きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
夕焼け 2005.1.2 神奈川県南足柄市 |
2006.1.14(土)
今年最初の日本詩人クラブ理事会、引き続いて新年会が東京・神楽坂エミールで開かれました。理事会の目玉は、昨年開かれた日本詩人クラブ法人化検討委員会の答申を受けて、理事会として法人化を推進することに決定したことですね。中間法人法の施行に伴い、従来の社団法人や財団法人よりも緩やかな中間法人という仕組みが出来て、それに乗ろうということになりました。今後は会員向けのフォーラムを開いて、最終的には総会の承認を得なければなりませんが、日本詩人クラブ55年の歴史の中で、いま、大きな転換点に来ていることをひしひしと感じます。
一般の会員の皆様はあまり感じないかもしれませんが、詩人クラブが任意団体であることでずいぶんと肩身の狭い思いをしてきました。私の範疇では、例えばEメールアドレスもHPアドレスも詩人クラブとしては取得できませんでした。私個人が契約しています。それはまあ大したことではないでしょうが、会計は大変だと思います。数千万の管理を個人の責任で負わなければなりません。法人として扱えばずいぶん楽になるだろうなと思いますね。任意団体では文部科学省もまともに相手にしてくれませんし、2000年の創立50周年記念祭では私が知人を通してNHKと交渉しましたけど、これも門前払いの格好でした。法人化でそれらすべてが一気に解決するわけではありませんけど、大きく社会的な認知を得られるのは確実です。おいおい拙HPでも紹介していくつもりでおりますが、会員の皆様のご理解・ご協力をお願いする次第です。
と、まあ、それはそれとして新年会は楽しかったですよ。100名ほど集まったかな? 中村会長の年頭の挨拶でも法人化について触れて、方向性は理解してもらえたと思います。
会場のスナップです。酔っ払って撮ってますから絵が曲がってますね(^^;
なにはともあれ、本年もよろしくお願いいたします!
○川中子義勝氏詩集『遙かな掌の記憶』 21世紀詩人叢書・第U期17 |
2005.12.15 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
* 鉄の時を巡って
高圧鉄塔 Erzengel 8 花の庭 an
Demeter 13
炉 Enten - eller 16 書庫の深みに Persephone 21
死の島へ von Hallstadt nach Dachau 24 声 Uranus 27
気象探査機 Kassandra 30 水晶の炎 33
船渠 Penelope 36 古起重機 ChristoPhorus 40
傷ついた天使 44 水底から an
Narziβ 46
燻煙の夜に 49 空の幕屋 Aura
- Projektor 52
風力発電 Prometheus 57
**ユリアと煙の侏儒(こびと)・譚詩
1 到着(プロローグ) 63 2 訪問 64
3 人形 66 4 伝説集 68
5 ウィンフリート伝説(公会伝承) 70 6 煙管(パイプ)の歌 78
7 ウィンフリート伝説(終焉異説) 81 8 朝の光 91
9 旅立(エピローグ) 93
あとがき 96
死の島へ von Hallstadt nach Dachau
夜明けちかくに列車は着いた
駅舎の外はすでに湖
雨と紛う霧のなか桟橋から艀に乗りうつる
鉛の張力にさからい
澪は縦にのびた放物線をかさねていく
街の形が夜の底から浮かびあがる
この日わたくしは
鉄器時代の地層に遺された跡をたどって
記憶の滴を集めてゆくことだろう
労働は自由にすると
鉄扉に無感動に記された文字
最後まで携えてきたものは一枚の紙切れ
いや紙切れに記された文字だったと
この門をくぐる者は悟るのだ
根絶は文字を奪うことから始まる
文字を剥ぎ取っても叫びが残る
叫びをも抹消するためには
すべてを洗い流す特殊な部屋が要る
だが形を消し去りすべてを記憶から拭い去っても
どこまでもまとわる命の臭いに
堪えうる者とはいったい誰だろう
建物が整列している
恥を感ずることもなくなるまでに
素裸で晒されることに慣れた尊厳のかたち
彼らはみなどこへ往くのだろう
わずかに明るんだ菫いろの隙間から
世界を覗きこむ者の眼差し
海溝の底ふかくいまかろうじて光が届く
鳥の姿はついに見いだされず
啄まれることもなく
麺麭(パン)は水のうえを漂うだろう
寺院の闇には
幾時代もの情念が脈絡もなく
煤けた頭骨のかたちで積みあげられ
たがいに咬みあいつつ
ひたすら黙していることだろう *一九七五/二〇〇五
キリスト教の素養が無くては深い意味まで到達できない詩集だと思います。そういう意味では私などではとても読みこなせないのですが、紹介した「死の島へ」は多少迫れるでしょう。
副題の「von Hallstadt nach Dachau」はハルシュタットからダッハウへ≠ニいう意味で、手持ちの辞書で「ハルシュタット」とは紀元前750-450年頃の中欧の初期鉄器文化≠ナあることが判り、「ダッハウ」は辞書に載っていませんでしたのでインターネットで調べました。その結果ダッハウ強制収容所は1933年1月30日の「ナチス政権樹立」後、同年3月22日に設立された、ドイツ最初の強制収容所≠ナ、強制収容所の名前であることが判りました。作品中の「労働は自由にする」はアウシュビッツ強制収容所の「鉄扉に無感動に記された文字」だと思っていましたが、すべての強制収容所に書かれていたようです。
ここで「ハルシュタット」が重要な意味を持っていることに気付きました。目次で判りますように、この詩篇は「鉄の時を巡って」という総タイトルのもとに収められています。あとがきでは、20世紀は「鉄の時代」であったと記されています。初期鉄器文化=u鉄器時代の地層」から20世紀へ、そして現在へと「幾時代も」鉄を媒介として歩んできた人類の歴史は「寺院の闇」ではなかったのか、と読み取ることができると思います。そこから詩集タイトルの「遙かな掌の記憶」は、すぐ一歩のところです。
この一作で詩集全体を紹介することは無理ですが、副題のドイツ語の意味も参考にしながら読み進めると、歴史に基づいた壮大な詩集であることが判ります。2部の「ユリアと煙の侏儒・譚詩」も、キリスト教の素養があった方がより良いでしょうけど、そうでなくても読みこなせる散文詩です。おもしろい。2005年、記憶に残る収穫の一冊と云えましょう。
○田尻英秋氏詩集『機会詩』 |
2005.12.25 大阪市北区 竹林館刊 2000円+税 |
<目次>
機会詩
(一) 8 (二) 10
(三) 12 (四) 14
(CUTUP) 16 (サイロ) 22
(廃車) 23 ――仮の終わり 24
ハンミョウと宝石 30 リアスの境界 34
原始の闇 40 世紀をまたぐ橋――奈良県十津川村にて 42
ICON2002 44 自然 50
秋の黄金の詩 52 もの 54
マックス・エルンストの覗き見た源初の森の中へ 56 山子の詩 60
働哭の森を一羽の鳥がよぎった 64 冬の日のカラマツ 70
ごらん! 76 小高い丘 82
あとがき 86
機会詩 (二)
この前までは畑だった空き地に
水糸が引かれ
木粋が築かれ
コンクリの基礎が打たれる
そして今日は昨日まで稼働していた
ユンボが脇に置かれ
工事そのものが休んでいる
その前を幼い子供達がかけまわり
母親たちは立ち話をしていた
このあいまいな畝で仕切られた土地に
明晰に築かれた基礎のように
私の内部にさしかかる異物は何なのか
けれど今日の午後は晴れ渡り
植えられたエンドウ豆はあくまで
支柱につるを巻きつけ
デージーやポピーは風に揺れていた
その様はこれから空き地が潰されて建物が立つ光景でもあり
建物が潰されて基礎が残った光景でもあり
その両極が混在する光景でもあった
1971年生まれという若い著者の第一詩集です。ご出版おめでとうございます。
詩集のタイトルでもある「機会詩」の意味が判りませんでしたが、目次の裏にちゃんと載っていました。
きかい−し キクワイ‥【機会詩】[名]ドイツ
Gelegenheits
gedichtの訳語)一七〜一八世紀のドイツに発達した
詩の一形式。眼前の事象に触発されて、折にふれて
の感懐を歌った詩。即興詩。
日本国語大辞典(第二版)小学館より
即興詩ということで良いと思いますが、内容は紹介した作品のように安直ではありません。特に最終の「その様はこれから空き地が潰されて建物が立つ光景でもあり/建物が潰されて基礎が残った光景でもあり/その両極が混在する光景でもあった」というフレーズは秀逸です。楽しみな詩人が出現したなと思います。今後のご活躍を祈念しています。
○野老比左子氏創作オペラ『オリベ焼文様』 作曲 中澤道子氏 |
2005.11.11
第3刷 岐阜県多治見市 オリベの友社・野老靖二氏発行 非売品 |
<目次>
はじめに 野老比左子
第一幕 1
第二幕 9
原作・台本:野老比左子(ところひさこ)プロフィール
副題に「古田織部と妻せんの愛と炎の物語」とあります。もう少し詳しく「はじめに」の冒頭の部分を見てみましょう。
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この物語は、中世から近世へ移る時代の過渡期に生きた
古田織部
の生涯と人間模様を軸として、長い間、歴史にうずもれていた人々の愛と情熱を掘り起こして歌いあげたものです。動乱の安土桃山時代、信長、秀吉、家康のはざまで激しく揺さぶられながら、日本の焼き物文化史に新しい波を巻きおこした伝統と創造、織部芸術の誕生にせまります。
千利休の跡をつぐ茶匠といわれながら、由緒ある幸せな侍家族だった織部一族は突然の政争に巻きこまれ悲劇的な織部と息子五人の最後を同時にむかえます。古田織部のふるさと美濃路より桃山茶陶の意匠と技法、焼き物の知恵をしぼり、織部を支えた無名の陶工たちは四百年余、歴史のまぼろしとなりながら、なお現代を魅了する織部焼として生きています。
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オペラの台本というものを初めて見ましたが、基本的には歌詞ですので楽しめました。古田織部の切腹などが挿入されていますから、楽しむという言葉は不適切かもしれませんけど、芸術作品として見れば良いと思います。焼き物にはまったくの門外漢の私でも織部焼に触れてみたくなりました。織部は侍の焼き物に執着したようで、そんなことも初めて知りました。焼き物という視野がひとつ広がった感じを受けた著作です。
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