きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2005.6.29 山形県戸沢村より 月山 |
2006.4.23(日)
在職最後の日曜日。来週の日曜日が正式な退職日ですから、今日は最後とは言えないのかもしれませんが、気分は最後の日曜日ですね。ま、どっちでもいいけど、特に予定がなく終日いただいた本を読んで過ごしました。
○詩誌『COAL SACK』54号 |
2006.4.25 千葉県柏市 コールサック社・鈴木比佐雄氏発行 500円 |
<目次>
[詩] 啓蟄 真田かずこ 36
むかしも今も 浜田知章 2 <子どものためのおばさんの詩> 37
わが泥の川 小島禄琅 3 ガジュマルの樹 水埼野里子
シロガネヨシ、o脚 齋藤. 4 <対話詩>四篇 38
心と脳の関係詩三、四 崔 龍源 6 外村京子/本多寿
白紙 李 美子 8 笑いながら行く(続) 山本泰生 42
がんじがらめ 朝倉宏哉 9 海ではない 尾内達也 44
むさぼる神 山本倫子 10 [翻訳]
サクラ錯乱 加藤 礁 11 ヒュームに倣って 45
傘を持つ 柳生じゅん子 12 ヴァレリー・アファナシエフ 尾内達也訳
鉱物界質と 崎村久邦 13 砂 鳴海英吉 水埼野里子訳 46
ミセスエリザベスグリーンの庭に 14 [石下典子小詩集]
(鈴) 淺山泰美 『神の指紋』十篇 石下典子 48
モーツァルトの庭 大掛史子 15 [葛原りょう・キューバ詩篇七篇]
Railway 山本聖子 16 「ハバナの午後」など 葛原りょう 56
六月のシュプレヒコールが 17 [韓国詩人特集]
岡崎 葉 陰廷春、金吉娜、朴濟瑩、柳徐. 61
涙 佐相憲一 18 韓成禮(ハン・ソンレ)訳
未来へ 青柳晶子 19 連載詩[リトルボーイ]
六本木第三帝国 辻元よしふみ 20 高炯烈 韓成禮訳 68
赤対青 吉沢孝史 22 [エッセイ、書評、詩論]
菜園 星野由美子 23 桃谷容子追悼 今駒泰成 72
風を抱く日 岡田恵美子 24 あの人は、今 淺山泰美 74
フラジリティ 下村和子 25 ワーズワース『叙情民謡集』における叙情
つわぶき、物見台 平原比昌子 26 水崎野里子 76
翻訳 渋谷卓男 27 図子英雄詩集『静臥の枕』書評
パンドラの雪 海埜今日子 28 大掛史子 80
はるゆきはな 藤井優子 29 鈴木比佐雄『詩の降り注ぐ場所』書評
蠕動 岩下 夏 30 伊藤芳博 82
海 倉田良成 31 [詩論]
金魚売り、はたちの樹木、葉・菜・見 『春と修羅』の誕生(5) 鈴木比佐雄 86
鈴木比佐雄 32
Railway/山本聖子
ぼんやりと電車に揺られていたら
白地に夕陽のデザインの
中吊り広告が目にとまった
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│派遣のお仕事探しは│
│日本○○○株式会社│
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なんでも
経験豊富なコーディネーターが
スタッフ一人一人をしっかりサポート
してくれるらしい
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│安全と信頼の │
│日本○○○株式会社│
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頼もしいものだと見とれていたら
右に大きく電車が揺れた
吊り革につかまろう
とっさに手を上げると
<志ある者> と間違えられ
そのまま遠くへ
運ばれていきそうな
そんな空気が社内に充満していたのだ
こわくなって次の駅で
国民を かきわけかきわけ降りたら
電車の行き先は
中東の産油国のあたりまで
いつのまにか延長されている
あわてて出口をさがすと
長い 長い下りのエスカレーター
恐る恐るのぞきこんでいたら
自ら進まない者は左に寄れ と弾かれ
結局ホームの列に呑みこまれた
次の電車は 特急 だという
わたしの手にはすでに
目的地まで乗れるブリペイドカード
そういえば改札を入るとき
<タツチ・アンド・ゴー>* の
練習はすませていた
*艦載機の発着訓練で用いられる用語
JR東日本のカードのCMにも使われた
「電車が揺れ」て「とっさに手を上げ」たら「<志ある者>
と間違えられ/そのまま遠くへ/運ばれていきそう」になったという展開が見事です。「自ら進まない者は左に寄れ と弾かれ/結局ホームの列に呑みこまれた」というフレーズとともに、何でもない日常の行動が賛意と取られかねない現状の喩と云えましょう。「国民を かきわけかきわけ降りたら」という「国民」の遣い方も佳いですね。
TVをあまり見ないので知らなかったのですが「<タツチ・アンド・ゴー>」という軍事用語がCMに使われていたとはすごい。いつの間にか施政者の思惑通りに進んでしまう現状を警告した作品だと思います。
○『漉林通信』8号 |
2006.4.10 川崎市川崎区 漉林編集部・田川紀久雄氏発行 200円 |
<目次>
エッセイ
荒川日記(2)/保坂成夫
憲法九条のことと詩人の生き方/田川紀久雄
詩 ねこによって/田川紀久雄
一月十五日
昨日とはうって変わって穏やかな晴天。妹の七回忌。夕
方仕事場へ戻ると田舎より電話あり。我が家の損壊が始ま
ったということだ。陽射しがないために自然落下式の屋根
に積もった雪がトタンを掴んだまま落下したようだ。家の
中にはぶちゃる(捨てる)に惜しいものがいっぱいある。
惜しくはあるが、今後の人生に必要不可欠というわけでは
ない。肝心要の肉体をかくも粗末に扱っておきながら物を
惜しむなんてそもそもおかしなことだ。ただ、様々な思い
出の纏わる(通版で買った)ドイツ製の橇だけは、あれだ
けは取り出したいな。
「荒川日記(2)」の冒頭の部分です。今は住んでいない豪雪の「田舎」で「我が家の損壊が始まった」ことを書いていますが、「肝心要の肉体をかくも粗末に扱っておきながら物を惜しむなんてそもそもおかしなことだ」という部分にハッとさせらせました。その通りでしょうね。暴飲暴食のわが身を考えてしまいます。生活の安定のための会社勤めが、いつしか会社の製品を生み出すことが目的になってしまい、身体を痛めつける徹夜も休日出勤も厭わないようになったこの数十年も考えてしまいます。示唆に富んだエッセイだと思いました。
○『漉林通信』9号 |
2006.5.10 川崎市川崎区 漉林編集部・田川紀久雄氏発行 200円 |
<目次>
エッセイ
荒川日記(3)/保坂成夫
世に送り出す仕事/田川紀久雄
詩 眠れない/田川紀久雄
眠れない/田川紀久雄
眠れないとき
静かな川のせせらぎのような音楽を聴きたい
それでも眠れない時には
心の休まる本を読んで
眠気がくるのを待つしかない
欠伸がでてきたら
もう一度音楽に耳を傾けて
眠りにつこう
幼い頃は
母がお伽話しをしてくれた
今では誰もしてくれない
その変わりCDの朗読がある
でもあの聲は本物ではないから
いつも途中でやめてしまう
哀しくて眠れない
頭の中は鼠の運動会
死んでしまいたいと思うとき
それは心の病気
だれにも相談できない
つらい病
どうして明日があるのだろう
神様が
きっとお叱りになっている
哀しいのは
私ではなく
神様なのかもしれない
神様が眠れないでいるから
私も眠れないでいる
そう思うと
少し安心して
いつの間にか眠っていた (二〇〇六年三月二十五日)
「哀しいのは/私ではなく/神様なのかもしれない」というフレーズが佳いと思います。作品の意図とは違いますが、私には神はもっと哀しむべきだという思いがあります。人間が哀しむ以上に神に哀しんでもらわないと、死んでも膝元に行く気など起きない、と言ってしまっては過言でしょうか。このフレーズに触発されて、そう思いました。
それにしても作者は優しいなと思います。「神様が眠れないでいるから/私も眠れないでいる」とは作者の本質的な優しさを表出させていると云えましょう。
○詩と評論・隔月刊『漉林』131号 |
2006.6.1 川崎市川崎区 漉林書房・田川紀久雄氏発行 800円+税 |
<目次>
特 集 麻生知子
麻生知子・遺稿集・年譜…… 4
詩作品
夜/頭骨………………………池山吉彬 26 追悼・茨木のり子……………遠丸 立 30
壊された猫の家……………坂井のぶこ 32 恋………………………………成見歳広 34
蓑………………………………渋谷 聡 36 〈日常〉ヘ――25……………坂井信夫 38
そこにたしかなものが……田川紀久雄 40
俳 句
館………………………………保坂成夫 16
エッセイ
島村洋二郎のこと……………坂井信夫 44 現代詩の再発見 2………田川紀久雄 46
佐野カオリ詩集『ワルツ』を読む 処女詩集についての続き……泉谷 栄 52
………………田川紀久雄 50 高木恭造「わが青春のまるめろ」
私的・アンダーグランド・ミュージック・ ……………………田川紀久雄 60
ムーヴメント概論……………黒田 憲 56 後記 63
蓑/渋谷 聡
そんな頃もあった
鼻袋を膨らまして
給油所で
「満タン。」
と、
なつかしい響き
鼻袋が大きい虎だったら
食い殺した相手が仲間だったとしても
幸せ満足
鼻袋が小さくなった人間は
虎にもなれず
ましてや
ぼくをどうぞ、と
アッサジにもなれず
隠れながら生き延びている
拝めば湧いてくる札入れ財布が夢に出て
夜逃げしようとしていたのに
今日もここにいる
首を吊ろうとしていたのに
まだ生きている
辞表を出そうとしていたのに
今日も勤めに出ている
(次の電柱まで走ったら、もう辞めよう)
明日だけの分
給油所で 注一
「千円やんで、け。」
注一…「千円分、ください。」の意。津軽弁
タイトルが良く効いている作品だと思います。「蓑」にはかくれ蓑≠ニ津軽地方の形容の二つの意味があるように読み取りました。津軽の形容というのは私のまったくの一人よがりですけど…。
「鼻袋」の遣い方も面白いと思います。小鼻を膨らませるという用法から派生した言葉でしょうが「満タン。」で生きた言葉になったと云えましょう。「鼻袋が小さくなった人間」の「虎にもなれず」「アッサジにもなれず/隠れながら生き延びている」姿に、この作者の人間を見る眼の確かさを感じています。
○季刊詩誌『詩と創造』55号 |
2006.4.20 東京都東村山市 書肆青樹社・丸地守氏発行 750円 |
<目次>
巻頭言 〔モダニズムについて〕T/辻井 喬 4
詩篇
キープ・カマヨに捧げる詩/嶋岡 晨 6
お日さまの円屋根に亡霊が…/尾花仙朔 8
医師カルロ・ウルバニ/原子 修 12
半夏生(はんげしょう)/山本沖子 15
ぶらんこ−心の空地で。/笹原常与 18
まだ一つだけ/清水 茂 21
人格症候群−etreあるいはethos/内海康也 24
冬のケヤキ/図子英雄 26
マーが来る/松岡政則 28
森へ/上野菊江 31
雨月/佐川亜紀 34
少女譚−ソウルにて−/崔龍源 37
『裸のミシェル』/岡崎康一 40
夢の種/小柳玲子 42
秋の終りの冬のはじめ/さようなら 他/長尾
軫 44
瀧の山・考/阿部弘一 48
木槿の花/菊地貞三 58
旅、うすにびの一街/佐野カオリ 60
付録/山本十四尾 64
むずむず/納富教雄 66
彼/丸地 守 69
アフォリズム 詩論まがいの断章集〔2〕/嶋岡 農 72
エッセイ
<詩>の在り処を索めて(一)/清水 茂 75
吃立する精神 シェイマス・ヒーニー/(訳)水崎野里子 79
感想的エセー「海の風景」/岡本勝人 85
映画「輝ける青春」――人生の妙味――/橋本征子 90
Mιμησισ――詩人であるということ(4)/森由 薫 95
詩集評 言葉の垂直性亦は宇宙性について――物質と精神の相関を考える――/溝口 章 98
現代詩時評 押韻とローカリズムとマイノリティーの彼方へ/古賀博文 107
プロムナード 人魚姫と般若心経/こたきこなみ 113
この詩人・この一編
永瀬清子の詩「冬」/なんば・みちこ 114
山村暮鳥『聖三稜玻璃』/新延 拳 116
海外の詩
詩集『カラス』より テッド・ヒューズ/野仲美弥子訳 118
皆来なさい 他 ジェイムズ・ジョイス/本田和也訳 121
墓を掘る骸骨 他 シェイマス・ヒーニー/水崎野里子 130
詩集『文字どおり』(一九七六)より ペドロ・シモセ/細野豊訳 134
底に対して/私たちがある星で 他 チョン・ホスン(鄭浩承)韓成禮訳 140
推薦作品 「詩と創造」 2006春季号推薦優秀作品
食べる/佐倉玲美 144
建築家/近岡 礼 146
韓国新進詩人 推薦優秀作品
本の重い理由/靴 メン・ムンジェ(孟文在) 韓成禮訳 148
バケット マ・ギョンドク(馬敬徳) 150
笑え、靴よ ユ・ホンジュン(劉洪凵j 152
研究会作品
浄水場 岡山晴彦/未生の者に 高橋玖未子/大昔の空 山田篤朗 154
魚 弘津亨/放浪の犬 仁田昭子/それは・・・金屋敷文代
二〇〇五年・冬至 吉永正/足 豊福みどり/三匹の黒犬 吉田薫
準備 相場栄子/私は先生です 四宮弘子/桜五題 喜多美子
選・評 山本十四尾・丸地一守
全国同人詩誌評 評 こたきこなみ 166
本の重い理由/メン・ムンジェ(孟文在) 韓成禮 訳
ある詩人は本の重い理由が
木で作ったからだと言った
私は本が木で作られるという事実を試験勉強で知っただけ
悩んで見なかったため
その言葉に下線を引いた
私はその後、本を読む度に
木を思い浮かべる癖が生じた
木のみを考えすぎるために
自殺した労働者の遺書に染み込んでいる悲しみや
非転向思想犯の手紙に積もった歳月を忘れるかも知れないと
時には怖かったが
木を抜いてしまうことはできなかった
そのため私はひと株の木を基準にして
体重を計り
生活計画表を組み
有望な職種を探してみた
そうするほど木は一言も言わず
一日一日を満たす事がどれほど大変なのかを見せてくれた
私に今、本の重い理由は
涙さえ見せずに黙々と根を張って立っている
その木のためだ
「韓国新進詩人 推薦優秀作品」の中の1編です。面白い視点の作品だと思います。「ある詩人は本の重い理由が/木で作ったからだと言った」という冒頭部にまず魅かれ、それを受けた「木を抜いてしまうことはできなかった」というフレーズに作者の誠実さを感じています。「そのため私はひと株の木を基準にして」以降は本に限らず木から出来た紙全体を言っているのでしょう。木と本の関係について盲点を指摘され、考えさせられた作品です。
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