きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.6.29 山形県戸沢村より 月山

2006.4.8(土)

 午後2時より東京・神楽坂エミールにおいて日本詩人クラブ3賞贈呈式がありました。私は贈呈する側の一員として出席、カメラマンを仰せつかりました。授賞は次の方々です。おめでとうございました。

 第39回日本詩人クラブ賞   川島完氏詩集『ゴドー氏の村』
 第16回日本詩人クラブ新人賞 竹内美智代氏詩集『切通し』
 第6回日本詩人クラブ詩界賞 佐藤伸宏氏著『日本近代象徴詩の研究』

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 写真は日本詩人クラブ賞受賞の川島完氏を囲む詩誌『東国』の皆さん(1名違いますけど)。贈呈式・祝賀会には120名ほどの人が馳せ参じてくれて、盛会でした。各賞受賞者のお写真は日本詩人クラブHPにもアップしておきましたので、そちらもご参照ください。
 会がハネた後は気の合った仲間10人ほどと飯田橋のカラオケ屋さんで歌合戦。新人賞受賞者も駆けつけてくれて大いに盛り上がりました。やっぱり、お祝い事の会というのは楽しくて良いですね。



詩誌『白亜紀』125号
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2006.4.1 茨城県水戸市
星野徹氏方・白亜紀の会発行 800円

<目次>
●エッセイ
近藤由紀子『天河語』の深さと拡がりと
石島久男 詩人にとって運命的な作品
斎藤貢 あくがれ浮遊する詩魂
黒羽由紀子 広沢恵美子詩集『月の桂』管見
橋浦洋志 太田雅孝詩集『あんぷく』感想
溝呂木邦江 太田雅孝詩集『あんぷく』
大島邦行 状況/批評/詩
●作品
広沢恵美子 時は余韻を担いで
太田雅孝 百日紅
渡辺めぐみ あれはわたしたちだけのもの
真崎節「大きなお尻」
橋浦洋志 黙祷
永井力 柿おとし
宇野雅詮 赤い川
鈴木有美子 春に雨
平井燦 郷愁
大島邦行 冥15
鈴木満 節分
網谷厚子 魚族のように
黒羽由紀子 毀れる母
溝呂本邦江 開く
斎藤貢 晩年
近藤由紀子 バレーシューズを履いて帰る
岡野絵里子 遠くからの靴音
石島久男 再会
武子和幸 写真
硲杏子 微笑
星野徹 キリマンジャロの夢
●装画
立見榮男 幻の貝



 写真/武子和幸

伯父のことで 記憶に残っているのは 写真
を撮ってもらうと かならず祭壇に据えて葬
儀を行うことだ 写真機が魂を吸い取る俗信
にとらわれていたせいなのかどうか いまに
なっては知るよしもないが そのたびに父や
叔母 さらには腹違いの叔父たちまでが落葉
の舞う街路のあちこちから呼びだされる 白
木の壇には 魂を吸い取ったと思われる写真
が立てかけてある 古びた額の中に 散弾銃
を胸にかかえて 空洞のような目をこちらに
向けている写真があったり あるときは剥製
のそばでぼんやりと椅子に腰掛けてタバコを
ふかしているスナップショットだったり ど
れを見ても 背景には 灰色の壁があった
伯父はそれを懐しがるふうでもなく 手持ち
無沙汰に座って 左右に据えられた廻り燈篭
がくるくる回るのをぼんやり見ているのだ
燈篭の中には小きな明かりが灯っていて 照
らし出される影を しげしげと眺めると 幾
度となく行われた伯父の葬儀に飾られたおび
ただしい写真なのだ いちばん古そうな幾枚
かは 私が生まれる前のものらしくて なに
やらいかめしい目元のあたりには黒い影が広
がって その中から焦点の定まらない目がこ
ちらを覗いている どれをとっても はなは
だつまらない一日から抜き取られた伯父の魂
の一枚一枚が 寒々と廻っている 参列の親
族たちは なにやら気難しい顔をして とき
どき咳払いなどをしてみせたりするが くる
くる回る写真が やがて染みだらけの蝕にな
っていくのを見つめているうちに その中に
たまに混じっている自分たちの写真が まる
でどこかの収容所の死の記念写真のように
すでに死者の顔をしているように見えてきた
りして お互いに思わず顔を見合わせたり
首を振ったりする 葬儀のあいだじゅう 伯
父の丸い背は 写真を撮られるときの レン
ズのむこうの茫漠たる消滅を覗き込んでいる
ように見えるし 父や叔母や腹違いの叔父た
ちは かすかな記憶が 黒ずんだ紙くずのよ
うに 木枯らしの吹きすぎる街路に 飛散し
てしまう一瞬に思いを馳せているようだ そ
んなこんなで 互いに親しく話を交えること
もなく葬儀はいつしか終わり 伯父の 
.<ご
苦労>
.の一言を背に みんな暗くなりかけた
路地を通り抜け 思い思いに街路の雑踏のな
かに消えていく その伯父も父も叔母も腹違
いの叔父もみんな色褪せて 見分けもつかず
すべてを抹消していく時間の収容所でぬり潰
され ただ一枚残された葬儀の写真は いま
でも羅紗の布地の表紙の古いアルバムに貼っ
てはあるが 頁を繰るたびに とりかえしの
つかない未来が茫々と開けてゆくのが見える

 「伯父」の奇癖とでも言うべき行為と、それに黙々と従う「父や/叔母 さらには腹違いの叔父たち」が面白くて読んでしまいましたが、不思議と言えば不思議な作品です。「写真機が魂を吸い取る俗信」はあったのでしょう。私の生業は写真メーカー勤務のせいか、その話は聞いたことがあります。しかし「かならず祭壇に据えて葬/儀を行う」というのは初耳です。詳しく調べてみるとおもしろいでしょうね。それにしてもこの一族のキャラクターは、多分に創作もあるのでしょうが文句なしに魅力的です。
 そう思って最終部を拝読すると「頁を繰るたびに とりかえしの/つかない未来が茫々と開けてゆくのが見える」となっていて、ここは一瞬ドキリとさせられました。私たちの現在である「とりかえしの/つかない未来」は、ここから始まったのかと妙に納得してしまいました。



詩誌『1/2』21号
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2006.4.10 東京都中央区
詩誌『1/2』発行所・近野十志夫氏発行 400円

<目次>
挨拶          館林明子 2
団塊に漂う怒りの涙   黒 鉄太郎 4
記憶と         芝 恵子 8
添え木 他       宮本勝夫 10
ネギ 2        辛 鐘生 13
新日本昔ばなし     枕木一平 16
向き合うもの 他    野川ありき 18
考える人        佐伯けんいち 20
向かってみると     宮川 守 23
ドラマ「熟年離婚」   薄葉久子 26
ダンカイの 他     都月次郎 28
カラスのスキップ 他  近野十志夫 31
ぼくらのぐぶぐぶちゃん 呉屋比呂志 34
杉本さん、96歳     西條スミエ 36
合宿報告 37/平和記念公園デザインの起源 近野十志夫 40



 ダンカイの/都月次郎

昭和二十三年に生まれ
ダンカイの世代と呼ばれ
ただがむしゃらに生きてきたが
ぼくらは消耗品だったから
何も残らなかった。

脱脂粉乳と
プレハブ校舎
どこもひとであふれていて
受験戦争
就職戦争
生き抜くことが
ぼくらの戦争だった。

そうしてまもなく六十年。
ぼくらはいっせいに用済みとなる。

こんどは何と呼んでくれますか?
やはりダンカイの老人か。

なつかしいなあ
またプレハブの 老人ホーム
プレハブの介護施設
ついでにプレハブのお墓も
用意してくれますか。
パチンコ屋がつぶれて葬儀場
ラブホテルが改築してセレモニーホール
今や花形成長産業。
なんてったって六七〇万人。
天国はあふれかえってしまうので
半分はもちろん地獄行き。
三途の川も
渡し待ち一週間。

いいさ生まれた時からずっと
待たされるのには慣れている。
まあのんびり行きましょうご同輩
ぼくらのプレハブ人生
ひとやまいくらで
ここまで来ちゃったんだから。

 私は昭和24年生まれですから、もろに「ダンカイの世代」になりますので、この作品には共鳴します。田舎の学校でしたから「プレハブ校舎」こそありませんでしたが「脱脂粉乳」「受験戦争/就職戦争」はその通りで、まさに「生き抜くことが/ぼくらの戦争」でしたね。それが普通だと思っていましたからあまり感じていませんでしたけど「まもなく六十年」を前にして、「ぼくらは消耗品」で「いっせいに用済みとなる」のだと自覚しています。でもね、「ひとやまいくらで/ここまで来ちゃったん」ですけど、この作品には私たちへの応援歌を感じます。経済の第一線を退いて、これからは自分の好きなことに専念させてもらいます! という宣言を底に感じる作品なんです。



隔月刊詩誌『鰐組』215号
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2006.4.5 茨城県龍ヶ崎市
ワニ・プロダクション発行 300円

<目次>
〔連載〕
村嶋正浩
詩のホスピス/伊東静雄と小野十三郎 ̄17
愛敬浩一
詩のふちで/冨上芳秀の詩をめぐって ̄7
〔作品〕
吉田義昭
静かな生活/国語の国 ̄2
村嶋正浩
あ・ぶ・な・いルージュマジック ̄6
平田好輝
五エ門風呂の入り方 ̄14
福原恒雄
ふぶき報 ̄10
相生葉留実
歯医者 ̄16
小林尹夫
棲息−23 ̄15
白井恵子
ゆらゆら ̄8
山佐木進
目白 ̄12
仲山清
変異長調かまきり ̄18
今号の執筆者/作品募集



 ふぶき報/福原恒雄

ほんに
対応につかえ
居所不明 とおもわず口を吐
(つ)いて伸びた距離が
目をまわして

居所 も
不明 も
消えてしまった花の名まえに すり替える

それ 憧憬 だろ
しんしんとふり積む雪はロマン とか口走るのも
ちぎれていく世界に蔓延する
危うい覚悟みたいだな

言うなり 後ろ向きになって舌出したようだが
よくわからない
助力の叶わない視界に
染まる耳も弁解の方便をひねるために痛くて痒い

そんな事情は真ん前で無視されて にやり
花は雪野原でほじくって摘んできたのかい
またも揶揄られ

またも 夢見た路傍から なんて耳の雪はらうと
所在の骨がぽきぽきと鳴り足もわらう

それから
ほんに音凄む
居所不明の経過に 凭れ 埋もれていく景を睨む

 タイトルの「ふぶき報」とは「花」と「雪」のふぶきに掛けていると思います。花ふぶきと雪のふぶきの両方が起きている報に接して(あるいは「景を睨」めて)、と大きな流れを解釈してみましたが、どうでしょう。「居所」は現在の作中人物の置かれている位置だろうと思います。その位置には「危うい覚悟」が必要なのかもしれません。それをどんなに「揶揄られ」ても「埋もれていく景を睨む」しかないのだ、と読み取ってみました。大筋はそんな散文的な捉え方をしてみましたが、個々の「おもわず口を吐いて伸びた距離」「ちぎれていく世界に蔓延する/危うい覚悟」「助力の叶わない視界」などの詩句にも魅了されています。福原ワールドの新しい展開になる作品のようにも思いました。



隔月刊詩誌『叢生』143号
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2006.4.1 大阪府豊中市
島田陽子氏方・叢生詩社発行 400円

<目次>

腕時計のカレンダー   吉川 朔子 1   富士山          秋野 光子 2
あたらしい海を向いて  江口  節 3   節分           姨嶋とし子 4
臨終のうた       木下 幸三 5   「オールド
 イズ ビューティフル」
見逃したのは      島田 陽子 7                佐山  啓 6
弱さという特性     下村 和子 8   花桃           曽我部昭美 9
おやかましさん 他   原  和子 10   スズメの知恵       福岡 公子 12
過去も未来もそして現在さえない       ズロースや言うんですけど 麦  朝夫 14
もののように      藤谷恵一郎 13   かけひき         八ッ口生子 15
あっ、鍵がない     毛利真佐樹 16   枇杷           山本  衞 18
ことば         由良 恵介 19

本の時間 20
小  径 21
編集後記 22   表紙・題字 前原孝治
同人住所録・例会案内 23 絵 広瀬兼二



 見逃したのは/島田陽子

彼はもともと身内なのだ
敵とは思わない
見逃したからといって責めないでほしい
まさか我々を裏切り
テロリストになっていたなんて

 苛立たし気な声が内から洩れてくる

もっと早く教えてほしかったといわれても困る
途中で気づきサインを送った
なぜキャッチしてくれなかったのだ
沈黙する気はない
見逃したのはあんたの方じゃないか
ともかく油断がすぎる
探知装置の精度を上げるべきだ

 やみそうにない専守防衛隊のぼやき

――目に見える限りは切除しました
頼もしいことばも裏返せば
――目に見えないものは取れませんでした
ならば今度こそ見逃すまい
二週間に一度
テロリスト叩きの管につながれ
窓の外に広がる青い空を浮遊していよう

 手術で癌を克服した作品です。「彼はもともと身内」で「敵とは思わない」のが癌のようで、医学的にもその区別や原因を究明することは難しいようです。ただし完全に「我々を裏切り/テロリストになっていた」ものですから、現在の医学ではこれは「切除」するしかないでしょうね。「途中で気づきサインを送っ」ているのですから「キャッチ」する必要も当然あったのでしょうけど、これもなかなか難しいことだと思います。
 現在は完治して「二週間に一度/テロリスト叩きの管につながれ」るだけで済んでいるようです。この病を糧にして今後どんな作品を見せてもらえるか、言葉はおかしいのですが楽しみにしています。



季刊・詩と童謡『ぎんなん』56号
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2006.4.1 大阪府豊中市
島田陽子氏方・ぎんなんの会発行 400円

<目次>
今日一日は/シュロの木         名 古 きよえ 1
へんな犬/ある日 とつぜん       畑 中 圭 一 2
かるがものひな/さくらさっさか/もの  藤 本 美智子 3
青虫やーい!/モオーモオーのウシソング 前 山 敬 子 4
あのおうち/すごいよ          松 本 純 子 5
雨上がり/街のからす          萬里小路 和美 6
発熱                  萬里小路 万希 6
けむし/なまえ             むらせ ともこ 7
夢のかけら               も り・け ん 8
おうちのかいだん            ゆうき あ い 9
キラリ きらい/イタイノ イタイノ   池 田 直 恵 10
おねしょ/ミミズのおいしゃさん     いたいせいいち 11
円山枝垂れ/はるいちばん        井 上 良 子 12
ふとんおばけ/リセット         井 村 育 子 13
しっぽ/脳みそくん/やけっぱちの朝 他 柿 本 香 苗 14
私の水琴窟               河 野 幹 雄 15
わかる/自己嫌悪のうた         小 林 育 子 16
キャベツ/女の子            相 良 由貴子 17
おもいで                島 田 陽 子 18
だきしめて/ギュッ           すぎもとれいこ 19
いもうと/空の大サーカス        冨 岡 み ち 20
縄跳び/バスを待つ間          富 田 栄 子 21
石/お花見               中 島 和 子 22
春/逝く                中 野 たき子 23
本の散歩道 畑中・島田 24
かふぇてらす 井上・相良・冨岡 26
INFORMATION 27
編集後記 28
表紙デザイン 卯月まお



 しっぽ/柿本香苗

うそをつけない小さなしっぽが
人間にもあったらいいのにな
こどもにも おとなにも
目にみえるところにしっぽがあって
うれしいこころが
いちばんにみえると いいのにな

ひとつのかなしさは
ひとつのうれしさよりもつよくて
うれしさは 静かに身をひいてしまうけど

ただそばにいるだけで
ちぎれるようにしっぽをふって
ただおさんぽするだけで
とびはねてしっぽをふって
ちいさなうれしさを
伝えあえたら いいのにな

 本当に「うそをつけない小さなしっぽが/人間にもあったらいいのにな」と思いますね。犬にも表情がありますが、しっぽを見れば何を考えているか一目瞭然。犬の判りやすさが人間にもあったら、もっと住みよい世の中になるんでしょうね。
 第2連は佳いフレーズだと思います。「静かに身をひいてしまう」という「うれしさ」とは、喜びの本質を謂い得ています。この感性があるから表出した作品だと云えましょう。色紙にでもしたい作品です。




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