きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.5.29 さいたま・見沼たんぼ「見沼自然公園」にて



2006.6.3(土)

 本日の午前10時から明日の午前10時まで、日本詩人クラブの第3回オンライン現代詩作品研究会を実施しています。メーリングリスト(ML)への登録希望者、約80名による作品研究です。提出は14名14作品。作品に対する批評も可、ただ見ているだけでも可というおだやかな研究会です。
 これまでの2回とそれ以前の実験数回は、私が作品を受け付けて、MLに乗せられるようにテキスト形式にし、終ったらまとめるということをやってきましたが、今回からは2名の専門委員さんに作業を分担してもらいました。1名が作品を受け付けてテキスト化して、もう1名はまとめをやるという役割です。私は担当理事として開始と終了を宣言するだけ。ずいぶんと楽になりましたけど、自分が作り上げたという自負があるせいでしょうか、一抹の淋しさもありましたね。でも詩人クラブの仕事は一部に偏るのではなく、会員の皆さまで盛り立てていくものと思っていますから、これはこれで必要なことでしょう。作品を受け付けた専門委員さんからは「佳い作品が集まってワクワクしている」という趣旨の言葉もいただきました。そういう面白みも味わってもらうことが大事なことなのでしょう。ちょっと高みからのモノ言いに誤解されかねませんけど、そうやって日本詩人クラブのサロンとしての役割が深まっていくのだ思っています。



地隆氏・資子氏詩歌集
『二本のつる』
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2006.5.20 神奈川県茅ヶ崎市 私家版 1200円

<目次>
序に代えて ……………福田美鈴
二本のつるの詩
二本のつる ………3 空気のような ………3
一本の木 …………4 たとえば ……………5
花 …………………5 草花 …………………7
女 …………………8 一枚のハンカチ ……9
虫 …………………9 君の魅力に乾杯だ …10
リハビリ病院T …13 リハビリ病院U(短歌)17
病棟日誌(短歌) …20 さようなら西川修さん24
白い思い出の詩
白い思い出 ………29 雲 ……………………30
丸 …………………31 お星様 ………………32
顔 …………………33 心 ……………………34
宇宙 ………………35 指切り ………………36
初恋 ………………37
四季の詩
春の花売り ………43 春 ……………………45
春をつれて ………45 花 ……………………46 
ひまわり …………46 おおむらさき ………47
卓球大会 …………48 落葉 …………………50
仙禄湖 ……………51 いい加減 ……………52
四季・子供た ……54
母の詩
お母さん …………59 大きな目小さな目 …60
まんまる …………62 なずな摘み …………63
赤い思い出 ………64 生態系 ………………65
母を想う夜 ………66
特別作品 若き日の詩 地資子
雨の情景 …………69 秋日 …………………70
墓標 ………………70
あとがき …………71



 二本のつる

あなたの微笑みの中に
明日が見えて来る

一本では弱いつるでも
二本からまり合えば強くなれる

そんなに光が当たらなくたっていい
そんなに葉を繁らさなくたっていい

雪や嵐に耐え
じっと時代の流れを見すえる

そしてささやかな
暮らしを守って行く

あなたがいてくれるから
こんなに空が美しい
あなたの微笑みの中に

 日本詩人クラブ会員でもあり身体障害者二級(詩「仙禄湖」より)という詩人の詩歌集です。ここではタイトルポエムで、かつ巻頭作品の「二本のつる」を紹介してみました。「二本」の意味は共同執筆の奥様を指していると思って良いでしょう。三本の矢の故事ではありませんけど「一本では弱いつるでも/二本からまり合えば強くなれる」というフレーズが素直に胸に入ってきます。その次の連「そんなに光が当たらなくたっていい/そんなに葉を繁らさなくたっていい」も佳いですね。障害を超えて詩作する著者に敬服した詩集です。



隔月刊詩誌『叢生』144号
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2006.6.1 大阪府豊中市
島田陽子氏方・叢生詩社発行 400円

<目次>

春愁         秋野 光子 1
信号待ち       江口  節 2
梯子         姨嶋とし子 3
貴船         木下 幸三 4
オールドイズ ビューティフル 3
           佐山  啓 5
ステージ       島田 陽子 6
「こわれもの 注意」  下村 和子 7
元一等兵としやんの話 曽我部昭美 8
白もくれん      福岡 公子 9
町家 他       原  和子 10
蟋蟀         藤谷恵一郎 12
半年したう来るわな  麦  朝夫 13
早足歩きの距離と歩幅 毛利真佐樹 14
転校         八ッ口生子 16
詩人館案内      山本  衞 17
道しるべ       由良 恵介 18
独り旅        吉川 朔子 19
本の時間20/小径21/編集後記22
同人住所録・例会案内23
表紙・題字 前原孝治  絵 広瀬兼二



 蟋蟀/藤谷恵一郎

汗と垢で汚れた男たちの
作業控え室に鬼やんまが飛び込んだ。
慌てる風もなく
控え室を半周もしたかと思うと
飛び出していった。
男たちは鬼やんまに関心を表さず
ただ黙って休んでいた。
折れた翼について何も語らず
肉体労働と戦っていた。

汗と排気ガスに汚れた男たちの
作業控え室に大きな蛾が飛び込んできた。
室内から二度三度と窓硝子にぶつかり
やがて静かになった。
男たちは何の関心も示さず
ただ休憩時間に張り付いていた。
胸の燻
(くすぶ)った火に耐え
競馬や野球の話がぼそぼそと交わされる。
男も女も一本の煙草を旨そうに吸う。
好景気の恩恵の滴が落ちてくることのない
ごった返している控え室に 私の胸に
時の首相の言葉が壁として立ちはだかっている。
――格差は悪いことではない……。

使い古した作業着を汗に汚した
男たちの足もとに
蟋蟀が跳ねた。
気付いた男たちは
蟋蟀に場を、跳ねる道を譲っていた。
まもなく休憩時間は終わり
男たちの動きの中に
蟋蟀を私は見失った。

 「鬼やんま」にも「蛾」にも「何の関心も示さ」ないでいた「男たち」は、「蟋蟀に場を、跳ねる道を譲っていた」ことから、実はちゃんと「気付い」ていたことが判ります。そういう男たちをしっかりと見ている「私」の視線は確かですね。そんな気の良い男たちに「壁として立ちはだかっている」「――格差は悪いことではない……」と言う「時の首相の言葉」。格差≠無くすことが政治だと思うのですが、それを放棄どころか奨励するような「時の首相の言葉」を再び思い出してしまいました。腸が煮えくり返る気持になるのですけど、実はそんな首相を選んだのは、私も含めた気の良い男たち≠ナすから、複雑な思いに駆られます。考えさせられた作品です。



季刊詩誌GAIA16号
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2006.6.1 大阪府豊中市
上杉輝子氏方・ガイア発行所 500円

<目次>
進化               熊畑  学(4)
南蛮の旅             平野 裕子(6)
はるのうた            春名 純子(8)
ことばが「つい」こぼれた/やっぱり 国広 博子(10)
湖畔               海野清司郎(12)
通り過ぎるもの          立川喜美子(14)
もう一つの目が−義柿の葬儀の日に−水谷なりこ(16)
(エッセイ)妙三寺へ行く     水谷なりこ(17)
理想/あなたのシルエット     佐藤 アツ(18)
トラ猫ソエの物語/公害時代    猫西 一也(20)
隧道/狐             中西  衛(22)
さくらの季節/青葱のある食卓   横田 英子(24)
沈丁花              竹添 敦子(26)
紅しだれ桜と宇宙のお話し     小沼さよ子(28)
随筆 指             上杉 輝子(30)
平野裕子詩集「季節の鍵」を読んで 水谷なりこ(32)
(水茎の跡もさやかな生き方)−手紙形式で
同人住所録(34)      後記 上杉 輝子



 進化/熊畑 学

陸上は棲みにくい、と
海に入って五千五百万年
豊富な沖あみを食べて
鯨は適応した。
あるいは羽を生やして
空が棲みやすい、と
進化した奴がいた。

兎角に人の世は住みにくいと悟ったとき
詩が生まれ絵が生まれた、と
明治の文豪が書き残したが
それでもなお住みにくいと悟ったとき
人もまた空を見た。

ディスカバリーで巣立ちして
人はやがて強い羽を獲得して
遠くない将来火星に飛ぶ、という。
南極に水があるから暮らせるかもしれない。
火星の水は苦いかしょっぱいか。

下手も絵のうち、と
展覧会を目前に絵筆を握りなおして
私は地球にしがみついている。

 ヒトの「進化」の「遠くない将来」の行き着く先は「火星」かもしれません。そんな火星を「火星の水は苦いかしょっぱいか」と茶化したところが生きていると思います。最終連の「私は地球にしがみついている」も佳いですね。将来は将来、今は今と達観した姿勢を感じた作品です。




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