きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
050102.JPG
夕焼け 2005.1.2 神奈川県南足柄市

2006.1.31(火)

 明日は病院に行くので休暇を取りましたから、今日は謂わば休日前。呑みに行きました(^^; 病院に行く前日に酒盛りかよぉ!とお思いの皆さん、まあ、それだけ体調も良くなったとお考えください。
 今日は「獺祭」の置いてない店でしたので「鯨心」と「磯自慢」で我慢しましたけど、我慢した≠ネんて失礼な言い方のできないお酒なんです。「磯自慢」は2合も呑んでしまいましたから美味しくないわけがありません。
 それにしても日本って、お酒には恵まれているなと思います。いろいろと不満のある国ですけど、これがあるから結局は大好きと言いたいですね。これが本当の愛国心だとは思いませんか!



広沢恵美子氏詩集『月の桂』
tsuki no katsura.JPG
2005.11.15 東京都豊島区 国文社刊 2500円+税

<目次>
黄の蝶 8      海が孕んだ日 12
息子の旅 16     舞台 20
空の面積 24     こおろぎ 28
方角 32       通過点 34
手まり 38      待ち時間 42
野風 46       老山椒 50
もう一枚の地図 54  遠い記憶へ 58
機 62        脈 66
海 70        夕映え 74
ことば 78      降り出しそうな午後 82
桂の枝の下で 86   月の桂 90

あとがき 94



 待ち時間

ポカリと目を開けると
彼は言った

「大ぜい集まって 俺の死ぬのを
待っているのかい」

その夜
病室の天井は いやに高く
あかりは皓々と澄んで
うすい身体を照らしていた

それから二時間後 彼は逝った

モクモクと家族はその意思に従い
葬式の準備にかかった
親類縁者は彼との交わりを反芻しながら
そのあとに続いた

死にたくない
と何度も言いながら 逝った
彼のたましいを包んでいたものが
滅んでしまった
それだけの事だと思いながら

空行く風に紛れ込んだ
彼をもう見つけられない

大ぜい集まって 俺の焼けるのを
待っていたのかい

 第一詩集です。ご出版おめでとうございます。
 紹介した作品は詩集の中では他とちょっと質が違い、詩集を代表する作品とまでは言えないのですが、第2連と最終連が印象的なので紹介してみました。その2連だけに「彼」の言葉が一人称としてナマで出現するのですが、それが奏功していると思います。一般的にこの手法を使う場合は1字下げたりするのですけど、ここではそうしていません。出来上がった形を見ると1字下げの必要性もありませんね。先天的に技法を獲得しやすい詩人なのかもしれません。今後のご活躍を祈念しています。



詩誌『茜』22号
akane 22.JPG
2006.1.25 東京都渋谷区
高橋晟子氏方・茜の会発行 非売品

<目次>
藤井ヤエ子・それでもよかったと思いたいあの頃/行きつもどりつ/小春日和に誘われて 2
古河みのり・花まつり/変身・昭和二十四年/ランチョンマット 8
梅沢 綾子・我が家の蛙/金魚まつり/警告 14
三枝 規子・針仕事/朝のバス停/お手玉 20
柴田 照代・刺し子の自負/邑楽郡の道/おむつらさま 26
高橋 晟子・今も/手鏡の中/どうだろう 32
連詩   ・指輪(作品46)38
      西暦二〇〇五年春(作品49)40
大石 規子・「ヨコハマ遊大賞」受賞 42
編集後記
表紙 柴田照代



 「ヨコハマ遊大賞」受賞/大石規子

「ヨコハマ遊大賞」受賞 うれしいな
学童疎開の会の地道な活動が
みとめられたのだ うれしいな
これで 箱根の旅館で一緒に勉強した
あの子に報告できる

あの子が
病気でヨコハマに帰って間もなく
五月二十九日の大空襲
それきり あの子は消えたのだ

でも いつも私のそばに
うろうろしていて 言う
「私のかわりに何してくれた?」

うれしいな
あの子に お土産できた
「遊大賞」のお土産できた

 横浜には「ヨコハマ遊大賞」というユニークな民間の賞があって、文芸に限らずスポーツでも何でも独自の視点から顕彰しています。過去に何人かの詩人も受賞しています。大石さんが「学童疎開の会」で活動なさっていて、それが「ヨコハマ遊大賞」を受賞したことも新聞で知っていましたが、正直なところ目次でそのタイトルを見たときには違和感を覚えました。個人的なものではありませんけど受賞≠詩にするなんて大石さんらしくないなと感じたのです。

 しかし紹介した作品を見ていただければ判りますが、今は私の狭量を恥じています。「あの子に報告できる」「あの子に お土産できた」ことを素直に喜ぶ姿勢に胸が熱くなるのを覚えました。「私のかわりに何してくれた?」という問を大石さんはずっと受けていたのかと思うと、この詩人の芯の強さの秘密の一端を知った思いもしました。大石さん、おめでとう!



詩誌『弦』34号
gen 34.JPG
2006.1.26 札幌市白石区
渡辺宗子氏発行 非売品

<目次>
語感と詩の領域(30)/佐藤 孝 1
詩 遍路/渡辺宗子 2
『弦』に於ける佐藤道子の詩・私見/藤田民子 3
佐藤道子詩集『かげろうの視座』――その冷徹な詩的意志の展開――/谷崎眞澄 4
詩 鍵老人のマザーグース(九)/渡辺宗子 5
佐藤道子詩考1/渡辺宗子 6



 遍路/渡辺宗子

 放心の表情は
 爪たてても黙り    

 やたらに重たくなっていく
石と対峙した歳月
燃え立つ閉じた情念
抑えこむ寡黙の
碧玉の精を緘じて
爪たてる陣痛
あなたは石を産む

豊かな四季を蓄え
原色彩の鳥のさわぎに
片耳を削ぐ
深奥に潮汲み掬う
ひそやかな芽吹きの
未知の大気と 予感の垂死
          

 シグナルのある街で
 金属の河をみていると
 固く光るアスファルトになった
バスを待ちながら対話する影
タールの塊に化した懐抱に
あなたが「あなた」と呼ぶのは
支えのない首をもたせかけたのは
疲れた聖母の幻の慰撫
己の救済を許さない
聖者の闇であったのか

あふれ出る無言の音譜
オホーツクの人魚姫伝説は
狂おしい怒濤の海潮に
泡沫の虚しさを重ねて
想いの丈を勁くした

いっぱいに盈た石の思考
あなたの燭耀の下で
捨てた思念をひろうだろう
消えた声を訪ねるだろう
そうして
二人同行の遍路に出かけよう

 ※ 佐藤道子詩集「ナルシスの風」
   
1 石・2 バスを待つ時間より

 この詩誌は渡辺宗子さんと佐藤道子さんの二人詩誌で、私もお二人には3、4度お会いしています。主に日本詩人クラブの丸亀大会や関西大会での出会いですが、いつもお二人ご一緒で「詩人クラブの大会に出だしたら面白くて、癖になったんですよ」とおっしゃってくださったことが印象に残っています。
 その佐藤道子さんが60代の若さで亡くなったのが昨年10月。今号は銘打っていませんが追悼特集号です。渡辺宗子さんの、佐藤道子さんへの思いを描いた作品を紹介してみました。最終連に胸打たれます。「二人同行の遍路」はこれからも続くのでしょう。佐藤道子さんのご冥福をお祈りいたします。



詩誌『詩と創造』54号
shi to sozo 54.JPG
2006.1.31 東京都東村山市
書肆青樹社・丸地守氏発行 750円

<目次>
巻頭言〔写生論〕(二)/辻井 喬 4
詩篇
この徴、この廃墟は/清水 茂 9      神の領土たるべき大地を/原子 修 12
新ヴァルキューレ騎行/嶋岡 晨 12     雉(きじ)・晩夏/山本沖子 16
やっかいな背後/柴田三吉 18        人格症候群(ペルソナ・シンドローム)−雅歌哀哭の<刻>/内海康也 20
貴種は道化の華なれば/尾花仙朔 22     鶏の闇/深津朝雄 26
さくら忌/吉田幸子 28           蜘蛛/笹原常与 32
複眼のゆくえ/橋爪さち子 35        終りのない旅・日常へ/長尾 軫 38
きのう、シャボン玉の木を買った/北川朱実 40 絡織(からみおり)/山本十四尾 44
暴発/納富教雄 46             柿の実と鳥・深い霧の中で/丸地 守 49
詩集賞特集 第四回「現代ポイエーシス賞」・第四回「詩と創造賞」特集 52
特集 「詩と文明」<個と人類>コーディネーター:丸地守 司会 古賀博文
現代詩フォーラム パネラー:鎗田清太郎 辻井喬 石原武 尾花仙朔 記録 森田薫 76
更科源蔵文学貿のこと 原郷喪失の時代に抗して/原子 修 102
詩集評 詩は文化という命題をめぐって――亦はその偏光が映し出す光と影――/溝口 章 108
プロムナード 「男たちの大和」/こたきこなみ 117
現代詩時評 <現代詩>をささえる類い稀なスケールの詩魂/古賀博文 118
海外の詩
石/イヴ・ボヌフォワ 清水茂訳 124
詩集『カラス』より/テッド・ヒユーズ 野仲美弥子訳 126
『エミリィ・ディキンスン詩集』より(十一) 岡隆夫訳 129
リギダ松/カタツムリ他 チョン・ホスン(鄭浩承) 韓成禮訳 133
詩集『ぼくは書きたいのに、出てくるのは泡ばかり』(一九七二)より/ペドロ・シモセ 細野豊訳 137
詩集『日常生活の興奮』(第八〜十章)より/ドニーズ・ジャレ 鈴木孝訳 142
鏡/印鑑 岩上(台湾) 今辻和典訳 150
推薦作品
「詩と創造」2006冬季号推薦優秀作品 オアシス/トランスレーション 山本敦子 152
韓国の新鋭詩人 推薦優秀作品 江華島を過ぎつつ/風 キム・ジョンテ(金鐘泰) 韓成禮訳 156
研究会作品 160
地下市場 岡山晴彦/鍋 仁田昭子/電光板 金屋敷文代/冬の日 葛原りょう/冬の旅 弘津亨/秋の公園 山田篤朗/満月の浜辺で おしだとしこ/あの夏の記憶に 高橋玖未子/冬支度 四宮弘子/八月の動物園 吉田薫/癌 喜多美子/宇宙の手 吹野幸子
選・評 今辻和典・山本十四尾
全国同人詩誌評 評 古賀博文                         172
書肆青樹社の本 池谷敦子詩集『青く もっと青く』/葛原りょう詩集『朝のワーク』176
書評 吉永素乃詩集『仮定法の夏』/一瀉千里詩集『ファーザー・ズ・フラワー(父の花)』/松浦成友詩集『フラグメントの響き』/追記三本木昇詩集『むらさき橋』のこと 評 こたきこなみ・丸地 守



 やっかいな背後/柴田三吉

背後がある。

いきものとは、背後を引きずるものの謂い。いちばん視
野が狭いのが、人間である

らしい。対称性は左右にあって、前後にはない。生は、
前と後ろで編まれているのに、うしろは

つねに、からだごと振り返らなければ、見ることができ
ない。前と後ろが、逆転する

だけだ。背後は見るものではなく、考えられる場所だ。
ゆえに、背後に気づかれない人間は

哀しい。やっかいな背後、不安な背後、他者を必要とす
るものは、他者を批評するようにつくられて

しまった。しまったなあ、樹木も草花も、背後を持たな
い。左右も前後もなく、上と下だけ

があり、日差しへ向かって伸びていくだけだ。草や木に
してみれば、人間は根っこがないから

うらやましい、と言うかもしれない。いや、かれらは、
ことばという背後さえ、持っては

いないのだ。語られるためにだけある、いきものが、語
るものを生んでいる

らしいね。背後とはつねに、らしい、としか語り継げな
い、アルパカのセーターの、ほころびの

ようなものか。

 一読してやられたなぁ≠ニ思いました。人間には「対称性は左右にあって、前後にはない」というのは言われる通りですが、それに気付いていませんでした。さらに「樹木も草花も、背後を持たな/い」という対比で強調されてしまうと、ボンヤリとしか物事を見ていなかったのだなと改めて感じます。人間に限らず動物もその範疇に入りますけど「やっかいな背後、不安な背後、他者を必要とす/るものは、他者を批評するようにつくられて//しまった」のは人間だけですから、とりあえず動物のことは考える必要はないでしょう。モノを見るとはどういうことか根本的に考え直さなければならないぞ、と反省させられた作品です。



   back(1月の部屋へ戻る)

   
home