きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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夕焼け 2005.1.2 神奈川県南足柄市

2006.1.25(水)

 職場の先輩の定年退職祝賀会がありました。おそらく今の職場では最後の定年者となるでしょう。4月からは大きな組織変更が予定されており、私の職場も今の形は無くなる予定です。

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 写真は職場の女性陣と。1945年生まれの私より四つ上の先輩になります。弊社で平穏無事に定年を迎えられる最後の年代と云えましょう。このあとの年代の大部分は、同じ会社で定年を迎えるのはほとんど絶望的で、関連会社への移籍や早期退職しか選択肢はない状態になるはずです。大幅な黒字を背景にリストラに踏み切る経営陣の手腕を是と見るか非と見るかは判断の分かれるところですが、少なくとも利益の分配先が従業員ではないことは確かです。そのために20年、30年かけておとなしい従業員を育ててきたわけですから、まあ、当然の帰結と言えるでしょうね。

 そうそう、私の退職日が本日確定しました。希望の3月31日は受け入れられず4月30日になってしまいました。予定より1ヵ月遅くなってしまいましたが、特に予定があるわけではないので了承しました。別れるときはさっさと別れる、というのがこれまでのポリシーだったのですが、女性と違って会社はそうはいかないようです(^^;




月刊詩誌『柵』230号
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2006.1.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代持展望 詩人と自費出版の意義  松山敦遺稿集『明けの書斎』…中村不二夫 82
少年詩メモ(2) 現代持と少年詩…津坂治男 86
吉本隆明論(12) 自立の拠点…森 徳治 90
流動する世界の中で日本の持とは16 アメリカインディアン博物館訪問 於てロス…水崎野里子 94
風見鶏・増田幸太郎 高橋 響 渡辺正也 圓子哲雄 村田好章 98
「戦後詩誌の系譜」28昭和48年40誌追捕4誌…中村不二夫 志賀英夫 110

大貫裕司/北の始発駅から 4        山南律子/生きる 6
前田孝一/養老渓谷慕情 8         北村愛子/お茶のんでーな 10
立原昌保/お別れですね 12         松田悦子/少年 児童館の一日 14
小島禄琅/夕焼け 16            肌勢とみ子/当世リサイクル事情 18
進 一男/早春譜 20            伍東ちか/轍のあとを 22
宗 昇/扉 無言館にて 24         岩崎風子/初漁日 26
南 邦和/柳行李 28
            今泉協子/吹雪のロープウェイ 30
中原道夫/「ベロニカ」大籠康敬に 32    名舌きよえ/しんしんと冷えてくる 34
小城江壮智/ヤマトシジミ 36        岩本 健/終章 38
上野 潤/和蘭物語 23 40         檜山三郎/兄・暹の軌跡から 42
木村利行/靈山 44             高橋サブロー/雲上へと続く道 48
織田美沙子/粉砂糖を振り掛けて 51
     小野 肇/風景のない街 54
小沢千恵/十五時の猫 56          鈴木一成/言葉遊び 58
江艮亜来子/夕陽 60            門林岩雄/臍 孫の狙い 62
安森ソノ子/金閣を背に舞う 64       佐藤勝太/高野宿坊の朝 66
川端律子/香りを放つ人 68         若狭雅裕/立春 70
水崎野里子/愁 72             山崎 森/白鳥の蹄り 74
野老比左子/魂の青い鳥 76         山口格郎/「美しき建前」の流行 78
徐柄鎮/筏師 80

続・遠いうた57 マイノリティの詩学 自爆テロリストの「人間失格」…石原 武 100
インドの詩人 アフターブ・セットの詩6…水崎野里子 104
コクトオ覚書 205 コクトオ自画像[知られざる男]25…三木英治 106
人間性回復へのアニマティズム 中原道夫『わが動物記、そして人』…松尾静明 118
東日本・三冊の詩集 寺田弘『三虎飛天』 桜庭英子『ミドリホテル幻想』 秋本カズ子『セピア色の風景』…中原道夫 120
西日本・三冊の詩集 伍東ちか『手風琴』 井上道子『さざめごと』 北原千代『ローカル列車を待ちながら』…佐藤勝太 124
受贈図書 117  受贈詩誌 127  柵通信 128  身辺雑記 132
表抵絵 中島由夫  扉絵 申錫弼  カット 野口晋/中島由夫/申錫弼



  −無言館にて−/宗 昇

コンクリート打ちっぱなしの建物の木の扉を押してはいると十字架
状の空間の壁面に数十点の遺作のタブローが並べられていた。いま
は穏やかなひかりを受けてはいるが戦場に行かされて死んだ若い画
学生たちの それは沈黙のライブである。

「神戸東亜ロード」と題する絵の前で足がとまった。コンクリート
造り二階建ての当時はハイカラであったにちがいない建物が二棟
大通りに面して画面いっぱいに描かれていた。淡いクリーム色の外
壁と日除けの布が陽光を受けてさびしく浮き出ている。扉も窓も色
濃くかげって。

建物の一階はレストランだったのかカフェーだったのか。
PARADISEと白く読める横文字の下の暗くかげった扉を押し
てはいると内部は闇。ジャズもシャンソンも禁じられ壁面を飾って
いたはずの絵も写真も撤去されて夜空の闇ばかりが深々と広がって
いた。

数条の探照灯が闇を切り裂き交差して あたかもその光の交差に支
えられ運ばれてでもいるかのようにB29のジュラルミンの機体が
きらめきながらゆっくり北上していった。
はるか下方の闇に突然ぽっと赤い火がともる。零戦が一瞬黒い機影
を浮かびあがらせ たちまち火炎につつまれて墜ちていった。

「神戸東亜ロード」 杉原基司画
昭和一八年九月海軍予備学生として入隊。三〇二海軍航空隊に所属
零戦搭乗を志願。昭和二〇年二月一六日厚木上空の空中戦にて撃墜
され戦死。享年二十三歳。
厚木上空はわたしのふるさとの空である。その夜わたしは十四歳の
いのちの延長線上に この青年画学生の火だるまの散華を目撃して
いたのかも知れない。

 最終連の「厚木上空はわたしのふるさとの空である。その夜わたしは十四歳の/いのちの延長線上に この青年画学生の火だるまの散華を目撃して/いたのかも知れない。」というフレーズを見て、ハッとしました。冷静に考えれば「厚木上空」で空中戦があって、「十四歳の」「わたし」がそれを目撃したことはあり得る話なのですが、「この青年画学生の火だるまの散華」と具体化されると、非常なリァリティーを持って私の胸に迫ってきました。おそらく作者は私以上に「杉原基司」という画学生を現実感を持って感じたことだろうと思います。国内での空中戦というのはそういうことなのだと感じた次第です。
 「無言館」は昨年夏に私も初めて訪れました。言いようのない現実感にとらわれる美術館です。ぜひ行ってみてください。



詩誌『地平線』39号
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2005.12.10 東京都足立区
銀嶺舎・丸山勝久氏発行 600円

<目次>
孤島…山田隆昭 1             切符…大川久美子 3
嗅ぐ…田口秀美 5             暁のサンタマリア…福栄太郎 7
カプセル…山川久三 9           逢魔の頃…金子以左生 11
評論(1)<歴史作家・土橋治重>の出発…中村吾郎 13
墓一基…いわ・たろう 15          恋仕立て…川田裕子 17
石…杜戸 泉 19              指貫…小野幸子 21
母の頬…鈴木詢子 23            蟻…樽美忠夫 25
評論(2)作品解読会田綱雄「潮騒」…秋元 炯 27
惑わされて…飯島幸子 29          彼方へ…沢 聖子 31
ありがとう みなさん…野田新五 33     ああ 奥義…中村吾郎 35
オフィス・ガール…秋元 炯 37       ニート…たにみちお 39
ポジション 永遠の恋人アメリカ≠ノ捧ぐ…丸山勝久 41
編集の窓・同人名簿・編集後記…43



 切符/大川久美子

日頃は何の関心もないふりをして 無性に気
になったら どうしても欲しくなる 「冥土
への往復切符」 男はそんな玩具のような切
符を 芝居の小道具で使うのだと言って 何
枚も何枚も作り始めた 切符は紙屑の山のよ
うに部屋中にあふれ 男はそれでも飽きずに
作り続け いつしか肌身離さず持ち歩くよう
になっていた あまりにも熱中しすぎたせい
か 半身は薄影に包まれたまま 男は或る日
突然 その切符を使って本当に電車に飛び込
んでしまったのだ

本物の切符ならば 最速の新幹線グリーン車
に乗って 快適な逃避行の旅が思う存分楽し
めたはずなのに 男は自分が作った切符が実
際に使えるかどうか試してみたかったのだろ
う のらりくらりと妻の小言に耳を塞ぎ
コウモリのように始終使う機会を狙っていた
 電車は毎日時刻通りに 鋼鉄の牙を剥いて
ホームに滑り込んでくる 機会は何度もやっ
てはこない 男は未来行きの指定席券を固く
握り締め 見えない世界の香しい匂いを嗅い
でいた

男はさ迷える無限の闇を突き抜け 美しい女
人が待つ
渡り川駅に辿りつく 川は順番待
ちをする先客でにぎあい 時には合否の結果
に 歓声をあげる声さえ聞こえてくる 男の
番が来ると 女人は透き徹るような細くしな
やかな指で 男の持っている切符に 審判の
ハサミを入れる 渡り川駅を無事通過し
次の未来駅に辿りつけるかどうかは みんな
女人のハサミの入れ具合にかかっている 男
はあまりにも違い過ぎる妻との生活を想い浮
かべ 涙さえ流して 女人にされるがままに
なっている

胃潰瘍で侵された歪んだ頬には ふっくらと
した絹綿が詰められ 冷たくなった土色の顔
には 死者に相応しい白化粧が手厚く施され
 男はまるで別人のように蘇る 義務感で仕
事に行かなくてもいい 重症の躁鬱病に苦し
められることもない 妻という最少の人間関
係にさえ惑わされることがない 半券の「片
道切符」はもう使う必要がない 男の身体は
帰る場所を失って 無重力のように軽くなっ
ていく
 
※渡り川 三途の川ともいう 冥土への途中にある川

 「冥土への往復切符」が結局は「片道切符」になった、という話ですが、妙に明るさを感じる作品です。「胃潰瘍で侵された歪んだ頬には ふっくらと/した絹綿が詰められ 冷たくなった土色の顔/には 死者に相応しい白化粧が手厚く施され」というフレーズにはリアリティーがあって、一瞬、ゾッとしますけど、「男/はあまりにも違い過ぎる妻との生活を想い浮/かべ 涙さえ流して 女人にされるがままに/なっている」には「男」の夢さえ感じます。詩作品ですから関係はないのですが、そんな「あまりにも違い過ぎる妻との生活」を女性の作者が書いているところも面白いですね。うまく説明できませんが、惹かれた作品です。



詩誌『花』35号
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2006.1.25 埼玉県八潮市
花社・呉美代氏発行 700円

<目次>
作品
朝市で/柏木義雄 4            迷路を辿って/山嵜庸子 6
雨やどり/川上美智 7           飛ばなくては/中村吾郎 8
鮭/湯村倭文子 9             蛙の行く末/菅沼一夫 10
一条の滝/坂東寿子 11           介護日記余白/鷹取美保子 12
白い封筒/鈴切幸子 14           雷電神社まで/篠崎道子 15
ヴィルベルフォース記念碑のありか(1)/鈴木 俊 16
詩誌「花」東京大会 −深川文学散歩と屋形船/山田隆昭 18
エッセイ 落穂拾い/高田太郎 21
訳詩 わが死・わが生2 ドリン・ポパ/宮沢 肇 訳 22
神農の前に 他一篇/天路悠一郎 24     無人駅3/飯島正治 26
毒蛾/高田太郎 27             籠の鳥(目白)/石井藤雄 28
藍のにおい/佐々木登美子 29        時のざわめき/青木美保子 30
鳥インフルエンザ/都築紀子 31       薄雪鳩
(うすゆきばと)/宮崎 亨 32
お針っ子/和田文雄 33           時の忘れもの/小笠原 勇 34
桔梗/水木 澪 35             なんしょうとぉ?/原田暎子 36
「エンキドウと羊」/平野光子 37      最後の仕上げは何だ/馬場正人 38
線路/峯尾博子 39             川岸の風景/坂口優子 40
「法界院」の家/酒井佳子 42        爽竹桃と百日紅
(さるすベり)/呉 美代 43
書評
新編 佐久間隆史詩集について/高橋昭行 44
詩集「イラク戦詩 砂の火」の刊行意義/中村不二夫 46 
狩野敏也詩集「犬はつぶやく」評/菅沼一夫 48

鷹取美保子詩集「千年の家」評/丸山勝久 50
断層/山田隆昭 52             疑(魏)史倭人伝(上)/山田賢二 54
ふたり関羽の悲劇/狩野敏也 56       夢魔/秋元 炯 58
或る日ホームで/鈴木 俊 60        青春という名のうさぎ/菊田 守 62
瞳/丸山勝久 64              ジパング脱出/宮沢 肇 66
受贈詩集 68     編集後記 69



 瞳/丸山勝久

夕焼け空に
飛行機雲 ひとすじ

ぼくは
はるかな 刻を
憶い出す

にっくき アメリカ
特攻隊に いくのだ
日本のために
みんなのために
十二才の中学生は
覚悟を決めていた

ニッポンよ どこへいくのか

澄んだ まなざし
みんな
遠くをみつめていた

時はながれて
テレビが映しだす
我欲のとりことなった
金銭亡者たち
眼窩の奥に
死臭さえただよわせている

ニッポンよ どこへいくのか

敗戦の年
連日
連夜
なんども なんども
空襲があった
B29重爆撃機の編隊を迎え撃ち
敵弾を浴びた
我が戦闘機は
紅蓮の尾を曳きながら
民家を避け
隅田川へと墜ちて行った

ニッポンよ どこへいくのか

ぼくと目が合った
若いそのひとは
いつまでも
手を振っていた

 最終連の「ぼくと目が合った/若いそのひと」とは、「敵弾を浴びた/我が戦闘機」のパイロットだろうと思います。墜落する戦闘機のパイロットと目が合う距離は、などと即物的な計算をする必要はないでしょう。精神的な距離と考えるべきだと思います。その精神性が「十二才の中学生」の頃から「我欲のとりことなった/金銭亡者たち」を見ている現在まで、「ニッポンよ どこへいくのか」と何度でも叫ばせているのだと云えましょう。「いつまでも/手を振っていた」「若いそのひと」の「瞳」を私たちも見なければならないと感じた作品です。



詩誌『環』119号
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2006.1.23 名古屋市守山区
若山紀子氏方「環」の会発行 500円

<目次>
若山紀子/握る手 2            安井さとし/弟 5
森美智子/洗う 8             菱田ゑつ子/小雪の午後 10
東山かつこ/ともあれ石仏 12        神谷鮎美/はだかのグレート 14
加藤栄子/世界遠近法 16          高梨由利江/脱ぐ 脱ぐ 18
さとうますみ/戦争が終わったある日 20
<かふえてらす> 24
神谷鮎美 加藤栄子 菱田ゑつ子 森美智子
<あとがき> 若山紀子 26
表紙絵 上杉孝行



 戦争が終わったある日/さとうますみ

遠い遠い記憶がある
そのころわたしは
ラジオの中には歌の上手な小人が住んでいると思っていた
戦争が終わったある日
土間の入り口からアメリカ兵が入って来た
薄暗い家の中から見えたのは明るい外の光を背に
異様に大きなそのシルエット
そのとき私は誰かの膝に抱かれていた 祖母だったのだろう
母は生まれたばかりの弟を抱いていたはずだ
父もいたような気がする

その兵士は軍帽のひさしの奥の
さらに深い眼窩に光る水色の眸を
ひとかたまりの黄色人種たちに滑らせて
無表情に家の中をぐるりと見渡し
革の長靴を脱ぐこともなくその長い脚で三和土から畳に上がり
そのまま階段を昇って行った
磨かれた革靴の踵をキュッキュッと鳴らして
わたしは幼かったが
彼が踏みつけているものが階段ではない何かだと感じた

二階で何をしていたのか 思ったより早く兵士は出て行った
階段に泥の靴跡を残して
息をひそめて石のように身をかたくしていた家族は安堵した

お父さん あれは本当にあったことなの 晩年の父にふと聞いてみた
高齢の父は覚えていた
 アメリカ軍が来るというので
 図書館の本をたくさん焼却しなくてはならないことになった
 図書館長だった僕は どうしても焼くことができないと思った本を
 自宅に隠していたんだよ 記紀万葉や漢籍などだったけどね
 誰かがそのことを言いつけたんだろう
 でもあのアメリカの若いお兄さんには
 隠したのがどの本なのかわかるはずがなかった
 本棚から畳に本をめちゃくちゃにほうり出していたよ

父もわたしもあやうく忘れてしまうところだった遠い出来事
父以外の家族の誰一人その意味を知らなかったこと

わたしには進駐軍の兵士にしか見えなかった人を
「アメリカの若いお兄さん」と楽しげに父は言った
彼の祖国には誰が待っていたのだろう

占領したとはいえ 薄暗い奥まった民家に一人で入って
日本語の本を検閲するのはあまり楽しくはなかっただろう
だからさっさと任務をきりあげたのだろう
その後の歳月を生きてきた父の明るさを思えば
密告者のことなど(多分誰だかわかっていただろうに)
まったく気にしていなかったと思われる

お父さん あなたがいのちがけで護りたかったものを
今わたしたちは捨てようとしています
本は消耗品となり
大学から国文科が消えてゆく時代になりました

 最終連が辛い作品ですね。「大学から国文科が消えてゆく時代」は私たちが作ってしまったに他なりません。すぐに利益が出る理科系にばかり目が行って、何の儲けも生み出さない文系は「捨て」てしまいました。詩を作るより田を作れ、だったのです。その結果がどうなって行くかは想像するしかありませんけど、決して良い方向には向かわないでしょう。それもこれも「本は消耗品と」しか扱わなかった報いだと考えれば諦めがつくのかもしれません。
 こういう作品は今後も掘り起こしてもらいたいと思います。掘り起こすことによって私たちが何を得、何を捨ててきたのかが少しは判るようになるでしょう。その上で何度でも考える必要があると思っています。



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