きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.5.6
群馬県榛東村にて
 

2006.5.28(日)

 新千歳空港9時05分発の飛行機でトンボ帰りして、彩の国さいたま芸術劇場で13時から開催された「2006埼玉詩祭」にギリギリ間に合いました。盟友・水島美津江さんが第12回埼玉詩人賞を受賞するというので、昨日の日本詩人クラブ札幌イベント帰りという強行スケジュールでしたが、良い会で、無理をした甲斐がありました。水島さんは第39回小熊秀雄賞も受けたダブル受賞、おめでとうございます!
 そうやって札幌から文字通り飛んで帰ったのは私に限らず日本詩人クラブの中村会長、北岡理事長はじめ4名。それに宇都宮・千葉・神奈川・東京からも仲間が駆けつけて、彼女の人柄が判ろうというものです。受賞詩集の『冬の七夕』ももちろん良かったけど、詩人仲間は人柄も大事なのだなとつくづく思いましたね。

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 写真は懇親パーティーでの一齣、水島さんを囲んで。宴はこれで収まるわけがなく、二次会に流れて、最後はカラオケまで行ってしまいました。終ったのは23時近かったですね。良い気持で酔って、歌って、最高の夜でした。水島さん、好い夜をありがとう!
 で、私はこの夜はさいたま市見沼に泊まりました。贈呈式からカラオケまで取り仕切ってくれた実行委員長宅に泊まるのはこれで二度目で、アガリで食べるラーメン屋までちゃんと覚えていました(^^; 店の名前まで覚えていたなぁ。何せ會津だから忘れるわけがありません。私の父方の先祖は會津藩支藩の平藩の下士なんです。なつかしい見沼のお宅でまたちょっと呑んで、寝たのは1時過ぎだったように思います。札幌の夜も良かった、埼玉も良かった、会社勤めでは味わえない詩人仲間との交流を堪能しました。



綾部健二氏詩集『飛行論』
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1983.2.1 東京都文京区 芸風書院刊 1600円

<目次>
 第一部
コオロギ 6     百合 8
鳥 10        海の幻花 12
冬の旅 16      冬の化石 18
剣 20        打者 23
投手 27       平均台 29
跳馬 31       蹴球 32
夏のための遠近法 35 鉄についての虚無 38
塔の構造 41     工程 43
 第二部
N氏の周辺 48    一月 51
三月 53       六月の肖像 55
透視図法 58     空のほとりで 61
飛行論 64      エステル 71
サファリ 74     眠る人 78
ダンサー 81     アルミニウムの憂愁 84
森の構図 87     真夏の幻想・パピヨン 89
ジプシー 91
跋 95



 飛行論

 1
ぼくは 翔ぶものだ
翔ぶものには
重さをこえるための
軽い翼が必要だ

このことは
鳥や昆虫たちが
身をもって示している
つまりは 平凡な事実

 2
けれども 間違ってはならない
ぼくの翼は ひとひらの魂
ヒト そのものなのだ

 3
だが 飛翔については
けっきょく 何ひとつ
描けそうにない予感もある

さあ 出発だ!
と ぼくはつぶやく
三十年前の 生まれたその日から
あきることなく くりかえし
つぶやいてきた言葉だ

 4
ほんとうは
さようなら!
と いいたいところだが
こんな台詞を吐くには
もうすこし 自分の時間(みらい)を
砕いていく他はないだろう

 5
街が ある
家が ある
ドアを開閉する 男がいる
朝と夕の ドアの開閉

ぼくをふりかえりながら
ドアを あけたりしめたりするのが
人生だと 男はいう
ぼくが前に立つと
ぼくのために開く ドアがあるという

 6
祈りや愛は
最も危険な症状だ
翔ぶものとしての ぼくに
頑丈な絆を何本も
結びつけようとしている

 7
ぼくの眼下には
ぼくの街が立っている
いつも 森のように立っている
そして街のそとには
河の
青ざめた横顔がある

河のそとには
哲学者の額のような
山が立っていて
山のうえには
無数の鳥類と ぼくを浮かべる
空が続いているのだ

 8
その昔
ヒトが 飛翔を夢みたのは
鳥の翔ぶ姿をみたからだろう
しかし 鳥をまねて
『はばたいて』翔ぶ試みは
ことごとく失敗している

その教訓ともいえようか
ヒトは『飛行の原理』を
悟ることとなった
上向きの揚力と
前向きの推力という
二つの互いに垂直な力

 9
しかし
ぼくは この二つの力を
プロペラではなく
エンジンでもなく
脳髄の芯で 生成するのだ

 10
笑わない夏の木立
沈黙する 風
ぼくの飛行軌跡は
荒れた大地の涯てへの一直線だ!

 第3詩集になると思います。主に著者30代初頭の作品が収められていました。紹介した詩は詩集のタイトルポエムです。タイトルポエムを紹介するのは芸がないように思いますが、この詩集の場合はこれを紹介して当然だと思っています。著者は飛行機も製作する自動車会社に現在も勤務しており、今は名前が変わっていますが3年ほど筑波の宇宙開発事業団にも出向していました。根っからのヒコーキ野郎というわけですね。実は私も30代40代とハンググライダーやパラグライダーで遊んでいて、『飛行の原理』は承知しています。それを書ける詩人は少ないし、それが判る評者≠熄ュないだろうと思って紹介する次第です。

 飛行には「上向きの揚力と/前向きの推力という/二つの互いに垂直な力」が必要なのは航空力学のイロハですが、著者はそこには拘泥していません。必要なのは「ぼくの翼は ひとひらの魂/ヒト そのものなのだ」、「ぼくは この二つの力を/プロペラではなく/エンジンでもなく/脳髄の芯で 生成するのだ」と謂っています。これは工学屋には書けません。詩人ならではの発想でしょう。飛んでいるときは逆に邪魔になります。飛ぶということはあくまでも理屈の世界です。そこに情念の世界を持ってくると状況判断を誤ります。それは著者も判っていて、「祈りや愛は/最も危険な症状だ」と書いていますね。飛行を詩として見るか理屈で見るかの大きな違いがここにはあると思います。

 最終連はちょっと怖いのですが、怖さの最大の理由が「笑わない夏の木立」というフレーズです。これは「荒れた大地の涯てへの一直線だ!」に掛かってくるわけですけど、それを見ている「笑わない夏の木立」は冷静であって怖い。この感情の昂ぶりと冷静さの同居が綾部健二詩の魅力とも言えましょう。それがすでに20代後半、30代初めに表出しているという怖さも感じた詩集です。



詩とエッセイ『千年樹』26号
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2006.5.22 長崎県諌早市 岡耕秋氏発行 500円

<目次>

バラの復讐ほか二篇     植村 勝明 2
雨宿り           さき登紀子 8
へたる           和田 文雄 10
「北総台地U」の為の習作  早藤  猛 12
消失点(一)、(二)    鶴若 寿夫 14
枯渇ほか一篇        江崎ミツヱ 20
四月の夜の庭ほか一篇    岡  耕秋 24
エッセイほか
ウエストミンスターの鐘(九) 日高 誠一 28
城原川(四)二十八水    佐藤 悦子 34
古き佳き日々(二三)    三谷 晋一 40
ばらの名前         岡  耕秋 44
菊池川流域の民話(二〇)  下田 良吉 50
樹蔭雑考          岡  耕秋 61
編集後記ほか        岡  耕秋 64
表紙デザイン        土田 恵子



 バラの復讐 ――クレオパトラ /植村勝明

当今浴槽にバラを浮かべるくらいだれでもしようが
――そのかみ事始めは肌を売る浮かれ女(め)たち
クレオパトラにいたっては
宴会場のフロアに敷きつめる始末
一書
によると約五十センチの厚さに。

見せつけたのである
豪華さを、気まえのよさを、富を
そして節度の無さを
そんな女がどうなるかということを。

良質の誇りはそんなもんじゃない
もっと慎ましいものだ。
国が滅んだことについて
まともな原因とすべきは他に多々あろう。
バラの件はたかだかエピソードの一つに過ぎない。
だが無関係とは言えない。

            * 一書 アテナイオス巻四・一四八b

 「クレオパトラ」の薔薇好きはどこかで聞いた記憶がありますが「宴会場のフロアに」「約五十センチの厚さに」「敷きつめ」たとは知りませんでした。確かに「節度の無さ」が窺えますね。「良質の誇りはそんなもんじゃない/もっと慎ましいものだ」という作者の憤りが伝わってきます。「国が滅んだことについて/まともな原因とすべきは他に多々あろう」が、「バラの復讐」も「無関係とは言えない」という主張に同調してしまいますね。史実かどうかは別にしても面白い史観(ちょっと大袈裟ですが)だと思いました。



石原武氏詩と朗読CD『これからしばらく夜』
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2006.5.25 千葉県浦安市 Group VELA刊 2000円

詩と朗読:石原武 音楽:山本護
1.Prologue‥‥‥‥‥00:40
2.APLAXAS−T‥‥‥‥02:50
詩集『夕暮れの神』1981
3.春の家出‥‥‥‥‥‥‥‥‥02:15
4.夕暮れの神‥‥‥‥‥‥‥‥01:11
5.鬼灯の夏‥‥‥‥‥‥‥‥‥01:50
6.桑の実‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥02:10
7.APLAXAS−TT‥‥‥03:51
詩集『これからしばらく夜』1996
8.オクラホマの〈夢捕り〉‥‥02:33
9.これからしばらく夜‥‥‥‥02:24
10.遊撃手の夏‥‥‥‥‥‥‥‥01:45
11.おうちにかえろう‥‥‥‥‥01:49
12.APLAXAS一TTT‥‥02:48
詩集『飛蝗記』2004
13.豚の犯罪‥‥‥‥‥‥‥‥‥02:37
14.『荒地』の鹿‥‥‥‥‥‥‥03:02
15.鶏‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥01:32
エッセイ「神奈川新聞」所載1985
16.給油島悲話‥‥‥‥‥‥‥‥05:32
17.APLAXAS−TX‥‥‥04:32
初期詩篇1967〜79
18.冬‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥01:42
19.森の秘儀‥‥‥‥‥‥‥‥‥01:46
20.セイタカアワダチ草の夏に‥01:31
21.欠航‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥02:17
         Total:50:37



 3月の日本詩人クラブ例会でご講演いただいた、牧師でチュロ奏者の山本護氏による作曲・演奏と石原武氏の朗読CDです。講演で山本護氏のチェロはいっぺんに好きになり、会場で売っていたCDを買ったほどですから、このCDをいただいたときは嬉しかったですね。思わずヤッタァ!と叫んでしまいましたよ(^^; もちろん石原武さんの朗読も味があって、特に「9.これからしばらく夜」「11.おうちにかえろう」などは佳いと思います。拙HPでチェロと朗読を流すことは技術的には可能ですが、著作権の関係がありますからやりません。ぜひお買い求めいただいて堪能してほしいと思っています。




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