きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
050222.JPG
2005.2.22 新幹線富士川鉄橋より




2006.3.23(木)


 4月末の退職に備えて、宿題の書面作りで8時間が過ぎました。特記事項なし! 手ぐすね引いて退職を待っています(^^;



隔月刊詩誌RIVIERE85号
riviere 85.JPG
2006.3.15 大阪府堺市 横田英子氏発行 500円

<目次>
春/横田英子(4)              群れて飛ぶ/釣部与志(6)
ヤゴ/正岡洋夫(8)             龍の影/平野裕子(10)
地球の風景/後 恵子(12)          弥生の昔の物語(38)しらせ/永井ますみ(14)
春の風情他/藤本 肇(16)          一日/小野田重子(18)

RlVIERE/せせらぎ (20)〜(27)、(45)
釣部与志/永井ますみ/横田英子/河井洋/石村勇二
「煉瓦館」紀行 〇五年十一月例会報告 河井
.

鍵/泉本真里(28)              巷談(ちまたばなし)・仕方がない/梅崎義晴(30)
雨雪/戸田和樹(32)             おっさん/蘆野つづみ(34)
すべり込みセーフ?/石村 勇二(36)     冬の動物園/松本 映(38)

殿井善隆氏を悼む (41)〜(44)
横田英子/河井洋/安心院祐一/永井ますみ  殿井善隆作品集

受贈誌一欄(46) 同人住所録(47)
編集ノート/梅埼義晴(48)
表紙の写真・TORU/詩・河井洋



 一日/小野田重子

何個ものピースに分けられた二四時間
ひとつひとつのそれは整然と並べられ
当てはめられて終えて行く一日
ひとつでも順番が狂ったり
違うそれが入ったりすれば
あなたの内ではとまどいと不安をより深める

たとえば朝
「おはよう」の言葉をドアの外に置き忘れて行ったならば
朝食は昼食にも夕食にもなる
それは
「今日は朝ごはんを食べてない」に繋がる
たとえば洋服
新しい服に名前を書き忘れたならば
それは
誰か他の人の服になりひらがなで書かれた名前を見るまでは袖を通そうとしない
等 等
とまどいと不安の中でピースを上手に当てはめ一日一日を積み季節を越えて行く
越えてきた季節が増えるにつれ
自らは当てはめることのできないピースは数を増し宙に漂う
その傍らで気力とか自我とかが内側から離れ闇に落されて行く
それは拾われることなく明日にと移行する

軽くなった体持ち静かな寝息立て眠るあなた
赤ちゃんのそれにも似て側にいる私に瞬時の安堵と安らぎを与えてくれる
厚く引かれたカーテンの窓の外北風はいつしか止み音もなく粉雪が舞っている

 「あなた」は女性なのか男性なのかはっきりしませんが、おそらく母上だろうと思います。「洋服」にそれを感じますし「赤ちゃんのそれにも似て」という言葉からも父上は想像し難いですね。もちろん私の偏見ですから父上であっても作品上はおかしくないのですけど、文体からそう感じる次第です。
 最終連が良く効いています。この視線の転じも「私に瞬時の安堵と安らぎを与えてくれる」ものだろうと思いました。



詩誌『馴鹿』42号
tonakai 42.JPG
2006.3.20 栃木県宇都宮市
tonakai・我妻洋氏発行 500円

<目次>
*作品
夜中の呪縛…入田一慧 1          あそぼ…青柳晶子 21
髪…矢口志津江 3             粗は素たるや/磧の記憶…我妻 洋 24
雲/躑躅/晴天…大野 敏 5        月光…村上周司 7
*エッセイ
永遠…和気勇雄 9             『生理』について…我妻 洋 11
牛肉/短詩七編…和氣康之 14        バスを待ちながら…青柳晶子 13
あとがき
表紙 青山幸夫



 姿/和氣康之

「馬」という字を
じっと見つめていると
鬣をなびかせ
確かに疾走している姿になる
「骨」という字には
理科室のがいこつが見える
「神」という字を
見つめていても
さっぱりその姿が見えてこない

 和氣康之さんの「短詩七編」の中の1編です。言うまでもなく漢字は表意文字で、その「姿」から文字が成立しているわけですが、確かに「神」は「さっぱりその姿が見えて」きませんね。専門的には具体的な形から出来た漢字と抽象概念を漢字にしたものとがある、とでも言うのでしょう。たしか示≠サのものが「神」だったように記憶しています。
 今でも使われているかどうか判りませんが、私が子供の頃は大人たちがよく山の神≠ニいう言い方をしていました。こちらははっきり「その姿が見えて」いましたけどね(^^; 短詩の良さをかみ締めながら、そんなことまで思い出した作品です。



個人詩誌『玉鬘』35号
tamakazura 35.JPG
2006.3.3 愛知県知多郡東浦町
横尾湖衣氏発行 非売品

<目次>
◆詩
「カスミソウ」    「トルコキキョウ」
「桜」        「花水木」
◆御礼*御寄贈誌・図書一覧
◆あとがき



 カスミソウ

白い小さい花が
霞のように咲いている

薔薇と組み合わせたり
ガーべラと組み合わせたり
時にはチューリップとだったり
フリージアやカーネーション
桃や百合とだったりと

いつも他の花を惹きたたせている

この花一本で
華やかになったり
優雅になったり
可愛らしくなったり
不安気な花は明るく
不安定な花は静かに落ち着く

この花にふさわしいのは
おそらく「助演女優賞」

 「助演女優賞」とは謂い得て妙ですね。「いつも他の花を惹きたたせてい」て、「この花一本で/華やかになったり/優雅になったり/可愛らしくなったり」するのは人間の女性にも当てはまる人はいるもので、「助演女優賞」に納得します。この作品はその上「不安気な花は明るく/不安定な花は静かに落ち着く」とまで言っていまして、そこは凄いところだと思います。詩人の面目躍如です。詩人が見ると花もこうなるのだ、という見本のような作品です。



津坂治男氏著『風の吹く中』
――梅川文男の生
kaze no fuku naka.JPG
2006.2.14 大阪市北区 竹林館刊 1400円+税

<目次>
T 熱気のある町 6
商業都市松阪 6   梅川文男誕生 8
水平社の設立 11   代用教員として 13
U
 「老人」「春になったゾ!」 16
「老人」 16      淡路島から獄中へ 18
非転向、そして 20  「春になったゾ!」 22
V いろいろな日本 26
「昭和殉教使徒列伝」26 監察に付す 28
民主主義の春 32
W 県会議員に当選 36
新憲法施行 36    人間梅川=@39
「地獄よりの便り」 42
X 逆風吹きすさぶ 45
「島木健作」 45    逆風吹きすさぶ 47
明るい満ちた日は? 50
Y 東京生活 55
アパートで 55    独立プロ要員として 57
批判と哀歓 59    敷島の大和心=@62
Z 文化人市長誕生 65
市長選出馬 65    当時の松阪 67
二十四時間勤務 70
[ 梅川文男の松阪 74
「鈴木泰治のこと」74  『都市部落』・『農村部落』 75
梅川文男の松阪 78  大西源一さん 81
\ 『ふるさとの風や』 84
無名戦士の碑 84   『ふるさとの風や』 86
泣かぬばかりで……88 孫への思い 91
] 本居宣長顕彰 94
二つのウシ 94    記念館建設の夢 95
「病床日記」 98
]Tたった八百字でも 104
「節をまげなかった……」104 「気になるのだが――」 106
波乱の生涯、終える 108   たった八百字でも 110
]U常に風に向かって 114
一族と、安らかに 114    庶民の温かさ 116
「山桜の花の、ほころび」117 常に風に向かって 120

父の思い出  梅川悠一郎 124
梅川文男略年譜 126
あとがき 128



 棕梠竹/梅川文男

椋梠竹 風に さやさや
椋梠竹さやさや

裕子はきっと見上げる
さやさや

腕の裕子は手をのばす
そして音をつかもうとする

 1957年51歳で当選し、1968年61歳の現職で亡くなった三重県松阪市長・
梅川文男の生涯を描いた評伝です。戦前、戦中は思想犯として二度も投獄され、その一方で『詩精神』『三重文学』の同人であったという文人市長の波乱に満ちた生涯を政治・文学と多角的に描いた優れた評伝と思いました。月刊詩誌『柵』に2004年の1年間連載されたものの総まとめですから、ご覧になった方も多いかもしれませんね。
 紹介した詩は「\ 『ふるさとの風や』」の「孫への思い」に挿入されていた作品です。1967年頃の作のようで、現職の市長時代のもの。「腕の裕子」で抱きかかえていることが判り、「そして音をつかもうとする」という新鮮な観察に瞠目しました。詩人が書いた評伝だからこそ選び取れた作品ではないかと思います。梅川文男という人は現在、詩人としてはほとんど知られていないと思いますので、詩史の上でも読んでおいていただきたい評伝です。



高谷和幸氏詩集『回転子』
kaitenshi.JPG
2006.3.10 東京都新宿区 思潮社刊 2200円+税

<目次>
T 格子
ひっくり返した鉢 10 図像 12
格子 14       非知 16
剽窃 18       革命の女たち 22
人拓 24       透視図法 26
洗濯 28
U 回転子
1 34        2 36
3 38        4 40
5 42        6 44
7 46        8 48
9 50        10 52
11 54        12 56
V 曽根天満宮の秋祭り
序詩 60       1 宵宮 62
2 塩掻き 64    3 スケルトンの食べ物 66
4 若者 68     5 八の字 70
6 鳥飾り 72    7 月 74
8 翁 76      9 と言うのも 78
10 ぎっしりとある 80
11 たとえばどのように 82
12 消えていこうとする光 84
13 庭園のオプ・アート 86
14 めくれるT 88  15 めくれるU 90

あとがき 92     装幀=思潮社装幀室



 

壜の中でわたしたちは辛抱強い回転子だった
 落ちそうで止まっている まさにその時間
は 一枚の葉っぱか 棚の上の砂糖壺 のよ
うに思わせ振りに見えてしまうから ブーン
となけなしの感情を使って 女の子やぼくた
ちは一つのどろどろの皮膚になって やさし
い母親の意識に近づいていた まさにその時
間はお話の始まりの時間に位置して ぐるぐ
る回されているみたい 壜の中はすっかり夜
なのに 鳥の形をした光を追って地下室を降
りると真昼の理髪店で 鏡の前にわたしたち
は座らされている といった具合で わたし
たちは全身が痒くなって 鏡の中でゼラチン
の性器の部位がプルプルと振れている (ま
あ大変、病気に感染したのかしら?)でもお
母さん わたしたちは落ちそうで止まってい
る まさにその時間は 一枚の葉っぱか棚の
上の砂糖壺を辛抱強く繰り返しているのです

 タイトルポエムの「回転子」から「1」を紹介してみました。回転子という言葉は一般的にはなじみがありませんが、モーターの構造を思い浮かべてもらえれば判りますように外側の電磁コイルに対する内側の永久磁石を言う場合が多いようです。しかし私にはもうひとつの回転子がすぐ頭に浮かびました。化学実験には欠かせない回転子です。ビーカー内の液体を撹拌するのに棒状の磁石を使います。ビーカーを撹拌台と呼ばれる(メーカーや研究室によっては呼び名が違うかもしれません)装置に置いて、その装置内のモーターを回してやるとビーカーの回転子が回って液体が撹拌されるという仕組みです。
 紹介した作品は「壜の中でわたしたちは辛抱強い回転子だった」とありますから、モーターの回転子より私の説明したビーカーの回転子の方が近いかもしれませんね。「女の子やぼくた/ちは一つのどろどろの皮膚になって」も撹拌されたドロドロの液体を想像してしまいます。著者には化学の素養も感じますが「壜の中はすっかり夜」は詩人の眼差しです。前詩集『残氓』に続いて現代詩の中では異色の詩集がまた一冊生れたと感じました。



   back(3月の部屋へ戻る)

   
home