きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.10.9 栃木県
「ツインリンクルもてぎ」にて
HONDA CB250
 

2005.11.2(水)

 休暇を取って嫁さんを病院に連れて行きました。昨日の交通事故から一夜明けて少しは快復するかと思ったのですが、変り映えしません。眩暈がひどいので、昨夜の医師の助言に基づいて午前中は耳鼻咽喉科。しかし、ここでは異常なし。午後は脳神経外科に行ってMRIやら精密CTを撮ってもらいました。が、ここも異常なし。あえて病名をつけると「内耳振盪」だと言われました。要は転倒のショックで三半規管が振動してオカシクなったということのようです。対処は安静にすること。
 ま、たいしたことがなくて良かったけど、朝9時から夕方4時まで昼メシも食べないで付き添って疲れました。これで少しは株が上がるといいんだけど、日頃の己の行いを振り返ると無理だろうなと思います(^^;




機関紙『漉林通信』3号
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2005.11.10
川崎市川崎区
漉林編集室・田川紀久雄氏 発行
200円
 

  <目次>
   エッセイ その名は駅猫 坂井のぶこ 1
        パンドラの匣 田川紀久雄 1
   詩    道化師3   田川紀久雄 2



    道化師3    田川紀久雄

   道化師の涙は笑いを誘うなみだ
   梯子を踏みはずし転げ落ちる
   足を引きずりながら道化して見せる
   泣いている様子をみて
   お客は高笑いをする

   空中ブランコに乗ろうとするが
   足元が振るえなかなかブランコの紐を握れない
   それでもブランコに乗ろうとする
   やっと乗ってみたが危なっかしい
   それみろと
   ブランコの揺れる途中で下の網に落ちる

   またロープを伝って
   ブランコに乗ろうとする
   相変わらず足元が振るえている
   ブランコの紐を握ろうとするがなかなか掴めない
   お客はまた落ちるものと思っている
   やっとの思いでブランコに乗れた
   向こう側に乗り移ろうとするが思うようにいかない
   お客ははらはらする
   そら落ちるぞと思った瞬間
   道化師は見事に反対側に乗り移れた

   道化師はお客の期待を即座に裏切ることが商売
   そのことをお客に感じられることなく
   何気なく行う
   道化師の笑いは無垢で自然なもの
   決してお客に感づかされることのない笑いでなければならない
   道化師は他のサーカスの団員より稽古に励む
   サーカス小屋の売上げは
   道化師の肩にかかっている
   なぜなら
   サーカス小屋の団長は道化師であるからだ

   今日も化粧をしながら
   お客の笑い顔を思い浮かべる
                  (二〇〇五年六月二十二日)

 私も何度かサーカスを観たことがありますが、ピエロは確かに「お客の期待を即座に裏切」りますね。そして「お客に感じられることなく/何気なく行」っているのだと思います。「サーカス小屋の売上げは/道化師の肩にかかっている」のもその通りだろうと思います。しかし「サーカス小屋の団長は道化師である」とは思い至りませんでした。全てのサーカスがそうかどうかは判りませんが、そんなところも多いのだろうなと、作品を拝読して想像しました。説得力のあるフレーズです。




詩と評論・隔月刊誌『漉林』128号
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2005.12.1
東京都足立区
漉林書房・田川紀久雄氏 発行
800円+税
 

  <目次>
   詩作品
   硝子・空………………………………野間明子 4
   ビーチホテル…………………………池山吉彬 8
   やぎさん郵便…………………………成見歳広 11
   零れ落ちる・他一編…………………遠丸 立 14
   〈日常〉へ――15……………………坂井信夫 16
   相場石の伝説………………………坂井のぶこ 19
   道化師(15)………………………田川紀久雄 22
   のりと………………………………須藤美智子 25

   俳句
  
 肉 感…………………………………保坂成夫 16

   エッセイ
   島村洋二郎のこと……………………坂井信夫 30
   詩話りへの誘い……………………田川紀久雄 37
   自己凝視から自由へ…………………地引 弘 43
   思春期の子どもたちとともに……須藤美智子 48
   朗読研究会の参加を通して…………野間明子 50
   詩誌評について……………………田川紀久雄 54
   現代の畏れ…………………………坂井のぶこ 56
   介護保険新制度の落とし穴………田川紀久雄 60



    相場石の伝説    坂井のぶこ

   彦江門は大股で駆けていく
   藤池村から仇坂峠を越えて岡田までいっきに抜ける
   青空が行く手に広がる
   松本の町まではあと一里
   相場石の占いは強気と出た
   お前の野望はあの家でかなうだろう
   博覧会で賑わう天主近くの坂井の家で

   彦江門の明治は相場と共にあった
   「お前の曾おじいさんは怖い人だったよ。お金にこまかくてね」
   物皆金になり 相場に化ける
   一木一草一個の石さえも
   蚕種の商売には眼力と非情さがいる
   義父を追放し
   先祖代代の法華宗を神道に切り替え
   日清戦争に従軍して勲章を授かり
   彦江門は進む
   時代の波に乗り 雲に乗り
   竜の如くに空をゆく
   「朝一番に神様に祝詞をあげて、自分ではたきをもってね、先頭に立って掃除をしてあるく。
    味噌汁の実ひとつも家族の思いどおりにはさせなかった」
   「藤池村にあった岩淵城の城主の子孫。
    ぐるりに堀と石垣がある大きな家の次男坊だった」
   維新は余計者にもチャンスをもたらす
   金儲けの夢が大きく弾み出す
   もう誰にも次男の分際でとはいわせない
   天井が取り除かれた開放感
   目の前には果てしない青空がひろがっている
   お前の成功譚は明治維新と共に始まり
   大日本帝国の消滅と共に終わった
   餓死という形で
   「彦江門おじいさんはね、闇で買ったものは絶対口にしなかった。
   栄養失調で死んだのさ」
   そのころ軍人となったお前の息子は朝鮮半島の突端で
   なすすべもなく風に吹かれていた
   それから六十年後の八月十九日
   ひ孫の私は浜川崎の地
   二階の部屋の日に焼けた畳のうえでこれを書いている
   今日からTホテルに清掃の仕事をしに行く
   屋根が焼ける
   窓枠のアルミも焼ける
   まだ八時だというのにアスファルトの溶ける匂いがただよってくる
   お前の曾孫はでくのぼう
   新生日本の片隅のかたすみで駅猫やタイワンユリなどを友達にして
   ひっそりと生きている
   相場石にかける姿はもう見飽きたんだ
   と いうことにしておこう

    相場石(東筑摩郡立峠)
     松本市の北一里、峠の南側には相場石と呼ばれる岩石が、幾千とも数知れず、山の上から下の道端まで、だらだらと崩れ落
    ちて、重なり合っている。其の下の方の小石を拾って、山の上に投げ上げて見るのに、生糸の相場の上がるときには、石が、
    上のほうに上がったきり落ちてこないが、下がるときには、下まで転がり落ちてくる。(石はひとりでに上り下りするので、
    自ずと角がとれて丸くなっているという)で、石が、山の上で、ぴたと、一つところに止まった時は、天井値段を出す前兆で、
    一変動いて止まる時は、相場出直る前兆、すべるように落ちてきたら、相場もすべるし、落ちて来た石が、下の石まで崩す時
    は、相場も崩れる、という。で、糸と蚕種の相場の上げ下げに、心を痛むる糸師連は、ここの相場石の変動によって、その日
    も強気弱気を見越して、相場を手合いするということである。「日本伝説 信濃の巻より」

 一族の記録とでも謂いましょうか、事実か否かは別にして小説を読むような面白みがあります。「維新は余計者にもチャンスをもたら」したという側面もあったのだなと気付かされます。でも「闇で買ったものは絶対口にしな」いという律儀さを持っています。それは「ひ孫の私」にも遺伝しているのかもしれません。
 それにしても「相場石」というのは面白いですね。相場なんて今も昔も変わらないでしょうから、現在の「相場石」は何かなと想像しています。変わったもの、変わらないものが透けて見える作品だと思いました。




『田川紀久雄全詩集』第二巻
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2005.12.10
東京都足立区
漉林書房刊
3500円+税
 

  <目次>
   失われた風景
   崩れた家族 10            葉を抜く 12
   別れ話 14              魂の叫び 17
   もうすぐ漉林四十五号が出きます 19  雪が 21
   子供を返せ 22            ふらふらと 24
   これでいいのですね 27        今風は 29
   燃える海 31             妹よ! 子供たちよと 33
   死んではならない 35         妹よ! いま私は 38
   美しい風景 39            誕生 41
   一歩前に 44             宇宙 46
   加藤正義は愛である 50        画家になる 53
   落書帖より 55            光る目 57

   風の唄
   永遠に語りを 62           安住の地 63
   少しだけお金が欲しい 65       風と一緒に 67
   豊かさに祈りを 69          ダダをこねる妹 71
   高志の国はまだ燃えているか 74    薄氷の上を歩く 76
   二月みぞれ降る西荒井橋で 78     いざ立ち上れ  79
   父と子 81              長男よ 84
   こうして生きています 87       園長さんの死 89
   祈り 91               血染のコートを着て 94
   青い地球 96             うさぎを殺さないで 98
   四十九才の日 100           神の穴 103
   風の唄 105

   一つの愛に向けて
   1 個展に向けて撃て! 112      2 一九九一年六月十二日は異常な暑さです 114
   3 絵はわたしの生命(いのち)だ 116  4 今は耐えていくしかない 118
   5 苦しみの中で 120         6 息子よ! 123
   7 阿部薫の後ろ姿 126        8 個展は終った 129
   9 何処に行けばいいのだ 132     10 氷見敦子全集を買った日 134
   11 旅への始まり 136         12 助けて下さいと声をあげる 138
   13 アカシアの雨 141         14 今日も詩語りをいたします 144
   15 滅びる前に 147          16 美しい涙を 149
   17 戦後の中で 151          18 霊場めぐり 153
   19 私は負けはしない 156       20 一つの愛に向けて 158
   21 生きることは 164         22 自然こそ 166
   23 心をうつ詩人に会いたい 168    24 祈りの旅 171
   25 心を開いて前を見なさい 173    26 三弦の音が一つになって 174
   27 Yさん、お元気で 177
   (詩誌に発表のときの題)



    安住の地

   魂だけを信じて絵を描くのです
   絵に絵が楯びてはいけません
   つねに無垢になりきっていなければならないのです
   形の奥に隠れている本当の生命
(いのち)を見出さない以上
   一歩も前にすすんではいけないのです

   詩の語りを行う時も
   絵を描く時と同じ気持です
   書かれた文字を追うのではなく
   言葉一語一語に隠されてある生命の響き合う場を求めて
   言葉が発せられなくてはなりません
   語るのではなく
   生命
(いのち)の叫びを求めて
   魂の奥深くわけ入っていかねばなりません
   そうでなければ
   本当の感動など生れてはきません
   安易な感動を求めて発せられる声は聴くには耐えられません
   ひたすら自分の魂の状況を
   適格にみさだめ
   生命
(いのち)の根源に下りていかなくてはいけません
   人の心など気にしていたら負けです
   自分が生きること
   より確かな自由を求めて
   旅人のように
   自由に歩いていかねばならないのです
   絵も
   詩の語りも
   自分の生きてきた証を決して裏切りはしないのです
   その場のみが
   私の帰れる所なのです
   そこが安住の地なのです
   だから私はすべてから自由になって生きていたいのです

 全詩集第2巻には1989年の第8詩集『失われた風景』、1991年第9詩集『風の唄』、1994年第10詩集『一つの愛に向けて』が収録されています(刊行はいずれも漉林書房)。紹介した詩は『風の唄』からのものですが著者の基本的なモノの考え方が良く伝わってくる作品だと思います。「絵に絵が楯びてはいけません」、「書かれた文字を追うのではなく/言葉一語一語に隠されてある生命の響き合う場を求めて/言葉が発せられなくてはなりません」などのフレーズに共感します。その結果として「より確かな自由」があるのかもしれませんね。ここは因果ではなく並行な思考と捉えるべきかもしれませんが、私にはそのように感じられた作品です。




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