きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.2.22 新幹線富士川鉄橋より




2006.3.31(金)


 3月最後の日は金曜日。迷わず金曜呑み会へ(^^; 山口の銘酒「獺祭(だっさい)」を2合呑んで、ほろ酔い機嫌で帰宅しました。
 会社の2005年度も今日でオシマイ。本来ならこの日をもって退職、という希望だったのですが、会社都合で1ヵ月延びて4月末になってしまいました。それでも明日からは4月ですから射程距離に入ったようなものです。明日から、実際は月曜日からですけどね、正式に引き継ぎも始まりますし、晴れて退職を言い触らします(^^;



国広博子氏詩集『華麗な化学式』
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2006.4.15 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
華麗な化学式 6   なぞ 10
不気味なエネルギー14 からっぽ 18
未分化なわたし 22  揺れている 26
揺らめく炎 30    歩く 32
任されている 36   ない交ぜて 38
ほころび 40     糸 42
立つ 44       よし やって見よう! 46
描きつづける 48   あかり 52
炎 54        髪の毛 56
静かな夜 60     さくら 62
静止した地球 64   一ひら 68
待つ 70       あとがき 73



 華麗な化学式
            
いのち
華麗な化学式 それは人の生命だ

生命が燃え尽きるのに要するエネルギー
そのすべてを放出しきって 死へと昇華する
その並々ならぬエネルギー
揺らめく炎にも似て 低くなびいては
又もとの形を取り戻す     
とも
危うく消えかけては 再び小さく点る

淡く映し出されるのは
その人が描いてきた軌道
今となっては
何もかも混じりあって渾然として
その中でも藍色が強く出て
懸命に生きてきた姿がすがすがしい

何が出発を遅らせているのか
燃え尽すものも残されていない今

この世にかける執着はただ一つ
わが子の行く手に
透明な影を投げ掛けようとする
意識がうすれて行くなかで
渾身の力を込めて透明な糸を紡ぎ出していく

 10年ぶりの第6詩集だそうです。紹介したのはタイトルポエムで、かつ巻頭作品です。化学工学を生業としてきた私は「化学式」という言葉で一瞬身構えたのですが、そう硬くなる必要はありませんでした。「人の生命」が「華麗な化学式」と謂うのはその通りでしょう。化学式のレベルであればそう複雑ではないと思います。しかし「その人が描いてきた軌道」や「透明な影」「透明な糸」となると単純にはいきません。ここで私は初めて硬くなってしまいました。化学では絶対に表現できないことを、この作品は見事に描いています。精神性を含めた「華麗な化学式」を頭に描きながら拝読した作品であり詩集です。



季刊詩誌『竜骨』60号
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2006.3.25 さいたま市桜区
高橋次夫氏方・竜骨の会発行 600円

<目次>
特集
『長津功三艮詩集』長津功三良の詩の世界/御庄博実 24
「長津ヒロシマ」の骨格/高橋次夫 28
詩集『空(
くう)』今川 洋 今川洋詩集『空』自然の風土から生まれた人間愛/山形一至 33
空・山そして仏――今川洋詩集『空』を読む/森 清 36
詩集『空』の衆妙な世界/高野保治 42
<作品>
火鉢のある光景/高野保治 4        バス停・榎下城址裏・この道 行き止まり この道を行く/木暮克彦 6
雪中/庭野富吉 8             ぞろぞろ/松本建彦 10
唐辛子/今川 洋 12            人間は力ヲ尽セ/松崎 粲 14
鬼畜ども/内藤喜美子 16          雪見酒/西藤 昭 18
小さな輝き/横田恵津 20          父の書斎/河越潤子 22
  ☆
白い道/小野川俊二 44           石仏のある風景/森 清 46
中央線/島崎文緒 48            破れ障子/初沢澪子 50
屋号のことなど 山峡過疎村残録/長津功三良 52
道連れ/高橋次夫 54            証言/友枝 力 56
書窓
日高てる『今晩は美しゅうございます』/木暮克彦 58
池端一江『黄葉期T』/内藤喜美子 59
井口幻太郎『アルカディアの食事』/島崎文緒 60
海嘯 読者について/友枝 力 1
題字/野島祥亭
編集後記 61



火鉢のある光景/高野保治

ひとかかえに余る
丸い白磁の瀬戸物が
暖かい炭火を湛えて
五徳の上の鉄瓶が
ふんわり 湯気を吐いている

寒い中をようこそ
訪れる人に対する
細やかな気配りは
焼香だけのつもりの人の
胸の時計をはずしてしまう

その火鉢は
招じ入れられた
清々とした和室の中ほどに
形よく置かれていて
仏壇の脇に供えてある
清楚な百合の生花と調和して
哀悼の場を
親しみのあるものにしている

冷暖房の備えのある家で
火を熾し 炭を燃やし
火桶に移しかえて
客人をもてなす
よく均
(な)らされた白い灰が
火の色を柔かく解
(ほ)ぐして
何気なく手を焙る人の
記憶の襞を擽る

嫁ぐ以前からあった火鉢は
比翼の夫婦の歴史を哀歓を
連綿とつづく風習のうちに
静かに今も見守っている

 「焼香だけのつもりの人の/胸の時計をはずしてしまう」というフレーズにドキリとさせられました。会社や地域のつき合いの義理でお通夜に行ったときは、まさに「焼香だけのつもり」が多いのですが、その「胸の時計」とは謂い得て妙ですね。その時計を外させてしまうほどの「哀悼の場を/親しみのあるものにしている」「ひとかかえに余る/丸い白磁の瀬戸物」にはお目にかかったことはありませんけど、「客人をもてなす」雰囲気は良く伝わってきます。「何気なく手を焙」ってみたくなるような作品だと思いました。



詩誌『火皿』110号
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2006.3.20 広島市安佐南区
福谷昭二氏方・火皿詩話会発行 500円

<目次>
詩作品
・青が素通り…山本しのぶ 2        ・残月抄(1)…津田てるお 4
・残月抄(2)…津田てるお 6        ・建物…川本洋子 8
・カラス…川本洋子 9           ・参道…沢見礼子 10
・恐竜の背骨の上で…松本賀久子 12     ・女性的な夢想…野田祥史 15
・蟻の呟き…荒木忠男 16          ・長崎ランタンフェスティバル…的場いく子 18
・九十九島…的場いく子 19         ・短詩抄―頌詩―…福谷昭二 20
・暖かい、一月の終わりの日に…福島美香 22 ・極楽浄土…長津功三良 24
・撫順U 渾河…御庄博実 26        ・呉港…大石良江 28
・かたくりの花…大石良江 29        ・知性と本能…松井博文 30
同人詩集評
・新しいヒロシマの詩創造への期待(一)
 −「長津功三良詩集」から−…福谷昭二 32  ・津田てるお詩集「岬まで」の感想…荒木忠男 37
エッセイ
・最新日本現代詩集のことなど…長津功三良 38
鹿子木幹雄先生追悼
・火皿表紙の構成を二十五年……福谷 昭二 41
■編集後記
■表紙画−〔想〕作者=巻幡玲子(尾道市在住)



 参道/沢見礼子

坂道に沿った渓流
たたずみその底を覗く老婆
見下ろす樹木が
手のひらのように包み込む

湿ったアスファルトを踏みしめてわたしは
修行者のように息を吐く
まだ染め渡らぬ紅葉が道標
高揚感は数歩先をいく

滑り落ちる水を見たくて
音を聴きたくて
山寺の渓谷をめざす
樹齢が記された古木に手をやり
ありがちだねと笑う
頬を近づけ 耳を当てる
いやほんとうは
わたしの中の水を見たくて
聴きたくて
ありがちならば
封印されるべきを見逃してほしいと
樹上を仰ぎ
芽吹いたときに
戻れと祈る

天へ続くかのような石段の前
数本の杖が掛けてあり
老婆は手を合わせ
胸丈ほどの1本を供にする
杖 左足 右足
杖 左足 右足
歴史をたどるような正しさと確かさで
苔むし角がとれ紅葉の張り付いた石段は
下へ下へと
追いやられる

若い母親が朱色の本堂で祈る
冷たい水滴が浮かぶ空の上からわたしは
それを眺めている

 私たちも何度か訪れたことのある、どこかの「参道」の風景ですが、喩の多様さ、適切さに敬服しました。「老婆」を「見下ろす樹木が/手のひらのように包み込」んでいる、「湿ったアスファルトを踏みしめて」先へ進もうとする「わたし」気持の「高揚感は数歩先をいく」。さらに「杖 左足 右足/杖 左足 右足/歴史をたどるような正しさと確かさで」という「老婆」の動きがよく判りますし、注ぐ視線のあたたかさも感じます。その後の「苔むし角がとれ紅葉の張り付いた石段は/下へ下へと/追いやられる」という観察も老婆のこれまで生きてきた確かさが裏づけられているようで佳いフレーズだと思います。
 最終連は、一瞬、神の視点なのかと思いましたが、即物的には高度差を謂っているだけなのでしょう。しかし神の視点≠ニ置き換えてもおかしくない連と言えましょう。視線の確かさと技巧がうまく噛み合った佳品だと思いました。



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