きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2005.6.29 山形県戸沢村より 月山 |
2006.4.22(土)
ヤクルト−横浜戦のタダ券が入ったので神宮球場に行ってきました。横浜のボロ勝ちで楽しい夜でした(^^;
数年前に横浜スタジアムで観戦したことがありますが、その時は内野席だったし横浜がボロ負けでしたけど、今回は外野席。野球は外野観戦が一番!とは話に聞いていましたが、その通りでしたね。
最初は3点リードされて、また今日も負けかなと思っていました。ヤクルトに点が入るたびに一塁側は傘が大揺れ。私の後ろの方にいた小さな女の子がそれを見て大声で「傘は止めな!」。皆でドッと笑ってしまいました。
反撃は古木のホームランから始まりました。攻撃が終ってセンターの守りに入った古木に、外野席からは「古木、よくやった! やれば出来る子!」の声。これにもドッと歓声。古木にも聞こえたらしく、振り向いて丁寧にお辞儀していました。古木はこの後もホームランを打って、今日のヒーローでしたね。
写真は9回裏のヤクルト攻撃の直前です。11:6なんて珍しいから写真に収めました(^^; ここで私は帰宅したんですが、この後ヤクルトは点が取れませんでした。
野球場というのは不思議な空間です。右も左も知らない人ばかりなんですが、全員横浜ファンということで連帯感があります。通路を譲るにしても和やかで、普段の街の生活では考えられないことばかりです。点が入るたびに大人も子供も両手を挙げて「バンザイ、バンザイ!」。つい私も同調してしまいましたが、違和感はありませんでした。
ちょっと質は違いますけど詩人の集団みたい…。ただ詩を書いているというだけで、初対面の人でもすぐに深い話が出来てしまいます。ただ関東人というだけで、ただ日本人というだけで、ただ地球人というだけで…、そんな風にならないかなと夢想します。
○詩誌『きょうは詩人』4号 |
2006.4.19 東京都世田谷区 アトリエ夢人館発行 700円 |
<目次>
●詩
ニャン吉の場合/長嶋南子 1
二人/森 やすこ 4
きく子さん・ちえ子さん/森 やすこ 5
最上川/赤地ヒロ子 6
窓/吉井 淑 8
傘/吉井 淑 9
男がひとりで/伊藤啓子 10
女がふたりで/伊藤啓子 11
雪原/鈴木芳子 12
写真機を……/小柳玲子 14
●エッセイ
おばけだあ! 16
花は散るモノ人は死ぬモノ4 −生真面目・気取らず・生一本 中野鈴子 長嶋南子 22
表紙デザイン 毛利一枝
表紙絵 リチャード・ダッド (C)Reiko Koyanagi
写真機を……/小柳玲子
崖下を汽車が走っていく夜
食堂車には父がいてニワトリのフライを頼んでいる
「それから にがうりとソースを」なんて言っているのだ
私はなぜか崖上の岡さんの庭にいてゴトゴト走っていく汽車を見ている
岡さんはずいぶん昔引っ越していったのに やっぱり岡さんの家なのだ
私はいつの間にか汽車に乗っていて
父にニワトリを切りわけている
「や」と父はびっくりした声をあげ
「ここはおまえの夢の中だったか」と少しがっかりしたふうなのだ
もっと愛した誰かの夢を通っているつもりだったのだ
おあにくさま
「ここはどの辺かね 私たちがトマトやナスを植えていた
あの小さな家のあった辺りに似ている
写真を撮っておこう」
父はごそごそカバンの中をかき回し
「やっぱり忘れてきた」と言った
いつもそうなんだよ 夢の中で写真を撮っておこうと思ってさ
写真機はカバンに入れておくのに 入っていたためしがない 残念だ
なにが残念よ と思っていると
私は岡さんの崖上の庭にいて
「今度はいつ?」なんて大声で汽車に叫んでいるのだ
もちろんもうめったなことでは汽車が通らないのは分かっている
岡さんの家を見つけることだってなかなか難しい
時刻表もあてにならないんだ 確かなものはこの世になく
私はすがれた野菜畑を過ぎ なぜかトマトをひとつ持って
小さな家のほうへ行くところなのだった
「夢の中」のことですから何が起きてもおかしくはないんですが、それにしても「ここはおまえの夢の中だったか」とは、妙に現実味を感じます。夢から覚めて忘れているだけで、意外に私たちにも起きていることなのかもしれません。
「父」と「私」という設定ですから当然かもしれませんけど「父」の人間像が良く出ていると思います。「写真機はカバンに入れておくのに 入っていたためしがない」というフレーズに「父」の行動が見えて、愛すべき存在として表出していると云えるでしょう。小柳詩の世界を楽しませてもらった作品です。
○月刊詩誌『柵』233号 |
2006.4.20 大阪府箕面市 詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税 |
<目次>
現代詩展望 現代郵便事情と切手 上野菊江「郵便切手から」… 中村不二夫 84
少年詩メモ(5) 『空への質問』 … 津坂 治男 88
奥田博之論(3) 神、そして私 … 森 徳治 92
流動する世界の中で日本の詩とは 「伝統」と「革新」19 … 水崎野里子 96
ドイツ旅行の思い出と中山直子『春の屋』
風見鶏・田村のり子 木村隆之 佐合五十鈴 中久喜輝夫 いちじ・よしあき 100
「戦後詩誌の系譜」31昭和51年56誌追補3誌 … 中村不二夫 志賀英夫 116
詩作品 宗 昇 督促状 28
小島 禄琅 月が照らした膝小僧 4 木村 利行 ままごとの家 30
川内 久栄 ひとり部屋の雨 6 名古きよえ み寺の庇に 32
小城江壮智 ことばの海 8 南 邦和 大同の裏町で 34
織田美沙子 二月の朝 10 小沢 千恵 おトラさん 36
忍城 春宣 駒止めの松 12 中原 道夫 蜥蜴 38
北村 愛子 「母親の顔」 14 肌勢とみ子 船 40
山崎 森 三角帆舟 16 大貫 裕司 待つ 42
進 一男 車輪梅 18 高橋サブロー印象派の画家たち 44
松田 悦子 飛んでいるカラス 20 上野 潤 和蘭物語 27 47
山口 格郎 遠くを見よ 22 立原 昌保 幽明界を異にして 50
前田 孝一 雪のあさ 24 安森ソノ子 ピレネー山脈から 52
伍東 ちか 落下 26 江良亜来子 露草 54
西川 敏之 春の出発の前へ 56 西森美智子 誕生 70
水崎野里子 嬉 58 佐藤 勝太 電車のなかで 72
平野 秀哉 園風景 60 鈴木 一成 折りにふれ 74
小野 肇 短日 62 野老比左子 牛にのって 76
川端 律子 小さい小さい いのち 64 若狭 雅裕 懐かしき魚津 78
門林 岩雄 正月 他 66 今泉 協子 ペンを持つ時 80
柳原 省三 二〇〇五年の暮れに 68 徐 柄 鎮 池塘春景 82
続・遠いうた 60 マイノリティの詩学 石油からイネヘ … 石原 武 102
インドの詩人 アフターブ・セットの詩9 ザイアが死んで … 水崎野里子 106
大江健三郎「さよならわたしの本よ!」T・Sエリオットの反響下 … 村田 辰夫 108
コクトオ覚書.208 コクトオ自画像[知られざる男]28 … 三木 英治 112
異色の詩集・三冊 崔泳美『三十、宴は終わった』 … 中原 道夫 126
小野正和『語呂无』 陳千武『若桜』
西日本・三冊の詩集 松尾智恵子『遠来の土産』 … 佐藤 勝太 130
神子萌夏『植物系』 白河左江子『もういいかい まあだだよ』
受贈図書 135 受贈詩誌 133 柵通信 134 身辺雑記 136
表紙絵 中島由夫/扉絵 申錫弼/カット 野口晋・中島由夫・申錫弼
月が照らしていた膝小僧/小島禄琅
土の匂いのする少年だった
枯れた土の匂いではなく
木もれ日のしたのほのかな土の匂いだった
彼は七人きょうだいの上から三人目
秋になると素手で鯰を掴んできて
ぼくの家の土間に投げ込んだ
鯰を掴むのは天性の技だった
いや 彼はそうでもしなければ
腹をくちくする術がなかったのか知れない
七人きょうだいとはいっても
彼の上も下も一人ずつ亡くなっていた
むかしの百姓は
そんなもの
子供だけは多かったが食うや食わずの中で育てられた
親の手の回らぬところは
こども自身 生きる術を心得ていた
ときどき彼はすなどってきた鯰や鮒を
戸口の前にコンロを持ちだして焼いていた
いい匂いだった
だが僅か十四歳で世を去った
彼の母親は萎んだ巾着みたいな乳房を見せ
寿命のない子だったよ
といって鼻を啜った
母親がそんな話をするのはたいてい夕暮れのことで
彼が常に魚を焼いていた時刻だった
しゃがんだ小さな膝小僧を青い月が照らしていた
箸で無心に魚をひっくり返していた姿を憶えている
「僅か十四歳で世を去った」「少年」の姿が生き生きと描かれている作品だと思います。「枯れた土の匂いではなく/木もれ日のしたのほのかな土の匂い」という形容に端的に現れていると云えましょう。それは当時の「親の手の回らぬところは/こども自身 生きる術を心得ていた」少年たちに特有な匂いなのかもしれません。作者と私では親子ほども歳が離れているでしょうけど、昭和30年代の田舎にはまだそういう少年が残っていて、同じ時代を生きたような気になります。
タイトルにもなった「しゃがんだ小さな膝小僧を青い月が照らしていた」というフレーズが佳いですね。詩情あふれていた時代を感じさせます。
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