きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.12.23 群馬県安中市
新島襄旧宅
 
 

2005.12.2(金)

 久しぶりの金曜呑み会は山口の銘酒「獺祭(だっさい)」を呑んでご機嫌でした。でも、体調に自信がなかったので1合でやめにしたんで、お店のママさんに驚かれてしまいました。いつもは最低でも2合、調子が良いと3合、調子に乗りすぎると4合ですからね、無理はないでしょう。1合なんて初めてだと思います。
 体調を診ながら呑むぐらいなら呑まない方がよいとお思いでしょうが、そこは酒呑み、一口でもいいから呑みたい(^^; 我ながら呆れ返ります。次は絶対2合は呑むゾ!




熊沢加代子氏詩集『子供の情景』
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2005.11.25
東京都豊島区
書肆山田刊
2500円+税
 

  <目次>
   *
   WATER DROP 10    夏の庭 12
   壊れものとして 15       人形 18
   浮力には逆らわず 22      舞台装置 25
   妃殿下のレシピ 30       母の句集 35
   舅 八十七歳 36        待ち合わせ 59
   木 たっている=@43
   *
   ぼくはせかいのばんにん 48   ブルグミュラー25のやさしい練習曲より 51
   子供の情景 全十三曲 59
   *
   アメリカ旅行 74        ディズニーランド 84
   揺れるもの たわむもの 87   頬づえをついて頭かしぐあなたよ 90
   春の語形 95          きこりの寂蓼 96
   イギリス組曲第二番 99     星の舞踏 102
   影の領域 或いは光の…… 105  五月の青磁の皿の上 108



    子供の情景 全十三曲

     
これは、子供のための曲ではなくて、むしろ年とった人の回想であり、年とった人のためのものです。
                                  
シューマン

     第一曲 異国から

   キャンピングカーに乗って移動している
   ドイツ人の宣教師一家がいた
   五歳だった私と同じぐらいの女の子は
   底に革をはりつけた赤い毛糸のルームシューズをはいていて
   私はそれがうらやましかった
   青い眼と金色の髪の毛をしたその女の子は
   青い眼と金色の髪の毛をした人形であそんでいた
   私が聞いたこともないような言葉を喋りながら
   私にはそれが
   どこか遠く見知らぬところから吹いてくる
   不思議な風のように思えた
   だれも風に意味を問わない
   ただなんとなく心地よかった

 略歴によると著者は音大卒なので、音楽を素材にした作品が多いのかなと思います。紹介した詩はタイトルポエムで、その「第一曲」を転載してみました。これが「第十三曲」まで続きます。この作品では「だれも風に意味を問わない」というフレーズが印象的ですが、このような佳い詩句が続出する詩集です。「夏の庭」の<そしてひとつの慰めは私がもう若くなくて良いことだ>、「壊れものとして」の<すべての神話に神がいるわけではない>、「舞台装置」の<これ以上すべきではないこと/はあっても/これ以上すべきこと/は何もない>等々。一冊をまる写ししたいほどの詩集です。




三本木昇氏詩集『むらさき橋』
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2005.11.1
東京都東村山市
書肆青樹社刊
2400円+税
 

  <目次>
   序詩  赤いネズミ  深津朝雄

   第一章 むらさき橋
   砂時計 18         むらさき橋 22
   霊泉山禅林寺 28      彩磁山法師文茶碗 32
   ムサシノキスゲ 36     お化け煙突 40
   紙の質 44         節ちゃんの涙 48

   第二章 スダジイ
   宇宙の中の小さなゴミ 54  禅寺の松 58
   椋の木 62         自慢のライカ 64
   かつての上司 68      スダジイ 72
   抱きしめる 74

   第三章 真竹の花
   子育て延命地蔵尊 80    迎え盆 84
   真竹の花(一)88      真竹の花(二)92
   雄の子牛 98        働いている父の姿を初めて見た 102
   チョロQムーバス 106

   あとがき 110        題字 大塚昭子  装画・装幀 丸地守



    むらさき橋

   玉川上水に架かるむらさき橋が
   三鷹にあることを知ったのは十八の時
   文学の才能について
   書けば書けるはずだ
   と思っているうちに三十年経ち
   今になって初めて
   書けるはずだと思う才能しかないことに気づく
   息することと同じように
   三十年間 社宅と職場を往復してきた
   少年の日の夢が消えずに
   定年後のくらしを考えて
   むらさき橋の近くに住処
(すみか)を求めた

   むらさき橋 万助橋 ほたる橋 幸橋 新橋 まつかけ
    橋 井の頭橋 若草橋 宮下橋 東橋 長兵衛橋 牟
    礼橋
   素掘りの玉川上水に架かる橋の名を確かめながら
   何度も川沿いの小道を歩いた

   今年はこの地に住むようになってから四年目の夏
   コンクリートの高層ビルが燃えだすような炎暑
   だが ここは森が深く
   コナラ ケヤキ クヌギ ヤマザクラ エノキなどが緑
    の屋根になり
   篠竹や夏草が川面を覆っている
   所々 百日紅や 爽竹桃が咲き誇り
   油蝉やみんみん蝉の鳴き声が
   喧騒と静寂を演出する

   むらさき橋近くの歩道に
   青森県北津軽郡金木町産の「玉鹿石」
   ふと振り返ると
   橋の上から
   新潮日本文学アルバムで見た
   小説家
が女と一緒に鯉に餌をやっている

   何もかも思うようにならなくて
   生きていることさえ退屈になって
   公園を突き抜け
   川沿いの遊歩道を下って行くと
   生産緑地
   堆肥を作っているのか
   故郷の匂いがする
   ナス キュウリ トマト ネギ サトイモなど作っている
   使い過ぎた関節がすり減って足腰は鉛のように重く
   時々激しく痛む
   だから 来年は作らない
   野菜など買って食えばいい
   などと毎年同じことを繰り返している
   目を擦ってよく見ると
   墓地にいるはずの祖父母が庭先で草を採っている

   かつて私が知っている
   痩せた土地での働き詰めの貧しい光景
   本ばかり読んでいるのは道楽だ
   文学などもってのほか
   そんなもので飯が食えるか
   などと叱られ
   体を動かすのが一番だと教えられたが
   たまらず逃げるように東京に出た
   しかし 今
   私はあまり変らずに歳を取り
   故郷は何もかも変ってしまった
   鱒は産卵のため体がぼろぼろになりながら
   生れた川を遡るという
   私も故郷の那須野が原に帰る日が来るだろうか

       * 太宰治

 この詩集はおもしろい構成になっています。目次を見ていただくと判りますが、序詩として深津朝雄さんが「赤いネズミ」という詩作品を載せています。著者も深津さんも詩誌『烈風圏』のメンバーですから、先輩格の深津さんが著者の詩集に跋文を書くのは理解できますけど詩とは珍しいです。しかも、よりによって詩集の中でも一番眼につくトップページに持ってくるとは! まあ、何と厚かましい! と思ったのが正直な気持です。
 しかし、これには深い理由がありました。深津さんの「赤いネズミ」と、詩集最後の「チョロQムーバス」が呼応していたのです。どんな風になっているかは、ぜひ詩集を手にとって確かめてみてください。おもしろい試みで、少なくとも私は初めて見ました。

 さて、紹介した詩ですが、タイトルポエムです。著者の半生を描いた作品で、著者の人間性がよく現れていると思います。特に「今になって初めて/書けるはずだと思う才能しかないことに気づく」というフレーズは佳いですね。文学を志す者が必ず持つ感覚で、これが無ければ文学など出来るはずがないとまで私は思っています。このフレーズだけで詩集の品格が上がっていると言ったら過言かもしれませんけど、それほどの力のある詩句ではないでしょうか。ぜひ一度手に取って見てほしい詩集です。




山本聖子氏詩集『三年微笑』
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2005.11.23
東京都中野区
潮流出版社刊
2000円+税
 

  <目次>
    T
   托卵 8           濁る川の音 11
   湿度計 14          Motorway 18
   三年微笑 22         花と抗と 26
   シルエット 30

    U
   二〇〇二・空のこと 33    終わり 36
   喜びの詩 39         サンドグラス <赤>  42
   頭上の空 46         板を背に 50
   スーパーマーケット 54

    V
   記憶のたどり方 57      鳥を放す 60
   Moon island 64  眼の中の海 68
   ロイヤルブレンド 72

    W
   指の領域 75         箱と隣人 78
   バランカベルメハの靴 82   川の風景 86
   自然数 90          清算 94

   あとがき 96         カバー画 近藤義人



    三年微笑

   集まってきた子どもたちが
   しずかに笑顔を咲かせていく

   西ティモールのキャンプで
   暮らしている孤児たち
   笑いはするが 泣かない

   独立派と反対派に別れ
   激しくたたかった大人たちのなかで
   敵か味方かわからないとき
   生き延びるために
   笑顔をつくってきたから

    誰が教えるでもなく笑う
    生後三カ月の微笑
    人間は 内なる言語を
    持って生まれてくると言われるが

   泣くことを 三年で
   忘れてしまった子どもたち
   泣いたがために
   失われたものがあった
   泣いていては
   守れないものがある

   だから無言の
   笑顔が咲く

    動物の赤ちゃんが可愛いのは
    捕食者に襲われないために
    自然の与えた智恵だと言うが

   ひとになることも すでに
   後もどりできない命運として
   戦場に生まれてしまった子どもたち
   ひとでいることも もはや
   退くことのできないこの場所で
   やわらかな花首を
   かすかな未来に向け
   笑顔を咲かせて立ちつくす

   切り捨てられた枯れ色の細い枝が
   キャンプの境の柵として編まれ
   子どもたちを 頼りなく囲んでいた

   曖昧なわたしの笑顔と
   厳しく隔てるために

 詩集のタイトルポエムです。あとがきには「表題に置いた <三年微笑> は造語で、人間の赤ちゃんが生まれて自然と身につけるという <三カ月微笑> から発想した」とありました。詩集を特徴づける作品と云えましょう。
 「笑いはするが 泣かない」「孤児たち」の「生き延びるため」の方策に胸を打たれます。「泣いたがために/失われたものがあった/泣いていては/守れないものがある」というフレーズに孤児たちの置かれた厳しい現実を見る思いをしました。最終連の「曖昧なわたしの笑顔と/厳しく隔てるために」は、著者の詩人としての立場が表出しているように思いました。




詩・小説・エッセー『青い花』52号
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2005.11.20
東京都東村山市
青い花社・丸地 守氏 発行
500円
 

  <目次>
   巻頭言 詩的空間について                 丸地 守 表2

     詩 初秋の空 今辻和典 4 呼ぶな 鈴木哲雄 6
       夏 吉田章子 8    首の長い人 北川朱実 10
       瓶 高山利三郎 13   生命誕生−その12 埋田昇二 16
       際立つ夏 野仲美弥子20 狂っていく 竹内美智代 22
       拍手 布川鴇 24    
Midafternoon of the Baroque 岩下夏 28
       天窓 山本倫子 30   逆さの街で 相良蒼生夫 32
       家族熱 内藤紀久枝 34 秋の金魚 武田弘子 37
       雁の便り 松沢 桃 40 遍歴 瞳の中に一本の薔薇が 古田豊治 42
       カバン 悠紀あきこ 44 再び手首の証言 山本十四尾 46

    小説 見舞い                       平田好輝 48
       おとなの童話 夜伽の蒲団              坂本登美 56
  エッセイ Kαθεδρα(カテドラー)             森田 薫 62
    評論 詩論ノート 装置としての詩空間(二十一)       溝口 章 66

ショート・  西岡光秋「詩魂断章」・山本龍生「詩の原郷−『ソーセキ全集』」(三) 74
  エッセイ 野仲美弥子「あの薔薇を見てよ」・菊池柚二「紙一重の記」
       坂本登美「追憶にひそむ味覚」(十一)・高橋未衣「身辺余情」
       悠紀あきこ「ある日突然に」
   詩・画 鳥に                   丸地 守/大場 彰 83

     詩 星 木津川昭夫 84     浮野(うきや)にて 本郷武夫 88
       赤ちゃんは知っている(8)  比留間一成 92
       赤蜻蛉 伊勢山 峻 94   驟雨 橋爪さち子 96
       月見草 北松淳子 100   歩く 坂本登美 103
       バス・ストップ 河上鴨 106 幼年期(16) 菊池柚二 108
       飛ぶ 柏木恵美子 110   アルバムの窓 こもた小夜子 112
       ごきげんよう 真崎希代 114 朝が来るまで さとうますみ 116
       出会い 古賀博文 119   放奏のための二段詩・二題 寺内忠夫122
       青い花(二十四)山本龍生126 二本の花 横山伸子 128
       親しい玩具 丸地 守 131

   詩書評 図子英雄詩集『静臥の枕』 相沢正一郎詩集『パルナッソスヘの旅』
       星野元一詩集『少年の川』 中原秀雪詩集『星のいちばん新鮮な駅で』
                                山本十四尾 134
       詩・評論『大滝清雄遣作集』 菊地貞三詩集『蛇がゆくように』
       坂本つや子詩集『風の大きな耳』
       新・日本現代詩文庫35『長津功三良詩集』       埋田昇二 136
    後記 …………………………………… 西岡・木津川・今辻・山本・丸地 138
       表紙デザイン・カット 大嶋 彰



    雁の便り    松沢 桃

   ふうをきると
   かぜがながれた
   こうげんのあきのかぜ
   あなたのかすかなにおい
   びんせんにひだまり

   にどとあってはならないと
   やくそくさせられた
   とおいひ

   いちどきりのみちゆき
   しごとをやめ
   きたのちにさそいあいたびにでた
   ただようひとなつのほたる
   えねるぎ−はさきのみえないふあん

   おわりのはじまり
   ちちきんきゅうにゅういんすぐかえれはは
   げんじつにひきもどすでんぽう

   こいなど
   いっときのかんじょうのあらし
   はたちの
   からだとこころ
   ぶれーきのこわれたよくぼう

   ぶんめんをみずに
   ひきだしふかくしまう

   わたしはいまもばがぼんど
   ゆれながらたずねる
   あなたはあなたでいるのだろうか

 「はたちの」「いっときのかんじょうのあらし」の相手だった「あなた」から届いた「びんせん」。その「ぶんめんをみずに/ひきだしふかくしまう」。そして「あなたはあなたでいるのだろうか」と問う。佳いですね、青春の一頁を思い出させる作品です。
 正直なところ、タイトルの「雁の便り」の意味が正確に掴めませんでした。辞書に当たると<手紙、消息>と出ていました。改めてタイトルの良さも認識しました。ひらがな書きも奏功している作品だと思います。




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