きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.2.22 新幹線富士川鉄橋より




2006.3.11(土)


 日本詩人クラブの3月理事会、例会が東京・神楽坂エミールで開催されました。今回の講演は元会長の寺田弘さんによる「日本詩人クラブ創設期の詩人たち――高村光太郎」と、日本キリスト教教団牧師の山本護氏による「詩・音楽・神」。
 寺田さんの学生時代の下宿先は駒込林町40番地、高村光太郎は駒込林町25番地。すぐ近くだったんですね。何度か交遊があったそうです。寺田さんは92歳になったそうで、講演もこれで最後かなあ、なんておっしゃっていましたが、まだまだお元気で、あと4〜5年は大丈夫だと見ましたね(^^;

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 山本牧師の講演も良かったです。日本の地に適した柔らかい神学を探し求めているとおっしゃる通り、幅広いモノの見方に魅了されました。ときおりチェロ独奏を交えながらの講演は楽しかったです。会場からは何度も大きな拍手が起きていましたね。CDも売っていたので買ってしまいました。
 気になったのは、著作権は不要だという発言です。懇親会の中盤で山本さんが私の隣に来たので、著作権擁護の活動もしていることを伝えました。その上で少し議論したのですが噛み合いませんでした。私も酔っていたので、もう少し考えてみるということでオシマイにしましたけど、家に帰ってCDを見ると、しっかり著作権のことが書かれている(^^;; ま、本人とは関係なく音楽会社が入れたのでしょうけど、議論の最中にCDを見せてあげれば良かったなぁ。きっと深い議論になっただろうになと思います。




月刊詩誌『現代詩図鑑』4巻3号
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2006.3.1 東京都大田区 ダニエル社発行 300円

<目次>
岡島弘子/搬入…3             山岡 遊/ある遭難…7
高木 護/寒いね・歩く…12         かわじまさよ/雪だるま…17
竹内敏喜/遠近…20             高橋渉二/ディスパラティスをわたる…24
枝川里恵/白鳥…29             真神 博/「私に覆い被さらないで」…33
倉田良成/王子たち…36           表紙画…来原貴美『復活祭』



 「私に覆い被さらないで」/真神 博(まがみ ひろし)

冬の深い空の色はとても分かりづらい
賜物の様でもあるし
人間の鮮やかな借金の様でもある
しかし実はそれは
毎日地上のどこかで姿を消して行く
幼い少女の
「私に覆い被さらないで」という叫び声だ
声は空の全体を捉えている

今日は朝から日曜日であると言われ
地上は人がいなくなった匂いで溢れている
冬の深い空は
その日の糧を物色し続ける人々が落ちて行く穴の様なところで
罪を満載したいぶし銀のトラックさえ
空の中へ転がって行く

一週間の最初の日に発せられた
少女の叫びは
これからやって来るかも知れない六日間を
空一杯に磔にした

少女はその声とともに
立派に遠くへ行ったのに
私たちがこれから迎える日々は
見渡す限り 行く末が定まらない
大空の様なところだ

 魅力的な詩句にあふれた作品です。「人間の鮮やかな借金の様」「罪を満載したいぶし銀のトラック」「空の中へ転がって行く」「空一杯に磔にした」などは、なかなか出てこない詩句と云えましょう。個々の詩句の魅力もさることながら作品全体の喩もおもしろく、「幼い少女」はいろいろに採ることができるでしょう。鍵は最終連の「私たちがこれから迎える日々は/見渡す限り 行く末が定まらない/大空の様なところだ」にあると思います。「私に覆い被さ」るうっとおしい世、と私は考えてみた作品です。



隔月刊詩誌『石の森』132号
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2006.3.1 大阪府交野市
交野が原ポエムKの会・金堀則夫氏発行 非売品

<目次>
智慧/美濃千鶴 1             Future/山田春香 2
賃貸対照表のしおり/夏山なおみ 3     ベランダのある家/四方彩瑛 4
通勤民俗大移動の時間/佐藤 梓 5     天使の梯子/高石晴香 6
Snow man/上野 彩 7       ユキ/上野 彩 7
魂の標本/大薮直美 8           思慕の期限/大薮直美 8
黒い絵画/西岡彩乃 9           金谷/金堀則夫 10
エッセイ 胡蝶の舞/四方彩瑛 11      
<<交野が原通信>>第二四六号/金堀則夫 13
石の声/夏山なおみ 14           あとがき 15



 貸借対照表のしおり/夏山なおみ

人生は仕掛品だらけ
愛情も仕事も家族も
愛情を注ぐものを求め
夢中になれる仕事をさがし
自分のDNAをのこす作業をする

年々 わたしの肉体は
減価償却されて
ある日 突然
償却するものが
なくなるのだろう

自分への約束手形は
不渡りになり
あきらめることが上手になる
小さな希望の種は
損益勘定科目にふりかえられ
こんなものかと
合わない人生設計の
計算書をながめる

数字の「2」が「あひる」だったり
数字の「8」が「だるま」だったり
した幼い頃を思い出しながら
レオナルド・ダ・ヴィンチの友人だった
ルカ・バチオリがつくった
簿記のからくりにふれ
彼もまた計算の合わない人生を
おくったのだろうかと想像する

生まれかわって猫になったら
「昼寝」の勘定科目の
貸し方には「仕事」と書こう

今日の貸借対照表をめくりながら
数字では表記できない
吐息のしおりをはさむ
人生の帳簿は合計残高試算表が見えない

 「貸借対照表」から見た「人生」とでも謂いましょうか、おもしろい作品です。「人生は仕掛品だらけ」で、最後の「帳簿は合計残高試算表が見えない」ところまで行くのかと思うと可笑しくて、笑いをこらえながら拝読しました。まったく「計算の合わない人生」だなと感心しながら…。

 日本詩人クラブでは現在、法人化を進めています。会計の方式が変り、今後は「貸借対照表」を作らなければなりません。これは会計担当理事の仕事ですが、パソコンを使うことになるのでお前も一枚加われと指示が出ています。「貸借対照表」についての基礎知識ぐらいは仕入れておかないとマズイなと思って、実はちょっと憂鬱だったのです。工業的な数字には少しは強いのですが、金銭感覚はまるで駄目なんです。この作品を拝読して、楽しめばいいのだなと判って安心しました。作品にお礼を言うのもヘンですけど、ありがとうございました!



個人詩誌HARUKA 188号
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2006.3.1 大阪府交野市
交野が原ポエムKの会・金堀則夫氏発行 非売品

<目次>
わがままな孤独 山田春香
リピート 山田春香
NOW 山田春香
いま何時?――答えられる自分の時間 山田春香
衣更着(きさらぎ) 山田春香
<<はるぶみ>>



 NOW/山田春香

今が早すぎる
再生のボタンは押しっぱなしで
コマばかりが進んでいく
このメンバーで受講するのも
はしゃぐのも
すべてが早い
あっという間が当たり前になりすぎて
つい電車を乗り過ごすように
気が付けば通り過ぎていきそうな気がする
目の前を高速で過ぎ
記憶でしか探ることができなくなるほど
遠くに位置してしまう「今」
すべて思い出に?

五分前が五分後になって一時間後になって
一年後になって…
「前」に戻ることはただの一度もない
この流れはどうしようもない
私が年老うごとに
物事は次々に新しくなる
どれもこのさき新品なのに
そんなにワクワクしない
むしろ古いものにすがりついていたい
ヒトは欲深いけれど
なんでも受け入れられるってわけじゃない
薄くかすれたボロボロの記憶を
掃除されないように
新しいことを拒むこともある
もしかすると
記憶を大事にするのは
「前」ばかりで選択肢がないから
「後ろ」にも行ってみたい
それだけかもしれないけど

 「どれもこのさき新品なのに/そんなにワクワクしない/むしろ古いものにすがりついていたい」というフレーズに注目しました。私のようなトシヨリには当り前の感覚なのですが、まだ20歳にもならない若い女性にこんな感覚があるとは驚きです。しかしその理由が「薄くかすれたボロボロの記憶を/掃除されないように/新しいことを拒むこともある」というので納得。「薄くかすれたボロボロの記憶」の大事さに気付いたようですね。これからもどんな感覚が飛び出してくるか楽しみです。



佐野カオリ氏詩集『ワルツ』
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2006.3.10 東京都豊島区 書肆山田刊 2500円+税

<目次>
ワルツ 8                 美しい刃物のような秋 16
あなたの死んでゆく人 20          鳥の木 24
旅、うすにびの街 28            声、ヘリアンフォラの影 34
わたしたち、死んだ者が目覚めたら 42    いざ、こととはむ 52
思ひ、いではの 60             草木にも、知られぬ風のかよひ来て 70
星は、光りぬ 84              神無月、心苦しきときは 94
櫻桃記 104



   
*1
 ワルツ

 T

幾つもの物語の中に 眠っている曲がある
あなたが信号を一つ送るだけで 眠っていた凡ての曲は廻り
出し、凡ての物語は 踊りはじめる その楽しさで その激
しさで わたしを離さない
                          
*2
「この地上で他に並ぶもののないあの美しいヴェルヌーブ」
(誰が悪いのでもない)ただ 歩くためだけに歩く いつ
か 帰ろうなどと思う時が、あるのだろうか 帰るつもりは
ない 帰らなくていいのだ

(千年許さない)とわたしは書いた
(四億年待っていたい)と それも書いた 書いたわたしは
何も決められなかった (古びた物語のわたしたち)

千年は瞬き一つのひと日 やがて四億の闇を記憶して
光とまじり合う 幾重にも積み重ねられ 紙のように眩しく
机の上に それは細長く切っていくと 叙述のように 思い
は引き寄せられ 歳月は肌になじむ

 *1 カミーユ・クローデル作の彫像、一八九二年作。
 *2 カミーユ、モンドヴェルグ精神病院からの手紙より、「カミーユ・クロ−デル」湯原かの子著。

 第一詩集です。ご出版おめでとうございます。
 紹介したのはタイトルポエムで、かつ巻頭作品です。TからVまでの章立てになっていますが、ここではTを紹介してみました。「ワルツ」とは彫像につけられた作品名のようで、それを見たことがあればもっとイメージが膨らむのかもしれませんけど、詩句を手がかりにして想像することができます。あるいは彫像という具象に寄りかからなくても良いのかもしれません。
 「(千年許さない)とわたしは書いた/(四億年待っていたい)と それも書いた」というフレーズに魅了されましたが、それ以上に「書いたわたしは/何も決められなかった」が佳いと思います。本質的な視点を感じる部分です。今後のご活躍を祈念しております。



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