きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.6.29 山形県戸沢村より 月山

2006.4.14(金)

 今月末の退職を控えて、大きな宿題を上司に報告しました。社内のコンプライアンス委員会にも届けた事案で、対応を誤ると会社の信頼が大きく傷つき、会社がツブれてもおかしくないというものでしたが、それはクリアーしています。クリアーしていないのが発生した損害の処理です。処理担当者は決まっていたのですが先期中に処理が終っていないことが発覚。今期改めて処理をしなければならないのですけど、私の上司は昨年末に異動してきたので詳細を知りません。会社として対応しなければならない問題を、組織的には関係者の一人となる上司が知らないのはマズイので報告した次第です。一応、納得してもらえました。

 処理が遅れたひとつの理由には、担当役員の発言があります。一般論ですが「廃却という議案は認めない」という発言に、関係者一同ビビッたということです。私たちの事案はそれにモロに該当してしまったのです。じゃあどうしろと言うんだ!と皆な思ったのですが行動に移すのに時間が掛かり過ぎました。結局、会計部門が変な処理をすると法律に抵触すると進言してくれたようです。上位下達ばかりで下位上達が難しくなってきている現在、会計部門の勇気は賞賛に値しますね。まだまだ骨のある人間が会社に残っているなと妙に感激しました。上が言ったことを糾せない会社が多くなっている現在の日本で、まだ救いがあるな、この会社は。安心して退職日を迎えましょう(^^;



詩誌『視力』創刊号
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2006.4.4 宮崎県宮崎市
佐藤純一郎氏発行 500円

<目次>
■詩
佐藤純一郎――泉(Y…に)2/小島 7
外村京子―――越境 10/浜と砂について 12/ジェイに 14
亀澤克憲―――茶話 16/ジャンク 18/辻 20
本多 寿―――フィンランド初秋 22/春泥 24/裏山 26
■魚眼
佐藤純一郎 28 外村京子 29 亀澤克憲 30 本多 寿 31
表紙絵*ほんだひさし



 小島/佐藤純一郎

お前の小柄な姿はどこか
南洋に浮かんだごく小さな島の輪郭が
かがよう陽光の中で可愛げに踊っているようだ

眼窩の洞窟では
孔雀の羽にも似た太陽の瞳が車輪をまわし
甘美な葉叢を厚く二重に彩ると
あたかもオリーブ樹で編んだ渦巻く王冠の放つ矢
原初的な光の輻を方々へと飛ばしている

お前の瞳はその思うにまかせぬ派手さゆえ
繊細なアーチを描く椰子の葉の帳
(とばり)がそよぎ
小ぢんまりとして恥じらいがちな未開の土地の額ごと
ところどころに温和な翳りを注いでいる……

私はその下でまどろむのだ

  *

お前の睫毛は野蛮な花畑のようで
ミルテの陽だまりが隈取る目蓋には
遊惰な狼の背に乗った
放縦なヴィーナスが降りそそぐ

お前の体にすんなりと自生する葉叢
黒々と繁る艶やかな帳をかき分けて
泥酔した坑道を引きずりながら
赤ら顔の牧神がくる

のろまな堆積で編んだ品のない羊毛皮と
歪曲してよろめく足を存分にひろげ
太陽の照り返しで伸びやかに反り返るような
お前の唇との符合をしきりに求める

その寸法を測るような足の格好は
自前の下劣な笑いの表情さながら
燃える肉の天蓋をあまねく貪り
その蹄を掛けようと愚鈍な醜さでのたうっている

私はひたすら明るみを恐れているが
お前の額は単調な陽の光に向かって開け放たれている……

 昨年6月に開催された日本詩人クラブ宮崎大会でお会いした佐藤純一郎氏から送られてきました。当時は宮崎大学の3年でしたから、今は4年になっていると思います(スベラナケレバ(^^;)。冗談はさて置いて、学生時代から同人詩誌を立ち上げるとは、それだけでも敬服してしまいます。創刊おめでとう! 今後の活躍も期待していますよ。
 さて、紹介した作品は「お前」を「小島」に譬えたところに斬新さを感じました。「お前」は人間でも彼女でも良いのですが、そういう小さな捉え方は不要でしょう。「私」でもあり「小島」そのものでもあり、詩誌名『視力』に因んで謂えば見えるもの、あるいは見えないものをも内臓しているように思います。個々の「原初的な光の輻」などの表現も新鮮です。後生畏るべしと讃えます。



詩と批評『呼吸』第U巻20号
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2006.4.20 京都府京田辺市
真田かずこ氏代表・現代京都詩話会発行 500円

<目次>
◎巻頭詩 杉山平一/答え 1
◎特集 テーマ:自画像
司 由衣/ガラスの靴 4
日高 滋/カガミの男・休日自展車 6
西田 純/旅 8
安森ソノ子/自画像 納得 10
根来眞知子/女が角を曲がる時 11
牧田久未/自画像 12
北村こう/オペラ 13
田中昌雄/自画像 14
長岡紀子/とり残された鳥は 16
真田かずこ/わたしは・邪心 17
田村照視/鏡の中の怪談 18
読者からのおたより 19
◎自由テーマ作品
田村照視/福輪草 20
安森ソノ子/夜空にひびくジャズ 21
赤井良二/コードなき差異の戯れもしくは侵略戦争 22
名古屋哲夫/うた/金属疲労 24
遠藤カズエ/福神漬 26
田中茂二郎/マイ・フェイヴァリット・クインテット 27
真田かずこ/ミユーズ 28
司 由衣/旅の包み 29
田中昌雄/漂島 30
有馬 敲/エッセイ 石垣りんの自画像 32
田中昌雄『廃屋のアルケオロジー』出版記念会誌上抄録 34
フットワーク/会員の詩集 35



 ガラスの靴/司 由衣

西の外れの福西本通りを南へ
街路樹のあいだを通り抜ける風にみちびかれ
小畑川公園 福西遺跡公園 洛西大橋 福西竹の里
探しものは未だ見つけられないけれど
大蛇ケ池公園の根株に腰掛けて
コンビニのおにぎりをたべながら わたし
――ここらで靴を脱いではいけないか

そもそもわたしは
戯れに吸った煙草のけむりを
風にふんわり乗せてみたかった
 だけなのに
あのとき こわい父が
わたしの部屋を覗いてじっと睨んでいた
あわててけむりを逃がそうとしたけれど
窓の鍵は外からも掛けられていた

窓を壊してひんらり
外へ飛び出すのは自由だ
けれど
再び窓から入ることは許されない

勢いで飛び出したものの
外はまるで樹海だ
いったん足を踏み入れると
もう元には戻れない
雑踏の繁みをあてもなくさまよう
四条 鳥丸御池 丸太町 今出川 鞍馬口
きしきしと鳴るガラスの靴音を
石だたみの上に響かせて

上賀茂御薗橋 朝露ケ原町 柊野別れ
行きずりに逢ったそのひとは
フェロモンのにおいに充ちていた
上着のポケットからさりげなく取り出した
板チョコを半分に割ってわたしに――

けれど
あとの半分をたべてしまうと そのひとは
「さようなら」と言って
行ってしまった

それから幾星霜
かずかずの出来事に遭遇して寧日なく
年かさの今もなお思いが残る
あのとき たしかに
窓の鍵は外からも掛けられていたが
ほかに出口はなかったのだろうか
消し忘れた煙草の小さな焔は
どんな風に燻りつづけたのだろうか

ガラスの靴が血の滲んだ踵に擦れて痛い
思えば
窓を壊したあのときからずっと
わたしは一度だって
靴を脱いだことはないのだから
常にガラスの靴を履いている

 特集「自画像」の中の1編で、かつ巻頭作品です。「自画像」ですから己自身を語るわけですが、作品を言葉通りに受け取る必要はないでしょう。「煙草」も「行きずりに逢ったそのひと」も人生で何度か訪れる「かずかずの出来事」の喩と考えれば良いと思います。それよりも「ほかに出口はなかったのだろうか」というフレーズに注目しています。歴史や人生にifはありませんが「幾星霜」を振り返ることは大事だと思っています。他の出口をシミュレーションしてみる、それによって将来を予測することが出来るかもしれません。「窓を壊したあのときからずっと」「靴を脱いだことはない」という「自画像」は出口の否定ではなく「ガラスの靴が血の滲んだ踵に擦れて痛い」現状認識でしょう。そんなことを考えさせられた作品です。




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