きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.2.22 新幹線富士川鉄橋より




2006.3.17(金)


 金曜呑み会。行き着けの店に行って、一番好きな山口の銘酒「獺祭」を2合呑んで…。それだけの週末でしたが、それが何ともいえない安堵感なんです。幸せというのはこういうところにあるのかもしれませんね(^^; 何とも安直で安上がりな幸せですけど、これが命懸けで護るべきもの、と言ったら大仰でしょうか。ボロ儲けを目指すわけではない企業、戦争に頼らない国家、それらがささやかな幸せを守るのだと1合呑んでは考え、2合呑んでは考えた夜でした。



季刊詩の雑誌『鮫』105号
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2006.3.10 東京都千代田区
鮫の会・芳賀章内氏発行 500円

<目次>
鮫の座 高橋次夫―表紙裏
[作品]
おかえり 原田道子―2           滅びへの讃歌 飯島研一―4
林檎 高橋次夫―6             ヒトのかたち 井崎外枝子―8
ある島国の現代 仁科 龍―11
[仁科籠詩集『はるかなる遠き落日』特集]
魂からの叫び声よ広がれ 奥 重機―14    アンダさんのユートピア 高垣憲正―16
ニルヴァーナ(涅槃)国をめざして 友枝力―18 遠き落日に愛惜を注ぐ無私の瞳 久宗睦子―20
[作品]
地味〜で滋味なお話 前田美智子―22     聖堂装飾 今駒泰成―25
思い出ぼろぼろ いわたにあきら―28     秋の巡検 芳賀稔幸―32
耳をすませば 岸本マチ子―35        ずれる 芳賀章内―38
[謝肉祭]
ジャスミンを銃口に 今駒泰成―40      スペクトル 芳賀稔幸―42
[詩誌探訪〕原田道子―45
編集後記
表紙・馬面俊之



 ずれる/芳賀章内

蟹のような おれが歩いている
蟹のように
正面の敵に向かって
横に歩き
正面の意味に向かっても
横に歩く
正面の涙が
横に飛び散り
一日の画面を「こらぁじゅ」する

真っすぐとは何か
真っすぐとは
地平線と水平線が
体内で発酵し
陽炎の揺らぎを見せる
「こんぱす」と定規を並べると
地球の年齢が雪崩れる
広場は傾き
喧噪と沈黙は変幻自在に入れ替わり
神話を横にずらして
時間を超えて流れている

蟹が おれのように歩いて
食卓で 赤い脚を横にずらす
攝理という寄せくる波は
意志の横からやってきて
雲のような理解は重ねられる
蟹は 死してなお生きるとは何か
最後に まっすぐ
赤い柔和で おれを包みこむ

おれはすっかり蟹そのもの
赤い柔和が おれの体内に描く一日の絵を
おれは横目で追いつづけている

 「正面の敵に向かって/横に歩き/正面の意味に向かっても/横に歩く」というフレーズに魅了されます。電気・電子の分野では位相という言葉があり、位相が「ずれる」などと言いますけど、それと同じことを感じました。この「蟹」の場合は位相が90度ずれたことになると思います。「真っすぐ」でなく位相をずらしてモノを見ることを教えてくれる作品ですが、「死してなお生きるとは何か」まで位相をずらしていることに驚きます。そこは単純な科学の世界ではなく、まさに詩の世界と謂えましょう。



千葉県詩人クラブ会報193号
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2006.3.15 千葉市花見川区 中谷順子氏発行 非売品

<目次>
平成18年度総会のお知らせ 1         会員の近刊詩集から 50 1
平成18・19年度理事候補選挙 2        特集 40周年記念号 千葉県詩集第38集感想U 3
『三虎飛天』寺田弘卒寿記念詩集 4      会員の近刊詩集から 46〜48 4
特集 温故知新(既刊会報を温ねて)U 6    会員の近刊詩集から 49 7
東西南北7 7                遅ればせながらの報告 7
新会員紹介/会員活動/受贈御礼/編集後記 8



 鯨のどこから−その名竜涎香−/荒川法勝

病みつかれた鯨のみが
かぐわしい香を放す
信じられない世界に
このかおりはなんだろう
くずれおちた
けがれた肉体をもつ悪霊のみが
一種いい難い神秘を伝えることができる
巨鯨の腐爛した内臓の
ちぎれた腸から
どうしてあの純粋な結晶が生れたのか?
<りゅうぜんこう>
あのかぐわしい雰囲気は
どこからくるのだろう
病みつかれた鯨のみが
そのことを知っている
どうしてあんなうなり声を出すのか
あくと油でどろどろと
悪臭をはなす
世紀の海から
苦痛のうねりの波が
昂奮してさか巻き
百の太陽が焼きつくされ
海はもえるように疼く
うずいた鯨の体は膨れあがり
肉体にささった千の銛から
皮膚は破れ
黒ずんだ血が洗れ
海という海に広がっていく
そのとき すべての海という海が
香料の液体となり
花々のにおいのように
太古の神話の光彩をあつめ
いちめんの香を
はなつことだろう

 「特集 温故知新(既刊会報を温ねて)U」の中から千葉県詩人クラブ初代代表幹事の故・荒川法勝氏の作品を紹介してみました。会報第5号(1970年8月15日)に載っているそうで、詩集『鯨』からの転載です。「竜涎香」の名前は聞いたことがありますが、「病みつかれた鯨のみが/かぐわしい香を放す」ものとまでは知りませんでした。
 それにしてもこういう特集というのは良いものですね。二代・石出和氏、三代・秋葉啓氏の作品もあり、県外の私でも千葉県詩人クラブの今は亡き重鎮の作品の一端に触れることができました。今後もぜひ続けてほしい企画です。



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