きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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満天星 2005.1.8 自宅庭にて

2006.2.15(水)

 久しぶりに日本ペンクラブの例会に出席してみました。3月、4月例会は無いので、これを逃すとずっと後になってしまいます。講演は上智大名誉教授のアルフォンス・デーケンさん。一度名刺交換をさせてもらっていますし、演題の「ユーモアについて」も面白そうなので行ってみました。

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 ユーモアの話は、健康との関連や対人関係など、まあ、ある意味では予想していた通りですが、ドイツでの定義(デーケンさんはドイツ人)というのが面白かったですね。「ユーモアとは<にもかかわらず>笑うこと」だそうです。苦しいにもかかわらず、泣きたいにもかかわらず笑う、と採れます。これを自己風刺と言うそうですが、これは詩にも遣えそうです。

 会場では思わぬ収穫がありました。顔見知りの詩人たちから電子文藝館用の原稿をいただく話がまとまりました。しかも4人から。電子文藝館掲載の詩は私が精力的に集めることになっているんですが、なかなか…。これで委員会にも少しは顔向けができそうです。昨日の風邪が完全には治っていませんでしたけど、一遍に吹き飛んだ感じがしまいました。




詩誌『潮流詩派』205号
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2006.4.1 東京都中野区
潮流詩派の会・村田正夫氏発行 500円+税

<目次> 表紙写真→鈴木茂夫
特集 人
藁谷久三/人びとの目・人の声になれるかな 7 山本聖子/眠るひと 8
丸山由美子/よく睡るあかちゃん 9     村田正夫/人 世界人口白書・人 毎朝 10
若杉真木/人として 11           勝嶋啓太/蛮族の掟 11
林 洋子/ひとかけら 12          中田紀子/ガマガエルとヒト 12
山崎夏代/ひとにだけ できる 13      中森隆子/時の中で 13
熊谷直樹/一時間目(生物・進化論)他 14   平野利雄/コラージユ(ひとワット)他 16
山岸哲夫/ゆめみたものは 17        加賀谷春雄/童話「爪先の落書」のひと 18
高橋和彦/ダストだって 19         戸台耕二/年譜を読む 20
宮城松隆/人の形骸 20           桐野かおる/絶叫男 22
荻野久子/風の方程式 22          清水博司/ぼくの周囲には 24
土屋 衛/人間消滅 24           藍川外内美/人 25
神谷 毅/心と光の饗宴 26         藤江正人/東京某駅にて(人波) 26
尾崎義久/たたりブーたたりブー 27     鶴岡美直子/いない 28
竹野京子/解けない謎 28          千葉みつ子/千客万来、千差万別 29
状況詩篇
村田正夫/変な民意? 30          藁谷久三/嘘に負けるな 30
堀川豊平/現代の虚の結晶・万博 31     伊藤美佳/イマジン 32
原崎惠三/歌仙を巻く気の弱そうな宗匠 32  竹野京子/ザ・ゴキブリ・ワールド 33
鈴木茂夫/チルド連 34           津森美代子/ひとりごと 48
詩篇
麻生直子/降下する鳥の遊泳 36       山下佳恵/ゴミ袋に捨てられた愛 36
鈴木倫子/涸れぬ泉 37           中村恵子/モディリアーニ 38
比暮 寥/骨はいまなお眠れない 40     土井正義/注文されない家 41
清水洋一/放埓 42             時本和夫/大岳山・残照(3) 42
井口道生/大往生 43            皆川秀紀/浅河・重力 44
山入端利子 モー遊(あし)び 44       水崎野里子/ソールズベリーにて 45
永澤 護/写真 あるいは死の影の中で 46  大島ミトリ/上弦の月に向って 46
新井豊吉/横丁のマリア 47         市川勇人/離れられない家 47
夏目ゆき/私の膝に座って 48        館野菜々子/今 果てる時 48
田島美加/落葉 49             飯田信介/転落(五) 49
島田万里子/ふたりのメニュー 50      まちえひらお/ネズミになる話 50
タマキケンジ/続・チェホフを読む 51    高橋和彦/雨もよい 52
●世界の詩人たち(11)アッシリアからの詩人/水崎野里子 56



 眠るひと/山本聖子

保育園のお昼寝を
嫌う四歳の甥は
みんなが静かになるのが
<サミシイ>と呟く
ママの口調がうつっている

十二歳で受験生の姪は
真夜中ベッドに入るとき
ケータイを持っていく
グループ全員にお休みメール
送らないといけないようだ

息子は十八歳のいちおう高校生
休みの日は昼すぎに起きて
<おはよう>と言う
それが一日のはじまり
ゲーノー人みたい

二七歳の娘は派遣のOLだ
電車に乗ったらまず化粧
終わったらソッコーで寝たふり
前に誰が立とうと
気づかないふりをするらしい

五三歳の友人は更年期
夫が退職して家にずっと
居るようになって体調悪化
夫のたまの外出時に
ゆっくり寝だめするって

とうにリタイヤした父は六九歳
布団に入るのが
だんだん早くなり
布団を出るのが
どんどん早くなっている

八六歳の義母は顔を見るたび
<眠れない>と訴え
<早く死にたい>と付け加える
入眠剤を勧めると
<コロスキカ>と拒む

それぞれの寝顔は わたしの
きのうまでの貧しい眠りであり
あすの渇いた眠りでもあるはずだが
ひとは 眠りを重ねていくほどに
育つ というのは本当だろうか と
きょうのわたしを
じくじくと眠る

 特集「人」の中の1編です。「四歳の甥」から「八六歳の義母」まで「眠る」という視点で人間を見ているところがユニークだと思います。それを最終連で「それぞれの寝顔は わたしの/きのうまでの貧しい眠りであり/あすの渇いた眠りでもあるはず」とまとめていますけど、「ひとは 眠りを重ねていくほどに/育つ というのは本当だろうか」と疑問を呈しているところがまた佳いですね。さて寝る子は「育つ」≠ヘ何歳までのことなんでしょう? 私も「じくじくと眠」りながら考えたいと思います。



詩誌『流』24号
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2006.3.3 川崎市宮前区  非売品
西村啓子氏方編集局・宮前詩の会発行

<目次>
詩作品
中田 紀子 とりあえずもう寝ましょう アンチィビオルの命令 弧房 2
西村 啓子 キャンドルサービスの夜 辛い秋風が吹く 8
ばばゆきこ 食欲の秋なのに モダンガール 避けられなかった悲劇 14
林  洋子 散りしく 新宿副都心欅通り 20
山崎 夏代 その人に 24
山本 聖子 足を蹴る 中落ち 弱視 30
島田万里子 ぶり大根 クリームサンドのビスケット ネーミング 36
竹野 京子 百個の抽出し 戌年の抱負 「あさかぜ」 42
海外の詩  シルビア・プラス「わたしは垂直」中田紀子訳 48
エッセイ
横田 英子 西村啓子詩集『途中までの切符』を読んで 50
柴田 三吉 山本聖子詩集『三年微笑』を読む「<痛み>と<傷み>の共通認識」 52
山本 聖子 奔流−現代詩の行方−「5 動物という位相」 54
林  洋子 最近の詩集から 66
島田万里子 最近の詩集から 57
西村 啓子 最近の詩誌から 58
会員住所録 編集後記



 とりあえずもう寝ましょう/中田紀子

神前結婚が嫌いで誓約結婚を選んだので
招待客の前で読み上げる原稿に苦労していた
疲れてけんかさえ始まりかねない空気
そのとき寡黙な義母が くちを開いた
とりあえずもう寝ましよう と

張りつめていた弦がいっきにゆるみ
つんけんした音がゆるやかに拡散した
結婚への危うい密かな葛藤さえもほどかれ
素直に自分の部屋に戻って寝てしまった
二日後に迫った式のことも忘れて

それから一年余りあと
母の最期の苦しそうな息づかいに向かって
声をふりしぼった
とりあえずもう寝ましょう と

わたしの言葉に応えるように
僅かにうなずいたかにみえた母は
両眼をみひらいたまま覚めない眠りへと入っていった

ほんの微かな安らぎが
あの困難な母の肺にも届いたのだろうか
くり返し自問してきたが
それより適切な言葉をまだ思いつかない

朝になれば何かが変わっているかもしれない
忘却して眠るという 短い死を与えられ続けて
わたしは生きている 生きていける

いまもはっきりした声で言いたい
とりあえずもう寝ましょう と
病魔とたたかい明日の命がないかもしれない人にさえも

 「眠る」ということは「短い死」だと私も思っています。その死から再生するから朝はうれしいのかもしれません。まあ、そう思えるようになったのは50を過ぎてからで、それまでは午前中寝ていても平気でしたけど…。本物の死に近づいた分だけ再生の喜びを身体が感じているのかもしれません。
 そういう諸々をひっくるめて「とりあえずもう寝ましょう」という言葉があるように思いました。「母の最期」に対しても「とりあえず」と言ってあげたい、そこまでは書いてませんけど、そうも読み取りました。



アンソロジーetude7号
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2005.11.25 東京都新宿区
NHK学園発行 非売品

<目次>
戸内 順一 風/東京の詩  2
工藤富貴子 うつらうつらの夢の中を/サル目ヒト科のインファント/雨宿り 6
田中 万代 さびしさの形/六月/電話 12
浦山 武彦 湖水公園で 16
前川 整洋 大台ケ原大杉谷を遡る 18
中田 紀子 枝豆 20
杉谷 晴彦 Bという組織/拝啓 22
―――――guest room――――――
山崎 夏代 かきむしる 26
山本 聖子 現場/バードパーク 28
原 かずみ 通夜(
veglia) 30
小作久美子 六月の風/老いる 32
竹野 京子 漏水生活 34
夏目 ゆき 行くんだ/なにもない/自を覆う 36
―――――――――――――――――――――
林  洋子 岩を抱く広葉桂 40
麻生 直子 水晶の森−乙部町緑桂森林まつりによせて 42

編集後記



 風/戸内順一

この風はどうやってここまで来たのだろう。

戦火のなかをこわごわ通り抜けて来たのかな。
そういえば火薬の匂いがするぞ。

少し湿っているから、
人の涙をぬぐってきたのかもしれないな。

機嫌の悪い日は
台風や竜巻となって荒れ狂ったのだろうか。

たくさんの渡り鳥を遠くへ運んで、
感謝されたこともあったのだろうな。

風車を一生懸命回して
電気をおこしてくれたかもしれない。
ご苦労さん。

いろいろな体験をして、
この風は僕のところへやってきた。
そして、今僕から去ろうとしている。

さようなら風よ!
たまには僕のことを思い出しておくれ。
やがては風になる僕のことを

 巻頭作品です。「そういえば火薬の匂いがするぞ」「人の涙をぬぐってきたのかもしれないな」と、上手い導入だと思います。そして最終連の「やがては風になる僕のことを」というフレーズがよく効いていますね。こうやって作者自身に引きつけることで、読者もわが身として感じられるのだと云えましょう。全体の語り口もおだやかですから、本来ならキツクなる最終連の言葉も軟らかく受け止めることができました。さすがは巻頭作品です。



個人誌『伏流水通信』18号
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2006.2.10 横浜市磯子区
うめだけんさく氏発行 非売品

<目次>

山査子(さんざし)の鉢…長島三芳 2     あの夕陽…うめだけんさく 8
谷川岳へ…うめだけんさく 9        鏡…うめだけんさく 11
 *
渋田耕一遺稿四篇…4            病魔とのたたかい…うめだけんさく 7
 *
フリー・スペース(17) 三厩へ行く…平林敏彦 1
 *
後記…12                  深謝受贈詩誌・詩集等…12



<絶筆>

 10・9・8・7・6・5・4…… 渋田耕一

 目を裏がえすと 二重に闇を被うまぶたが
開かれたことばの夜に歯をたてる一枚の風を
 夢の中の時刻で割った 卵の形をした窓は
新しい空間のように裸になった朝からさしこ
むひかりを 鶏にあたためさせている
 ぼくのがんの病状はもうたぶん末期的なの
だ それでもなお詩をかいている.10kgを超
えるパネルを扱う絵は体力的には不可能だが

 昨年12月8日に亡くなった渋田耕一さんの絶筆です。渋田さんとはお話できるような間柄ではなく、何度か遠くから拝顔していただけですが、いつも毅然としたものを感じさせる詩人でした。この癌との闘いを描いた作品にも渋田さんらしい姿勢の正しさが表出していると思いました。自らの死をカウントダウンのタイトルで表すとは! ご冥福をお祈りいたします。



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