きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
満天星 2005.1.8 自宅庭にて |
2006.2.1(水)
病院に行ってきました。咳も収まって、経過は良好です。もうしばらく薬の世話になって様子を見ることにしました。原因は不明ですが、気管支拡張薬が効いているので喘息の初期だったのかもしれませんね、とのこと。煙草はやめていますか?と聞かれて、半減してますと答えたら笑っていました。ニコチン6mmgを1mmgにして、1日20本を10本にしていますから本当は12分の1減なんですけど、説明するのが面倒くさいからそう答えた次第です。やめた方がいいのは判っていますけど、やめられない。青少年諸君、手を出さない方がいいよ!
○岡田恵美子氏エッセイ集 『此の子誰の子』 |
2006.2.18 東京都板橋区 待望社刊 1429円+税 |
<目次>
悪女大好き 6 用の美・無用の美 10
言葉遊び 15 「インディオの聖像」展から 19
虚実の生命(歴史小説考) 23 六牙の象 28
ネプチューン詩祭に出席して 34 服部良一氏の想い出 39
ファド・心酔わせる歌 44 自死考 48
旅ごころ 54 現代詩の閉鎖性について 59
小説の中に見る愛と孤独 63 「ブリューゲルの世界」展を見て 73
坂の家 81 羽黒神社と夏祭り 86
楔を打ちこむ 93 詩作品「万年青」余滴 98
詩よ馥郁と薫れ 102 長崎巡礼I
107
乗鞍の御来光 112 鐘の音
116
滅びの美学 122 地を繋ぐもの
127
ピエール・ロティの彫像 134 真夏の夜の夢
140
此の子誰の子 144
あとがき 174 装幀 高島鯉水子
授業参観が終り、他の父兄がぞろぞろ帰りかける時、私は先生に呼び止められた。
「岡田さん、一寸お話が有りますので残って下さい」。
教師は私より幾分年上の女性であった。
すらりと長身の教師は、私の前に立つと、私を見下すような位置になる。
「お母さんも、さっきの授業を御覧になったように、**君はいつも何をやっても、もたもたして出来ないんですよ。一体お宅ではどんな躾をしているのですか」。
私は羞恥で身の置き所がなかった。確かに息子は痴鈍ではないかと思うように、教室での動作は遅かった、あれでは教師は毎日いらいらさせられてしまうだろう、と思った。
「**君は問題児なのです。私達の仲間では**君のような子を、お客さんと呼んでいるのです。そういう子を相手にしていると、他の子の勉強が遅れてしまいますから」。
私は大きな鉄槌で頭を殴られるような思いがした。次々と女教師の薄い唇から飛び出す言葉は、私がまだ一度も受けた事のないような侮蔑と、屈辱で、心がずたずたになるような言葉であった。
私の可愛い息子が、あろうことか――。
私の小さな背が尚縮んでゆくようで、見下ろされている事に息苦しい迄の圧迫さえ感じていた。
「では特殊学級へでも入れなくてはいけませんか」。
私は恐る恐る訊いた。
「まあ今の所其処迄は考えていませんが、もう少し様子を見ましょう。知能に障害があるという程ではありませんから」。
「ではもう少し学年が上って物事が判別できるようになったら、勉強もできるようになるでしょうか」。
私は、息子が現在何も出来ないのは、心が稚な過ぎる故ではないか、と一縷の希みを託して教師に訊いた。
教師は軽蔑したような笑を浮べると、
「そんな事は万に一つもありませんよ」と、言下に、にべもなくいい放った。
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エッセイ集のタイトルにもなっている「此の子誰の子」から抜粋しました。息子さんが小学校1年生になった初の授業参観でのことです。おそらく30〜40年前のことでしょう。当時の先生というのは現在に比べるとかなり横柄、傲慢だったかもしれませんが、今では考えられない発言ですね。それにしても「お客さん」とはひどい。
このエッセイは、その後息子さんが中学2年から急に頭角を現しトップクラスで卒業、有名進学校から国立大学に入り、理学博士になったことで結ばれています。上の文体からも窺い知れると思いますがそこには自慢話の要素は一切なく、「親や大人は」「大切な芽を摘み取ってしまわないように大切に見守ってゆかなければいけない」と真摯です。読み終わって胸が熱くなりました。
なお、原文では息子さんの名前を実名で書いていますがインターネットの特質を考慮して伏字としました。ご了承ください。
○詩誌『墓地』55号 |
2006.1.30 発行所:青森県北津軽郡鶴田町 高橋玖未子氏方 発行者:山本十四尾氏 500円 |
<目次>
いのち 岩崎 和子
新しい病 高橋玖未子
オカメ 大掛 史子
捻鍼 山本十四尾
新しい病/高橋玖未子
村の新しい井戸端は
デイサービスセンター脇に出来た足湯
二坪ほどの小さな湯の面積に常時四〜五人が憩い
足を浸しながら世間話に花が咲く
老人達が来るわけだ
ひなたぼっこに似た気だるい空間
そこに行ってみたのがいけなかった
その夜はひどく眠くて
深夜の人工灯に慣れきったはずのこの身が
海草のようにとろけていく
けだるさは一週間経っても消えなかった
けれども不意に時間が取れると
タオルをもっていそいそと出掛けてしまう
隠していたはずの素性ははなから明かされ
あんだあ太田さんのよめこだべ
今日は休みでねのになしに来た
誰もかれもちゃんと知っているのだ
その日から
止めどない弛緩が間歇泉のように訪れる
仕事に身が入らない
家事に身が入らない
なんでも適当にやればいい
そうかこのことだったのか
新型ウイルスの噂の正体
誰も気づかないふりをして
批判する思考だけがはぎ取られていく
自分ばかりは平穏無事だと信じてしまう
奇妙な病が広がっている
現代の「井戸端」は「足湯」なんですね。優雅といえば優雅なんでしょうが「隠していたはずの素性ははなから明かされ」てしまうのでは大変です。そこから発生した「新しい病」が「批判する思考だけがはぎ取られていく/自分ばかりは平穏無事だと信じてしまう/奇妙な病」だというところは面白いです。決して「平穏無事」な世の中ではありませんが「信じてしまう」ところが現代なんでしょうね。チクリと世相批評も見せた巧みな作品だと思いました。
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