きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.6.29 山形県戸沢村より 月山

2006.4.11(火)

 いつもは金曜日に呑みに行くのですが今週は呑み仲間の都合がつかず、明日は私が休暇で、休日前夜ということで出かけました。呑んだのは「磯自慢」と「〆張鶴」。どちらも私の口に合いますから、もう1合行きたかったのですが止めておきました。グデングテンに酔っ払うよりほろ酔いの方が酒を楽しんでいる気分になる今日この頃です。少しは大人になったのかもしれません(^^;



隔月刊紙『新・原詩人』5号
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2006.4 東京都多摩市
江原茂雄氏方事務所 200円

<目次>
『栗原貞子全詩篇』を刊行 伊藤成彦 1
いつもの僕の部屋で 井之川巨 紹介:江 素瑛 2
読者の声 3
詩のページ
 城下の盟(ちかい) 小崎富士一 4
 初恋の人 井之川けいこ 4
 原爆展と少女 さとうひろし 5
 じんせい 江原茂雄 5
「いわきの散歩道」弁天宮にひとり佇みて 小林忠明 5
他誌より
 なんでか まつうらまさお 6
 三月 菜の花 羽生槙子 6
川柳 乱鬼龍 6
事務局より 6



    
ちかい
 城下の盟/小崎富士一

日本国憲法第九条
[戦争放棄と軍備及び交戦権の否認]

(1)日本国民は
(米国の国益を最優先する)
(米国の考えに基く)
正義と秩序を誠実に希求し
国権の発動たる戦争と
武力による威嚇または武力の行使は
(米国との)
紛争を解決する手段としては
氷久にこれを放棄する

(2)前項の目的を達成するため
(米軍に敵対する)
陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない
(米国との)
国の交戦権はこれを認めない

 「日本国憲法第九条」の解釈ですが、これは良く判りますね。憲法の前提となる相手国は全世界だとばっかり思っていましたけど、「米国」限定とは! 逆に考えると、今後、万一戦争が出来る国になったとしたら、戦力を米国に向けることも出来るわけです。それでも改憲するんだな、と開き直れますね。日米安保条約も未来永劫の保障ではありません。良い発想をもらいました。
 (1)(2)は原文ではマル数字になっていました。機種依存文字ですので、機種によっては(特にMac)文字化けになります。勝手に変えさせていただきましたのでご了承ください。



文芸同人誌『槐』24号
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2006.3.25 千葉県佐倉市
槐編集室・遠野明子氏発行 600円

<目次> カット/じけみつお
詩 ホオズキ市・ファインダーから町を/丸山乃里子 4
小説 象牙のお守り/関 幸壽 60
短歌 風/中里眞知子 8
エッセイ シンプルであること 映画『永遠
(とわ)の語らい』を考える/倉田 茂 46
小説
 高倉アパート/遠野明
(はる)子 12
 通る道/木下伊都子 34
 鹿島踊り/乾 夏生 50
編集後記 82  受贈誌御礼 33



 ホオズキ市/丸山乃里子

二列に並んだ豆電球の通りに沿ってゆけば
ホオズキ市
豆電球からそれたあちら側の町は
灯りを消していた
月が遠くにあった

あちら側の町は
七時になると寝静まる
豆電球の灯りが薄く届いて
子どもたちに母親は
あれがホオズキと語っているだろう

三年前買ったホオズキは
カラカラになって
萼が網目になってからっぽよ
鉢を抱えた人が話しながらすれちがう
乾いた実ははじけて何処へ?

月はやはり遠くに軽く浮かんでいる
並んだ鉢から覗いている
熟したホオズキの粒々に爪を立てそうだ

豆電球を突き抜けてあちらの町へいきたい
振り返れば さあいらっしゃい
呼びかけの声が引き戻そうとする

 「灯りを消して」「七時になると寝静まる」「あちら側の町」という不思議な町が印象深い作品です。「あちらの町へいきたい」と希求する作中人物は「子ども」なのだろうと思います。「ホオズキ市」と対比された「あちら側の町」は、作者の原風景なのかもしれませんね。
 本誌は目次からも分りますように小説が主体です。その中から乾夏生氏の「鹿島踊り」に注目しました。東京の水瓶・小河内ダムを舞台に、水底に沈む直前の鉱泉宿に投宿する祖母と小学生の「僕」の回想が描かれています。やがて発狂する祖母を貶める「僕」の行動とは? 人間の弱さ、勁さが昭和30年代を背景に繰り広げられる佳品です。



相馬健一氏詩集『ほたる来い』
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2006.4.10 茨城県龍ヶ崎市
ワニ・プロダクション刊 1600円+税

<目次>
第一章
うどん好き 10    出勤無情 12
ほたる来い 14    詐欺師 16
賭博師 18      南天 20
堪忍袋 22      風説アラビアンナイト 24
軟体動物 25     ひと月 28
小人閑居 30
第二章
影法師 36      青い鳥異聞 38
旅愁 40       二十歳の似顔絵 42
ひとぎらい 44    ゴム風船 46
迷子 48       子守歌のソウル(魂) 50
戦災孤児の少女 54  あおじゃしん 56
出帆 58
あとがき 60



 ほたる来い

あっちの水は甘いぞ
こっちの水は苦いぞ

水辺の小さな生き物達は
何処へ立ち退いたのでしょう
遊び場や餌場は 寝床は
無事に見つかったでしょうか

杓子定規な護岸とやらの
コンクリートの川端にも
ほっほっほたる来い

浅瀬から両岸を見回すと
牢獄の塀に囲まれているようです
塀の外があっちで
塀の中がこっちなのですね

あっちの水は旨いぞ
こっちの水は酢っぱいぞ

 あとがきに第一章は新作、第二章は40年以上前の20歳前後の旧作に手を加えたとあり、略歴に他の詩集名はありませんから70歳を越えた著者の第一詩集かもしれません。第二章は昭和30年代の前半の作品が多いので、小学生だった私にとっても懐かしいのですが、ここではタイトルポエムを紹介してみました。「あっちの水は甘いぞ/こっちの水は苦いぞ」「あっちの水は旨いぞ/こっちの水は酢っぱいぞ」は本来の逆であることに注意が必要でしょう。もちろん「塀の外があっちで/塀の中がこっち」に対応しています。何気なく語りながら、憤りが静かに染み出している佳品だと思います。



水嶋きょうこ氏詩集twins
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2006.3.15 東京都新宿区 思潮社刊 2400円+税

<目次> 装画=相沢律子
水の種族 10
 *
犬吹公園 14     デジャヴュ 20
レイ君の耳 26    放課後のイヴ 32
窓からの風景 38   パラサイト 46
tattoo 50      転位 56
 *
葬列 66       甲殻を下降するためのメソッド 72
海辺のマネキン 78  子犬のナジャ 84
風の婚礼 90     蜩 96
 *
twins 102      <向う岸へ、行きたい。> 114



 水の種族

 〈一つの種族が水の中で待っている〉

蓮の葉が揺れていた。果肉のような色をしたつぼみが池を渡ってゆ
く。小刻みに震え、黒い綿毛が葦の葉群に潜んでいた。鳥だ。川鵜
が水辺にいるわたしを見つめる。薄い水性の瞳。鳥たちは、やわら
かな魚の肉片を骨からはがしてゆく。夢の橋を渡っていた。手のひ
らに薄い羽毛がたまってゆく。チリチリと熱い。黒い魚の屍に川鵜
たちがつきまとう。真昼のバラ線が赤く空を裂く。いっせいに鳥は
飛び立つ。遠くで小さな人影が倒れ、わたしが倒れ、悪意の水脈は
刻々とあふれていた。

 〈一つの種族が水の橋を渡ってゆく〉

池の中州には白い温室が密やかに立っていた。片肺の姉がわたしを
待ちうけている。満たされぬ姉がわたしを笑う。繁茂する緑が、赤
茶けたわたしの皮膚をあざ笑う。息をかける。息がつまる。咲き乱
れる熱帯の花。よどむ密室の中、「子を産め」「子を産め」姉の体は
ボールのようにふくらみ、跳ねてゆく。姉の声に追い立てられ、わ
たしは地面に子を産み落とす。砂にまみれたその子を埋めて、この
場所で口先から姿を変えてゆくのだ。嫌いなココナッツオイルの匂
いがする。嫌いなシナモンの香りがする。砂糖菓子のようにふくら
んだわたしの体は温室の中を漂っている。

 〈一つの種族は水性の皮膚を持続する〉

子犬、さみしげな子犬。つきまとう小動物。冷たい鼻先は男の手の
ひらと同じであった。池を巡る。茜色の花が風景の片隅に揺れてい
る。眠れぬわたしの体は臭気を放ち、体中に袋を作る。種子が飛ぶ。
それぞれの声を上げ、花の行場を失った心は手のひらにあまる。朽
ちる、うちよせる血。温室は小さななまあたたかい皮膚だ。寒々と
遠い空は暗い半島をよぎってゆく。底知れない尿意。空が伸び、線
が伸び、黄色い胞子が、胎児に似たフラスコの底にたまってゆく。

 〈一つの種族が水の旅を話し続ける〉

闇が広がると紙を裂く音が聞こえる。からみあう姉とわたしは密室
の中で気を失っていた。サラサラの砂地、動く。うずまき、光の水
の灰のうずまき。姉とわたしはからまって繭の中に入ってゆく。呼
吸する、呼吸する光る朝の深い部分。産卵を終えた魚たちが蓮池を
おおっている。光の流れ、羽ばたきの流れ。すべてが重なる、その
ほんのすこし手前。雨に濡れた道端で人々は風について語り始めた。
悲鳴を上げた女、手のひらをふせた女、ハンカチを広げる女。薄い
皮膜の中、女たちは流れてゆく。その失意の胞子から、ほのかに立
ち昇る一筋の種族の掟を決して忘れてはならない。

 序とも呼べる巻頭作品を紹介してみました。詩集タイトルの「
twins」は詩集全体のテーマでもあり、この巻頭作品にも表れていると思います。「小さな人影が倒れ、わたしが倒れ」も「姉」と「わたし」も「twins」と読み取ってみました。くり返し出てくる「一つの種族」も「twins」の結果と考えてよいでしょう。
 一見、非日常を描いた作品のように見えますけど、そうではないと思います。「一筋の種族の掟」という日常を描いた、これが著者の日常なのではないかと読み取りました。かなり難しい詩集ですが、それだけの重みと内容があり堪能しました。




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