きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.2.22 新幹線富士川鉄橋より




2006.3.13(月)


 日本ペンクラブの電子文藝館委員会が開かれたのですが、出席できませんでした。日曜日の昨日は出勤になって、今日も21時まで残業。とても休暇を取って委員会に出席できるという状態ではありませんでした。
 委員を一名、私が推薦していますので、今日の委員会で説明しようと思っていましたけど、それもできませんでした。まあ、推薦理由を述べなくてもほとんど確定していますから必要ないでしょうが、推薦人としては自分の口から委員諸侯に説明したかったのです。やむを得ないので略歴を委員長に送信して紹介してもらうことにしました。

 もう退職も目の前というのに、この忙しさは何だ!と思いましたけど、現職にあるうちは当然でしょうね。発つ鳥跡を濁さず、は跡の水が綺麗なときの話。今回の安直な5000人首切りという会社提案はとても綺麗≠ニは思えません。だから跡を濁しても構わないのです。ただし、それは経営陣に対してのこと。残された職場の人たちも謂わば犠牲者。彼らに対してはできるだけ跡を濁さないで去りたいと思っています。



水崎野里子氏歌集『長き夜』
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2006.2.26 千葉県山武郡芝山町
LD書房刊 1650円

<目次>
まえがき
 T
花と蝶 11      長き夜 14
にごりえ 16     こいごろも 19
白き蛇 22      夢の浮き橋 24
逢坂の関 28     春 31
たけくらベ 34    宵待草 38
まなざし 41     惑い 46
羞じらい 48     夏祭り 50
孟蘭盆 52      夢 55
古き寺 57
 U
花びら 61      花 62
舞う 66       鳥 66
むなしい叫び 67   嫉 妬 68
涙 74        少女の日 76
小 雨 78      縮緬の着物 80
珊瑚の首飾り 82
 V
父逝く 87      済州島にて 92
暁の寺 95      西城のロバ 102
ゲーテの家 107
.   ドイツにて 108
ロスにて 114
.    仙台へ 116
アルゼンチンヘ 118
 あとがき 120



 長き夜

恨みわび乱れて過ごす長き夜の濡れにぞ濡れ
しわが袖の月

恨みわびこころ乱れる長き夜のしだり尾しだ
れてわが髪と巻く

夢に見るわれらの間の深き河目覚めて思う舟
の櫂なき

長き夜眠れずさまよう月明かく闇の夜衣なく
ただひとり居る

 私は短歌はまったくの門外漢で、鑑賞の素養すらおぼつかない状態です。ここではタイトルとなった「長き夜」の全四首を紹介するだけにとどめますが「濡れにぞ濡れし」「しだり尾しだれて」などのたたみ掛けがおそらく専門家には評価されるのだろうと思います。「舟の櫂なき」は、いわゆる現代詩の喩としても通用するでしょう。「闇の夜衣なくただひとり居る」は裸と採っていいのかな?と思っています。トンチンカンですみません、鑑賞してみてください。



詩誌『阿由多』7号
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2005.12.10 東京都世田谷区
阿由多の会・成田佐和子氏発行 500円

<目次>
さういふ星が……/新川和江

雨から雪/近藤明理 6           赤いコップ/柴田節子 8
雨の午後/高梨早苗 10           遥かな声――青森三内丸山縄文遺跡を訪ねて/田中聖子 12
休息の夜/土井のりか 14          青い海/冨成美代子 16
ROSE OF SAHARA/成田佐和子 18 日々草/野邑栖子 20
ぼた山が消えた/風里谷歌子 22       愛する五月よ/前田嘉子 24
アリクイ、ガラス戸を開ける/宮本智子 26  もう春だから/横山せき子 28
帰り道/大内清子 30            呼びかけ/小関秀雄 32
ころころ おいも/たきかずこ 34      聖母のバラ/小川淳子 36
イスファハンのチャイハネで ――イラン――/川崎美智子 38
影/窪田房江 40              その空を/関 和代 42
懐しい町(足利にて)/前田一恵 44      夏の朝/薬師寺ひろみ 46
あとがき       同人住所録      表紙簑刻文字/成田佐和子



 雨から雪/近藤明理

夜半すぎ
雨が雪にかわった
地面を打つかすかな雨の音が消える
その瞬間を
体で聴いたような気がする

演奏会で
バイオリニストが
一瞬手を止め
楽譜をめくるときのような
あるかなしかの間だったけれど

それなのになぜ
あの人の心変わりには
気がつかなかったのだろう

実は今もって
いつごろ何が原因で
あの人の愛が止んだのか
わたしは知らないのだ

予報もなく
拍手もなく
終わるものもある

雨にだってわからなかっただろう
どの瞬間に
雪にかわったか なんて

 作品のテーマは「あの人の愛が止んだ」ことにありますが、私はむしろ「雨が雪にかわった」「その瞬間を/体で聴いたような気がする」、「雨にだってわからなかっただろう/どの瞬間に/雪にかわったか なんて」というフレーズに注目しました。これを書けるのは詩しかないと思います。おそらく小説でもエッセイでも書けないところです。そこがすごい。
 もちろん「それなのになぜ/あの人の心変わりには/気がつかなかったのだろう」と展開したところも佳いと思いますけど、その前提となった「その瞬間」を描いたことに脱帽です。詩の可能性を感じた作品です。



詩誌プラットホーム3番線
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2006.2.25 東京都練馬区
近藤明理氏他《プラットホーム舎》編集 300円

<目次>
《詩》
雪原の声/高梨早苗 4           雪の匂い/田中聖子 12
アップルセージ/田中聖子 14        年始/宮本智子 18
夏の終わりに-小さな犬の記録-/宮本智子 20 マロニエの大木−ウィーンにて−/近藤明理 24
落ち葉椅き−練馬にて−/近藤明理 28
《エッセイ》
リンゴの花道/高梨早苗 32         シニョンのハンカチ/田中聖子 34
タミー人形/宮本智子 36          街なかの温泉/近藤明理 38



 アップルセージ/田中聖子

あのひとは亡くなったのよ
音信の途絶えていた旧友が教えてくれた
それも もう一度逢おうとあのひとが言った日から
一、二年のことと知って わたしは泣いた
息ができないほど泣いて苦しくて
このままわたしも死んでしまうのかもしれない――

眼が覚めても
夢からまだ覚めぬまま
夜明けの庭に出ると
昨日 花市場の人が届けてくれた
ハーブと土がそのままだった
夕ベの強い風に耐えた
細い茎の先に赤い小さな蕾をつけた草の名は
アップルセージ

やわらかな黒土は墨の匂いがする
あの若さであのひとが死ぬなんて
悪い夢……
花壇に土を入れる
遠い約束も埋める
もう一度逢おうっていつのこと?

やがてこの土の上に
赤い小さな花が咲くだろう
ほのかな林檎の香りが
ひだまりに立ち上ったら
風が運んでくれるだろうか
どこかできっと元気に暮すあのひとのもとに

 人類にとって永遠のテーマかもしれませんが「亡くな」るということはどういうことなんだろうと考えてしまいます。「もう一度逢おうって」ことも実現できそうですし「どこかできっと元気に暮すあのひと」も存在するように思います。一昔前から比べると、人体については信じられないくらいの解明が進んでいますけど、霊魂は科学的には決して解明できないことなのかもしれません。だからこと詩が必要だとも言えるでしょう。いろいろなことを考えさせられた作品です。



隔月刊詩誌サロン・デ・ポエート260号
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2006.2.25 名古屋市名東区
中部詩人サロン・滝澤和枝氏発行 300円

<目次>
田中孝追悼
ひとひらの雲…野田和子…4         田中孝さんについての断片…稲葉忠行…5
田中孝さんのこと…阿部堅磐…6       七冊の詩集は私の宝物…荒井幸子…6
葉書のひと…滝澤和枝…7          田中孝先生を悼む…野老比左子…7
作品
つゆ草…野老比左子…10           新春…高橋芳美…11
松の舞台…みくちけんすけ…12        愀愁…甲斐久子…13
雪晴れに…三尾みつ子…14          見返りに…横井光枝…15
永平寺・納骨…阿部堅磐…16         如月…伊藤康子…18
ご養子さん…小林 聖…19          苦いチョコレート…滝澤和枝…20
儀式…足立すみ子…21            東雲…古賀大助…22
蟲…及川 純…23
散文
「山中散生書誌年譜」…野老比左子…24     コトバ・レンジャー(5)虚と実の境で…古賀大助…25
詩集『三虎飛天』を読む…阿部堅磐…26    詩集『わが動物記そして人』を読む…阿部堅磐…27
詩集『冬の七夕』を読む…阿部堅磐…28    〈文学のふるさと〉の展開…阿部竪磐…29
同人閑話…諸家…30             詩話会レポート…33
受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記     表紙・目次カット…甲斐久子



 雪晴れに/三尾みつ子

雲 ひとつない空
遠い山並み
稜線の木々に 降り積もった雪が
はっきり見えている午後である

あの日も雪晴れ 寒い歳の瀬だった
何処からか やって来た痩せた男
背負い籠の中には
各家から集めた飼兎が
震えながら体を寄せ合っていた
集落を外れ
横道へ反れた男の足跡は
竹薮の中へ消えた
雪の重みで 撓っている竹の間から
忙しく動く男の後姿が
見え隠れしていた
「キィー」「キィー」
兎の悲しげで かぼそい啼きごえが
幾度も竹薮を震撼させた
わたしは 雪道を転げながら帰り
裏の軒下に置いてあった
空っぽの兎小屋を覗いた
生き物の匂いは
未だ失せてなかった
雪晴れは長く続かず
雪は根雪となって
真冬の出来事を被いつくした

あの竹薮の中には
薮椿が一本あった
固い蕾の中で
兎の眼の色をした花びらが
今年も開花の時を待っている

 「歳の瀬」に「痩せた男」が「各家から集めた飼兎」を「竹薮の中」で殺した、と採ってよいでしょう。おそらく半世紀ほど前の光景だと思います。「生き物の匂い」を感じ取る「わたし」の憤りや悲しみが、直接表現されていないだけに読者の胸を打つ作品と云えます。雪の扱いと「薮椿」の扱いも巧いですね。赤という色を書かないで「兎の眼の色」と表現して雪との対比をしているところなど、この詩人の確かな技量を感じます。詩の書き方のお手本のような作品だと思いました。



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