きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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夕焼け 2005.1.2 神奈川県南足柄市

2006.1.7(土)

 仕事は昨日の6日から始まっています。昨日は終日雪でした。初めてスタッドレスタイヤなるものを嫁さんの軽ワゴンに装着してみました。出入りの修理工場のオヤジからは「今年は雪が多くて、今どきこっち(暖かい地方)では手に入らないんだよ」と言われていましたが、蛇の道は蛇と謂うのでしょうか、入手できたから車を持って来いと言われた昨夕、すぐに取り付けた次第です。
 今までスキーに行くため四輪駆動車にスノータイヤという経験はあるのですが、スタッドレスは初めてなので楽しみに運転してみました。ほとんど積雪が無くなった道でしたが、軽ワゴンでもガッチリ路面を捉えているのが判りましたね。これなら雪道でも安心です。年に2〜3回しか降らないけど(^^;
 今日は18時まで会議。その後すぐに呑みに行って、久しぶりの山口の銘酒「獺祭」を楽しみました。でも、2合で抑えておきました。お正月で呑んでばかりで、この先も新年会が続きますからね、体調不良で呑めない、なんて事態を避けようという魂胆です(^^;



宇佐美孝二氏詩集『虫類戯画』
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2005.10.23 東京都新宿区 思潮社刊 2200円+税

<目次>
 T
1 蜻蛉男 8               2 蛾執の女 12
3 展翅板に横たわる 16          4 薄羽蜉蝣のいる高台の家で 20
5 カーニバル 24             6 死角 28
7 糸を張る 30
 U
8 あかい道標 34             9 無言 36
10 蛭のしあわせ 38            11 初夏 40
12 蜂の奪胎 42              13 かたちと理由 44
14 アメンボの杷憂 48           15 虫 三篇 50
 V
16 ミスター・クラインマン 56       17 穴 60
18 泥にねむる 64             19 棲む――七月 68
20 どこかの野 70             21 蟲の領域 74
 W
22 毒虫 78                23 アアア 82
24 二月の失敗 86             25 森 90

あとがき 92     装帳=小山隆司



 死角――虫類戯画 6

このあたり、森と人間の棲む境界にも、卑劣な奴(やつ)は俳錮している。

車のガラス窓の、一ミリも満たないくらいのほそい隙間から、奴等(やつら)
は入り込んできた。体温をかぎ分けてきたらしい。十匹かもっと多
く、まんまと中に入りこむと奴等はいかにも外に出たがるふりをし
て、下に回り込んでは脚の脛
(すね)辺りをねらう。下に行ったと見せかけ
ていつのまにか額にとりつく。やられたと思った時には額はとうに
あかく腫上がっているのだ。かゆみがじっくりとやってきた。

遠景と近景のちょうど境に、焦点の合わない死角があるらしい。彼
らは巧妙にそこを突いて来る。だが同時に、うつくしいもの、幻に
似たものもこのあたりから立ち現れて来るのではないだろうか。

うつくしい死角が、どこかでわれわれを狙っている。雨後、虹の出
現を待つようにわたしは期待する。

 非常にユニークな詩集ですが、ご覧のように虫の生態を主とした作品ではありません。虫に仮託して人間を描いています。
 紹介した作品では3連目が特に佳いと思います。「遠景と近景のちょうど境に、焦点の合わない死角がある」というのは新鮮な見方ですし、「うつくしいもの、幻に/似たものもこのあたりから立ち現れて来る」という慧眼さには驚きます。2005年の記憶に残る一冊となるでしょう。



平野裕子氏詩集『季節の鍵』
現代詩青木教室叢書九編
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2006.1.10 大阪市北区 朝日カルチャーセンター刊 非売品

<目次>
T―――――――――
第一回卒業式 8              概念こわし 12
跳び箱の声 15               ひまわり 18
遠 足 22                 教室のシクラメン 26
雑草に寄せて 28              ごみばこ 31
針のすき間から 34             同窓会 38
U―――――――――
石 像 42                 待 つ 44
落とす 48                 冷える 50
ゆとりの時間 52              どんなに  54
万引き 58                 エンピツ削り大会 61
な ぜ 64                 パソコンで 67
手渡すマニュアルもなく 70         祭り太鼓 74
Y君を悼む 78               学期末 82
V―――――――――
蘇生を促すかのような 86          ニューヨークの残照 90
約束は雲に溶ける 94            恐竜は轟音をひびかせ 98
誰がどうして  102             誘 う 104
苦い影  107                ロバート・キャパ展 110
アフガンの瞳  114             白山にて 118
季節の鍵  120               仰々しい言葉を吸い取って 124
私の敦煌  126               黒の蹟 132
再生の一瞬  136              還暦に 140

跋文 青木はるみ  144           あとがき  158



 第一回卒業式

三年目にして全学年がそろい
新しく学校がつくられた昭和四十六年

プレハブ教室にいっぱいの職員は
若い熱気で燃えていたが
日々目がまわるほどの忙しさのなか
子どもたちはよく勉強した

あっという間に卒業がせまり
毛筆の名前書きを校長から命じられ
三クラス一〇〇名の名前を毎晩遅くまで
父は一枚一枚えんぴつの下線を引く

墨をする家族の励ましを背に
百人の生まれた年・月・日
必死に書いた一号から百号が
まあたらしい朱の印に映え
一人一人に手わたされる
大きな卒業証書

送辞も答辞もみんな全員で呼びかけ合う
あいだに入った詩の朗読は
「道程」高村光太郎
おなかの底から式場いっぱいに声を出す
練習をかさねた最後の授業

となりの男の先生は肩をふるわせ
まえの女の子は顔をくしゃくしゃにして
思わずこみあげたあついあの時は

消え去ることなく
墨の芳しい香りをのせて
何光年もの彼方から
新設の光を放っている

 著者の3年半ぶりの第二詩集です。あとがきによると「一部では共に学ぶ歓びを、二部では苦悩の現実を、そして三部では主に夏休みや冬休みに、大好きな旅をしての詩群になっています」とのこと。ここでは巻頭作品を紹介してみました。
 最近、教職を去られたようですが、教職に就かれた初期の頃を描いています。「父は一枚一枚えんぴつの下線を引く//墨をする家族の励ましを背に/百人の生まれた年・月・日」というフレーズに驚いています。家族の大きな支えがあったのですね。「卒業証書」に生年月日を入れたということも、もう遠い昔のことで忘れましたが、あったのかもしれません。今なら個人情報保護法で入れないのかな、なんてことも考えています。最終連の「何光年もの彼方から/新設の光を放っている」というフレーズもスケールの大きさを感じさせて佳いと思います。大らかさが伝わってくる詩集で、ほのぼのと拝読しました。



詩誌『烈風圏』第二期8号
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2005.12.20 栃木県下都賀郡藤岡町
烈風圏の会・本郷武夫氏発行 非売品

<目次>
おちば/ゆうされ/秋/ルリタテハ/黒髪 瀧葉子 3
出発  小久保吉雄 6
男体山の彼方/母親の薬  たのしずえ 8
秋色の中から/この頃  坂本久子 10
異界の覘き方  石神かよ子 14
エゴの実流し  水無月ようこ 18
ジュダンボ村  深津朝雄 21
すヽむし  高津朝子 24
考古館にて  都留さちこ 28
噴水  金子一癖斎 31
雨のこどもたち/水の惑星  山形照美 34
渚にて  本郷武夫 38
ヨサコイまつり/風の盆  立原エツ子 40
中井ひさ子詩集『動物記』を読んで  本郷武夫 43
暮色  白沢英子 44
骸骨(むくろ)  柳沢幸雄 46
古澤履物店  古沢克元 49
消えたブランコ/鈴虫  三本木昇 52
同人詩集紹介 三本木昇詩集『むらさき橋』★深津朝雄詩集『泥樋』★柳沢幸雄詩集『少年』 本郷武夫 56



 噴水/金子一癖斎

手をつないで
一緒に 束となって光に化そうとする
途中まで来ると己れの重みで
一人が天への思いをあきらめ
悲鳴をあげて落下する

すると
今までいた隣りの者も
その声を合図に
身をきらめかせ全員落ちて行くのだ

秋のくっきりした陽射しに
水は白く 冷めたく 遠くの風景を透かしては
上がっている 下っている

着地の手ひどい衝撃で
身体はくだかれ
幾十幾百に飛び散って
死体のねむりに届かぬまま
あとかたもなく水溜りになっている
次の飛躍の準備のために
もう一度 天への志向を示すために

まわりでは子供達の声がにぎやかで
鳩の群れが水のように流れている
わだかまっている
空の青さや夕日色の雲の赤さをほんの少し
身に移して
消して
夜の沈黙までの昇りと落下

天への上昇を確信し
そのまぼろしに染った爽涼さ
中天に向って垂直に目を向け噴出する
濁世を逃れようとして逃れえず
再び地上にもどって来る繰り返しの行為
絶えざる志向と絶えざる挫折
遠く忘れてしまった青春の思い

あの時志向したもの
あの時挫折したもの

 「噴水」の観察として第1連、第2連は特に見事だと思います。現象を詩人が観察するとこうなるのだ、という見本と云えましょう。「一人が天への思いをあきらめ/悲鳴をあげて落下する」なんてフレーズは特に佳いですね。
 そこまでなら普通の詩かもしれませんが、この作品は最終連が効いています。「噴水」と「遠く忘れてしまった青春の思い」を重ねて、「あの時志向したもの/あの時挫折したもの」へと到達する詩魂に敬服します。噴水を見る眼が変わりそうな作品でした。



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