きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.2.22 新幹線富士川鉄橋より




2006.3.24(金)


 私が一番好きな山口の銘酒「獺祭」を置いてある呑み屋さんは何軒かあるのですが、そのうちの1軒に支店が出来たのは1年ほど前のこと。今夜の金曜呑み会はそこへ行ってみました。本店のオヤジさんが若い人を数人使っていて、相当繁盛していました。カウンター席は空いていたものの、すぐに満員になってしまうほど。駅からは遠い不便な処なんですがね、お酒の種類が豊富なことと刺身の新鮮さがウリのようです。私はもちろん「獺祭」を注文して、心行くまで呑ませてもらいました。とは言っても2合でしたけどね。最近は2合が適量、3合はちょっと呑み過ぎの感じです。ほろ酔いでやめておくのが大人のたしなみかもしれませんね(^^;



二人詩紙『青金新聞』創刊号
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2006.3.15 群馬県高崎市
金井裕美子氏発行 非売品

<目次>
今月のお題「虫」
虫屋について/青木幹枝           虫のこと/金井裕美子
不死家―
psyche 犬塚尭(犬塚尭詩集より)

抱擁/金井裕美子              やさしい午後/金井裕美子



 抱擁/金井裕美子

乳白色のまあるい裸像は安らかに 内側からかがやいてい
る 偽りも見栄もない大理石に刻まれた 向かい合う二体
の人体 素朴な懐かしいフォルム 無言であることのやさ
しさ 背後にまわりこんで見れば 二つは重なり合い 触
れ合い 確かめ合っている 磨かれた瞳 瞬きもせず男は
女を 女は男を見つめている

ただそこにいる ただ見つめ合う そのことがあるだけな
のに あたたかいものがこみあげてくるのはなぜだろう

自然光の展示室がにわかに明るく膨らんで 陽の気配が差
し込んできたら 男から影がゆっくりと抜け伸びて 女を
抱きしめた 一日のうちのわずか数分間の抱擁 陽はここ
ろもち微笑むように やわらかく傾いている もうひとつ
の影は滑りでて 女を映して横たわり 目を閉じた

 まったく面白い新聞が出たものです。まずネーミングのユニークさに惹かれましたが、青木さんと金井さんがお二人で出したという意味なんですね。発行の経緯については金井さんが次のように述べています(抜粋)。

    じゃあ、いい詩を書くために、どういう詩がいい
詩かを探るために、詩環境を変えてみようかな、今はこれ
しか思いつかないから、とりあえず始めてみようかな。と、
始めることにしたのが、この新聞。
 個人誌もいいけれど、人との関わりの中で互いに引き出
し合って自分発見をたのしみたかったので、何かを書きた
くてうずうずしていそうな青木さんを誘った。

 発刊の経緯はこれで判りました。ぜひ長く続けて楽しませてください。
 紹介した詩作品は「背後にまわりこんで見」るという視点、「男から影がゆっくりと抜け伸びて 女を/抱きしめた 一日のうちのわずか数分間の抱擁」という観察が佳いと思います。影の抱擁なんて、なかなか気付かない視線です。



総合文芸誌『中央文學』469号
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2006.3.25 東京都品川区
日本中央文学会・鳥居章氏発行 400円

<目次>
◆小説◆
星の落ちた日/櫻井弥生/2
セーヌ川のほとり・自由行動/柳沢京子/13
◆詩作品◆
スクール
――School of killifish/田島三男/29
ある農夫の溜め息/佐々木義勝/31
端境期/朽木 寛/33
◆追悼◆小川登姉子氏を悼む(到着順)/23
本多爽 浅利勝照 黒沢和夫 井上行夫 柳沢京子 村山雅子 寺田量子 青山千望
◆再録◆椿の心(遺作)/小川登姉子/27
◆読者短評――――22
●編集後記――――34
●表紙写真●イギリス/ロンドン市/バッキンガム宮殴●



 スクール
――School of killifish/田島三男
 
群れには
固定された居場所などないから
時と人々の流れの中を彷徨う
確かな居場所が欲しくて
彷徨う
自分がおさまる場所を求めて
群れの中を 外を
彷徨う

群れの中で
他人と比べて落ちこむ人は
善人だ
他人ではなく
自分を責めている
クラス写真を見るとき
先に自分を見る人は善良だ
他人の容姿を笑わないで
自分の容姿を気にしている
頑張っても
成績の悪い人は篤志家だ
比較の対象として
他者を喜ばしている
強制されるのが腹立たしく
自由に泳ぐ人は純真だ
幼子のように
本心を隠そうとしない

自己主張が強い人は純粋だ
嫌われているのも気づかずに
一途になれる
雰囲気を読めない人は立派だ
状況に流されることなく
主役を演じきる
人付き合いが苦手な人は
朴訥だ
少なくとも詐欺師にはなるまい
群れからはぐれて
孤独な人
友達がいない人は
幸せな人よりも
貴重な時を過ごしている
人生で大切な
待つことや
耐えることを学んでいるから
幸せを願望するとき
人との関わりを
他の誰よりも
意識しているからだ

認められる場所が欲しくて
彷徨う
枠にはまるのを嫌って
群れの中を 外を
彷徨う
見えるのは
通り過ぎる他人ばかり
見えないのは
自分自身の存在
群れの中にあるのは
自己嫌悪ではない
群れの外にあるのは
孤独ではない
そこにあるのは
他の誰とも異なる
自分という存在だ

自分の存在に誇りを持とう
君は他者と異なる
世界でたった一つの存在だ
そして他人は
君の個性を
際立たせてくれる存在だ
世の中には
付き合いにくい隣人が
うじゃうじゃいるぞ
息苦しく
虫が好かぬことが多いぞ
これらは
君が君であることを問うている
流れに乗ったり
抗ったりしながら
変容の可能性が試されている
前途に広がる
大海原に向かい
いま 学校という群れから
卒業おめでとう

 今号は昨年11月に急逝した同人・小川登姉子さんの追悼特集になっていました。小川登姉子さんという女性は私にとっても生涯忘れられない人です。私が文学らしきことに手を染めたきっかけを与えてくれた人でした。同じ会社に勤めて、その会社の文学サークルの先輩という関係から私を中央文学の同人に推挙してくれたのも小川女史ですし、そこで書いた日本初のハンググライダー小説を『文学界』が採り上げてくれたのも、もとはと言えば小川さんのお陰だったのです。
 しかし小川さんとともに毎回出席していた合評会が次第に苦痛になってきました。小川さんが舌鋒鋭く作品を批評しているうちはまだ良かったのですが、その鋒先が同人の資質や生活態度までに及ぶにつれ、私には耐えられないものになってきたのです。そこには批評された同人の向上を願うという姿勢が感じられず、批判のための批判、己の優位を保つための批判としてか写らなくなってしまいました。それは私の許容をはるかに越えてしまい、意識して遠ざかるようになり、やがて退会させてもったという経緯があります。

 そのことに気付いた小川さんや主宰者から何度か電話をいただき、詫びを入れられ復会を勧められましたけど、私は同意しませんでした。人間や会の性格というものはそう簡単に変わるものではありませんし、それはそれで私とは違う生き方で、そのことを否定する気はありません。違いを認識して、自分の許容を越えていた場合はこちらが引き下がる、それが私のポリシーです。そのことを認めていただいたようで、退会後もこうやって雑誌を送ってくれています。大変ありがたいことだと感謝しています。
 実はこういう関係というのは大事だと思っています。一段上の大人のつき合い、と言ったら傲慢かもしれませんけど、私にとっては新しいつき合い方の始まりでした。今後どう展開していくか楽しみになった矢先の逝去でした。その意味でも残念でなりません。ご冥福を心からお祈りいたします。

 さて、それはそれとして作品を紹介しましょう。「学校という群れから/卒業」していく生徒たちへの餞の言葉ですが、「クラス写真を見るとき」の視点に驚かされます。「他人と比べて落ちこむ人は/善人だ/他人ではなく/自分を責めている」、「頑張っても/成績の悪い人は篤志家だ/比較の対象として/他者を喜ばしている」などの視点の斬新さ! 考えてみればそれが教育の原点なのでしょうが、今は成果が問われる時代、そうはっきりと言える教員は少ないのではないでしょうか。「自分の存在に誇りを持とう/君は他者と異なる/世界でたった一つの存在だ」と説ける作者に敬服した作品です。



詩誌『解纜』130号
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2006.3.11 鹿児島県日置市
西田義篤氏方・解纜社発行 非売品

<目次>

幻影の混血文人−伝記風に…今辻和典…1   風に吹かれる椿の木…石峰意佐雄…3
夜中に起きていると…石峰意佐雄…5     人間の生活…中村繁實…7
手元のためら い…村永美和子…11      コーヒー愛好談(抄)…欧銀釧(台湾)今辻和典訳…12
魯迅文学論=詩論について(第一回)…中村繁賛…14

借り貸し…村永美和子…16          辻役者…村永美和子…18
黒神…西田義篤…20             無心の表現・「無限」の表現…石峰意佐雄…25
表紙絵…楠畑裕也



 借り貸し/村永美和子

「顔、貸して」
といわれ その通りFAXで送る
翌々日とどいたはがきに 走り書きが
『あんたの顔 今 うちの電話台の下にある』

ハイ モシモシ 澄む声を意識 デンワを受ける
わたしの耳で 聞き耳を立ててる気配――
“あなたって 非情ね わたしの顔から耳だけ「ちぎったんだわ」
鼻のほう まだくっついてるんでしょうね”
じぶんの息づかいだけが 電話線の遠いむこうで跳ね

あちらからの声はない
やっぱりわたし FAXの指示通り
押し顔にしたのがいけなかったか
“あなたの目って、耳だったんだ。ずっと耳で見てたね。今わかった、どうりであ
なたの視線ってよく斜
(しゃ)にすべってた”

やっと低い声がつたってくる
「何故さ うちの電話台の下に あんたの顔が敷かれてんのは」
“借りたいっていったの あなたよ
わたしからは何も……”
「もう 貸し借りの話 すんだわ」

“どうしたの? 今夜の電話 やけに暗くて”
追っかけ声で 受話器を伏せようとすると
「部屋の灯り つけてないのよ」
とプツン と切れ

灯りのつく部屋だが 照明の下にきて思い切り無い鼻をぬぐう わたし
ぬぐってもぬぐい切れない 顔

 「顔、貸して」と言われて顔をFAXにくっつけて「その通りFAXで送」ったという話ですが、その発想がおもしろいですね。実は私も昔、Faxではありませんがコピー機が出始めの頃、自分の顔をコピーしたことがあります(^^; そのグロテスクさに驚いて二度とやっていませんけど、それと近いものがあるのかもしれません。「貸し借り」をこのように解釈するのは詩人の特権かもしれませんね。久しぶり笑いながら拝読した作品です。



月刊詩誌『柵』232号
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2006.3.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 高齢社会の中の詩人群像  寺田弘氏を囲む会のスピーチから…中村不二夫 82
少年詩メモ(4)理でなく、相を――…津坂治男 86
奥田博之論(2) 回顧…森 徳治 90
流動する世界の中で日本の詩とは 18  現在の日本の詩とドリン・ポーパの詩…水崎野里子 94
風見鶏・村上久雄 高橋夏男 高田千尋 方喰あい子 樫村 高 98
「戦後詩誌の系譜」30 昭和50年53誌追補3誌…中村不二夫 志賀英夫 114

宗 昇/蕾 4               伊勢田史郎/小屋の冬 6
肌勢とみ子/牛帰る 8           小島禄琅/戸隠の詩人10
大貫裕司/天城高原12            伍東ちか/白い粥 14
山口格郎/遡行 16             小城江壮智/廃棄物 18
野老比左子/雪空の喝采 20         南 邦和/長城の果てで 22
中原道夫/ティッシュペーパー 24      松田悦子 草色の雨 26
佐藤勝太/白画像 28            忍城春宣/添水の宿 30
水崎野里子/哀 32             岩崎風子/吊るされた岸辺 36
川端律子/雪景色二題 38          小沢千恵/サプリメント 40
織田美沙子/海の見える喫茶店で 42     上野潤/和蘭物語 26 44
高橋サブロー/悪夢の二時間半 46      安森ソノ子/ピレネー山脈から 49
北村愛子/長い隧道ぬけると青い空があった52
 山崎 森/春雷 55
鈴木一成/青息赤息 58           門林岩雄/冬のタベ 60
江良亜来子/木洩れ日 62          進 一男/秘められた木 64    
今泉協子/ハルの気持 66          立原昌保/闇が亡くなってしまった 68
小野 肇/見えない雨 70          名古きよえ/道端の石に 72
前田孝一/冬の池 74            若狭雅裕/春愁 76
山南律子/冬の朝あけ 78          徐柄鎮/酌川亭 80

続・遠いうた 59 マイノリティの詩学 ハイルド・ピンターのアメリカ批判…石原 武 100
インドの詩人アフターブ・セットの詩 8 儒教風に…水崎野里子 104
大江健三郎「さよならわたしの本よ!」T.S・エリオットの反響(2)…村田辰夫 106
コクトオ覚書
.207 コクトオ自画像[知られざる男]27…三木英治 110
日高てる詩集『今晩は美しゅうございます』…細見和之 124
東日本・三冊の詩集 安藤一雄『永遠の片隅にとり残されて』 田尻英秋『機会詩』 坂口優子『沈黙の泉』…中原道夫 126
西日本・三冊の詩集 進一男『素描もしくは断片による言葉で書かれたものたち』 平野裕子『季節の鍵』 岩井八重美『水のあるところ』…佐藤勝太 130
受贈図書 135  受贈詩誌 133  柵通信 134  身辺雑記 136
表紙絵 野口晋/屏絵 申錫弼/カット 中島由夫・野口普・申錫弼



 自画像/佐藤勝太

理髪店の鏡に映っている顔
銀髪が光っていると思っていた頭は
サラサラと冬の芒のよう
頭頂の疎林を風が吹き抜ける
額には一本の狷介な横皺

鼻梁は貧相なくせに
中心に座っている
左の眉は薄い
なぜか白い毛が一本立っている
左眼が小さく一重瞼
それでも右眼と競って
老眼を開いて貪欲に
遠くの光を探している

一文字に結んだ口は
右斜に傾いて
何事かを言いたげだ
頬や額の染みは翳となって
表情は茫然としている
それでもまだ世間を歩いている
これからも人混みを闊歩し続けたい
と思っている

俺の顔が輝く
髪型にしてくれと言うと
若い理髪師は
ハタッと手を止めて薄笑い
考え込んでしまった

 「自画像」を観察する冷静な眼の中にも余裕があって、自虐もあって、楽しんで読んできて、最終連では思わず笑ってしまいました(失礼!)。これは私にも覚えがあります。最近行き始めた床屋さんで「俺の顔」に似合う「髪型にしてくれと言」ったのですが、やはり「若い理髪師は/ハタッと手を止めて薄笑い/考え込んでしまった」のです。思わず、これはオレのことを書いた詩か!?と感じた次第です。ですから、この作品にはまったく共感してしまいました。若いときには感じなかったことが、このトシになると感じるものがあるのだなと納得した作品です。



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