きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.6.29 山形県戸沢村より 月山

2006.4.21(金)

 来週末の退職を控えて職場のパソコン内のデータ削除、共有サーバーへの転送に終始しました。MS-DOS時代のものもあって、さすがにこれは使えませんがWindows95以降のデータは充分使えます。10年ほど前に連日、夜遅くまで収集したデータを見て懐かしくなりましたね。95になってから急にソフトも増えて、A-D(アナログ-デジタル)変換も容易になりましたから解析がグッと楽になったことを覚えています。当時は技術部門にいましたので、会社の儲けも世の中の動きも眼中になく、嬉々として自分の世界に没頭することができました。今の会社にとっても二度と来ない時代だったと思います。
 それにしても膨大だと思ったデータは1Gにも達しませんでした。それ以前の30年ほどのアナログ時代のデータを仮にデジタル化したとしても、それでも1Gにはならないだろうと思います。私の会社人生は1Gにも満たなかったわけです(^^; そういう見方もあるな、これは詩になるなと妙に納得してパソコンを閉じました。



文芸誌『ノア』9号
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2006.4.30 千葉県山武郡大網白里町
ノア出版・伊藤ふみ氏発行 500円

<目次>

アンカー/右近稜 4 中折帽子/右近稜 5
宿痾/筧槇二 6   花を観に行こう/武政博 7
編み棒/大野ちよ子8 訣れ/森下久枝 9
ひめさゆり/大石良江10 手紙/小倉勢以 11
俳句 春の鉾/魚住陽子 12
エッセイ 暮らし方それぞれ/保坂 登志子 13
小論 コレット/遊佐礼子 14
新刊広告 アンデルセンの幸せ探し 17
エッセイ 切り取られた風景(3)/馬場ゆき緒 18
エッセイ アート・ノート/望月和吉 19
追悼 田村和子
童話 ヒロ君の虫歯/田村和子 20
追悼 武政博 21
詩画 胡蝶蘭 メモリー/田村和子 22
追悼 伊藤ふみ 22
童話 ネコのピーター/伊藤ふみ 23
ご案内 25
編集後記 26 イラスト 伊藤ふみ



 アンカー/右近 稜

おれに子がないということは おれっきりでおれでどん
づまり おれがどんづまり おれはアンカーだから あ
んこ色のたすきかけて 走るのです
おやじも おやじのおやじも その前のおやじ ずっと
まえまえのかぞえきれないおやじたち みんな いっし
ょけんめい 中くらいに 走った感じで おれも血筋だ
から かなり ちゅうくらいに 走っては いるが お
やじたちと ひとつ ちがうところ それは おれが
アンカーで あんこ色のたすきかけて 走って いるの
です
そして もひとつ ちがうところ おれのおおおやたち
走りおえる寸前 速度をおとし 荒い呼吸の中で思い入
れの つつ抜けの筒を 息子らに そっと 握らせるの
だが おれは まっすぐ えんまのところへ そいつを
持ち運び その時 おれはアンカーだから「ドン!」と
か 「ドドドン」とか ピストルが 鳴るのです

 自嘲のように書いていますが内心は忸怩たるものがあるのだろうと思います。私には幸いなことにと言いますか、不幸なことにと言いますか子がいますので、この作品の本当のところを感じているか自信がありませんけど、「あんこ色のたすきかけて 走って いる」「アンカー」の気持が伝わってきます。そうか、アンカーに対しては「ピストルが 鳴る」んだったな、とヘンなところで感心しています。それにしても子って何だろうなと考えてしまった作品です。



詩とエッセイ『樹音』52号
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2006.3.1 奈良県奈良市
樹音詩社・森ちふく氏発行 400円

<目次>
伝わる 他1編/藤 千代音 2
黒鍵 他1編/寺西宏之 4
今日一日 他1編/結崎めい 6
もがく 他1編/汀 さらら 8
余寒/中西 登 10
ハラハラ と 内なる白/中谷あつ子 12
まほろばの夜明け 他1編/森 ちふく 13
漫ろ歩きを意味のあるものに繋げる/板垣史郎 15
ぱさぱさに乾いていく心を/大西利文 16
生きていることが詩心/中谷あつ子 17
樹のこえ 18
編集後記 19
樹音・会員名簿 20
表紙題字・大西利文



 まほろばの夜明け/森
 ちふく

待ちきれない人の どよめき
手を引かれた
白無垢の姿は格子戸を通って
そろそろ と

拍手がわく路上
うれしいね みしらぬ方方にも見送られ
あなたは幸せ

美しいですよ 清らかな心で乗る
人力車
奈良町を走る 白金
(しらがね)の車輪回る
車夫の足はかるい
みしらぬ旅人も 足を止めて
お幸せに の声援
青空に広がる 声

一番先に結婚するよ
八ケ月生まれで一八〇〇だった孫子が
ここまで生きられたのは
いいね いいね
ぽっと ともった産土
(うぶすな)の明かり
曾孫の産声 待たれる
年明け前
 月刊奈良一月号掲載

 「まほろば」の街の結婚式に花嫁が向かう様子ですね。「白無垢の姿は格子戸を通って」「人力車」などは古都を感じさせますが、それ以上に「拍手がわく路上/うれしいね みしらぬ方方にも見送られ」「みしらぬ旅人も 足を止めて/お幸せに の声援」というフレーズに観光都市・奈良を感じています。「八ケ月生まれで一八〇〇だった孫子」ですから余計に愛情を持って見守ってきたのでしょう。読者としても祝福したくなる作品です。



牧田久未氏詩集『うそ時計』
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2006.4.9 東京都千代田区 角川書店刊 1905円+税

<目次>
えっ 7       悪いことでしょうか 12
むしろ…… 16    うそ時計 20
最初に好きになった娘は 26
温厚な底無し沼 32  つなわたり 36
世紀のつなぎめの飛行 40
21Cの街角で 44   走っていく 50
走ってくる 54    うらおもて 56
ある日 60      つじつま 66
一人 68       あかし 70
遠い言葉 76     文字 80
法則の籠 82     ひとまわり 86
ヒーロー 88     その手 92

あとがき 96     装丁 牧田久美



 うそ時計

私はうそ時計
一時間すすんでいるの
だから皆な私を見るとびっくりするの
朝なんかそれはもう大騒ぎ
泣き出す子供だってあるくらい

いったいなにを慌ててるんだろう
たったの一時間
空を見上げながら散歩していた人だって
おっとなんて走り出す

ある昼下がり
何を食べようかなって歩いてた人が
私を見たとたん
ワーッと駆け出して戦争にいっちゃった
てあたりしだい食べだしたんだって
彼のオフィスでは
銀行強盗だって時間に遅れたら入れてもらえない

夜なんてすごい
おねえさんは
お風呂から飛び出すわ
おとうさんは
歯ブラシをつっこんだままあごはぬけるわで
たった一時間に
つまずいて
ころんじゃう人の多いこと

この町の地盤が
斜めにスリップしたような騒ぎで
退職者は出るわ
重大なミスは方々で見つかり
悪事は発覚し
大臣は金庫から尻を出す

私はうそ時計
葬儀屋は死人を慌てさせ
ホテルでは花嫁が走る
ボーイは料理をかたづけ
客はナプキンを落とし
教室では生徒が一瞬静まり
会議は即刻中断して
いねむりの男たちは
にわかに活気づいて
町に消えていく

私はうそ時計
だれもうそに気づかない
みんな365日のカウントダウンに夢中だけど
いくら大声張り上げたって
人間につかまるような私じゃないわ

 詩集のタイトルポエムを紹介してみました。「たったの一時間」進んだだけでも確かに作品のような状態になるでしょうね。日頃、時間に正確な国民性をよく捉えていると思います。それにしても「銀行強盗だって時間に遅れたら入れてもらえない」は可笑しいです。そこまで律儀なんだ! この国の人は。
 逆に1時間遅れた「うそ時計」だったらどうなんだろう? これは意外に考え難いですね。私たちの性癖としてはヤケクソになって、何もかもブチ壊しになるかもしれません。時間とともに日本人の国民性まで考えてしまった作品です。




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