きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2005.10.9 栃木県 | ||||
道の駅「もてぎ」にて | ||||
2005.10.20(木)
今日は朝からちゃんと会社に行きました。2日休んで復調したようです。
○ヤマモトリツコ氏詩集『鏡の中の刺し傷』 |
2005.10.20 | ||||
高知県高知市 | ||||
ふたば工房刊 | ||||
1800円+税 | ||||
<目次> 新世紀(表紙写真)
愛を食べるカナ
愛を食べるカナ 8 夏の影 11
庭 12 水 14
路地裏 15 蒸しタオル 16
眠り 18 遺伝子 19
幸せコンプレックス 20 血 23
声 24 不在 26
宝物 29 落葉 30
遠い空 31 海 32
カナと僕 34 せみしぐれ 36
夏の終わり 37 そして雨 38
湖 40 路 41
ひとりあそび
鏡の部屋で夜の部屋で 44 チューインガム 48
ひとりあそび 52 鏡の中の刺し傷 54
鏡の中の刺し傷 Vol・2 55 おとなのままごと 58
トルソ 59 赤い夏 60
早春賦 62 赤い月 63
部屋 64 恋唄 66
木枯らしのむこうがわで 68 灯 71
小さな魚 72 夜 75
くもりがらす 76 曇硝子 80
壁 81 井戸 82
あとがき 84
宝物
大切なものを失ったことと
大切なものを持たなかったことは
どちらが不幸なんだろう
大切なものがほしかった
大切なものができたら
生きているのが怖くなった
大切なものは力より不安を掻き立てる
著者は写真展を何度もおやりになっているのでプロの写真家なのかもしれません。写真と詩のコラボと云った詩集です。しかし、全ての詩作品に写真が添えられているというわけではなく、本の趣旨はやはり詩です。
紹介した詩作品は最終行の「大切なものは力より不安を掻き立てる」というフレーズに魅かれました。人間の精神的な背反二律を見事に表現していると思います。写真展での作品に詩的なタイトルを付けるのは意外に難しいものですが、著者はそれができる、本質的な詩人なのだと納得させられた作品です。
○近藤起久子氏詩集『レッスン』 | ||||
2005.10.20 | ||||
東京都葛飾区 | ||||
ジャンクション・ハーベスト刊 | ||||
1800円 | ||||
<目次>
音叉 10 残響 14
浮き 18 波 22
デッサン 26 感光 30
タトゥ 34 いや地 38
シャッター 42 ファインダー 46
和音 50 倍音 54
スペース 58 破片 62
予報 68 レッスン 72
感光
フィルムケースを開けて
駄目にしてしまった
それで
わたしのなかに
残ったままになった風景
こんなふうに
雨が降って
雲が流れ
ふちが光っていた
その日から遠く離れ
画面が端からぼやけていっても
なお残る
ワンカット
視線をそらした横顔
丁寧に組んだ指
声さえも
やわらかく感光して
写真は記憶を「感光」させるものだと思っていますが、「フィルムケースを開けて/駄目にしてしまった」場合は「わたしのなかに/残ったままに」記憶しておくしかありません。しかし、それは「声さえも/やわらかく感光」させておくことが出来るものなのですね。この最終連が印象的です。私は生業で「フィルム」を生産する工場に勤めています。今はその仕事から離れていますけど、いかに奇麗に「感光」させるかを研究していた時期がありました。「声さえも/やわらかく感光」させるのは考えもしませんでしたが、それは詩人の仕事なのだと気付かされた作品です。
○笹本征男氏詩集『いずも』 | ||||
2005.10.30 | ||||
東京都新宿区 | ||||
土曜美術社出版販売刊 | ||||
1600円+税 | ||||
<目次>
蝶 6 母へのことば 8
原風景 10 ハックルベリーフィンの夜 12
ザクロ色 14 撫順 16
コウちゃん 18 原初の力 20
タロウ、たろう、太郎…… 22 女 24
朝鮮人の同級生 26 黒い塊 28
繁ちゃん 32 伯母の手 35
五十本の唐傘の贈り物 39 築地松 42
戸惑い 44 宮地嶽 46
川原の牛 48 裏山のほの明るさ 50
楮蒸し 52 秋の空の色 55
炭屋のお兄さん 57 戦争遺児、勝ちゃん 59
一本のサーベル 61 姉妹 63
母の母 66 シベリア抑留漫画 69
山村の空のジェット 71 金君 72
山中さん 73 亀屋のおじさんの饅頭 76
小さな骨壷 80 研石に寝かされて 82
山屋の井戸水 84 敵意のないひと言 87
旅回り一座の少女 90 奪う 92
『いずも』に寄せて 石川逸子 96
詩集『いずも』に思う 高二三 100
あとがき 102
蝶
古びた伯父の雑貨店の三輪車の荷台の上
父の棺の傍に母と私が座る
二十歳の八月の終わり
揺れる道は私の小学校の通学路だ
父の遺体を焼きに行く
小学校の横の山の中腹に穴を掘っただけの火葬場がある
授業の時、遺体が何度かそこで焼かれ
強い臭いが漂った
三輪車は校門の夜道を上り
校庭で棺は下ろされ、担がれて山の中腹に上がる
穴に置かれた棺
傍にたたずむ母と私
棺に火がつけられる
父が結婚を世話した良人兄さんが棺の傍に残る
眼前を舞う一羽の蝶
母と私は焼けていく棺を後にして自宅に帰る
眼下に校庭が見える
(二〇〇二年十一月三日、記)
60歳になっての第一詩集です。しかも驚いたことにそれまでまで1編の詩も書いたことはなかったそうです。作品には制作の日付が添えられており、それによると2002年11月3日から26日の短い期間に集中していることが判ります。癌で入院していた時期と重なります。詩集タイトルの「いずも」は島根県生まれであることに由来し、それ以上の意味はないとあとがきにありました。
紹介した詩は巻頭作品で、おそらく生れて初めて書いたものではないかと思います。情景描写の的確さと「蝶」の扱いの巧みさに、生来の詩人であることが証されていると云えましょう。今後のご活躍に期待しています。
○詩誌『詩と創造』53号 | ||||
2005.10.20 | ||||
東京都東村山市 | ||||
書肆青樹社 発行 | ||||
750円 | ||||
<目次>
巻頭言 写生論(一) 辻井 喬 6
詩篇 またも絶望の稲妻が… 原子 修 8
雀ごろしは人ごろし 尾花仙朔 10
ニンゲンモドキに捧げるステキな盆踊り唄 嶋岡 晨 13
かあ 松尾静明 16
「ダリヤ」(一九三五) 山本沖子 18
色彩の水溜り 笹原常与 20
コンドル 井奥行彦 23
人格症候群(ペルソナ・シンドローム)−紙の碑vox 内海康也 30
妬心 西岡光秋 28
足許の緋色の花 清水 茂 30
真夜中にオールを漕いで 鈴木有美子 33
禁域 こたきこなみ 36
たわいない話 内川吉男 38
イチョウの木と男 なんば・みちこ 42
「今日」という日は 親友K・Yに やまもとあきこ 46
狐 酒 納富教雄 49
風と探索 たかぎたかよし 52
発見 −倒産記−/所作 山本十四尾 54
洞窟から 丸地 守 56
小特集 三十、宴は終わった
チェ・ヨンミ(崔泳美) 韓成禮訳 59
詩集評 現代詩とは何かを問う―亦は反現代詩の位相について― 溝口 章 64
現代詩時評 一九五〇年代以後の「英米の詩」から見る日本の詩界 古賀博文 72
アフォリズム 〔アフォリズム〕詩論まがいの断章集 嶋岡 晨 80
エッセイ 屹立する精神 シェイマス・ヒーニー (訳)水崎野里子 82
感想的エセー「海の風景」W 岡本勝人 89
海・フェリーニ 橋本征子 94
Αροτησ(アロテース)――詩人であるということ(3) 森田 薫 100
この詩人・この一編 草野心平の詩「ごびらっふの独白」 日高てる 104
―中原中也「夏の日の歌」― 福田万里子 106
海外の詩 膝/靴を磨く少年他 チョン・ホスン(鄭浩承) 韓成禮訳 109
道行く人よ、きみは知りたいか イヴ・ボヌフォワ 清水茂訳 112
詩集『カラス』より テッド・ヒューズ 野仲美弥子訳 124
『エミリィ・ディキンスン詩集』より(十) 岡隆夫訳 128
詩集『ぼくは書きたいのに、出てくるのは泡ばかり』(一九七二)より
ペドロ・シモセ 細野豊訳 132
推薦作品 「詩と創造」2005秋季号推薦優秀件品
尼 石下典子 138
無闇な夜に 山之内まつ子 141
可燃物の朝 清水弘子 143
水 牢 岩下 夏 146
ごきげんよう 真崎希代 149
研究会作品 掃除をする女 高橋玖美子/湖 弘津亨/冬の鳥 豊福みどり 152
天秤皿 岡山晴彦/今宵の月 金屋敷文代/秤 仁田昭子
ぬけがら 仙波枕/田園 山田篤朗/さくら 吹野幸子
選・評 山本十四尾
全国同人詩誌評 評 山本十四尾 160
青春青樹社の本 評 こたきこなみ 163
書評
妬心 西岡光秋
この世でいちばん見えないもの見えにくいものは 人の心の
奥底に巣くっている他人をねたむどろどろとした嫉妬心の文様
である さながら葦などの草が繁って水面が見えない隠沼の
ひっそりと息をつめた神秘な正体不明の表情 うす暗くじめじ
めと湿った人間の心のひだの湿地帯の花 わたしもその一輪を
持って日夜灰色の花びらを育て咲かせ散らし また育てている
一九七九年夏 韓国仏跡の旅の二日日のことである 戒厳令
下の漆を流したような真っ暗闇の町通りを 居酒屋で二次会を
終え儒城のホテルに帰る途次 南川周三がぼそりと何かを呟い
た 俳句だった 〈男には男の妬心懐手〉とゆっくりと言葉を
たしかめながら ぼくはこの句が好きでねえ 作者は誰か知ら
ないけれどと言い闇の中のわたしの眼をのぞき込もうとした
男の嫉妬心は女と違ってじっと我慢と意地の塊の嫉妬心だから
な わたしは彼にそうこたえ 句の味わいをたしかめるように
うなずいた
その夜 ベッドに入ってから わたしはさきほどの句をいく
ども口中で転がした そして或ることに気付いた ひょっとす
ると彼の嫉妬心は親しい友人であるわたしに向けられたもので
はないかということである 競い合って苛酷なこの世を生きて
行くための協奏曲を 周三はわたしにそれとなく告げたかった
のではないか あすの朝はソウルに発つ わたしは大きく息を
吸い深い眠りについた
「男には男の妬心懐手」は佳い句だと思います。「男の嫉妬心は女と違ってじっと我慢と意地の塊の嫉妬心」というのはその通りで、それが「懐手」に良く現れていると云えましょう。その句を巡る「南川周三」氏と「わたし」の微妙な関係が生きて表現されていて、人間を描いているなと思いました。「競い合って苛酷なこの世を生きて/行くための協奏曲」は私の世代にも引き継がれているようで、味わい深い作品です。
○個人詩誌『点景』30号 | ||||
2005.10 | ||||
川崎市川崎区 | ||||
卜部昭二氏 発行 | ||||
非売品 | ||||
<目次>
鴉(カラス) 卜部昭二 1
ウシガエル 卜部昭二 2
火氷譚 卜部昭二 3
つれづれ記 U 卜部昭二 4
カラス
鴉 卜部昭二
花も枯れ野も枯れ
水もかれ山も木々も
骨ばんだ
まっくろい鴉の乱舞
鴉の輪舞
その狂気
おまえらの灰色哲学が
実証されたよろこびの
絶頂の時なのか
「鴉の乱舞/鴉の輪舞」は「灰色哲学が/実証されたよろこびの/絶頂の時」とする視点がおもしろい作品です。前段の「骨ばんだ」は「水」も含めているところが新しいと云えるでしょう。短い詩ですが内容の濃い作品だと思いました。
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