きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.5.29 さいたま・見沼たんぼ「見沼自然公園」にて



2006.6.7(水)

 今日は何も予定がない日。終日いただいた本を読んで、遅れているHPアップをやって過ごしました。贅沢な時間の過ごし方をしていると思います。



詩誌hotel15号
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2006.5.27 千葉市稲毛区
根本明氏方・
hotelの会発行 500円

<目次>
作品
こぼれおちた声のかけら 相沢正一郎 2
緑の風邪 井本節山 4
はるのみみかき 久谷 雉 6
口裂け猫 かわじまさよ 8
書痙 澤口信治 10
乗り越し駅 川江一二三 12
二重壁 海埜今日子 26
貪食と邪淫のアレゴリーさえも… 広瀬大志 28
閾の手 浜江順子 30
フレアスカート 片野晃司 32
隠喩の学/虹の法悦 野村喜和夫 34
銀座の朔太郎さん 根本 明 39
汐まねき 柴田千晶 42
特集――いま気になる人
瞬く骨 海埜今日子 14
私的不安の立像 広瀬大志 16
エロス け(日常) タナトスの三位一体 川江一二三 18
モーツァルト 井本節山 19
懐かしくて新しい日米の原風景 根本 明 20
河津聖恵私的小論 浜江順子 22
標識、信号機のなかの人 かわじまさよ 23
壊れてゆく靴 相沢正一郎 24
□terrasse 46
表紙/カット かわじまさよ



 こぼれおちた声のかけら/相沢正一郎

 《なぜ、あなたは死者たちをそっと死なせておかない
のか》、《人間のいとなみは、偶然であり、熟慮ではない》、
《老人は声と影にすぎない》――枕もとで、ことばの石く
れを拾いながら、陶器の破片を組み合わせるようにして、
塵のように浮かぶこだまのひとつひとつに耳をすまして
いるうちに、二五〇〇年の時間
(とき)に抗ってきた<山羊の歌>
も、いつのまにか忘却の眠りへと。
 《雅楽寮移長屋王家令所》、《牛乳煎人一口米七合五夕
受稲万呂》、《長屋親王宮鮑大贄十編》――平城京からの
使いの者が語る嗄れ声に耳をかたむけているうちに、木
のひとの墨がうすれ、顔が腐り、だんだん土に違ってい
く。――わたしはセリフを忘れた役者みたいに、眠りと
覚醒のはざまにいつまでも立ちつくしたまま……。
 《いま、舟が近づいてきた。あたしは、舟の帆をはら
ませる風や、櫂に砕けちる水の音に耳をすましていた》
――どんな都から流れついた声のかけらなのか――いま、
わたしはわたしの夢の中でわたしの耳もとで囁いたひと
のことを書こうとしていて、……そのひとの顔をどうし
ても思い出せないことに気づく。
 朝、そのひとの家の洗面所に立っていたコップのなか
の歯ブラシのことを思い出した。病院で、看護婦にわた
された入れ歯のことなんかも。トーストを齧りながら、
マーマレードに濡れた指をなめながら留守番電話の「聞
き直し」のボタンを押すと、たくさんの声のかけらがこ
ぼれおちる。冷蔵庫にピンクの象のかたちの磁石でとめ
たメモ用紙が床におちてひろがるみたいに……。
 《徳川畳店です。ただいま畳の裏打ちをお安くしてお
りますが、いかがでしょう》、《自治会の榎本です。こん
どの日曜日、朝八時からドブの掃除をはじめます》、《東
村山図書館です。リクエストの本が届きましたので、一
週間以内にお願いします》、そんな声にまじって、一週
間前とおくに旅だっていったひとの声――《田舎から明
太子をたくさん送ってきたの。ひとりじゃ食べきれない
から、取りにきて……》

 先週の土曜日にH氏賞を受賞した相沢さんの作品です。今号では巻頭になっていました。中盤までは正直なところよく判らなかったのですが、最後まで読んで理解できました。「一週/間前とおくに旅だっていったひとの声」を読んで、それから先頭に戻るのですね。この構成はさすがです。しかし「どうし/ても思い出せない」「そのひと」と「そのひとの家」の「そのひと」は同一人物と捉えるべきでしょうから、「そのひと」の存在感は薄い印象を受けてしまいます。「そのひとの家の洗面所に立っていたコップのなか/の歯ブラシのことを思い出した」は、歯ブラシが「わたし」のものであれば、それほどの深い仲と採ることも可能ですけど、「そのひと」の歯ブラシをただ見ただけとも採れます。ここは前者と考えた方が詩として成り立ちやすいのでそう採り、「どうし/ても思い出せない」のは喪失感の象徴と受け止めました。構造がかなり複雑ですが、それも面白いので何度でも読み返してしまう作品です。



詩誌『海嶺』26号
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2006.5.20 さいたま市南区
杜みち子氏代表 海嶺の会発行 非売品

<目次>
扉詩 植村 秋江 だあれもいない部屋で 1
詩  河村 靖子 人生の採点・別れ   4
   植村 秋江 にわか雨・冬の旅   8
   杜 みち子 三月の道・正月日記  12
   桜井さざえ 盆の幽霊・舟幽霊   17
散歩道<壁>
   河村 靖子 壁の色は白      22
   杜 みち子 壁の向こう側     23
   桜井さざえ 超えて        24
   植村 秋江 壁について      25
雑記帳                 27
編集後記
 表紙絵・カット 杜みち子



 だあれもいない部屋で/植村秋江

来て欲しい
来て欲しくない
時間

だあれもいない部屋で
柱時計の金属音
正確なリズムを刻んでいる

 扉詩です。短詩ですが佳い作品だと思います。第1連には時間に対する相反する人間の思いを置いて、第2連ではその人間のいない「だあれもいない部屋」でも「正確なリズムを刻んでいる」無機質性を描いて、対比という面でも面白いと云えるでしょう。日本詩人クラブではこの7月末から詩書画展を計画していて、私がその責任者という意識もあるのでしょうが、写真か絵を添えて展示したいと思った作品です。柔らかいタイトルが生きていますね。




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