きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.10.9 栃木県
「ツインリンクルもてぎ」にて
HONDA CB250
 

2005.11.25(金)

 長年の文学仲間だった女性が急死して、お通夜に行ってきました。昨夜、お腹が痛いと言って病院に行って、そのまま亡くなってしまったというものです。病院に行ってから数時間で亡くなったようで、遺族にとってはまさに晴天の霹靂。何度か同じように「お腹が痛い」と言ってその病院に行ったことがあるらしく、すぐに快復して帰ってきたそうですから、遺族は今回も一晩点滴を打てば帰ってくるだろうと思っていたそうです。原因不明。大学病院で司法解剖にふされたそうですが、それでも原因不明。

 病院名は明かせませんが評判の悪い病院です。風邪で入院しても死んでしまう、と言われていましたが、まさに現実となりました。死因に納得しない遺族は、おそらく裁判まで持ち込むだろうと思います。私も昔、パラグライダーをやっていた頃、墜落した仲間を止む無く入院させたことがありましたけど(なぜか救急病院指定)、すぐに出るように伝えました。東京都内に住んでいた仲間ですから、自宅近くに転院させてくれと言えばよい、と。そのときの病院長の態度はいまだに頭に来ています。転院させないのです。喧嘩ごしで無理やり退院させました。病院の利益のことしか考えていないのがアリアリでした。

 よりによってそんな病院になぜ彼女が行ったのか悔やまれます。『中央文學』という同人雑誌で長く小説を書いていて、作品は『文学界』に転載されたこともありました。享年67歳。ご冥福をお祈りします。




溝口章氏詩集『残響』
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2005.11.16
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
2500円+税
 

  <目次>
    T
   残響 8         未知のことばで 10
   噴水 I 14       噴水 U 16
   東風(あゆ)の海 20    鳥が咥えて 24
   球体 28         抽象の都市 32
   回転 36         求心 40
   被膜の都市 44      五輪塔の空 46
   声明譜 50        流離よ 52
   瞼はやがて閉ざされて 56 夢の孤島
――ヴォルフガング・ライプの作品に寄せて 60
   灯皿(ひざら) 64     霧の幡 68
   暗夜の咒符 72      瓔洛の森 76
   海はるか 80       踊躍の庭 84

    U
   呼吸器 88        架橋 90
   供花 92         希望 96
   葦芽 100         遁世 104
   空の群 106        巡拝 110
   行道 116         海容 120
   鹿杖(かせづえ) 124    「月の出」考 128
   幽閉 132         首装束 136
   転生 140         旅する人 146

   初出一覧 150       あとがき 152



    残響

   次々と激しく音を立て
   空を矢がとんでいく 群をなして
   どこからかと 私は問う
   前世かもしれないと 矢羽が音で語っている
   ならばどこへと私は問うことにする
   ――空が空でなくなるところまでか
   矢は それに無言のまま光の如く速度を増し
   空はすでに消え始めている
   たまりかねた 雲たちは 鎧となり楯となり
   幻影の少女となり
   夕映えに溶け入って
   燃えあがり 燃え尽きて
   充たされることのない 恋情に氷結する

   何処へと私はもう問うことはない
   草原に立ち疎み 遠く去った矢の残響にかこまれている

   やがてここへは
   朱の色をかたちにした 馬たちが
   逃げ水を追って 姿を現わすと
   空に浮かぶ淡い月輪を背に 凍る雲をとかしながら 草をはむ

 紹介した作品はタイトルポエムで、かつ巻頭詩です。「遠く去った矢の残響」が印象的な作品だと思います。「矢」は光陰矢の如し≠フ矢とはちょっと違いますが、それに近いものを感じています。諺との違いは最終連にあるでしょう。「朱の色をかたちにした 馬たち」が斬新な視点で、単なる諺を越えていると思います。「凍る雲をとかしながら 草をはむ」に未来を感じます。考えさせられる作品です。




北村真氏詩集『穴のある風景』
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2005.12.8
東京都葛飾区
ジャンクション・ハーベスト刊
1800円
 

  <目次>     カバー・コラグラフ 安田 彩/装丁 草野信子
   T
   眼鏡 8        穴のある風景 10
   エンコダイ 14     しずく 18
   葛 20         深い森 24

   U
   ふぐり 28       初秋 30
   空っぽの図書館 34   自動改札機 40
   坂道 44        夕陽 48

   V
   オルゴール 52     葉桜 56
   虹 62         破片 66
   ん 72         空と窓――ヒロシマの 74



    穴のある風景

   森さんの家はなく
   森さんの住んでいた場所がある

   石畳
   木の表札
   手入れの行き届いた松
   廊下の奥の暗がり
   障子の明かり
   苔のにおい

   が
   ない

   先週
   娘の住む大阪に引っ越した
   森さんの座椅子がない

   笑い
   いさかい
   沈黙
   いつくしみ
   消し忘れたテレビ
   咳

   ここに 運び込まれたもの
   ここで 失くしたもの
   ここで 生まれたもの
   いっさいが
   ここから 持ち出されている

   けれど
   残していったのか
   忘れていったのか

   更地のつきあたり
   小高い丘の斜面に
   家族だけが入れるくらいの
   穴が まだ
   闇を抱いている

 詩集のタイトルポエムです。「森さん」という家族が淡々と語られていますが、この家族の姿がよく伝わってきます。一文字で置かれた「咳」などにそれが良く表出していると云えるでしょう。おもしろいのは最終連の「家族だけが入れるくらいの/穴」ですね。これがこの作品のテーマであり、詩集に通低しているモチーフだと思います。現代の家族の姿の喩、と決め付けたら言い過ぎかもしれませんけど、そこまで読み込んでも良いだろうと思っています。北村真詩の真骨頂と云える作品であり、詩集です。




児童文芸誌『こだま』27号
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2005.11.10
千葉県流山市
保坂登志子氏方・東葛文化社 発行
非売品
 

  <目次>
   あいさつ            渡辺亜紀 2   空               古川奈美 3
   ぼくの友だちの顔    チョン テウォン 4   ものさし           福岡亜沙江 5
   ピアノ             藤田里帆 6   どこまでも           大竹紀慧 7
   ぼくのいもうとへ       江島その美 8   はじめての たんじょうび    島田陽子 9
   小さな光         ささい みつよ 9   んとこ どっこい        徳沢愛子 10
   あかちゃんのわざ        中村洋子 10   与える             尾崎昭代 11
   ちーちゃん          田中眞由美 12   駅前広場            大石規子 13
   カリンとキリン         吉田享子 14   山がわらってる         国吉節子 15
   秋               辻ゆう子 16   糸トンボ             道草人 16
   にじ              中島梨紗 17   たまごやき           冨村郁斗 17
   にちようび       いしでら よし子 18   ゆきだるま       なかざわ ともこ 18
   せんせいあのね     ふじい ひろのぶ 19   ゆき           うらべ さちこ 19
   ざりがにのかくれんぼ      松田若奈 20   うわぐつ            川筋慶斗 20
   とけい             百済天斗 21   おかあさんのくつ        長岡祐子 21
   たいよう            高山晴奈 22   ゆうひ            中西ゆりえ 22
   りょうりをしているお母さん   横山奈々 23   大きくなったり 小さくなったり 平田実紗 23
   花火              安道礼実 24   魚とり            松山伸一郎 24
   心の道             岡嶋 萌 25   黒板              松田菜未 25
   幸せ              長岡政幸 26   「ありがとうのことば」     関 美湖 26
   せんこう花火         今枝あかり 27   すずめ             平田祐希 27
   韓国の詩           徐正子 訳 28                  高敬子 訳 34
   赤色              並河晶子 42   水              福岡亜沙江 43
   祝日              荒井香奈 43   スタート            福田知美 44
   一円玉            前久保格也 45   十人ピラミッド         三浦由佳 45
   風               大川夏輝 46   自分だけの休日        熊谷龍之助 46
   野火止小の夢の教室       古市貴之 47   夏休みの休日          河野啓介 47
   
トムプン・クリストフアー・リチヤード・ライオンエル  48   ぼくの名前          久米田康宏 48
   私の名前           高橋奈津美 49   ぼくの名前           富永浩平 49
   月               菊池敏子 50   おじゃんこら         青山かつ子 51
   言葉の雲            小林明代 52   深夜の音楽家         羽賀ちふみ 52
   ちびくろ さんぼ        井立輝子 53   朝のお絵かき          神山暁美 54
   ともだち―自閉症とぼく(4)   土田明子 55   秘密(1)         柳生じゅん子 56
   蜥蜴              高島清子 57   かくれんぼ          品田美恵子 58
   発声練習            久野三惠 59   ネパールの詩        磯村桂子 訳 60
   青いハンカチ          新川和江 68   鬼ごっこ かくれんぼ     市川満智子 69
   春の朝             前原正治 70   夜明け前           江本あきこ 70
   生きものの 折り紙くん     小島禄琅 71   雨               小沢千恵 71
   プールの魚       村田 譲(ゆずる) 72   自転車             渡邊京子 73
   花               飛田隆正 74   そのとき ぼくは        牧 陽子 74
   ねこすけちゃんのおふとん   佐伯多美子 76   こぱかクダランランぱあな   多田ひと瀬 77
   糸               松尾美里 78   落葉乱舞            玉置尚也 79
   声               尾崎一斗 79   未定              松尾智久 80
   道               永渕 傑 81   フランスの詩       比留間恭子 訳 82
   ぼくたちのすてきなコリン             その時ぼくとぼくの妹とは…
    カズオ・マースデン クミコ・マースデン訳 88    テオドル・ド・バンヴィル 水谷 清 訳 90
   カガミッチョ          菊田 守 92   対話             江口あけみ 92
   ノウゼンハレン         原田 慶 93   夏日記             絹川早苗 94
   蝉              佐野千穂子 95   迷子のかくれんぼ    武石 剛(つよし) 96
   ぼくの らりるれろ    よしかわつねこ 97   空とぶいす          宮入れい子 98
   百一歳のおばあちゃん      市川つた 98   おじいさんと花         天彦五男 99
   スミレはスミレ         江部俊夫 100   夜あけ            名古きよえ 101
   自転           川端律子作・訳 102   オーストリアの詩と文    松尾直美 訳 104
   オーストリアの詩と文   高橋あかね 訳 112   ひぐらし「蝉」         志村宣子 114
   みなちゃん           柏木義高 115   木になりたい          岡島弘子 116
   お母さんは一緒だよ       谷田俊一 117   花暦 秋 −萩−        神崎 崇 118
   はぜの木           高崎乃理子 118   八つ手             高木総子 119
   ジョンの死           松下和夫 120   会いたい            滝 和子 121
   いいっぺ            伊藤ふみ 122   お迎え             津坂治男 123
   光る石             卜部昭二 124   満月様と狸殿          前田裕子 126
   哀愁             保坂登志子 127   中国の詩とお話    李(リ)蕊(ルイ) 訳 128
   中国の詩とお話       小沢千恵 訳 132   台湾の詩         保坂登志子 訳 136
   ドイツの歌         松尾直美 訳 142   インドの詩と               148
    お話「アマゾンのジャングルで」3 アマレンドラ・チャクラヴォルティ 作  谷口ちかえ 訳 150

   編集後記                 160   表紙絵 内山 懋(つとむ)



    うわぐつ    川筋慶斗 小一

   うわぐつは
   がっこうのやすみのひは
   いいこにして
   きれいにしている

 本当に子供の詩は楽しいですね。小学校1年生の作品です。慶斗クンはお母さんから「いいこにして」ネ、「きれいにして」ネといつも言われているんでしょうね。それで素直に「うわぐつ」に対しても出てきた言葉かなと思っています。
 もうひとつ紹介してみましょう。


    おかあさんのくつ    長岡祐子 小二

   おかあさんのくつを 切ったから
   ごめんなさいって
   いおうと思っているのに いなかった
   それで
   くつに いっておいた

 「ごめんなさいって/いおうと思っている」言葉が宙に浮いてしまった。「それで/くつに いっておいた」。しょうがないから靴に言った、ではなくて、やっぱり「切っ」てしまった当の靴に言っておこう、と採りたいです。こんな素直な気持はとうに忘れているなぁ。思わず己を振り返ってしまいますね。




詩誌『衣』6号
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2005.11.20
栃木県下都賀郡壬生町
森田海径子氏方「衣」の会・山本十四尾氏 発行
700円
 

  <目次>
   秋の空      岩下  夏  二   開口     四宮 弘子  三
   馬頭星雲     葛原りよう  四   白い花    金屋敷文代  五
   新人類      岡山 晴彦  六   マルコ    仙波  枕  七
   少年兵 フラニス 豊福みどり  八   旅先から   おしだとしこ 九
   柿の実      山田 篤朗 一〇   衣      相場 栄子 一一
   鯛の行方     大原 勝人 一二   母      小森 利子 一三
   生きている限り  上原 季絵 一四   ほうれんそう 森田海径子 一五
   萎(な)える    山本十四尾 一六   後記           一七
   同人近況        一八・一九   同人詩集紹介       一九
   同人住所録          二〇



    ほうれんそう    森田海径子

   寒さのなかで
   旨みと甘みを増していく ほうれんそう

   熱湯に塩をひとつまみ サツとゆで冷水にさらす
   根もとに正油を垂らして絞る
   灰汁が水気といっしょに流れていく

   鮮やかな緑がきわだつ光沢
   けずり節をたっぷりかけて さあ
   あなたも召し上がれ

   この冬のうちに 私も
   少しはいい女になれると思うの

 第1連と最終連が見事に対応している作品だと思います。「ほうれんそう」も「私」も適度な「寒さのなかで/旨みと甘みを増していく」ということですね。「鮮やかな緑がきわだつ光沢」と「少しはいい女になれると思うの」も上手い対比と採りました。男にはこういう作品は書けません。女性は対象をきちんと見る眼が日常の中で培われていると思います。綺麗に、しかも深く纏めている佳品です。




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