きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.5.29 さいたま・見沼たんぼ「見沼自然公園」にて



2006.6.9(金)

 何も予定のない日。終日いただいた本を読んで、HPにアップロードして過ごしました。



詩誌19993号
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2006.5.30 沖縄県沖縄市
宮城隆尋氏方事務局 
1999同人発行 500円

<目次>

ひとりカレンダー  トーマ・ヒロコ 6  路上の混沌  伊波泰志 8
白い空          伊波泰志 11  動物園 キュウリユキオ 13
この世とあの世の狭間にて 松永朋哉 15  薄荷飴    松永朋哉 18
月の砂漠の出来事     松永朋哉 20  血の呪縛   松永朋哉 24
雨の日のラプンツェル   松永朋哉 26  教育     宮城隆尋 27
若葉マークなおれ      内間武 31  モンスター   内間武 35
月下の風景         内間武 37  笑い声     内間武 39
同人特集 松永朋哉 41
 詩 夢の記憶(『月夜の子守唄』)松永朋哉 42
 メールインタビュー(聞き手・トーマ・ヒロコ) 45
 松永朋哉論 素朴から宇宙志向まで 宮城隆尋 48
報告「沖縄の詩の現在」に参加して 宮城隆尋 51
報告「ポエトリー・リーディング 現代詩に声を取り戻そう 第5回」に参加して トーマ・ヒロコ 54
追悼 知念榮喜 宇宙志向と郷愁 宮城隆尋 58
追悼 あしみね・えいいち 文明への警鐘 宮城隆尋 63
詩時評 1981の所感 第3回 伊波泰志 67
1999反響 宮城隆尋 74
前号批評 恋心 伊波泰志 81
現役の小部屋 小説 [神人] トモミ 85
連載エッセイ 東京で、ふつうのおきなわ(1) 苗字多数派少数派 トーマ・ヒロコ 102
同人プロフィール・近況 105
 表紙 ケモリン



 モンスター/内間武

君が飼っているそいつを
飼いならすことができると思うのは
俺のうぬぼれだろうか
ただ、どうしようもなく孤独な君を
どうしようもなく愛おしいと感じる想いは
偽者だろうか
君が飼っているそいつに食い殺されても
本望だと叫んでみるが
君は俺に心を開いてはくれない
檻から解き放たれたそいつが
たくさんの人を傷つけるのを君は見てきただろうから
ずっと檻の中に閉じ込めている
君がそいつを制御できないなら
俺の前でそいつを解き放ってくれ
もし俺が怯えて逃げ出したとしても
君はそうやって生きるしかない

 「君が飼っている」「モンスター」とは何か。「俺のうぬぼれ」があれば「飼いならすことができる」かもしれないもの。「そいつに食い殺されても/本望だと叫」ぶことができるもの。「檻から解き放たれたそいつ」は「たくさんの人を傷つける」。「君」自身にも「制御できない」もの。「俺が怯えて逃げ出」すもの。そして「君はそうやって生きるしかない」もの。こうやって考えるとイメージはいろいろふくらみますが、「君」の持っている若さや力が当てはまるかもしれません。同人プロフィールによれば作者は現在25歳。その先入観から作品を見ているきらいは否定できません。しかし、それはそれとして「君はそうやって生きるしかない」というフレーズは佳いですね。これは「君」に向けられた言葉ですが、そのまま作者の生きる姿勢をも示していると云えるでしょう。観念と具体のギリギリのところを描いた佳品だと思います。



詩誌『潮流詩派』206号
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2006.7.1 東京都中野区
潮流出版社 村田正夫氏発行 500円+税

<目次>
特集 魚
山崎 夏代 水槽の中で 7         皆川 秀紀 フィッシュ ヘッド 13
中田 紀子 尾鰭 7            山本 聖子 骨抜き 14
水崎野里子 老人とサカナ 8        竹野 京子 空中戦 15
荻野 久子 宝くじ 8           丸山由美子 生簀 16
宮城 松隆 グルクンの目 9        山入端利子 鱗 17
藤江 正人 終焉 9            平野 利雄 コラージュ〈魚体験〉 18
村田 正夫 魚 10             勝嶋 啓太 釣りの日の想い出 19
原ア 惠三 生きたままのエジキ 10     熊谷 直樹 アナゴ 20
鈴木 茂夫 遡上 u            夏目 ゆき 熱が出る 20
加賀谷春雄 酒場の鯵 12          鶴岡美直子 フィッシング 21
千葉みつ子 刺身 12            島田万里子 小骨 22
山岸 哲夫 魚の肉を食べる 13       高橋 和彦 塩鮭からアジの開きへ 22
状況詩篇
戸台 耕二 まぼろしのかなた 24      村田 正夫 富士 長者番付 26
藤江 正人 手法 25            藁谷 久三 ストレス報告 27
伊藤 美住 コロッケ アフリカの空をとぶ28 大島ミトリ 告白 30
堀川 豊平 じい 28            土屋  衛 地震発生・震度五 30
津森美代子 カーリング 29
詩篇
藁谷 久三 ありふれた自殺 32       山下 佳恵 腐った果実 44
麻生 直子 海底のラーゲリ 32       尾崎 義久 どんぶらこ 45
福島 純子 アンカンファタブル・チェアー33 田島 美加 雨の日卒業式の歌 46
中村 恵子 賞賛 34            鈴木 倫子 弓張月 46
新井 豊吉 あかい花 35          伊藤 美住 うもれる 47
清水 博司 文字は 36           若杉 真木 魚でないケモノ 47
時本 和夫 大岳山・残照(4) 37      高橋 和彦 三分の二 48
                      藤井 正人 月の影 48
林  洋子 這うものたち 38        タマキケンジ ロシア文学最小賞異聞 49
夏目 ゆき ドロップス 38         飯田 信介 白雨(一) 49
神谷  毅 快楽の賭け 39         まちえひらお 何を迷うか 50
                      中森 隆子 犬と生活 50
桐野かおる 某日 40            比暮  蓼 骨とんぼ舞う 51
土井 正義 Tさん 40
清水 洋一 残灯(その一) 41       ●世界の詩人たち(12) 水崎野里子
館野菜々子 新宿1 2 性交 42       現代カンボジアの詩・続 56
井口 道生 キジ鳩 44

黄色い骨の地図 回想の詩と時代(2) 村田正夫 58
その戦争と平和 上田幸法論(10) 丸山由美子 64
シルヴィア・プラス 海外詩随憩(12) 中田紀子 66
我が子はアメリカ人? ロサンゼルス通信(12) 福島純子 68
平和と生の側に踏みとどまる 山本聖子詩集『三年微笑』評 鈴木茂夫 70
眼の成熟 山本聖子詩集『三年微笑』評 清水博司 72
時  評 村田正夫 創刊と朗読 74
ブックス 鈴木茂夫 秋吉久紀夫『黒いスカーフの女』暮尾淳『ぼつぼつぼちら』・他 76
マガジン 山崎夏代 『京浜詩派』『国鉄詩人』・他 78
前号展望 山本聖子 ことのほかむずかしい 80
資料 古賀博文(詩と創造06・54号) 岡野絵里子(詩と思想06・3) 82
旧刊案内 山本聖子→桐野かおる『夜』 82
メモランダム 83
詩集・詩論集・アンソロジー(リスト)/入会ガイド編集後記 84→87



 尾鰭/中田紀子

雪見酒にいらっしゃい 近くの友人からの誘い
酒の引力にすいよせられて
雪国のブーツを履き 布団のようなコートに身を包み
わだちの跡をいそぎ歩く

雪見障子を上げると
そこは白銀の宇宙ステーション
背の高い木は雪化粧をしたナサのロケット
その純白の円錐を見上げる白木の台に
満月に捧げる供えもののように
お神酒と昆布とあごの干物がのせてあった

お頭
(かしら)つきはこれだけだったからという
友人の粋なおもいつきに感心しながらも気になった
雪の神が干物の塩気に参ってしまわないかと
蒼い海に飛沫をあげて
飛びはねて遠泳していたひと群れの魚たち
いまは雪原で一尾だけが頭をあげて粉雪に舞う

雪の神の食欲は旺盛だった
でも誇張はお好きではないらしい
尾と鰭だけが 舞い落ちてきた
はっさく酎にはあごの干物が美味しい
尾も鰭もわたしは食べて
雪女のように怪しげに粉飾満載のロケットを打ち上げる

 特集「魚」の中の1編で、扉詩です。「雪見酒」の「友人の粋なおもいつき」の魚という、ちょっと他にはない素材が奏功した作品と云えるでしょう。そして「感心しながらも気になった」視点、「雪の神」は「誇張はお好きではないらしい」という見方など、そう単純に喜んでばかりはいられないという詩人の姿勢も見せています。
 第1連では「酒の引力にすいよせられて」、最終連では「雪女のように怪しげに粉飾満載のロケットを打ち上げる」というフレーズにお酒好きらしい作者の素顔が見えて、同好の私としては好感を持った作品です。



季刊詩誌『舟』123号
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2006.5.15 東京都小金井市
レアリテの会・西一知氏発行 800円

<目次>
■作品
ちいさな赤い傘他 (新同人)木野良介4  おそうしき 址竺官    松田太郎20
夜の回廊から       森田 薫7  春望           松本高直22
海市          鈴木八重子10  呼び坂峠の見える場所 29 武田弘子24
春の雨が降る日に     黒田康嗣12  トマト       なんば・みちこ26
ふいの視線に   (新同人)及川良子14  証言 他一篇   (復帰)奥津さちよ28
傾きかけた本能他一篇   桑児 元16  南湖(オウム他)      岩田まり30
コギト エルゴ スム   尾中利光18  神様にする話(13〜17)
                    無題           織田達朗38
■エッセイ
ビート詩と良真の詩    経田佑介40
■作品
魔法のスキル       文屋 順44  午睡のあとで       未津きみ58
素描 12、13       菊池柚二46  あおい蛇         渡邊眞吾60
人間の学校 その二五   井元霧彦48  知っているから     長谷川信子62
星が流れる        岩井 昭50  斜光の風景    いしづか まさお64
海            天野 碧52  とおりみち        田中作子66
わたしたちはふれあうこともなく?他   どこからこの光は来るのだろう
            大坪れみ子54              尾形ゆき江68
うたが、わたしにうたわれたがって    鳥・星齢・樹木      日原正彦70
             坂本真紀56
■エッセイ
(連載)詩についての断片71 詩とロゴス 西 一知72
■作品
人間哀歌 1〜5      合田 曠75  早春の松本城で     田澤ちよこ90
黄金虫 他一篇  (新同人)金井一穂78  北の奥へ         原田勇男92
エロス エリカ・ミテラー(訳)鈴木俊80  夜の耳         日笠芙美子94
オルガ         駒木田鶴子82  ぐらんぐらんになった頭3 藤井章子96
白い映像      みやの えいこ84  穴二つ          河井 洋98
老詩人の夢−伊藤勇堆氏に 朝倉宏哉86  高知行 9、10      梶原禮之100
土 32          松本 支88  記憶のなかの月      西 一知102
同人住所録            104
後記●詩と批評          106  表紙画・構成 松本旻  扉絵 向井隆豊



 海市/鈴木八重子

きょうはあらわれるだろうか。
とおくの海上でゆらゆらするまぶしいまち。あのまちへ行きたい。とろっ
とした海面をすべるようにしていけばたどりつけそうな気がする。
でも家の者は。あれはしんきろうまぼろしのまち。と口をそろえて言う。
まぼろしってどういうことだろう。

あのまちには。すてきなことばかりあるみたい。いつもあたたかくてひと
びとは軽やかな衣服でいる。表情もやわらかい。ことばづかいやものごし
もゆったりしている。そのなかには。名まえも顔もおぼろなわたしの遠い
縁につながるひともいて。「ではおみょうにち」「ごきげんよう」などとあ
いさつをかわしている。

家の者は。またわたしの寝言がはじまったと言う。あれは温度と光のぐあ
いでいっときあらわれるまち。あそこへ行ったものはもうひとにはもどれ
ない。なにかに生まれかわることもできない。ゆらゆらしながらまぼろし
になってしまう。ほらぼんやりしないで。仕事の手を動かしなさい。じぶ
んたちの手は休めずに言う。

きょうはあらわれるだろうか。
きょうはあらわれるだろうか。
このまちはおとといのそのもっと前からふくらんでいる。そこらじゅうで
「ファ」の音が鳴っている。わたしは家の者の言うことが耳にはいらない。
右の足が浮きそうになっている。

 「きょうはあらわれるだろうか。」と3回も繰り返すことで「海市」への思いがいかに強いかが判ります。その「まち」では「すてきなことばかりあ」り、「いつもあたたかくてひと/びとは軽やかな衣服でいる。表情もやわらかい。ことばづかいやものごし/もゆったりしている」。「おみょうにち」という言葉が佳いですね。明日≠ノさえ御≠つける人々。そんな街への憧れを「このまちはおとといのそのもっと前からふくらんでいる」とする表現は見事です。ふくらむ憧れが転化していると云えるでしょう。「あそこへ行ったものはもうひとにはもどれ/ない。なにかに生まれかわることもできない」かもしれないけれど、読者も「右の足が浮きそうになって」しまう作品だと思います。




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