きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2005.12.23 群馬県安中市 | ||||
新島襄旧宅 | ||||
2005.12.30(金)
暮ですね。年賀状も書かず、大掃除もせず、ひたすらいただいた本を読んで過ごしました。まだどっさり残っています。年内に読み終わるのは絶望的です。お礼が遅くなっていますがご了承ください。
○個人誌『むくげ通信』30号 | ||||
2006.1.1 | ||||
千葉県香取郡大栄町 | ||||
飯嶋武太郎氏 発行 | ||||
非売品 | ||||
<目次>
空間の詩朗読会について 朴喜(パクヒジン) 1
尹東柱(ユンドンジュ)の詩 序詩/星を思う夜 3
洪允淑(ホンユンスク)の詩 冬のポプラ 3
李炭(イタン)の詩 詩集「尹東柱の光」より 足跡/羽/福岡市 西新町 4
地球の秋 李聞宰(イムンジュ) 佐川亜紀訳 5
今日の詩「韓国詩二十一人集」より
平和 金南祚(キムナンジョ)作 権宅明(コンテクミョン)訳 5
チェロを聞きながら 権宅明 本人訳 5
愛しい悪魔 李秀翼(イスイク) 6
絶叫 范大ロ(ボンデスン) 6
詩人の顔 飯嶋武太郎 6
星の一つになりたくて 尹 ビョル(小原のり子) 7
再び 銃後の妻たち 川端律子 7
受贈御礼 7
編集後記 8
チェロを聞きながら 権宅明(本人訳)
次女がチェロを習い始めてから
チェロの音が好きになった
弦楽器ならバイオリンだとばかり思っていたのに
華やかな戦慄と
いつも前列でヒロインとして引っ張っていく
飛び出る音に魅了されていた間には
聞き取れなかった
低音の世界があるということを知った
自分の体より大きい楽器にくっついて
小さな娘の弾きだす
中低音の周り
周囲に安らかな音符たちを散らばしている
少数派に立つことは
いつも勇気の要るもの
パパは喉を痛めながらも
未だに音の高い
テノール・パーツにこだわっているのに
ト音記号の代わりに一生懸命
ヘ音記号を見入りながら
他人より音の低いことで
後部席に座ることの分かる
幼娘に
四十を越えて
また一つ教わるのだ
「チェロ」は私も好きな楽器のうちのひとつですが、確かに「バイオリン」のように「いつも前列でヒロインとして引っ張っていく」楽器ではありませんね。「後部席に座る」というのは言い得て妙ですが「低音の世界」には何とも云えない魅力を感じています。
作者は「次女がチェロを習い始めてから/チェロの音が好きになった」と書いていますけど、そこには「幼娘に/四十を越えて/また一つ教わるのだ」という謙虚な姿勢があります。その姿勢に共感できるのがこの作品の魅力だと思っています。
○文芸誌『ノア』8号 | ||||
2005.12.31 | ||||
千葉県山武郡大網白里町 | ||||
ノア出版・伊藤ふみ氏 発行 | ||||
500円 | ||||
<目次>
詩 Melancholy…………筧 槇二 4
槿…………森下久枝 5
雪椿…………大石良江 6
父の顔…………北村愛子 7
小 説 温泉…………魚住陽子 8
エッセイ 人生九十年…………今井千代乃 10
俳 句 銀の匙…………上村ふみ子 12
エッセイ お墓のカラス…………保坂登志子 13
小 論 コレット…………遊佐礼子 14
エッセイ 切り取られた風景(2)…………馬場ゆき緒 17
エッセイ アート・ノート…………望月和吉 18
詩画展 母…………右近 稜 19
釣り…………伊藤ふみ19
童 話 ネコのピーター…………伊藤ふみ 20
ご案内 …………21
編集後記 …………22
むくげ
槿 森下久枝
庭のすみの槿の花のそばで
叔母さんがしゃがみ込んで肩をふるわせている
咲きおえてまき貝のかたちに閉じた花が
足もとに落ちている
言葉をのみこんだ花殻
三十八度線を越えて
叔父さんが帰ってきた
槿の花咲く国から
妻に会える日を杖にして
戦死の広報が届いていた
槿は希望のかたちで花芯に紅を灯して白く咲き
叔母さんには新しい家族ができて
お腹の児がはじめて動いた
急に降り出した雨が
槿の花を濡らし
稲妻が空を裂いた
私は戦後4年経って生れていますから、4歳の1953年頃の記憶はあります。「妻に会える日を」楽しみに帰ってきた兵士の家族にすでに「戦死の広報が届いてい」て、妻には「新しい家族ができて」「お腹」には「児」までいた、という話は珍しいことではなかったようです。大人たちが囁く声を何度か聞いた記憶があります。今にして思えば、戦後の混乱期を「妻」たちが夫なしで乗り切ることは困難だったのでしょう。責は妻にも夫にもなく、国家が責められるべきものです。ましてや「戦死の広報」という誤報は、現在なら莫大な国家賠償になったはずです。そんな過ちを犯した国家が再び同じ道を歩もうとしている…。そんな国家を小選挙区制のカラクリがあるとは云え、国民は支持したことになっています。決して60年前の話ではなく、現在に通じる作品だと思いました。
○詩誌『ONL』82号 | ||||
2005.11.30 | ||||
高知県四万十市 | ||||
山本 衞氏 発行 | ||||
350円 | ||||
<目次>
現代詩作品
西森 茂 白き彼岸花 1 小松二三子 思い出を 2
宮崎真理子 門出 4 丸山 全友 ついで 5
柳原 省三 復船 6 名本 英樹 一人 8
浜田 啓 100年の記憶 9 長崎 恭子 ビオトープ 10
横山 厚美 ピカピカの1年生 11 飯塚 真 女友達/他 12
岩合 秋 永遠なるものか 14 山本 歳巳 お届け物 16
大森ちさと なんでもないのに 18 河内 良澄 かわせみ 19
土志田英介 法師蝉 20 土居 廣之 越冬 22
福本 明美 仲が軋んでいく 23 徳廣 早苗 かすかにとおく 24
北代 佳子 花水木の赤 26 水口 里子 ヒロシマナガサキ 27
山本 衞 昨日/他 28 大山 喬二 八月の影/他 31
俳句作品
瀬戸谷はるか 休刊日 34 香 乃 葉 星月夜 35
随想作品
葦 流介 幸徳秋水と漢詩 36 秋山田鶴子 どんぐり 37
芝野 晴男 オードリー 38
後書き 39 執筆者名簿
表紙 田辺陶豊 《 交響曲 》
復船 柳原省三
交替した機関長が
急病になったということである
ぼくの絶望は
マリアナ海溝よりも深いのだけれど
やはり帰って行かなければならない
それが船乗りの美学というものだ
古い考え方なのかも知れないが
ぼくは怯む心に鞭打ちながら
復船し型通りの引き継ぎを済ませる
本当は当社の規則では
英語で引き継ぐことになっているのだが
分からない外国語を使い
何も見苦しく格好をつけることはない
日本人には日本語が一番美しい
美しいものは守らなければならない
それはともあれ何処か様子が変なのだ
後で分かったことだが
高齢の船長に認知症が始まったらしく
理不尽なことにも怒鳴り散らすようになり
前任者はお守りに疲れたらしい
危険を感じれば
鼠も船を逃げ出すという
認知症は悲劇だが
孤立した船内で運航効率を高めるため
絶対権力を与えられた船長の
無能力を証明することは容易でない
大方は返り討ちにあう制度なので
多大の犠牲が必要となる
戦後民主的な時代もあったが
外国人船員を使うようになってからは
力強く絶対主義が復活した
乗組員は奴隷に徹すれば楽でもあるし
時にイエスマンは怠慢の隠れみのになる
けれど不安を感じる人にはやり切れない
結局逃げ出すことになってしまうのだが
ぼくはやはり踏みとどまって
少しでも犠牲を少なくする道を選びたい
国や社会が不穏な方向に動き始めても
決して逃げ出してはいけないと思うのだ
いずれみんな
沈んでしまうのだろうけれど
外国航路船の「機関長」であった作者が一度オカに上がったものの再び航路に戻った作品です。船はヨットやカヌーで遊んだ程度ですから、まったくの門外漢ですので「英語で引き継ぐことになっている」「孤立した船内で運航効率を高めるため/絶対権力を与えられた船長」「大方は返り討ちにあう制度」など知らないことが多く表現されていて驚きます。やはり陸の生活とは根本的に違うようです。
作者の詩人としての矜持を「日本人には日本語が一番美しい」「時にイエスマンは怠慢の隠れみのになる」などのフレーズに感じます。最終の「いずれみんな/沈んでしまうのだろうけれど」は透徹して視線だと思います。船員という眼で、日本の現代詩の世界を拡げてくれた作品と云えるでしょう。
○松浦成友氏詩集『フラグメントの響き』 | ||||
2005.12.20 | ||||
東京都東村山市 | ||||
書肆青樹社刊 | ||||
2300円+税 | ||||
<目次>
T
相原――あいはら 10 楽園 14
吐く 18 排水口 22
シュレッダー 24 迷う 26
眠る少年 32 高原の憂鬱 36
空白 38 ハンカチーフ幻想 42
U
球体論 48 フラグメントの響き 50
遍歴 54 晩夏 58
仮面 62 細いものへ 64
繊維の固執 68 光の匂い 72
月の肉体 76 秋の階梯 78
指 82 スノウ・クリスタル 86
流砂の誓い 90
あとがき 94 装画・装幀 丸地 守
シュレッダー
開かれた口ヘ次々と差し込んでいく
切り刻まれた紙の断片の 膨大な集積が部屋を汚すたびに
日々の時間をも切断されつつある
開口部を通過するのは淡い秘密であろう
書かれた文字の配列が粉々に砕け散り
細かい数字も美しい詩句もともに消し去られて
私は今日もシュレッダーに向かい
過去の日々を切っていくのだ
統合される思惟はどこにもない
フラッシュバックされた瞬間映像が切れ切れに映し出されるばかり
ああ その過去の傷を消し去ることへの情熱が体を燃やすのだ
シュレッダーは空に大きな口を開け 過去の脱け殻を待っている
世界にぽっかりと開いた穴へ紙だけじゃなく全ての悪意を放り込ん
でばりばりと噛み砕いてくれ
機密文書の処理などでお世話になっている「シュレッダー」ですが「日々の時間をも切断されつつある」、「過去の日々を切っていく」とは思いもしませんでしたので発想の新鮮さに驚きました。「その過去の傷を消し去ることへの情熱が体を燃やすのだ」というフレーズも佳いですね。しかも、そんな小さな世界だけではなく「世界にぽっかりと開いた穴へ紙だけじゃなく全ての悪意を放り込ん/でばりばりと噛み砕いてくれ」と謂うのですから、たかがシュレッダーと云えども詩人の手に掛かるとこうも変身するという見本のような作品だと思います。著者の第4詩集を堪能させていただきました。
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