きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.5.6 | |||
群馬県榛東村にて | |||
2006.5.31(水)
日本ペンクラブの総会に出席しました。常務理事の米原万理さんが急逝して、義兄である井上ひさし会長が欠席という異常な事態でしたが、議事はすべて執行部原案通りに可決されました。出席会員92名、委任状提出会員1098名ですから執行部案が覆されるということはないんですけど、日本詩人クラブの現執行部である私としては、この原案通り可決という採決には他人事ながらホッとしますね。我ながら気が小さいと思いますけど(^^;
写真は懇親会での新入会員挨拶。代表で挨拶しているのは本日付けで事務局長を退職した秋尾さんです。職業として8年ほど事務局長を勤め上げ、退職後は一会員とした入会したそうです。このあと私のところに来てくださって、いろいろお話をしましたが思い出深い方です。1998年に私が入会したと同じくらいに事務局長になって、いろいろと相談したことを思い出します。
今は電子文藝館委員会と電子メディア委員会に分かれていますが、当時は電子メディア研究会という委員会にもなっていない組織でした。そこで日本ペンとしては初めて電子メディア問題に取り組んだわけです。今の電子文藝館委員会には4名、電子メディア委員会には3名の副委員長がいて委員長を支えていますけど、当時の研究会は委員長1名、副委員長1名の態勢でした。委員長はもちろん優秀な作家でパソコンやインターネットもやっていましたが、根っからの理系ではないので事務局に無理な注文もあったようです。秋尾事務局長も基本的には文系の人ですから、そこで理系の会社に勤務していて副委員長でもある私に相談を持ちかけてきたことがしばしばあったというわけです。秋尾さんの取り越し苦労が多かったのですけど、事務局員の労働強化にならないようにしたいという秋尾さんの人柄が伝わってきて、私なりの考えをお伝えした次第です。その基本路線は8年経った今でも変らず、あのとき二人で話し合ったことは無駄ではなかったなと思っています。そんなことをお話ししました。
最近、電子文藝館委員になった理系の会社に勤めている人ともお話しできました。スキャナーを使っている人ならご存知と思いますが「読んでココ」を搭載している機種のメーカーの方です。詩人同士ってちょっと話をすると判り合えるものなのですが、理系も同じです。ちょっと話をしただけで、ああ、この人は理系だなとすぐに判りました。電子メディア研究会時代には理系の素養のある人がいたのですが、二つの委員会に分れたときに電子メディア委員会の方に行ってしまいました。残された私は不安でしょうがなかったのですけど、これで一安心です。彼はまだ若くて現職ですから難しいかもしれませんが、ぜひ委員会にも出席してほしいですね。
ま、そんなこんなで意義のあった総会・懇親会でした。ネックは、話してばかりいてお酒を呑む量が少なかったことかな? 帰宅して呑み直しました(^^;
○二人誌『すぴんくす』創刊号 |
2006.6.6 東京都板橋区 海埜今日子氏発行 400円 |
<目次>
せきゆすい 海埜今日子 ……2
雁信シリーズ2
鉄塔ごしの空――ヴェンダース『アメリカ、家族のいる風景』 海埜今日子 ……5
睡眠の軌跡 佐伯多美子 ……10
Bastest’s Room
祈りはながくつづいた。かぎりなくつづけられるようにみえた。目の前に横たわる男性にご守護がとどくのを、しずかに見守っているようにもみえた。
その時、民は見た。その時、空は白くぬけていた。果てなく白くぬけていた。張りつめた静寂な空気に半透明につつまれていた。石(いそ)と、横たわる男の人と、民とは、そこに静止し、そこだけ薄い光がそそがれていた。その時間はながくつづいた。時間だけがゆるやかに流れていた。石の祈りの声が遠のいたり近づいたりしていく。風が吹いたり小雨が降りそそいだり、さくらが散ったり波の音をきいたり、季節がながれていくのを皮膚で聴いていた。のちに、永遠ということばを知り、あの時間は永遠だったのではないかと述懐する。母、石の袂(たもと)をしっかり掴んでいたはずなのに、石は、すうっと遠のいていくようだった。石の視界からも民は消えていくようだった。民はつかんでいる袂をなおも固く握りなおしたが、それ以上動くことができなかった。声もでなかった。
白くぬける半透明なくうかんに、母、石と、六歳の小児の民が浮遊している。ぼんやり明るいが光が屈折して直接にはとどかない。もう、石の祈りの声も聴こえてはこない。なにも聴こえてはこない。静謐であった。民は、石を見失わないように瞬きもせずに視つめながら浮遊している。変わらず石はしずかな笑みをたたえている。民も声をださないで笑っている。それは、ここちよい感触だった。母のおおきなふところに、ふかく抱かれているような、やすらかな、穏やかな空間だった。
浮遊しながら、それは自由であった。石も民もすべてからときはなされて自由であった。だから、笑っている。ただ、笑っている。おおきなものに抱かれてこよなく笑っている。おおきなもの、それは、母であり、母が抱かれているのは、もっとおおきなものであるとぼんやり感じていた。六歳の小児、民は、母、石を通して永遠を見た。不確かな輪郭のないものだが深層の意識で知った。
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海埜今日子さんと佐伯多美子さんの女性お二人による新詩誌です。創刊おめでとうございます。
紹介した作品は佐伯さんの「睡眠の軌跡」の後半部分です。敗戦直後の焼け跡で癲癇の発作を起こして倒れている男に対し、天水教信者である母「石(いそ)」がおさずけ≠ニいわれる祈りをしている場面です。それを見ている「六歳の小児、民」は作者と採って良いでしょう。佐伯多美子という詩人の原風景を見ている気がしました。佐伯詩には「浮遊しながら、それは自由であ」るという感触を受けていたのですが、ここから来ているのかと納得した次第です。佐伯詩の「深層の意識」を知る上で貴重な作品だと思います。
○季刊『新・現代詩』21号 |
2006.6.1 東京都文京区 創風社発行 900+税 |
<目次> 表紙絵・日本のチェルノブイリ=出海渓也
表紙デザイン=佐藤俊男
《特集》地球は喘ぐ、核の脅威
評論
戦争の神からの贈り物 矢口以文 …6
戦後詩の中のヒロシマ 中村不二夫 …11
ひろしまの詩人たち 長津功三良 …17
原爆も太平洋戦争も総括できない日本人 松本恭輔 …22
チェルノブイリに重なる原発地帯 若松丈太郎 …27
桜の広島にて 宗 美津子 …30
【解説】日本の、世界の、原爆特 出海渓也 …6
《メール対談》戦後60年被爆者は今… 平岡けいこ×御庄博実 …56
《特集詩》
ナガサキの証言 出海渓也 …32 語りつぐ 大田 修 …36
魔術師 木村淳子 …38 核は消滅するものではなく… 轟 俊 …39
愛の影・八月六日六十歳 小林小夜子 …40 聖戦のつむじ 川原よしひさ …41
カリフラワーが食べられない 砂村洋 …42 シャボン玉が結んだ 宗 美津子 …43
少年兵への悼みうた 斎藤彰吾 …44 砂の国の少女 相良蒼生夫 …45
日本の真ん中から 千葉龍 …46 地獄の釜の蓋 富永たか子 …48
時間の朝 武西良和 …49 雨の原爆ドームにたたずんて 野口忠男…50
灰塵の底から・博物誌(九) 中川 敏 …51 けだもの達の咤嘩 南條世子 …52
原爆と自爆の翳り 藤 寿々夢 …53 ひび割れた鏡 御庄博実 …54
《詩作品T》
ボケの智慧 若松丈太郎 …66 おだじろう うえをむいて …67
「カフカ」の栖 榎田弘二 …68 黄砂 紀ノ国屋 千 …70
ブリッスルコーンパインシルコー 工藤富貴子…71 廃駅まんせいばし 黒羽英二 …72
感傷主義者 黒川 純 …74 水のかたちエスキス 鏡 たね …75
幸福 片岡美沙保 …76 つりびと 桂あさみ …77
抜け殻 川端 進 …78 一日のはじまり 川端律子 …80
雪に足をとられて転んだ女の物語 川村慶子…81 わたしはここにゐる 篠塚達徳 …82
敵はだれだ 直原弘道 …83 音もなく 斉藤宣廣 …84
詩人について 津金 充 …85
〔時評・エッセイ〕
★現代詩時評「現代」の認識 相良蒼生夫…62/社会時評 徴兵拒否者にバッシング? 若松丈太郎…63
★日常の中に潜む超現実 津金 充…64/根源派宣言 津坂治男…88/丸本明子 遠景…89
《詩作品U》
マルヤマ・トシロウ Vscatology …90 松本恭輔 ハゲ山讃歌 …91
水崎野里子 星の流れに …92 西村啓子 キの気配 …94
永井ますみ 八朔の暮らし …95 中原茶津菜 遊園地 …96
中山直子 夜鳴く鴉 …97 平岡けいこ 所有権 …98
藤森重紀 際限なく …99 藤川元昭 泳ぐ羅漢魚 …100
働 淳 ネットの水母、ドットの砂漠.…101 羽田敬二 高昌国王の涙 …102
濱本久子 業績のよい営業マン.…103 丸本明子 雨垂れ …104
ゆきなかすみお たれ流す.…105 横田英子 乱れる傘 …106
矢口以文 アイヌの兵士 …107
■書評・『千葉龍詩集』藤森重紀…61/『下前孝一詩集』大田 修…61 ・読者投稿欄…108
◆詩誌を読む富永たか子…86/受贈詩誌・詩書…87/合評会記 工藤富景子…110/合評会案内…16
●扉…5/表紙のことば…61/定期総会報告…111/編集後記…112
ひび割れた鏡 2/御庄博実
こえてきた六十年
一枚のフィルムの裏側から
立ち上がってくる黒い影
肺がん という地虫
放射線に灼かれ
ひび割れた鏡が
傷ついた遺伝子を焼きつけ
いま 私の肺に風洞をつくる
約束した場所へ
盲目になっても
足なえになっても
這いずってでも行かねばならん
六十年日の原爆症という烙印−その認定*
崩れそうな桟道を 細々とたどる
白い粉になった父さん
一緒に勃火をくぐった兄さん
いま原爆症という蒙昧のなかにいる
援護法というわずかな灯かり
ひび割れた右の肺
咳が私を苦しめる
* 原爆症認定は被爆手帳者二十六万人のうち二千人足らず。宋さんは認定を却下された
特集「地球は喘ぐ、核の脅威」の中の、詩としては最後に置かれた作品です。「ひび割れた鏡」「ひび割れた鏡2」の二部構成になっていて、ここでは後半を紹介してみました。一部の「ひび割れた鏡」には「
−韓国人被爆者・宋任復さんの場合−」という副題が付いています。それはそのまま「ひび割れた鏡2」にも当てはまると思います。
作品は静かな告発で、かつ芸術性も高いものなのですが、注に唖然としました。「被爆手帳者二十六万人」ということは普通に考えるとそれら全ての人が「原爆症認定」を受けるはずだと思うのですが、そうではないようです。認定はたったの「二千人足らず」。残りの25万8000人は被爆はしたけれど原爆症ではない、ということなのですね。なにか割り切れないものを感じます。逆なら、確かに影響を受けなかった人は2000人ぐらいいたのかもしれないなと思いますけど…。交通事故には遭ったけど怪我をした人は少なかった、という発想に近いことを国はやっているのでしょうか。自然放射能ではなく原爆という放射能に曝されたけど影響は受けていないという認識に、日本国は国民・人間を主体とする国家ではないということを感じた次第です。
○総合文芸誌『まほろば』67号 |
2006.4.30
奈良県奈良市 河野アサ氏発行 1500円 |
<目次>
詩・短歌
ロマンス 時代 駅舎 4 リトル・ボイス(Tanka) 時代 駅舎 6
エンタシス 時代 駅舎 8 リトル・ボイス(Haiku) 時代 駅舎 10
街角 三木 昇 12 橋の上にて 大頭 昭一 16
湖底の村にて 大頭 昭一 17 ノスタルジー 龍見 悦子 18
見残しの夢 石田 天祐 20 友人の死(村井英雄君を悼む)石田 天祐 22
ピカピカのグローブ 河野 善充 24 木もれび 眞鍋佐紀子 26
エッセイ
我が猫との出会い人生 新井田 豊 29 志賀内牧嗣 漫遊記 志賀内牧嗣 36
「ルドルフ シュタイナー シューレ」 志賀内牧嗣 58
KEIMIN BUNKA SHIDOSHO . 亀井はるみ 55 人生を刻む時計 河野 善充 59
播州の友 新保佐登留 63 河内路、起つ。 水郡 庸隆 65
「オトコが女になるとき」を読んで 河野 アサ 70
馬を洗はば−塚本邦雄氏のこと 太田代志朗 73
異人邂逅記 石田 天祐 75
小説
宙(そら)は燃えたか(第三回)渓 紅 79 妖(よう) 石原 滝子 99
ワンピース 小間 甫.109 昼下がりの幻想 山田 一好 117
思い出のアルバム(遺稿) いしだすみを.129 轍のあとを(五) 久我久美子 134
新野分 奈良志都美.145 矢印ひとつで 河野 アサ 153
論文
言語の発生メカニズムに関して 原内 信光 164
偽史倭人伝 石田 天祐.169 相撲史研究ノート(二) 石田 天祐 191
イザナミ語造語辞典(五) 石田 天祐.199 編集後記 石田 天祐 209
○表紙絵「暖春」とカット 山田 一好 ○カット ねねこすず子
ロマンス/時代駅舎
青い地球が見え
る
ロメオは
青い地球の 精霊である
彼は今日も 夕暮れを待ち
夜陰に紛れ 森を離れる
街に住む
ジユリエッタを訪ねて…
この森には
青い精霊達の 国がある
彼等は 昼間 樹幹の中で眠り 立ったまま
太陽の夢を見る
青イ精霊達ノ寝息カラハ 濃イ酸素ガ発生ス
ル
無限大の宇宙は 暫し微笑みながら この星
に見とれる
青い浪漫が在
る
見詰メレバ 見紛ウ程ニ 愛ハ騒
ギ
か
ぜ
気流と水は 休み無く睦み合
い
あらの
岩と砂漠の荒野をよそに また一つ 青い大
地を産み落とす
樹木も 久しくこの地上に根を下ろし 青い
精霊達の 住処となる
何万年ノ月日ガ
経タノダロウ?
アダムとイヴは まだ帰って来ない 狡猾な
蛇だけが 精霊達に嫌われながらも 留まる
森
京都で開かれた青の国際フォーラムには
アダムとイヴが 遣って来た
大きな星条旗で恥部を隠し またしても死に
神の囁きに乗じ 二十一世紀の 青の大舞台
からも 離脱した
ロメオ達の吐息は
いつも悲恋に終わる
ジュリエッタの窓辺で 歌われた幾多のセレ
ナーデ 絡まる蔦の若葉の様に 届けられた
生命の手紙
ロメオ達の涙は 絶えず科学文明との相克の
中で 小川となり 森の土を 豊かに肥やし
て…
大国の国益ガ 精霊達ノ 手ヲ 足ヲ 首ヲ
事モ無ゲニ 引キ千切ル!
今日モ気温ガ
ジリジリト上ガル
溶ケテシマイソウナ身体! 昨今ノ過酷ナ夏
ヲ 誰モガ気遣イナガラ 恨メシゲニ空ヲ見
ル
何処カデ森ガ一ツ マタ焼キ払ワレ 砂漠ニ
呑ミ込マレル
マダ青イ 青イ水平線ノ彼方 小サナ島国ガ
地上カラ消エル?
か
氷河ガ溶ケ 彼ノ国ハ 溺死スルトノ検証ガ
旗メク 地球…
ロメオ達には進学もない
就職もしない
ひ と
唯 愛しき人間を捜し求めて 世界のあらゆ
る窓辺に 夕吹の様に現れる
ああ、こういう「ロマンス」もあるのかと感じました。「ロメオ」と「ジュリエッタ」だけでなく「アダムとイヴ」が出て来て、しかも「何万年ノ月日ガ/経」ており、「青い地球」という全世界を含んでしまいます。謂ってみればこの世にあるありとあらゆるもの、時空を超えた全てのものが「ロマンス」なのかもしれませんね。最終連はそれを表出させていると言って良いでしょう。壮大なスケールの作品だと思いました。
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