 45
   蛭男 48           ファイバーフラワー 50
   食らう 52

   初夢
   初夢 56           白梅 59
   藤 61            すずかけ 63
   紅まんさく 66        棒針編み 69
   大甕 72           きれぎれ 74
   宴(うたげ)の外 77      赤いビードロ 80
   光る石 84          森甲羅坂(もりごうらざか) 86
   ビンづめ 89         コーラス 91
   語学教室 94         スプレー 97
   小女子(こうなご)の酢漬け 99 やもり 102
   亡命 105

   銀鱗
   唱う家 110          銀鱗 112
   大荷(おおに) 114       池 116
   まえら 118          水たまご 120
   輪切り 123          ピンクのねずみ 124
   かいつぶりの家 126      鍵穴 128
   目 130            ひな菊 132
   つくし 134          千の目千の耳 136
   へそ 138           ジャム売り 140
   カラス嘴が追ってきた 142   ひめい 145

   あとがき 149     装幀=倉本 修  栞・倉橋健一



    かいつぶりの家

   夥しい数の羽虫や微塵のほこりが
   降り積もる
   隣に寝ている子供たちの上に
   網戸はきちんと閉めたのに

   こんもり盛り上がった布団の具合は
   中学か高校生だったころか
   確かに生きてあるのに
   微動だにしない
   古びた旅芝居の大道具のように

   夜の沼でかいつぶりが低く鳴いている
   朽ちはてて遠い
   草の浮き巣が
   日の底に浮かんでは消えた

   ふりつむ ふりつむ
   乾いたほこり 失われた時

   わたしは隣で
   もう一人 子をはらんだ

    *かいつぶり 湖沼や川に棲む水鳥。折枚や葦や水草を使って水上に「鳰(にお)の浮き
           巣」を作る。巧みな潜水で羽虫の幼虫や小魚などの水中生物を補食する。

 タイトルポエムを紹介してみました。「こんもり盛り上がった布団の具合」が「かいつぶり」の「草の浮き巣」に繋がっているのかもしれません。あるいは「夥しい数の羽虫や微塵のほこりが/降り積もる」「わたし」の家そのものが「かいつぶりの家」という喩になっていると考えても良いでしょう。
 最終連の「隣」の意味は難しいのですが、「隣に寝ている子供たち」の「隣」と採りました。現在の詩人の中では飛びぬけて奔放なイメージが表出する、おもしろい詩集です。2005年の記憶すべき詩集でしょう。




佐野千穂子氏詩集ゆきのよの虹
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2005.10.17
東京都千代田区
花神社刊
2000円+税
 

  <目次>
   須磨の小景 6   ゆきのよの虹 8
   冬のギヤマン 12  白梅日傘 14
   合歓 18      著我 22
   返信 24      雉 26
   腐葉土 30     朝の栄光 34
   冥加なモネ 36   函の色 40
   火遊び 42     天体螢 44
   あじさい 46    縫われる 48
   こけし人形 52   ひがんばな 54
   前の世の虫 58   あきつ便り 62
   紅葉 64      沈ませる 66
   籠り蟹 68     内海 72
   夏至点 74     黒い森 76
   松の葉 78     送り風 82
   遠い地平 86

    あとがき 90



    ゆきのよの虹

   あなたの元へと急ぐ足どりにもにて
   ふりつのるよるのゆきよ
              
*
   小夜を舞うちいさな六つ花を優しむうちに
   いつのまにやらわたしは若き日の
   明日香の地
(つち)におりてゆくひとひらの偲びゆき

   紅白とやらの うた仕合いなどなかった
   つつましい年じまいのよるのそのゆきが
   あつらかにふりしいていきました

   白がねの静まりに澄
(しま)せておをひく百八つ
   詣でる斑鳩のみ寺の土塀に背なをあづけて
   余韻に黙すあなたとわたし

   ほんに唐突ですけれど   
**
   ――虹二重神も恋愛したまへり――
   この句好きですの

   句にお座す神を支えに
   柏逢うているこのわたしにはさやかにも
   よるたつなんぞありえぬ虹がみえております

   豊穣の兆しとぞいう白い賜りものを戴いて
   あわあわと 年の旦
(あした)へと懸けわたす
   ひとえ いいえ ふた重なるゆきよの虹

                     
 * 雪の古語
                     
** 津田清子。句集『礼拝』より

 詩集のタイトルポエムです。「ゆきのよの虹」は雪の夜の虹≠ニ解釈できていたのですが、なぜ雪の夜に虹が?と疑問でした。「よるたつなんぞありえぬ虹がみえております」という意味だったのですね、納得しました。
 この作品もそうですが、日本語の美しさに魅了させられた詩集です。「六つ花」、「あつらかにふりしいて」なんて言葉にはウットリさせられます。後者は厚らかに降り敷いて≠ネんでしょうね。粗野な日本語があふれる中、清々しい思いのする詩集です。




佐野千穂子氏詩集消えて候
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2005.10.17
東京都千代田区
花神社刊
2000円+税
 

  <目次>
   新しい景 6     冬の客人 10
   初鳴き電話 14    庵室 20
   ばらの功罪 22    白い黒坂 24
   消えて候 28     散らずじまい 32
   星祭り 38      転生の日 42
   夜の水鏡 48     炎明かり 52
   編む 56       折れ筆 62
   慕い虫 66      不登校み返りの雪 68
   ごもっともさま 72  一筆箋 76
   晩なつの夜の夢 80  白い部屋 84
   二つの大学 88    抱く 90
   耳 94        からくれなゐ 98
   竹の秋 102

    あとがき 106



    消えて候

   夜もおそくタオルを無造作にさげた
   お風呂帰りの学生さんとすれ違う瞬間
   さわーっと匂うしゃぼんのにおい
   もう あの残り香に会えません

   銭湯がとりこわされました
   けれども 日毎夜毎 湯気にしめった
   定番の山のふじさんが
   陽光
(ひかり)に濯(あら)われながら残っています
   せいせいと野なかでひろげるおにぎりが
   おいしいように
   更地に裾曳く凡庸のふじさんが妙に美味しい

    へン お富士さんだって?
    第一あのポーズが気にくわないよ
   目一杯 山に悪態ついて戦後を詩った深尾須磨子よ
   あれから 五十余り巡る夏の昼時
   今日のうちにも ごみくたになるふじさんを
   愛しくわたしは視つめて――
   お山と一緒の湯の場を失い きれいさっぱり
   一日を仕舞う事ができなくなったアパートぐらしの若者らの
   今夜を思うています

   ここは二つの大学がある町 一軒だけの
   お風呂屋さんが時代
(とき)のはざまに消えました
   よかぜ すずかぜ においみち
     あーあ あの残り香も古典に

 こちらもやはりタイトルポエムを紹介します。「目一杯 山に悪態ついて戦後を詩った深尾須磨子」は有名な話のようですが、私は書物の中でしか知りません。こうやって作品化されるということは、それなりの話だったのですね。
 「お風呂屋さんが時代のはざまに消え」る時代は「あの残り香も古典に」なるのだなと思います。と言うより「あれから 五十余り巡る夏」を過ぎても「定番の山のふじさん」が残っていた方が奇跡なのかもしれません。今の学生はバスルーム付きのワンルームマンションが標準なんでしょう。「せいせいと野なかでひろげるおにぎりが/おいしいように/更地に裾曳く凡庸のふじさんが妙に美味しい」という喩が絶妙な味を出している作品だと思いました。




二人詩誌『夢ゝ』23号
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2005.10
埼玉県所沢市
山本 萠氏方・書肆夢ゝ 発行
200円
 

  <目次>
   木彫り 山本 萠
   R   赤木三郎
   初秋  山本 萠
   人質  赤木三郎
   あとがき



   わたしに 触れようとするな
   (風景はいつもそういっていた)
   来てはいけない
   ともに くらすのでなければ
   (風景はいつもそういっていた)
                          (あ)

 紹介した作品は「あとがき」として書かれていたものです。(あ)とありますから赤木三郎さんの作と思って良いでしょう。「いつもそういっていた」のが「風景」になっていますが、人間の異性でも良いですね。「触れようとするな」「ともに くらすのでなければ」と考えるとピッタリです。しかし、それは俗な私が考えることで、作者の意図はやはり「風景」なんでしょうね。それにしても「あとがき」にしておくなんてもったいない。私なぞここからむりやり水増しして詩らしきものにしてしまいそうです。「あとがき」として残せる余裕がうらやましいですね。




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