きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.10.9 栃木県
「ツインリンクルもてぎ」にて
HONDA CB250
 

2005.11.15(火)

 普通に出勤したのですが朝のうちから調子が悪くなり、休暇にして10時で帰宅しました。ここのところ復調気味でしたので、気を許して出張したり日本詩人クラブの例会に出席したりしましたから、その疲れがたまったのかもしれません。帰宅してからはベッドに転がって、そのまま夕方まで眠ってしまいました。




隔月刊詩誌RIVIERE83号
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2005.11.15
大阪府堺市
横田英子氏 発行
500円
 

  <目次>
   天気予報              正 岡 洋 夫 (4)
   区切り               戸 申 和 樹 (6)
   弥生の昔の物語(36)―流れる―    永 井 ますみ (8)
   一番星               水 月 と も (10)
   夢                 森   かおり (12)
   上町台地(1)            殿 井 善 隆 (14)
   悔い                後   恵 子 (16)
   剃髪式               ますおかやよい (18)
   小休止               石 村 勇 二 (20)

   RIVIERE/せせらぎ          (22)〜(29)
    河井洋/石村勇二/釣部与志/永井ますみ/横田英子

   出口                当 間 万 子 (30)
   尋ね人               壷 野 つづみ (32)
   縄文の跡              平 野 裕 子 (34)
   津山にて              藤 本   肇 (36)
   話半分で              松 本   映 (37)
   過渡期               安心院 祐 一 (40)
   品玉よ廻れ それから        釣 部 与 志 (42)
   風が吹くと桶屋が儲かるか      横 田 英 子 (44)

   受贈寿誌一覧                    (46)
   同人住所録                     (47)
   編集ノート             横 田 英 子 (48)
        表紙写真・釣部与志/詩・横田英子



    弥生の昔の物語(36)    永井ますみ

     流れる

   母さんの住む里の
   産み小屋で
   流れて行った女の子
   この世の風に触れても 泣きもしなかった

   私の手にも触れさせないで
   母さんは
   どこかへ持って行こうとしている
   まってごしない

   黒い濡れた髪
   うっすらと閉じた目
   手と足をくっと曲げている
   あお白い肌を夕陽にさらして
   生きているようにあかい
   今度出会った時に
   たしかにその子と分かるように
   私はじっと見た

   壷の底に穴を開けて
   その子を入れる
   小さな小さな女の子

   今度生れる時にまちがえないように
   私たちの住まう
   掘っ立て小屋の傍に埋ける

   まんだかや
   まんだかや
   その子がすっかり溶けて
   神さまの元へ帰らない内に
   私は腹にもう一度
   孕みなおすつもりだ

   女の子は
   人たちの命を繋いでいくものだから

 連載「弥生の昔の物語」も36回目を迎えました。今回は流産した「女の子」について書かれていますが「壷の底に穴を開けて」というフレーズでハッとしました。先日、博物館で弥生時代の壷を見る機会があって、その中で底に穴が開いている壷を見つけました。何のためにわざわざ穴を開けているのか疑問だったのですが、この使い方と関係があるのかもしれませんね。
 「私は腹にもう一度/孕みなおすつもりだ」というフレーズにも驚いています。この発想は男にはありません。もちろん孕むことはできませんが、孕ませるという発想にも至らないだろうと思います。「人たちの命を繋いでいく」女性の強さを垣間見た思いです。そうやって「弥生の昔」から人類は延々と生き延びてきたのかと感じた作品です。




西村啓子氏詩集『途中までの切符』
         
 
 
 
新・現代詩新書シリーズ4
2005.11.1
横浜市港南区
知加書房刊
1100円
 

  <目次>
   序 出海渓也 …6

   途中までの切符 …8  犯人 …11
   慰斗がらす …14    クロマグロ …17
   循環するもの …20   秋の御嶽山にて …24
   メディア …28     過去からの連絡 …30
   奇妙な都市 …33    順路 …36
   未遂 …39       暑い夕ベ …40
   みずくらげ …44    迷い …47
   おもちゃ …48     名画 …51
   明かりを消して …52  ある日の電車 …56
   風化 …59       さざれ石の …60
   切れない話 …64    甘藷忌 …68
   道 …71        乱視 …72
   砂浜 …75       龍の樹 …76
   同窓会 …80      レンズの選び方 …82
   新型テレビ …85    寝そべる男 …88
   花壇 …90       真っ赤な絵本 …92

   ・あとがき …98    カバーデザイン 西村弘美



    途中までの切符

   同じアパートに住むミホは ほんとうにがんこだ
   「かあちゃんはきっと極楽へ行ったよ」
   何べん言っても苦渋が鼻の両側から歩み出す

   線香を上げてくれたみんなの前で
   「これでかあちゃんもやっと楽になれました」と
   けなげに挨拶したミホだったのに

   理由はこうだ
   ミホのかちゃんが死んでから半月ほどあと
   ミホの上司である係長の父親の葬儀があった
   立派な斎場に入ると 正面に花に囲まれて遺影があった
   位牌があった
   焼香をすませた会社の人々が話しあっていた
   「あの戒名じゃ三百万円はくだらないな」
   ミホの読めない字が十くらい並んでいた
   「これじゃあ親父さんもすぐ成仏できるな」

   ミホはびっくりした
   戒名の字が少ないとなかなか成仏できないのか
   ミホは考える わたしはかあちゃんが わたしのために残して
   おいてくれたお金の半分しかお寺にあげなかった 全部つかっ
   たって極楽へいけないだろうけど もう少し近いところへ着い
   たかもしれない あの病気のかあちゃんが いまでも石のごろ
   ごろした坂道を 痛む腰をさすりさすり歩いているのだ
   足が震えて爪の先まで白くなるミホ

   小さいときから聞かされた極楽が
   ミホの中で思いがけず戒名と連結した
   「戒名なんかなくても極楽へいけるんだよ ほとけ様はそんな
   差別をしないよ」
   泣き顔を見るたびにわたしが唱えても
   あの読めない名前が終点までの切符だと信じ込み
   ミホの 苦い水の流れる川はますます深くなっていく

 第1回 新・現代詩賞の副賞として出版された詩集です。内容の濃い詩集で、賞の見識に敬服しました。
 紹介した詩はタイトルポエムで、かつ巻頭作品です。「ミホ」が「かあちゃん」の成仏までのお金をお寺にあげなかったのかと「びっくりした」様子に、この「ミホ」の人間性がよく出ていると思います。現代の「極楽」と「戒名」とは何であるかということも静かに告発していて、胸に迫ってくるものがあります。そして、「がんこ」な「ミホ」を決して納得させることはできないでしょう。考えさせられる作品です。
 紹介した作品でもお判りのように詩集全体も現実を鋭く抉った詩が多いのですが、声高ではありません。淡々と表現しながらも読者の深い処に問題を投げかけてきます。2005年の成果と謂える詩集です。




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