きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.5.6 群馬県榛東村にて

 


2006.5.13(土)

 日本詩人クラブの第57回総会が東京・神楽坂エミールで開かれました。最大の懸案だった法人化も承認され、有限責任中間法人・日本詩人クラブへ大きな一歩を踏み出すことが出来ました。会員の皆さまのご協力に理事の一員として、法人化委員会の一委員としてお礼申し上げます。しかし、このご承認はゴールではなくスタート。これからが大変なことは肝に銘じています。残された1年の任期を全力で邁進していく所存です。

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 2005年度の活動経過について各理事から報告があり、私は詩書画展の予定とOAの活動状況を報告しました。オンラインの作品研究会報告もありましたが、こちらは研究会に含めてもらって川中子義勝理事から報告してもらいました。1年間、多くの会員・会友のご協力をいただき誠にありがとうございました。2006年度は7月31日〜8月6日に詩書画展を行います。重ねてのご協力、よろしくお願いいたします。

 総会は14時30分から始まって16時30分頃には終る予定だったのですが、結局17時まで掛かってしまいました。法人化に対する質問が多かったですからね、これはやむを得ないでしょう。最終的には多くの質問者にも納得してもらえて、良かったと思っています。大事な一歩ですから、時間を掛けても議論すべきは議論する、それが出来たと思います。
 写真は懇親会にて。スッキリした気分で呑むことができました。

 二次会は数人の仲間と、最近行きつけになったカラオケへ。ここでは私の退職記念だと言って賞状を授与されましたよ(^^; 曰く「企業人としての本分を守りながら詩人たちの相互啓発のために数々のサポートをしてくださいました…」。要は、よく呑んだなぁ、ということです。会社から貰った感謝状より価値がありますね。ありがとうございました!




秦 恒平氏著『こころ言葉の本』エッセイ38
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2006.5.10 東京都西東京市「湖(うみ)の本」版元 発行 1900円

<目次>
こころ言葉の日本………………………………………………4
 からだからこころ への旅…………4
 こころ・ことば・日本………………7
 身にしたがう心………………………9
     *
 恋の、こころ言葉……………………11
こころ言葉を″lえる………………………………………25
 こころ に根がある……………26  こころ に手も目もある………29
 こころ はモノである…………33  こころ は幾つもある…………36
 こころ は勝負する……………40  こころ に鬼も仏も棲む………43
 こころ は奇妙な器である……47  こころ は化粧もする…………51
 こころ は本心をもたない……54  こころ は働きに働く…………58
 こころ は静かになれない……61
こころ言葉で″lえる………………………………………65
 きれいな心・きたない心………66  心に重荷・心が重荷……………69
 分別する心と静かな心と………73  心を巧く入れ替えて……………77
 心残りの長き苦しみ……………80  無心するか無心になるか………85
 心あてに誤算もある心算………89  心ばえという心のほど…………93
 心して・心せよ…………………97  心変わりという無常と常……・101
 心づくしの秋風………………・105  心たましひと心じやうず……・109
和歌・歌謡のこころ言葉=俳譜・川柳のからだ言葉………113
 古典の、こころとからだ
 心 身 心を開く 心に持つ 我が背子 お身 浅き心 心の闇 神の顔 手のうへ
 心の花 心にかなふ 雛の鼻 手鞠 心沈む 心強さ 尻声 息を殺す 心痛し
 心もしぬに 手を組む 目が行く 心にかなふ 心の秋 身にしむ 鳥肌 心にあまる
 心にうかぶ 目には青葉 目に立てる 心まどはす 我が心 眼にひかる
 目につく・鼻につく 人の心 口上 骨が折れ 心がへ 乱れ心 腰ぬけ 舌を出す
 たぎつ心 さても心や 女は髪 身の垢 心一つ 通ふ心 肌へつく 耳をねぶる
 色なき心 花心 へらず口 知った顔 心澄む 情あれ 胸涼し 美しひ顔

 私語の刻………………・138             篆刻 井口哲郎
 湖の本の事……………・150        <装幀> 装画 城 景都
                          装本 堤 ケ子



 だが、こういう実話が現代にも、ある。ある男が、旅さきである女の「心利いた」すばらしいもてなしを受け、一目惚れした。思い余って旅から帰ると礼状に添えて、ものの端に「三六」とさりげなく数字を書き加えて送った。すると折返しさりげなく返事に添えて、「一二三」。二人とも、私の著書『閑吟集』(NHKブックス)を話題にしての後であったから出来たことだが、むろん閑吟集の小歌などに研究者が便宜につけた共通番号であり、
  さて何とせうぞ一目見し面影が 身を離れぬ (三六)
  何となるみの果てやらん しほに寄りそろ片し貝 (一二三)
に相当している。女の答えた小歌の意味は、もともと片恋を嘆いて身のなる果てをグチっているのであるが、この実例では、女の側から、もっと適切な内容を持っていた。一つは、男が旅した先が愛知県であり、女は愛知県の人で、「なるみ」は愛知県の名どころ=歌枕であった。そればかりか「なるみ」は当の女の実名でもあり人妻ですらあった。巧みな拒絶の言を、女は、あたしの片思いに終る恋ですもの、「なるみ=成る身」の果てが悲しいからあきらめますわ…と言って寄越したのである。立派な料亭の美しい女将だった、男は作家つまり…この私であった。私はまこと美しく振られたのである。
 負け惜しみではない、じつに嬉しいほどの心地であった。ま、番号を借りてとは「みやび」が泣くが、それでも昨今こう的確に昔の歌を読んで利用できる若い(と見えた)人が、ウソでなくいたのだ。例の「本」「心」なんぞよりは、何倍か「なるみ」さんを褒め称
(たた)えたくなるではないか。

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 「恋の、こころ言葉」の一節です。万葉集、梁塵秘抄の歌を介しての恋の遣り取りを描いたあとの部分です。まさに「嬉しいほどの心地」になるでしょうね。山吹の花を手渡した例もありましたが、お互いに共通の素養がないと成立しないものです。後半の「本」「心」は、本のタイトルの心を指差して本心≠セと言った例を示しています。現代ではキーボードのアルファベットと仮名文字が同じキーに割り当てられていることから、アルファベットの組み合わせで伝えるということがあったようですけど、これは共通の素養≠ニ言えるかもしれません。ちょっと即物的過ぎますけどね。
 いずれにしろ恋心を伝えるのにナマな言葉ではなく一工夫ほしいというのがこの章の趣旨だと思います。私はどういう風にしていたんだろう? ずいぶん昔のことで忘れてしまいました(^^;



個人文芸誌『一軒家』12号
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2006.6.1 香川県木香郡三木町
丸山全友氏 発行 非売品

<目次>
お客様の作品
随筆 やすらぎ       宮脇欣子 1  同 級 生        中井久子 1
   お笑いタクシー    星野歌子 2  えんどう豆とまめの子たち 池田みち 3
   垂水短歌会     柳川敏太郎 4  伊藤健治さんを偲ぶ    森沢繁夫 5
   老 夫 婦     吉原たまき 7  ありがたい便り      伊東美好 7
論文 詩型について(1)  成見歳広 8
童話 お金を食べられた話  森ミズエ 9
詩  と う ふ      成見歳広 10  神様の手が        丹治計二 10
   猩 々 袴      内藤ヒロ 11  誕 生 日        角田 博 11
   紙 風 船     吉原たまき 12  花 の 芽        小山智子 12
   石 に        星 清彦 12  春の砂浜         沢野 啓 13
   花 び ら      大山久子 13  雨 の 日        尾崎紀子 13
   若 葉        田島伸夫 13  寒椿物語        高橋智恵子 13
   ドクダミ       言寺はる 14  擬 似 餌        吉村悟一 14
   故郷の人々      戸田厚子 15  朗 読          新井朝子 15
   努 力        高崎一郎 15  ふしぎだな        山上草花 16
   造花のバラ     筒井ひろ子 16  厳しい季節の向こうに   友里ゆり 17
   桜 坂        宇賀谷妙 17  雨 期         小島寿美子 17
   備 前 へ      吉田博子 18  ネクタイ         岡たすく 19
   青 鷺        佐藤暁美 20  詩 画          高崎一郎 20
村上泰三さん3回忌
.大山椒魚 村上泰三 21
俳句            山上草花 21
川柳            徳増育男 21
短歌 梅雨/孫と      藤原光顕 22
一軒家に寄せられた本より
   命 ありがとう   萩本はる子 23  日柳燕石         大波一郎 24
   おかあさんと    (言寺はる)   まんまるマンボウは   高橋由美子 24
   橋の向こうのメルヘン 森ミズエ 24      おいしゃさん
家人(全友)の作品
短編小説 告訴            25
詩  無情・口癖・雨だれ・習性・休  29  雑文 外泊             31
   業日・転嫁・おやつ



 神様の手が/丹治計二

子守唄を唄って
抱いて揺すれば
涙も乾いて
静かになった
指の力も抜けてゆき
身体みんなが
指先までも
暖かくなったとき
赤ちゃんは幸せそうに
ストンと眠った

お母さんの手から
離れた赤ちゃんを
神様の手が
受け取った瞬間だ

 これは佳い詩ですね。「お母さんの手から」「神様の手」へ引き継がれるという発想もユニークですが、その「瞬間」を「ストンと眠った」ところと捉えた点も素晴らしいと思います。「指の力も抜けてゆき」「指先までも/暖かくなったとき」と観察も描写も的確で、色紙にでもしたいような作品だなと思いました。



個人誌『知井』3号
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2006.5.5 京都市北区
名古きよえ氏 発行 非売品

<目次>
詩 大根は根性もん  佐藤 勝太 2
故郷の三月      名古きよえ 5
小畑實先生からの手紙 名古きよえ 6
「知井」の歴史(一)  名古きよえ 9
小畑實先生よりの通信 名古きよえ 10
詩 空と手をつないで 名古きよえ 12
  空腹       名古きよえ 14
  つくる(籠)   名古きよえ 16
心に残る詩  ヤニス・リッツォス 18
方言詩        名古きよえ 20
あとがき             24



 空と手をつないで/名古きよえ

深泥池に菰
(まこも)が繁茂している

四月 指のように芽を出し
夏の濃い緑へと
ゆっくり変わっていく

ススキのような穂
葦のような高い茎ではないが
葉は菖蒲のように広く
昆虫や鳥の休憩所となっている

私は池の近くに住んでいる
 「あなたは池が見られて幸せ」と 亡くなった詩人が言った

今その言葉を思い出している
夏のさわやかな緑 冬の枯葉色

特に 二月の菰
(まこも)は色が抜けきって 白磁色になる

霜や雪を何回も受け 次第にそのようになるのだろう
つややかな枯れ葉は 中国西域の砂漠を思わせる

人間に絡みつく赤い糸とは無縁の
植物のめりはり
砂漠にもあるだろう大きな静ずけさ
水のなかで根は凍り付いても

再生を用意しているのだろう
空と手をつないで

 「中国西域の砂漠を思わせる」「つややかな枯れ葉」という表現も秀逸ですが、それが「空と手をつないで」いるという見方には瞠目させられました。その前の「色が抜けきって 白磁色にな」った「菰」の色とも重なって、冬のドンヨリとした空と区別がつかない状態がよく現れていると思います。本来ならその状態は暗く塞ぎこんだ様を表すのに使われるのでしょうが、ここではむしろ明るさを感じます。作者の前向きな姿勢がにじみ出ている作品だと思いました。



詩誌『花筏』11号
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2006.4.20 東京都練馬区
花筏の会・伊藤桂一氏 発行 700円

<目次>
(詩)
(扉詩)満月……………………山名  才 1   枇杷の花………………………中野百合子 2
楽人の門…………………………秋山千恵子 4   種………………………………田代 光枝 6
ダイコン…………………………山田由紀乃 8   ローザンヌの公園で…………門田 照子 10
豊葦原プロジェクト……………唐澤 瑞穂 12   水かめ…………………………小西たか子 14
咲きかも散ると…………………在間 洋子 16   樹の声…………………………住吉千代美 18
ハマボウフウ〈浜防風〉………竹内美智代 32   終戦六十年と伴侶……………中原緋佐子 34
柿 長寿寺の……………………小町よしこ 36   アマリリスの花………………小原 久子 38
書かれる…………………………谷本 州子 40   白薔薇…………………………上田万紀子 42
杭…………………………………帆足みゆき 44   屋根の下………………………藤本 敦子 46
冬の椅子…………………………宮田 澄子 48   長いさよなら…………………彦坂 まり 50
〈エッセイ〉
芋こじ……………………………谷本 州子 20   歌かるた………………………秋山千恵子 21
ブルキナ ファソへの旅(七)…唐澤 瑞穂 22   《三本の矢》の地へ…………竹内美智代 24
西村操さんを偲ぶ………………小原 久子 26   北ギリシアとケルキュラ島紀行 V…宮田 澄子 28
〈詩の勉強〉                  〔連詩〕岬の宿…………………………………58
私の詩的体験(九)               *花筏通信……………………………………58
 *埋積作業について…………伊藤 桂一 52   *「連詩」の試みについて…………………64
〈表紙〉(春蘭)…………………帆足まおり              ――「花筏」の場合
〈扉絵〉(さくら)………………帆足まおり    〈カット〉………………………谷本 州子
あとがき……………………………表紙の三     住所録……………………………表紙の四



 ハマボウフウ〈浜防風〉/竹内美智代

その日は なぜだか無性に各駅停車の鈍行列車
それも二人ずつ向かい合ったボックス席に乗りたくて
特急電車を見送った

袋の中はお花ですか
向かいの席の少年に話しかけた
大切そうに持つ小さな紙袋から
チラッと覗いた白い花が気になっていたのだ
目で誘われるままに視ると
短い茎に坊主頭を並べたような小花
地味な 米粒のような白い花が集まっている

ハマボウフウです
山育ちだという坊主頭の少年は照れくさそうに言った
生まれて初めて本物の海を見た帰りだという
ハマボウフウは寝たきりのおじいさんへのお土産

漁村で生まれた幼かったわたしに浜防風を教えた人は
老いていま
鏡に映る自分自身に向かって問いつづけている
――おまんさあ だいさあごわっどかい*

遠い昔に逃げてきたあの故郷言葉 で

海辺の砂地に根を張り
台風や日照りにも耐えて咲く浜防風のように
アスファルトの都会で根を降ろし
ひっそりと生きてきたこの人は
鏡の中では故郷の潮風や波の音を聞いているのだろうか

トンネルに入った列車の窓に
浜防風に目をやる
坊主頭の少年と幼いオカッパ頭のわたしが並んでいる

 
*鹿児島の方言、あなた様は どなた様でしょうか

 しっとりとした佳い作品だと思います。「山育ちだという坊主頭の少年」も生きていますし、「漁村で生まれた幼かったわたしに浜防風を教えた人」も存在感を持って迫ってきます。その間に「遠い昔に逃げてきたあの故郷言葉」と、「わたし」の来歴もさり気なく出して、ここも効果的ですね。そして最終連の「幼いオカッパ頭のわたし」に転化したフレーズは見事としか言い様がありません。しっかりした構成と洗練された言葉で紡ぎだす竹内美智代詩の典型とも謂える作品でしょう。堪能させていただきました。




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