きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.10.9 栃木県
「ツインリンクルもてぎ」にて
HONDA CB250
 

2005.11.19(土)

 ようやく体調も戻ってきたようで、今日はいただいた本を読む元気が出てきました。3日も4日も寝ていれば快復するワな(^^;




季刊個人詩誌『天山牧歌』69号
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2005.11.15
北九州市八幡西区
『天山牧歌』社・秋吉久紀夫氏 発行
非売品
 

  <目次>           チャンヤオ
   玉門にて‥ある思い……(中国)昌輝…秋吉久紀夫訳…1頁
   戦争の民営化………………………………秋吉久紀夫……2頁
   ひとりの日本人傭兵の死…………………秋吉久紀夫……14頁
   耐容摂取量……………………………………稲田美穂……16頁
   受贈書籍………………………………………………………17頁
   編集後記・身辺往来…………………………………………18頁



    ひとりの日本人傭兵の死    秋吉久紀夫

   ひとりの日本人傭兵が、イラクで殺害された。
   ところは、首都バグダッドの西北にある
   ユーフラテス河の流域のヒートという小都市である。
   付近に所在する米軍基地アルアサドから、
   数台の車に情報機関員らと分乗して走り出た途端。

   突然、車列を襲撃したのは待ち伏せしていた
   スンニ派の武装組織「アンサール・アルスンナ」。
   傭兵隊員らは最新式の機銃と手投げ弾で、
   とっさに応戦しつつ、米軍ヘリに救援を請うたが、
   間にあわず殆どの者はことごとく殺害されたという。

   わたしは日本人でイラクの戦場に滞在するのは、
   サマワに駐屯する自衛隊員だけだと思っていたが、
   この情報で、甘い蜜に引かれる日本人が、
   数多くいることを嗅ぎ知った。であれば当然、
   かれらは地球上の他の紛争にも群がっているはずだ。

   数日後、被害に遭った日本人傭兵の素姓が判明した。
   所属していた会社の名はハート・セキュリティ。
   これは冷戦時代の英国軍の最強特殊部隊
   SASの将校たちによって設立された軍事企業で、
   いま、本社を地中海のキプロス島に置いている。

   このひとりの日本人傭兵の死が報道されたのは、
   たまたまイラク武装勢力がアラビア語で、
   意図的にウェブサイトに犯行声明を公表したためで、
   でなければ、絶対に正体は闇に覆われたまま。
   傭兵は到底「バビロンの捕囚」になれることはない。
                             2005・11・15
   注
  「バビロンの捕囚」。バビロン王ネブカドレツァルに占領されたユダ王国のひとびとは、BC598年
   から三回にわたって、捕虜としてバビロニア国内(現在のイラク)に移住させられ、BC538年、
   ペルシア王キュロスの帰還命令発布まで六〇年間、強制労働を課せられた。その数約四六〇〇人だっ
   たという(『旧約聖書』「エレミヤ書」第五二章)。

 「戦争の民営化」は、私たちの記憶にも新しい、イラクでの日本人傭兵殺害を中心に扱った論考です。紹介した「ひとりの日本人傭兵の死」は、その詩作品化。民間の「軍事企業」が日本人の兵員まで派遣する事実に驚かされます。しかも「たまたまイラク武装勢力がアラビア語で、/意図的にウェブサイトに犯行声明を公表したため」に判明したに過ぎず、本来なら「絶対に正体は闇に覆われたまま」であるというのですから二度びっくり。闇の世界を鋭くえぐった論考であり詩作品であると思いました。




アンソロジー宮城の現代詩2005
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宮城県詩人会編
2005.10.31
仙台市青葉区
秋葉工房 発行
1400円+税
 

  <目次>
    秋亜綺羅■海水浴場でぼくは犬になった 8 阿部ひとみ■階段 10
    伊具十郎■翡翠輝石 14            今入惇■顔について 16
    色川幸子■けもの道 18           大石良江■海に降る雪 20
    大平常元■案内 22            大林しげる■許せぬ――さあ平和へ対話を 24
   大林美智子■FAKE 26          小野寺正典■壊れかけた魂を乗せた汽車 28
     鹿島茂■婆さまと曾孫 30         片山きよ■刺し子袢天 32
    金子忠政■シタ・打ち 34          菊地勝彦■マイ・フェア・レディ 36
   菊地由美子■ヒヤシンス 38          北松淳子■雲は食べられましょうか 40
    木村圭子■海よりの手紙 42        木村眞知子■二一八号室 44
    梢るりこ■誇りの崩落 46         牛島富美二■歯の根も合わぬ 48
    小松ゆり■たぬき寝入り 50         西城健一■よい祭り 52
   佐々木洋一■群青色の男 54          佐藤郁枝■朝と夜 56
   砂東英美子■いろはにほへど 58       佐藤のりこ■日々 60
    佐藤幸雄■うごめくもの 62         佐藤洋子■ぼう、 64
    佐藤吉人■したたり落ちるもの 66       城晶子■起つ 68
    鈴木孝光■ぼくはここにいる 70        高木肇■それは 72
    高澤喜一■生きている 74          高見恒憲■細倉鉱山、鉛沢異聞 76
     高村創■想奏譜 78            滝村路鹿■家族 80
    竹内英典■サングラス 82          伊達泳時■音色の花束 84
    建入登美■黄揚羽 86            玉田尊英■杳い時間 88
    丹野桂子■還る 90             丹野文夫■あいさつ 92
    千田基嗣■夢の波止場 94           西田朋■やませ 96
    原田勇男■火の鳥異聞 98           日野修■六十年蝉 100
   日和田眞理■森へ 行く日 102         前原正治■殴り合い 104
 みちのく赤鬼人■三つの五行詩 106         山家常雄■笹谷峠 108
    吉田秀三■つゆくさ連情 110         渡辺仁子■盆火 112

  執筆者一覧 …………………………………………114
  後書 ………………………… 菊地勝彦 ………119

 



    階段    阿部ひとみ

   橋本さんの顔を見たらば
   涙が
   ぽろぽろとこぼれ落ちてきた
   3階と4階の踊り場でだった
   わたしは、下へ降りようとして
   橋本さんは
   上へ行こうとしてだった

   わたしにとってもむろん橋本さんにとっても
   涙は、急の事だったので
   <いけない>
   と、目頭とか鼻のあたりを押さえるんだけれど
   それでも張り詰めていたものが緩んでくる
   心地よさが
   こっちには拡がってきて
   『どうかした?』
   と言われればなおさら
   涙は堪えきれないものになって
   溢れ出てきた

   わたしは理由を口にしなかった

   わたしはもう
   そんな事は
   どうでもいい事のように思えてきた
   どこかの誰かのように
   <ずっと子供のままでいたかった>
   なんて
   言えるわけがなかった

   そして
   階段を
   女になるために足腰を鍛え
   下から来る者に
   スカートの内
(なか)の気配を
   見られまいとして
   何度も
   考え事をしているんだという風に
   立ち止まった
   階段を
   駐車場へ向かって
   下りて行った

 今年3月に設立された宮城県詩人会による初のアンソロジーです。会員62名中52名が参加したそうですから大変なものですね。
 紹介した詩は奇妙な雰囲気があって注目した作品です。「橋本さん」が男なのか女なのか、「涙が/ぽろぽろとこぼれ落ちてきた」理由が何なのかまったく判りませんが、いろいろな場面を当てはめて考えられ不思議な魅力を感じます。「階段」という場所を使った演劇の一場面を観ているようです。「わたし」という人間性も、たったこれだけの中に相当盛り込まれていると云えるでしょう。「見たらば」、「行こうとしてだった」というような言葉遣いも効いていると思った作品です。




個人誌Moderato』24号
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2005.11.25
和歌山県和歌山市
出発社・岡崎 葉氏 発行
年間購読料1000円
 

  <目次>
   ●特集「誌上・詩集批評会」苗村吉昭 直鳥順子 北川朱実 高谷和幸
   ●詩作品 名古きよえ 羽室よし子 大原勝人 いちかわかずみ 日高てる 岡崎葉
   ●連載エッセイ23 山田博
   ●気になる詩人・気になる仕事20+1 たかとう匡子
   ●カンタータ14 白井知子
   ●受贈詩集&詩誌
   ●ポエムダイアリー



    言葉はどこから    名古きよえ

   石川県能登の宇ノ気で
   私は西田哲学の夏季講座に出ていた
   宿泊所になっている福祉会館へ帰ると
   夕暮れの まだ人けのない所で
   彼はひょろりと立っていた

   寝不足に加え
   昨夜 食後の自由時間に
   とりわけ北海道から来た小父さんに
   勉強不足をつつかれ
   心身共に疲れていたのだろう

   「ただいま」と私はいった
   彼は一瞬はにかんで
   「おかえり」といった
   なんだか とても温かい気持ちになった

   あれから二年ぶりに 夏の講座に出ると
   新卒だった 西田哲学記念館の事務職員さんは
   同僚と仕事をこなして
   スケジュールも よかった

   普通の生活のなかで考えることが
   人間らしさであるというなら
   くりかえしやって来る人間の悲哀も
   先人の宝石のような言葉で
   虚無から目を覚まさせてくれる

   言葉だけでもなく
   日常だけでもなく 両方に照らされたい
   世界を見ていた西田の思索
   難しい言葉が 少しほどける
   能登の千里ケ浜に 打ち寄せる波のように
    おかえり ただいま
    ただいま おかえり・・・

 まったく勉強していませんから「西田哲学」がどのようなものか判りませんが「言葉だけでもなく/日常だけでもなく 両方に照らされたい」というフレーズで少しは取っ掛かりができるかもしれませんね。その研究もやっているらしい「西田哲学記念館の事務職員」の人間性もよく出ていると云えるでしょう。タイトルとともに最後の2行も効いている作品だと思いました。




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