きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.2.22 新幹線富士川鉄橋より




2006.3.26(日)


 昼近くになって鶯の声を聞きました。例年に比べて早いのか遅いのか判りませんが、妙に感動しましたね。この春、退職することになっていますから、それで過敏になっているのかもしれません。ようやく春が来たなぁ、我慢に我慢を重ねた会社生活もとうとう終わりが見えたなぁ、ということが鶯の声で実感したのだろうと思います。昔、亡くなった継母が定年退職になったとき「感慨はあるかい? 寂しくなるだろう」と聞いたら、即座に「何もない。せいせいした」と言ったことが思い出されます。会社を去るに当たって、苦痛から解放されると感じるのは幸か不幸か判りませんけど、会社勤めをしなければ生きてこれなかったのは事実です。今後は労働って何だろうということも考えてみたいと思っています。



詩誌『展』66号
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2006.3 東京都杉並区
菊池敏子氏発行 非売品

<目次>
●村山精二:この冬             ●五十嵐順子:記録的
●菊田 守:佐野千穂子さんの二冊の詩集『ゆきのよの虹』、『消えて候』を読む
●河野明子:呼ぶ              ●土井のりか:時に呼ばれて
●菊池敏子:カチャ カチャ ジャララ…   ●名木田恵子:ガルグイヤード
●佐野千穂子:告天子            ●山田隆昭:くう



 時に呼ばれて/土井のりか

帰宅してからずっと
吹き抜ける風のように
無為にやりすごしている 時間

頭で 日常茶飯の雑事を受けとめる
容量の空きすら見出せない

羽田からはたった二時間半というのに
六十年をも費やしてしまった
沖縄の土をこの足で踏むまでに

かつての激戦地
摩文仁の丘で
父は果てたと聞いていた

十一月 島の平均気温二十一度
沖縄戦終結の日の
 六月の 灼熱を思う
 踏む石ころに 父の歩みを思う
 風に 父の息を思う
 ブーゲンビリアに 父の眼差しを思う

手がかりを持たないまま
摩文仁の丘の最南端まで行ってみた
そこにあったのは第三十二軍司令部戦没者の碑
と はからずも目に飛びこんできた父の名

向いのだらだら坂の行き留まりに
司令部壕 岩屋の洞窟があった
――父は、ここで――

「人間死んでも死なぬ」
八歳の私に言い残してくれた謎の約束を
果してくれている 父がいた

 戦没した父上の「かつての激戦地」の跡を「六十年をも費やしてしまった」あとに訪れ、「はからずも目に飛びこんできた父の名」を見たという作品で、胸に迫るものを感じました。作者にはもっと辛いものがあったろうと第1連、第2連で読み取れます。「踏む石ころに 父の歩み」「風に 父の息」「ブーゲンビリアに 父の眼差し」と静かにたたみかける言葉に作者の思いが痛いほど伝わってきました。「人間死んでも死なぬ」という哲学的な言葉を遺している父上のご冥福をお祈りした作品です。
 今号では拙詩「この冬」を載せていただきました。お礼申し上げます。機会ある方にはお読みいただけると嬉しいです。



詩誌『すてむ』34号
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2006.3.25 東京都大田区
甲田四郎氏方・すてむの会発行 500円

<目次>
【詩】六十年/雪の旋律■田中都子 2
         発熱■坂本つや子 6
     冬の朝/砂嵐■赤地ヒロ子 10
  やどかり・ブルース■川島 洋 14
       許されて■閤田真太郎 16
        指/夏■青山かつ子 19
       手紙/牌■長嶋南子 22
       罪/玄関■井口幻太郎 26
     そのとき私は■水島英己 30
これがこの夏の歩くです■松岡政則 34
       白木の札■甲田四郎 37
  舞い落ちた紙片から■松尾茂夫 40
【書評】井口幻太郎詩集『アルカディアの食事』
アルカディアはどこに?◆山田隆昭 43
【エッセイ】河口の眺望◆水島英己 45
らちもない思考一色相環◆川島 洋 48
   続・十三番目の男◆閤田真太郎 50
       内なる声◆田中郁子 52
すてむ・らんだむ 53
同人名簿 64
表紙画:GONGON



 砂嵐 −桃井数馬写真展にて/赤地ヒロ子

白い中東の服を着た男がひとり
砂嵐の中でこちらをみている
べージュ一色の写真

ターバンの布で顔中を覆っているが
こちらをむいた
その目が語っている

これからどうなるのかと
これからどうするつもりかと
まばたきしているあいだにも
埋めつくされてしまう
たよりないひとつの命

うちつける砂塵の中から
あなたも同じではないかと

 この写真展は見に行ったことはありませんが、写真集か何かで「その目が語っている」のを見たことがあります。写真家の思想がにじむ佳い絵だったことを覚えています。写真の持つ力を感じたものでした。
 その目が「たよりないひとつの命」であることは「あなたも同じではないか」と語っていると結んだところは見事だと思います。写真展や展覧会を題材にした作品は意外と弱いものが多いように思うのですが、この作品は「あなたも同じではないかと」というフレーズで写真を越えたと言っても過言ではないでしょう。短詩ながら佳品だと思いました。



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