きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.5.6 群馬県榛東村にて |
2006.5.14(日)
昨日の日本詩人クラブ総会終了を受けて、午前中はクラブHP更新を行いました。名誉会員や永年会員も増えましたので更新するページも増えて、意外に時間が掛かってしまいました。まだ細かい手直しをしなければいけない箇所も発見しましたけど、それはしばらく措くことにしました。それにしても改めて点検すると、ずいぶんページが増えたなと思います。開設してから丸7年ですからね、増えるのは当り前でしょう。これからも会員・会友に親しまれて、全国・全世界の訪問者にも有意義なHPにしていきたいと思っています。拙HPを訪れてくれている皆さまも、たまには日本詩人クラブHPもご訪問いただければと思います。
○個人詩誌『Quake』19号 |
2006.5.25
川崎市麻生区 奥野祐子氏 発行 非売品 |
<目次>
銀色の鉛筆 一
目を閉じると 六
BIRTHDAY 九
傷だらけの樹 十三
銀色の鉛筆
薄暗闇にのびてくる腕
その腕の先に 手がある
銀色の鉛筆を 握りしめた
うつくしい手
男なのか 女なのか
手の持ち主は 誰なのか
薄暗闇に 塗りこめられて
カオも見えない
いや
カオがない
ただ すらりとのびた腕があるだけ
見とれていたら
突然 声がした
「おまえの番だよ
おまえにあげるよ はい!」
拒むタイミングを 失って
いきなり 私は
渡された銀の鉛筆を 反射的に握ってしまう
冷たい 硬い 重い 感触
書きたいのに 手が動かない
怖くなって 鉛筆を放してしまいたいのに
手の中から 放れない
銀色の鉛筆はもう 私の体の一部のように
まるで 血の通った指先の一本のように
脈打ち始めている
ああ
いったい何を書けばいいのだろう
仕方なく
目の前の 真っ白なノートに
自分の名前を書こうとしたら
ああ一筆一筆書くごとに
この鉛筆は
悲鳴のような声をあげるのだ
おまけに そのペン先は
いつしか 熱を帯びて
うっすら 血までにじませて
真っ白な紙を みるみるうちに汚してしまうのだ
「おまえの番だよ。
終わるまで 最後まで
その鉛筆は絶対に離れないよ。
受け容れなさい あきらめなさい。」
男か 女か よくわからない
くぐもった とても静かな
闇の中に 立ち尽くすカラスのような
黒い声 黒いつぶやき
「大丈夫 いつか終わるよ
おまえも 死んでしまうのだから
引き継ぐのだ 次の腕へと
それまで 書くのだ 書きつづけるのだ
この鉛筆以外はもう 握れないよ
誰かの たくましい腕に
すがることも
頼ることも 許さないよ!」
銀色の鉛筆で 今
私はこの詩を 書いている
悲鳴のような声を あげながら
白いノートを 血に染めながら
不思議に澄み切った
凪の水面のような気持ちで
夕暮れ時の薄暗闇の中
淡々と自転する地球のように
ノートのページが独りでに めくられてゆくのだ
星の巡りと同じ速度で
私はいつしか
宇宙に向かって 星屑のような息を吐き散らしながら
銀色の鉛筆を軸に回り始める
この時代を ああ
私も 軌道を描きながら
巡ってゆくのだ
始まったのだ 星の道行きが
もう 降りることは きっと できない
私も 降りない
降りはしない
父親から「おまえの番だよ/おまえにあげるよ はい!」と家族を渡されて、会社でも「はい!」「おまえの番だよ」と仕事を引き継いで、「終わるまで 最後まで」やり遂げることを求められてきた人生だったと思います。そして「次の腕へと」「引き継ぐ」のが義務だと考えてきましたね。「いつか終わる」その日にはまだちょっと時間があると思いますけど、この運命は変えようがありません。
この作品がすごいのは「私も 降りない/降りはしない」と言っているところではないでしょうか。それが若さなのだと思います。「この時代を」逃げないと宣言した作品と読み取りました。
○詩誌『石の詩』64号 |
2006.5.20
三重県伊勢市 渡辺正也氏方・石の詩会 発行 1000円 |
<目次>
ホスピタル〈顔〉 濱條智里 1
雲のいないまに/たしかめたいだけ/こわれねばならない 八木道雄 2
石の言葉/太陽の庭 真岡太朗 6
魔女宣言 ]]][ 濱條智里 7
人差指 橋本和彦 8
シャボン玉 谷本州子 10
ちから キム・リジャ 11
三度のめしより(十八) 北川朱実 12
生きていくことは電車に乗っておしるこを食べに行くことだった
一泊二日の長旅 加藤眞妙 16
湯呑みとコーヒーカップ 奥田守四郎 18
スカイロード 浜口 拓 19
青の張力 落合花子 20
石の枕 澤山すみへ 21
赤いペンキの舟 坂本幸子 22
永遠のコドモ会 X 高澤靜香 23
最後の一冊 西出新三郎 24
昭和四十五年 北川朱実 25
一九五○年 渡辺正也 26
■石の詩会 CORNER 27
題字・渡辺正也
雲のいないまに/八木道雄
影の美しい 午后には
しずかな峠の 石畳の道で
高い 樫の木の 影たちが まるで
競うように 揺れていることだろう
影の美しい 午后には
風の吹き荒れる 岬の鼻の 林のうえに
あの ちいさな 灯台の影が ひっそり
ゆがんで 伸びていることだろう
こんな 美しい 午后には
白い砂の上に落ちた 松の影が 黙って
浜に打ち寄せる 波の音を 聞いていることだろう
そんなときには その忠実な影を従えて 私のたましいも
あちらこちらと 歩きまわる――美しい 影を求めて
あの 嶺に湧く 悪戯者の雲のいないまに…… (遺作)
昨年11月に73歳で亡くなった作者の遺作だそうです。「美しい」「影」というのはなかなか気付きにくいことなのですが、若輩の私が言うのはヘンですけど、この人は判っていたのだなと思います。私事で恐縮ですが拙宅の照明は裸電球です。杉板と漆喰の壁に「美しい」「影」をつくるのに蛍光灯は不向きで、裸電球が最も合っています。そのことはあまり理解してもらえないので口にしませんが、仮に作者が拙宅を訪れる機会があったら、二人で頷きあっただろうと思います。そんなことを感じた作品です。ご冥福をお祈りいたします。
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